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 畑の拡張は順調にいった。

木の道具でもしっかり強化すれば鉄の道具を使う大人達以上成果を上げられた。


採取ばかりだと体が鈍るのでグロウの嘆きを無視して俺達は畑仕事に邁進した。

畑仕事は筋力を鍛える事を意識して丁寧にやった。


がむしゃらに鍬を振るのと意識して鍛えるのでは効果が違ってくる。

畑仕事は特に腰に来るのであんまり腰に無茶をさせないように注意が必要だ。


走るのと畑仕事ではまた違った体力の使い方をする。

畑を耕す以外の畑仕事に関してはエル村の大人には全く敵わないんで若さと体力で補う。



 エル村の人は朝が早いので彼らよりも早く目を覚まして朝の訓練を行うことにした。

村の周りを見回り代わりに走った後にはメリと剣の訓練だ。


ラピアは魔法訓練に勤しんでいる。

町に居る時には攻撃魔法を訓練するのは中々難しかった。


魔法自体は毎日使って訓練しているが攻撃魔法の訓練を思いっきりできるのは今だけだ。

夕方の訓練では俺達は教える側になるので、できる時に自分の訓練を進めないとな。


そんな俺達をグロウは最初は呆れていたが最近では俺達に感化されて朝から走っている。

俺としてはグロウが参加してきて少し驚いたがグロウ達も成長していて、負けられないなと思った。


しかし口には出さない。

口に出してグロウを褒めるとすぐ調子に乗りそうだからね。


「グロウは冒険者学校に行くの?」

「今はまだ無理だな。エル村でやらなきゃならないことが多すぎる」

「そっかー」


メリとグロウの話しに俺も参加した。


「税金は払ったって言ってたけどまだきついのか?」

「チビ達がもう少し大きくなってエル村がもっと安定してからになるな。次のスタンピートの可能性もあるから今の内に金を貯めておきたい所だ。村自体としては今回の件で逆に効率的になってるみたいだ。食っていく分には心配しなくていいぜ」


「なんかグロウがグロウっぽくないよね。ミュッケ村に居た時はいつもご飯の事しか考えてなかったのにー」

「グロウさんは次期村長様だからな。今の内から煽てておけばそのうち上手い汁を吸えるかもしれない」


「グロウさん素敵! お肉が食べたい!」

「俺だって食いたいよ! まあ、村の生活をしてみて黒パンが結構食えたミュッケ村は恵まれてたって事がわかったぜ。何をするにも金、金、金だ。頭が痛くなるぜ」


「俺達だってそうだぞ。長屋代やら道場代やらで金がかかる。ついでに食費が結構でかいんだよなあ。水だって金かかるし、自分の家があるのは羨ましい限りだ」

「どこへ行っても金の心配か。世知辛いな。エル村も前は小作人が多くて色々やばかったらしいけど誰かさんが居なくなったお陰で万々歳よ。それより町で道場に通った感想はどうだった?」


「ゲニアはおもしろいよ」

「前も話したけど道場主がゲニアっていうおばさんで性格が中々捻くれてるんだ。俺達が苦しむ様子を見て毎回高笑いしてるぜ」


「けど腕は確かなんだろ? エル村にも一人位しっかり鍛えてる人が居たら訓練もはかどるんだけどな」

「火の上で模擬戦をしたけど俺達が必死に戦っている時に火力を突然高めたりするんだぜ? たまんないよ」


「火に慣れる修行っていうのは面白いよな。うちではまだやらないけど俺が火適性だしその内やってみたいな」

「気配察知が上手い事教えられたら良かったんだが感覚的な話しだから説明しずらいなあ」


「地道に視線飛ばしとか気配飛ばしをやるよ。布玉投げはまだ上手くできないけどチビには好評だ」

「そりゃ良かった」


「グロウ達ならその内できるようになるよ!」

「ああ、まかせておけ」

「気配察知できるようになっても蛇を狩り尽くすなよ?」


釘を刺すのも忘れない。



 エル村に来て3週間が経った。

俺達はそろそろグリエ町に戻ることにした。


エル村ので生活はゆったりしたものだった。

もちろん鍛錬は欠かさなかったが周りに敵が居ないというのは楽だ。


町にいる時は常に最低限の注意を払っているので気が抜けない。

特に寝る時などは注意が必要だ。


今の所は全部取り越し苦労に終わっているがいつ何が起こるかわからない。

もっとエル村に居ても良いとは思うが長屋の更新などを考えると戻っておきたい。


俺達は一番安い長屋に3人で泊まっているが本来なら1人専用の場所なのだ。

成人男女2人で泊まる用の長屋はそれなりに高くなる。


もちろん自由度も上がるが金銭的には借りられるならまだ安い長屋で粘りたい。

身の安全を考えるなら高い長屋を借りるのが1番だが収入を考えるとちょっと難しいな。


今はとにかくしっかり食べる事を優先したい。

春からは冒険者学校に通う予定なので普通なら長屋を引き払う。


しかし持ち物が多いし1人1本は鉄の武器を持っているので盗難が怖くて大勢で雑魚寝などできない。

雑魚寝だと人との距離が近すぎるので俺の注意力ではいくら気を張っていても完全に察知するのは不可能だ。


メリとラピアと分かれて生活するのも心配だ。

いや、離れたくない。


そうなると心配なのは生活費になるか。

まず、道場には通えなくなる。


1週間の6日の内に3日は授業に出なくてはならない。

学校の授業料が1週間で18大銅貨になるから1ヶ月で90大銅貨になる。


もし長屋を借り続けるとそれに45大銅貨かかる。

長屋代は3人で割れるから一人あたり15大銅貨。


あわせて月に105大銅貨だ。

最近は木材運びをがんばりすぎたせいで運びやすい木が無くなって来ているので一日に9~10大銅貨稼げれば良い方か。


授業以外の15日間を全部働いたとして135~150大銅貨。

これでも普通の生徒よりも恵まれているんだよなあ。


差額の25~45大銅貨で日用品や消耗品、何より昼飯を賄わなければらない。

計算してみると正に絶望的だ。


黒パン一個昼に食べたら他の物が何も買えなくなる。

唯一の救いは装備を整えなくても既に鉄の武器を持っている事だな。


金銭的に厳しければさっさと半年で卒業してしまおう。

こういった相談をここ2週間はしていた。


畑仕事の良い所は単純作業なので慣れてしまえば働きながら考え事がいくらでも出来る所だ。

もちろん働きながらなので思考力がすごく落ちるがそれはそれで訓練になる。


それに採取だと村にあんまり貢献はできないが畑の拡張なら飯と寝床代くらいの仕事はしっかりできただろう。

最終的には俺達が鉄の農具を使ってドンドン耕した。


その奮闘っぷりを見てグロウも木の鍬を使って参戦したが結果はわかりきったことだった。

メリは勝ち誇ってたがグロウも負けずと頑張っていた。


純粋な競争ってのは勝っても負けても楽しいものだ。


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