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 吹く風が温かくなってきた。

春が近い。


春からは冒険者学校に通うことになる。

道場には通えなくなるので春からは冒険者学校に集中するつもりだ。


冒険者学校では生徒用に宿舎があるが俺達は長屋通いになる。

大部屋で雑魚寝するのは無用心だ。


俺達は色々持ちすぎている。

入学時点で鉄の武器を持っている人は少ないだろう。


裕福な家の出だったら持っていてもおかしくない。

だがそんな恵まれた人間は少数だ。


そんな恵まれた人間は冒険者学校になんて親が通わせないと思う。

俺達も本来なら冒険者学校に通いつつ武器を揃える予定だったが運良く手に入れられた。


この分だと防具にお金をかけられそうだ。

その気が無くても手の届く範囲に高価な物があるとつい手を伸ばしたくなってしまう人が出るかもしれない。


俺達の為だけではなく、周りへの配慮という意味もある。

まだまだ成長期なので防具は買う予定ではなかったが武器があるなら安全重視で皮鎧を揃えたい所だ。


最低でもメリの分はほしいな。

メリが怪我するような相手だったら俺にはきつそうだ。


囮代わりにはなるだろうけど怖くて近付きたくない。

メリが着れなくなったら俺がそのお下がりを着れば良い。


メリの方が一回りは俺より体がでかいからメリの防具を次第に良い物に更新していくと無駄が少なくて済む。

そしていつか自分専用の鉄鎧を買うんだ。


鉄鎧を強化したらさぞかし硬いんだろうなあ。

鉄鎧でに固めた上に盾を持ってガチガチに固めたい。


不慮の事故も防げるし全身鉄装備は男の子の夢だよね。

実際は程々の値段の魔獣の皮装備にするだろう。


獣系の皮は値段が安くて、重さも軽くてお買い得商品だ。

早く装備を整えるためにも頑張って稼ごう。



 春は誕生の季節だ。

冬のあの暗くて寒い、命の少ない季節が終わる。


植物等が一斉に芽を出し世界が華やかになる。

太陽の光も暖かく、風も俺達を包み込むようだ。


そして山菜の季節だ。

特にわらび、ふきは群生地を見つけておいたので大量に取れるだろう。


それ以外の山菜も芽を出したばかりのものは柔らかくて瑞々しい。

鍋を買って良かったな。


これで乾燥わらび等を作ることができる。

方法は至って簡単。


ゆでてアクを抜いてから乾燥させるだけ。

これで保存できる。


冒険者学校に通っている間は収入が減るのでできるだけ採取でおかずを増やしたい。

この件に関してはラピアがやる気に漲っていて頼もしい。


安い大きな籠を買ってごっそりと採取しよう。

だが、ふきのとうは少しでいいよ。


さすがの俺でもふきは苦くて美味しいとは感じられない。

ふきのとうは一気に芽を出してあって言う間に大きくなる。


大量に取れるが苦いのが最大の弱点だ。

だがそれが体に良いとミュッケ村では教わってきた。


季節の物を食べるのが栄養的にも体的にも望ましい。

獣だってふきのとうを食べている。


冬の内に体に溜まった毒素を出す為だ。

そう考えると植物も動物もよくできていると思う。


実はふきのとうは冬の時点でももう地面の中にできている。

食べようと思えばその時点で食べられる。


冬に食べられる山菜は少ないので実はありがたい存在なのだ。

けど春に出てきたふきのとうの方がなんか生命力に満ちていて栄養がありそうに見える。


生命力が有りすぎてあっという間に花が咲いて大きくなる。

それはそれで良い。


ふきのとうのように丸ごとは食べられないが芯の部分の皮を剥くと普通のふきの茎と同様に食べられる。

苦味がほとんどないのでそっちのほうが俺は好きだ。


まあ、ふきのとうが大きくなっても食べようと思えば全部食べられるのだけどね。

取れる量によっては樽を買ってふきのとうの塩漬けを作れる。


せめて桶くらいの大きさで勘弁してほしい。

塩が高いので量が入れられずに保存性は低めになってしまうのですぐに全て食べてしまわなければならない。


そんないっぱい食べたくない。

できることなら見逃して欲しい。


けど一杯取れたらラピアは嬉々として作るんだろうな。

誰か先にふきのとうを大量に取っておいてくれないかな。


普段の魔境の閑散っぷりを考えるとまずない。

味さえ目を瞑れば量も取れるし栄養もある。


ふきは本当に優秀な植物だ。

うん、素晴らしい。


俺達がここに住むとしたらふきの根を他の場所に移動させて繁殖させる。

行者にんにくは難しいがわらび等は強いから土地が合えば楽に増やせる。


うむ、今度エル村に行く時には大量にふきの根を持っていこう。

みんな嬉しい悲鳴を上げてくれるだろう。



 俺達は市場や店を回って大きな籠を3個買った。

背負えるように縄を通して完成だ。


俺は恐れていた事が現実になる事がほぼ決まって絶望に染まった。

メリは俺以上に悲しそうな諦めに似た顔をしている。

ラピアのやる気の前では俺達は怯える事しかできないのであった。



 ついにその日は来た。

大きな籠を3つ重ねて俺達は魔境へ向かった。


まずはふきのとうの場所を確認する。

俺達がふきの群生地に辿りつくと目を見張った。


辺り一面が緑に覆われている。

全部、ふきのとうだ。


わらびも見ておきたいが中途半端に両方取ると調理が大変なので今回はふきのとうの調理に専念することにした。

ふきの場所を確認したので次は兎狩りをする。


未だかつて無いほど消沈した気持ちで兎狩りをした俺達はそれでも1日の目標分の兎を獲った。普段はこの後に鳥も挑戦するが今回は調理もするので無しだ。


さあ、次こそはふきのとうだ。

俺達は群生地に到着すると一心不乱にふきのとうを採取した。


食べ物をこの手で直接採取するのは楽しい。

採取するまでは楽しいが食べるのは苦手だ。


今は余計な事を考えずに採取に集中する。

籠いっぱい以上にふきのとうを採取した俺達は満足気なラピアの号令の元に帰路に着いた。


途中でフォレの所でおすそ分けをしようとしたがフォレはフォレでしっかり自分で取っていた。

俺達はすぐ町へ向かった。


町に着くとまず、ふきのとうの塩漬けを入れる容器を買わなければならない。

先導するラピアは今までに調べておいた店へ直行した。


樽屋だ。

俺の人生初の樽はふきのとうで満たされる事になった。


せめてピケット、エール、そこまでいかなくても水を樽になみなみと入れたかった。

普段買い物をしないラピアだったが気迫で樽を値切って素早く買った。


店員が俺達を見たが悲しそうな顔をしてふきのとうを背負っている俺達を見て状況を悟ったようだ。

珍しくすんなりと購入できた。


樽を買った俺達は水を補給してから町を出た。

そして町から少し離れるとふきのとうを煮る準備を始めた。


最初にふきのとうをしっかり洗う。

その後は順番にふきのとうを煮ていく。


煮たふきのとうを一旦籠に入れてからウォータを使って冷ます。

その後水気を取る。


塩をあんまり使わないので乾燥を強めにしておく。

しっかり水分が飛んだら樽に塩と一緒に敷き詰める。


大切な大事なお塩を苦いふきのとうに使ってしまって涙が溢れそうになる。

俺とメリの悲嘆は置いておいて樽にはふきのとうが一杯になった。


ラピアは嬉しそうに汗を拭うと樽に蓋をした。

これで当分はふきのとうには困らない。


俺は食べ物に好き嫌いはないし苦い物とかもないが何故かいまいちふきのとうの苦味には慣れない。

なんでだろう。


樽一杯にふきのとうを入れた後もまだふきのとうは残っているので茹でて乾燥させた。

そして嬉しい楽しい夕食の時間が始まった。



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