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 デールを含めた四人で模擬戦をした所、だいたいの強さがわかった。

デールとラピアが戦ってラピアの勝率が9割強といった所だ。

たまにデールが良い動きをして運が良いとラピアから一本取れる。


今はそんな感じだが、デールの動きの端々から才能が垣間見える。

才能的にはかなり高そうだ。


この分だとこの一年で相当伸びるだろう。

逆に同じ事をやっていたら俺達はあんまり伸びないだろう。


どうやったら俺達に取っての実りの多い鍛錬ができるかを考えなくてはならない。

レニーがさっさとデールを模擬戦に参加させたということは俺達に面倒を見させるという意味合いもある。


なんせ生徒の数に比べると教師の数が圧倒的に足りない。

基本が出来ている生徒は手伝ってくれというのが本音だろう。


だが俺達は俺達が強くなる為に来ているのでそんな事はお断りしたい。

とまでは行かないがやはり自分達の為になることをしたい。


教師代わりをやると確かに勉強にはなるだろうが他の場所でもやっていたので真新しさはない。

今まで剣を持っていなかった人が才能しだいでどこまで短期間で伸びるのかを見られる機会ではあるが目に毒だ。


自分達の今までの鍛錬にあっという間に追いつかれたらさすがの俺でも泣きたくなる。

まあ、難しく考えずに基礎だけはしっかり教えるとしよう。


 実技の授業が始まるとやっと冒険者学校らしい生活が始まった。

まじめな生徒は新しい服を買って外に出歩けるようになった。


少しずつ最初の緊張感が薄れて来ているがこんなものだろう。

俺達は仕事の合間を見つけて道場に顔を出した。


「なんか思ったのと違ったよ」

「そりゃ、そうよ。うちでの稽古が恋しくなったのかい? ん~?」


ゲニアがいつもの調子でからかってくるが道場の稽古が恋しくなったのは確かだ。


「私は楽しいよ」


ラピアとメリは久しぶりに同性の友達が増えて毎日楽しそうだ。

俺だって友達はできているが最近は伸び悩んでいてそっちの方が心配だ。


「私はもっと厳しい訓練でもいいけどなー。ちょっと動き足りないよね」

「そうなんだよ。なんか助言を頂戴よ」

「やーだよっ」


俺は露骨にしかめっ面をしたがその反応を見て、ゲニアは嬉しそうだ。


「自分は同じ所で足踏みしているのに回りはドンドン成長していく。いつ、自分が追いつかれるんじゃないかと気が気じゃないが焦っても力は付かない。才能がある奴は短期間で急激に力を付ける。まずい、どうすればいいんだぁー」


ゲニアは腕を組んでうんうん言っている。


「わかるわかる。ぬるい訓練ばっかりで自分が強くなっているか不安になってるんだね。うん、若いって素晴らしいなあ」

「冒険者になる為には絶対通わないといけないんだけどせっかくの時間を無駄使いしてるように感じる」


俺は素直に今思っていることを言った。

ゲニアはどういう回答をしてくるだろうか。


「強くなるという一点のみを考えるとうちの道場に通っている方がそりゃ強くなるさ。そして普通の人ならこう言うね。友達を作る事も人生にとって重要な事だよ。かーっ! あまっあっまだね。ここだって運が悪けりゃスタンピートに襲われる可能性だってある。その時に重要なのは純粋な力なのにね」


身振り手振りで大げさに動き回っていたゲニアは急に俺達の方に向き返った。


「お前達のまじめさと言うより力に対する真摯さは良いよ。だから素晴らしく美しく優しく賢いゲニア様が教えてあげよう!」


ゲニアはそう言うと耳に手を当てて俺達をチラチラ見てくる。


「素晴らしくー美しくー優しくー賢いーゲニア様お願いしますー」


俺が渋い顔をしながら話にのってあげた。


「正直な所、お前達は良く鍛えているからちょくちょく修正するだけで大丈夫だよ」


ここまでやっておいてこの言い草である。

だが嘘をついていないと思う。

それでも腹が立つ。


「前にも言ったと思うけど仕込めるのは仕込んだから後は自分達で伸ばすしかないよ。今の状態でも十分お前達は強い。これ以上は壁を越えないと一気には伸びないよ」


「本当?」


俺はゲニアを観察したがあっけらかんとした顔をしている。


「またうちに顔を出しなって言ったでしょ。そういうことさっ」


肩透かしを喰らった気分だが心が少し晴れた。


「逆に剣の腕ならあと2,3年くらい伸びなくてもお前達の歳から見れば誤差よ、誤差。私が教えた基礎を固めるだけでも十分将来の糧になる。ああ、素晴らしすぎるゲニア様の教え!」


冒険者学校の教師と比べるとやはりゲニアの教え方は上手いがそれを口にするは癪なので言わない。

ゲニアはこう言っているが自分なりにどうしたら良いか考えてみよう。


 実技の授業では剣の経験者が何人か模擬戦を許可された。

しかしそれ以降は中々許可されていない。


「いつになったら模擬戦に参加できるようになるんだ!」


ギールが持っていた木刀を地面に叩き付けた。


「武器を大事にしろ!」


レニーがギールの鳩尾に一撃を入れるとギールはへたり込んだ。

ギールは最初からそうだったが最近では明らかに浮いている。


しかし親の仕事関係なのか何人かの取り巻きが居るので本人は全く気にしていない。

ギールが騒いで怒られるのは恒例の行事になっているがレニーがそのたびにしっかり怒っているので周りはギールを嫌いながらも完全には見捨てていない。


そういう扱い方もあるのかと感心するが人に嫌われたくない俺にはできない手だ。

他の問題児達もレニーが目を光らせているのでなんとかまとまっている。


それにしてもギールのあの精神力は見習うべき点がある。

あれだけ毎日殴られているのに気にせず悪態を付く様子は尊敬に値する。


驚くべき事にギールはそれなりに筋が良い。

剣を習っていたと最初言っていたが大した事無かったので才能がないのかと思っていた。


しかしレニーに尻を叩かれながらまじめに訓練をしていると伸びる伸びる。

ああいうのは強くなっても性格があれなので馬鹿に刃物は持たせたくない気持ちでいっぱいになる。


そして模擬戦組に参加されても手に余るので俺はレニーに向けてまだ許可するなよと目で強く訴えている。

ギールが模擬戦に参加してきた時の事を考えると憂鬱だ。


「くそっ、なんで俺がこんな目にあっているんだ。はっ、もしかしたら俺の実力を妬む者が俺を陥れている!? おまえが犯人だなぁ!」


俺の方を指差してわめきちらし始めたがすぐにレニーによって黙らされた。

ほとんど言いがかりだが多少は当てはまっているかもしれない。


とりあえずこっちに来るな。


「そうだな。ギールもそろそろ模擬戦を許可しよう」

「よっしゃ! こほんっ。いや、当然だ。俺はこんな所で燻っている男ではないのだからな」

「危ないから鉄剣は持つな!」


ギールが興奮して鉄剣を抜いたがすぐレニーに殴られた。

俺はレニーに抗議の視線を飛ばしたがレニーはそんな俺を面白がっている。


性格の悪い大人は本当に面倒である。

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