137
***注意***
18/02/01
感想に指摘があった通り、137話が抜けていました。
137話を新しく投稿して正しい並びにしました。
感想ありがとうございます。
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「ギール、おまえならすぐこっちに来ると思っていたぞ」
ここはあえて馴れ馴れしく行く。
我が強い奴は放っておくと好き勝手に動き回るのでこちらもぐいぐい押すのだ。
「当たり前だ。お前達がそんな余裕を持っていられるのも今日でお終いだ!」
「よし、模擬戦しよう」
ギールが心構えをし終える前に畳み掛ける。
少しは上達したとは言え、まだまだ俺達に勝てる強さではない。
俺は強気で押し切ってギールの体に木刀が当たる前に寸止めした。
しかしギールは剣を止めずに構わず木刀を振るってきた。
「死ねぇ!」
予測が付いたので驚いた振りをしてからギリギリまで引き寄せてから避けた。
そしてギールの木刀を持つ方の腕を強く打ち込む。
ギールは小さな悲鳴を上げて木刀を落とした。
最初から寸止めする気が無いのがバレバレだった。
しかし本気で挑まれると心が引き締まる。
駈け寄るラピアに気が付くとギールは手を振るって拒否した。
「次、私!」
ギールがまだ大丈夫だと思ったのかメリはすぐ参戦した。
やせ我慢しながらもギールは涙目で奮闘したが相手がメリではどうしようもない。
メリは寸止めしてからギールの攻撃を避ける。
それを何度か繰り返すとギールの体力が切れた。
「よし! デール、とどめだ!」
俺は焚きつけたがデールはのって来なかった。
ギールのお陰で多少攻撃が当たっても大丈夫という空気が出てきた。
振り回されるのが嫌なら振り回す側に回るしかないのだ。
ギールの参戦は模擬戦許可組に少しの変化をもたらした。
今までは安全重視の寸止めをしていたので寸止めする事に注意が行きがちだったがその空気が薄れてきた。
当たり所が悪いと簡単に大怪我してしまうので注意は依然必要だが全員の肩の力が少し抜けた。
だがギールのように完全に狙ってくるのは駄目だ。
危なくて他の生徒と組ませる事ができないので慣れるまでは俺達が相手をしなければならない。
手加減して木刀で叩くというの結構気を使う。
骨や重要な筋を傷つけないように打つ。
そういう意味では大人が子供をしかる時に尻を叩くのと似ている。
尻は肉が付いていて多少強く叩いても大丈夫な場所だ。
腕だと体の外側の部分、腕の手の甲側なら関節を除けば多少叩いても問題は無い。
人間の体という物は大した物で利に適う形をしている。
逆に腕の内側は筋や血管が通っているので意識して守らなければならない。
こっちの考えを全く考慮せずにギールは挑みかかってくるがもう少し配慮してほしいものだ。
「ギール、寸止めができないなら模擬戦の許可を取り消してもらうぞ」
「うっ、別に当たってないからいいだろ!」
「俺達なら大丈夫だが他の人だと避けられないかもしれないぞ。既にお前は木刀で人を叩き殺せるんだぞ」
忠告だけはしておくがこれは本来レニーがやらなければならない事だ。
こうやって俺が恨まれる可能性があるのにお説教しなくちゃならないなんて損しかない。
しかしそれと同時にもしかしたらギールも改心とまでは行かないが落ち着く可能性もあるのではないかと思う。
先生でも無く、友達でも無くただの他人として人を変えることができるのだろうか。
もしくは力で押さえつけるなりして手加減をさせられるようになるのだろうか。
難しく考えたが結局は当たってぶつかれだ。
ぶつかって被害ができるのはもちろんギールになる。
その時はレニーに泣き付くなり、レニーのせいにしよう。
人のせいにしようと決めると心持が軽くなった。
そうだ、レニーが悪い。
ギールを改心させられたら儲けもの程度の考えで行く。
こじつけて考えるなら考えの合わない奴とどう折り合いを付けていくのか訓練になるだろうがそれは考えすぎだろう。
ここで失敗しないでどこで失敗するというのだ。
失敗できる場所は限られているので盛大に失敗してみるのも良い経験になるだろう。
実は解決案が思い浮かばない無い訳ではない。
一番楽な方法はゴブリンと戦わせる事だ。
小型とは言え、人型の魔物と戦わせる事で命がけの戦いの怖さと自分の力の怖さがわかると思う。
ギールは以前にゴブリンと戦った事があるとか言ってた気がするが正面きって1対1でやった訳ではないだろう。
今の様子を見るあたり弱らせたゴブリンの止めを刺しただけだろう。
ゴブリンとは言え、正面から向き合って本物の殺気を受ければもう少し考えも変わると思う。
そこまで考えてミュッケ村の事を思い出す。
ミュッケ村でも子供は年中位の年頃になるとゴブリンと1対1で戦わされた。
ゴブリンと戦っても大丈夫だと判断されたからなのだろうがあれは強烈な体験だった。
格下と思っていたゴブリンからの殺気に俺は体を震わせた。
生存競争の場に急に引っ張りされたのだから当たり前だろう。
その時の俺はまだ命をかけた事がなかったし命をかけた相手と戦った事もなかった。
なんとか実力差で勝つ事が出来たがあの戦いは一生忘れる事はないだろう。
ついでにちゃんと戦う前に出す物をしっかり出していたのも良かった。
中身が空だったので出す物が無くて助かったが、グロウは大人の忠告を無視してしっかり準備をしなかった。
お陰でグロウは小便を漏らしていたが俺も事前に済ませていなかったら危なかった。
参加者が模擬戦に慣れきた。
まだ危うい時もあるがやっと俺達がやりたかった事ができる。
それは1対2、2対2等の集団戦だ。
俺達3人なら2対1の訓練はできるがまともに戦いになるのは俺とラピアが組んでメリとやる時だ。
さすがに俺とラピアが勝つのだが丁度良い弱さの相手が欲しかった。
だから他の生徒が模擬戦に早く慣れてくれよと心待ちにしていたのだ。
みんなに多数対多数の模擬戦を提案するとみんなも賛成してくれた。
もちろん、レニーには事前に話を通してある。
「だがギールは寸止めできないから駄目だ!」
当然の処遇である。
「ふざけるな!」
「寸止めできるようになったら参加してもいいよ。そうじゃないと危なくて参加させられないよ」
「なんでお前が仕切っているんだ! 調子に乗るな!」
「レニーにも許可を取ったよ。文句はレニーに言ってくれ」
俺はわめくギールを意図的に無視して他の生徒に説明を始めた。
ここまで模擬戦を続けてきたがギールは寸止めをする気配がない。
中々の精神力だと感心するが扱い辛いったらありゃしない。
そこで寸止めしないと損をする状況を作る。
それでも折れなければ別の方法を試さないとならないがこれまでの行動を見るとそれは必要ないだろう。