13話
俺達の事は眼中にないようだ。
みんなこの状況を固唾を呑んで見守っている。
「俺はエスタとラコスとの戦いを棄権する。」
「こうなっちまったか。本当はこういうのは禁止しているんだがなあ。けど本人達がやる気ならしょうがないよな!?」
村長はみんなを見回しながら言った。
みんなから歓声が上がる。
「これよりエスタ対ラコスの試合を始める。両者戦闘準備をせよ。」
メリはいまいち状況に着いていけず戸惑っているがラピアがメリの元に駆け寄り会場の端へ引っ張っていった。
俺はややこしいことが回避出来て嬉しいと共に、純粋に彼らの戦いが見たいと思った。
「準備よし!」
ラコスは大きな木の斧の柄を地面に叩きつけていった。
「俺も準備はいい。」
エスタは緊張しているがそれでもまだ余裕を感じられる。
「礼!では両者悔いが残らぬように!戦闘開始!」
ラコスは開始と同時に強化を発動させエスタに切りかかった。
エスタも強化を発動し盾を構えた。
しかしエスタはラコスの攻撃を受けず後ろに下がって攻撃をかわした。
強化していられる時間を考えると消極的な動きだ。
俺がラコスに勝つ時は斧を大振りにした時にかわしてカウンターを入れる。
エスタも剣と盾なので相手の動きに合わせて戦うのだろうが今の位置取りだとカウンターを入れようにも距離が遠い。
かといって武器破壊を狙っているわけではなさそうだ。
魔境の木から切り出した木の武器は強化している限り鉄でもない限り壊すのは難しい。
ラコスは無属性が得意、エスタは土属性が得意だが今のところエスタは土魔法を使わず強化のみだ。
何か作戦があるんだろうが俺にはさっぱりわからなかった。
ラコスが攻め、エスタがかわす。
さすがにラコスに疲れが出始めてきた。
強化はまだ持ちそうだが体力を一気に使ってしまったようでそろそろ動きにも支障が出てきそうだ。
それを待っていたかの如くエスタは突然攻め始めた。
距離を詰めすぎず武器を持つ手を中心に狙っているようだ。
ラコスは武器も体も大きいので窮屈そうにしている。
軽い武器ならエスタの攻撃を防いでそのまま反撃も望めるが武器の関係上それは難しい。
浅い攻撃では盾にいなされてしまう。
攻守が逆転していたが決め手にかけるため、ラコスの体力は回復しはじめたようだ。
ラコスは横に切り払うとエスタはしゃがんでそれをかわす。
そんなエスタを距離を詰めたラコスが前蹴りを放つ。
それをエスタが盾で防ぐが体格差も相まって吹き飛ばされた。
体勢を崩したエスタにラコスが渾身の一撃を放とうとするがエスタ盾を投げてそれを阻む。
エスタは再び距離を取る。
その顔にはかすかに焦りが滲む。
しかしラコスは追撃を行わずに一息入れて落ちていた盾を会場の外に蹴る。
強化が徐々に弱まってきている。
エスタは盾を捨てて空いた片手を掲げアースアローを放つ。
ラコスは難なくそれを武器で防ぐが今度はエスタが距離を縮めた。
エスタの強化も弱くなっているがそれを感じさせない勢いで攻め立てる。
浅いが徐々にエスタの攻撃がラコスを捕らえ始める。
しかしラコスは全く怯まずに反撃を行う。
魔力を使い果たした二人は打ち合うが強化がかかっていないので多少攻撃が当たったところで勝負は付かない。
ボロボロになりながら二人は戦い続けるが二人の体力もそろそろ尽きてきた。
俺達は固唾を呑んで見守っているがそろそろ勝負が決することが手に取るようにわかった。
二人は示し合せたかのように距離を取り、各々の武器を大きく振りかぶった。
二人が踏み込んだ。
その瞬間エスタは強化を一気に使いラコスに肉薄すると武器を持つ腕を払った。
ラコスの腕を折るかと思われた斬撃だったが振り切る前に強化が切れた。
しかしそれでもラコスが武器を手放すのには十分だった。ラコスは雄たけびを上げて体ごとエスタに突っ込んだ。
しかしエスタは避けざまに剣で足を払った。
倒れたラコスにエスタは剣を突きつけたのだった。
ラコスは一瞬負けを認めず身じろぎしたが逆転の芽が無いことを悟り降参した。
「勝者エスタ!」
エスタは疲れ切った顔をしているが笑顔になり片手を軽く上げた。
観衆から拍手が沸いた。
ラコスは激痛を耐えつつも立ち上がりエスタと向き合った。
二人は礼をするとラコスは泣き崩れ救護係りがラコスを連れて行った。
俺は二人の闘争心に感心したが次に戦う俺にとっては全然嬉しくない状況だ。
会場の熱気が収まるまで俺は燃え移ってしまった闘争心を沈めつつ待った。
台に乗った村長は会場が落ち着いてきたのを見計らって言った。
「素晴らしい試合だったな。メリとロッシュお前達はどうする?」
「メリが戦いたそうなんでしょうがないからやりますよ。」
「当然やるよ!」
目を爛々とさせて身を乗り出しながらメリは言った。
大人達は、大変だなあといった目で俺を見ている。
俺とメリは中央に進み出た。
「準備いいです。」
「私も!」
「礼!では武力部門最後の試合を始める。戦闘開始!」
俺は盾を捨てて、最初から強化を最大限に使う。
体格的にも技術的にもメリより劣っているので強化は必須なのだ。
メリも最初から強化をして全力で切りかかってきた。
全力同士の斬撃がぶつかる。
俺のほうが押されている。
しかし続けて俺はまた全力で切りかかった。
俺とメリは雑に全力で斬り合った。
それに技はなく子供の喧嘩のようなただただ力任せな一撃だ。
だがそれでも続けていくうちに差が如実になる。
早く重い一撃一撃が手に響く、押されれば押されるほど体勢は崩れる。
押せば押す程余裕ができる。
勝敗は決した。
あとは俺が崩れるまでの時間が早いか短いかだけだ。
だが事のほかにこの状況はすっきりするな。
純粋な力と力のぶつかり合い、闘争心に篭った熱を吐き出すかのようにただ剣を振るう。
メリを見る。
メリは楽しそうだ。
俺は少しの安堵とこれで駄目だったら今の俺じゃメリを満足させられない残念さを感じた。
「はあっ!」
メリが今までより一層深い踏み込みをした。
俺も釣られてより深く踏み込む。
剣と剣がぶつかり合う瞬間手が爆発したような感覚に襲われ、俺の剣が宙を待った。
俺は飛んでいった剣を横目に言った。
「まいっ「ブン!」
参ったと言おうとする俺を容赦なくメリは切りつけてきた。
俺は無様に全力で逃げながら叫んだ。
「参ったああ。」
俺が射程範囲内から出たのでメリも落ち着いてきたらしい。
「勝者メリ!」
俺はメリから随分と離れた所から礼をした。
それを見て、メリも思い出したかのごとく礼をした。
会場からは拍手と笑い声が聞こえた。
「ごめんごめん。」
「メリ。おまえ、俺じゃなかったら避けられなかったかもしれないんだぞ。」
「この試合によって勝者が決まった。優勝者メリ!準優勝者エスタ!3位ラコス!」
会場からより大きな拍手と歓声が沸く。
会場が静まるのを待って村長は言った。
「これより食堂へ移動した後、結婚の儀を行う。」
みんなは素早く移動を始めた。
エスタ対ラコスの戦いで高まった熱は俺達の戦いを見て程ほどに冷めた。
祭りに最後を締めくくる行事に大人も子供も期待に胸を膨らませているのだ。
そう当事者達以外はな。
俺は叱られているメリと叱っているラピアと合流した。
「ロッシュはメリに慣れてるけど慣れてない人だったらすっごく危ないんだよ?」
「はーい。けどけど。ロッシュなら避けられると思ってたよ。」
全く反省していないメリだった。
以前も同じ事をやらかして年上にすら恐れられているのだ。
「とりあえず移動するぞ。」
俺が言うとメリは好機とばかりにそそくさと退却を始めた。