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 午前の授業が終わると1時間程度の昼休みだ。

冒険者学校では昼飯が出ないのでお金がないと空きっ腹を抱えて夕飯を待つしかない。


いや、町では1日2食が主流だが俺達の年じゃいつも腹が減っていると言っても過言でない。

俺達はポリジを作ろうと思ったが今日はそれどころではない。

運動場には服を洗うべく、多くの生徒が集まっている。


「悪いな。水魔法はあんまり得意じゃないんだ」


俺達はバルボの服を手伝う事になった。


「お、俺は大丈夫だけどついでに頼む」


ディグの方は去年レニーからの無差別生活指導を受けたので身嗜みに気をつけているそうだ。

それでもラピアから見るとまだまだのようだが生徒の中ではましな部類に入る。


俺は特に意識していなかったがだいたいラピアがやってくれていたので大丈夫だ。

体はよく洗っていたし、服がほつれてもすぐ直してもらっている。


小さなほつれでもそのままにしておくと大きくなってしまって放っておくと手遅れになってしまう。

なるほどなと納得しつつも自分でも知らない内に助けられていたようだ。


「よし、頼むぜ」


バルボは男らしく上着を脱ぎ放った。


「ちょっと待った。下は着たまま洗え」


バルボが豪快にズボンを脱ぎに掛かったのを俺は焦って静止した。

ディグも手がズボンに掛かっていたが素知らぬ顔で手を止めた。


しかし周りを見ると多くの男子生徒がパンツだけになって服をごしごし洗い始めている。


「運動場で裸になってんじゃねー!」


レニーの雄叫びが響いた。


「ああ! 服が」


レニーの一喝に驚いて、洗っていた服を破いてしまう者が現れた。


「いてえ!」


魔法の加減を間違って水魔法で吹き飛ばされた者や焦ってズボンを履こうとしたが失敗して地面に転がっている者がいる。


少ない女性陣はそんな男共を見て冷淡に眺めていたり、恥ずかしそうに目を背けたり反応も様々だ。


「水を出すから破かないように服を丁寧に洗ってね」

「へへ、ありとう」


周りの混沌とした状況に流されないようにラピアがゆっくりと水を出す。

バルボの服はあんまり洗っていないので硬くなっていて強く洗うとそのまま破けてしまいそうだ。


それでもなんとか俺達は服を洗い終えた。

メリやラピアが服を着たまま洗っている様子をバルボとディグが凝視しようとしていたのでげんこつをくれてやった。


しかしその他のギラギラとした目線が運動場を縦横無尽に駆け巡っているので女性陣は固まって端の方へ行ってしまった。


しばらくするとみんなの服を洗う手が止まった。

まだ洗濯は終わっていない。


疑問に思って良く観察してみるとどうやら魔力切れのようだ。


「女の子の方に行って来る」


ラピアはそういうとメリと一緒に女性陣が集まる場所へと向った。


「しょうがないからこっちもやるか」

「おう! 俺は魔力切れだけどな」

「俺も!」


俺は魔力切れで座り込んでいる奴らに片っ端から水をかけて回った。



 無駄に魔力を食った上に昼飯を食い損ねたが午後の授業が始まる。

教室の中は朝とは一転して重苦しい雰囲気に包まれている。


1着しかない服が破けたりボロボロになってしまった男衆が悲壮な顔をしている。

彼らは新しい服を買うまでは色々と我慢しなければならないだろう。


春だから良いが冬だったらと思うと俺も身嗜みをもっと気をつける事にした。

そんな悲壮な連中をレニーは睨み付けた。


「自分でわかっていると思うが服がぼろぼろの奴は新しい服を買うまでは自由行動は禁止だ。そして午後の授業は楽しい常識の授業だ」


また常識の授業かよと内心面倒に思ったが村と町との違いを学ぶと考えれば必要な事なのだろう。

現状を見ると常識の授業が切実に求められているであろう事は確実なのだ。


冒険者学校の生徒のほとんどは農村の出身者のようだ。

町に住んでいる人は親の家業を継いだり伝で他の仕事に就職したりする。


冒険者学校に通うような町人は少ない。

村とは違って町から出ないのならスタンピートでも起きない限り自衛能力が無くても生きていけるからだろう。


冒険者学校に通うより手習いなり見習いに出した方がよっぽど為になる。

それでも少数の物好きが冒険者学校に来ているようだが着ている物や物腰で町人だとわかるのがおもしろい。


自衛能力を鍛える為だと思えば冒険者学校に通うのも悪くはないと思うがそれは俺が村の出だからなのだろうか。

町人の考え方はいまいちわからないので町生まれの奴に話しを聞いてみようと思う。


 授業が始まって少し経つと春の暖かさと相まって眠たくなってくる。

現に寝ている者や船を漕いでいる者が多数だ。


するとレニーが大きく息を吸い込んだ。


「寝るな!」


中々の肺活量で教室が一瞬揺れた。

椅子から転がり落ちた生徒は何が起きたのか一瞬わからずに辺りを見回している。


「お前達に最低限の常識を教えてあげているのに寝るとは良い度胸だなあ。寝るような奴にこそそういった知識が必要なのをわかっているのか!?」


寝ていた人を1人1人睨み付けた後にレニーは話しを再開した。


「重要な事をもう一回言うぞ。寮にゴミを持ち込むな。絶対だ。寮はお前達の部屋じゃないんだからな。これだけ言ってもゴミを山のように集める奴が出てくる。ゴミを漁るな! ゴミを持って帰ってくるな! 1ヶ月に1回は持ち物検査をするからその時にゴミは全部捨てるぞ。お前達に今一番必要なのは清潔な服だ。いいな? わかったな?」


結構厳しいように感じるが変な物を拾ってこられるよりましか。

逆に寮生活がおもしろそうに思えてきた。


孤児院での生活を思い出して懐かしい気持ちになる。


「そして、服が破けた奴はどうせ自分じゃ出来ないんだから他の奴に頼め。教師に言って来られても困るんだよ。自分達でどうにかしろ!」


一見、突き放しているようだがそうでもない。

昨日までの俺だったらそう思っただろうがさっき見た光景を思い出して納得した。


洗っている最中に服を破いてしまった奴がいた。

そいつが半べそをかいているとそこに救いの手が差し伸べられた。


可愛そうに思った女が話しかけたのだ。

そいつは服を女に渡すと女はどこから取り出したのかわからないが針で服を縫い始めた。


つまりこれは男女の交流の場を作っているのだ。



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