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 俺は朝の鐘が鳴る前に目を覚ました。

寒いので水筒の水をちびちびと飲んだ。


俺が起きた事でメリもラピアも起き出して来た。

早ければ朝にネポスに報告を入れてさっさと町を出たいものだ。


と言ってもそれは俺の事情になる。

グロウ達はせっかく町に来て家も借りれたのだからゆっくり買い物もしたいだろう。


だからと言って空いた時間を利用して日雇いの仕事を受ける気にはなれないなあ。

早くエル村に行きたい。


「今日の予定はカタロさんが町長の所に行って俺達は買い物をする。ロッシュ達は自由行動だけどどうする?」


俺はメリとラピアを見た。

特に意見はなさそうだ。


「私達もお買い物に行くよ」


ラピアが代表して答えた。


「わかった。じゃあみんなでポリジを食いに行こうか」

「あら、奥さん。グロウさんがポリジですってよ。珍しい事もあるものですわね」

「このグロウは偽者だね」


俺とメリの芝居は完全に流された。

グロウがついにポリジに負けて大人になったのが楽しくて俺はうんうんと頷いた。


「せっかくポリジを奢ってやろうと思ったけどロッシュとメリはなしだな」

「へへっ、グロウさん。今日も髪型がぼさぼさで格好良いですね」

「褒めてない」


結局俺達はグロウにポリジの代金を出してもらった。

人の金で食べる物はまずいものも美味くなる。

いや、まずい。



 朝食を食べ終わったのでカタロさんはそのまま町長宅へと向かった。

カタロさんにはウカリスの奴隷解放の手続きをしてもらう。


1度奴隷になると各町にある住民登録にそれが記載される。

身売りされた奴隷は手続きが楽だが攫われた奴隷だと自分の素性をできるだけ隠そうとする。


ウカリスは自分の村と名前を教えてしまったので住民登録に奴隷と記載されているだろう。

俺はカタロさんに奴隷解放の手続きをお願いしている。


本来なら買った俺の了解が必要だ。

しかし今回は事情が事情だし情報も周知されていたので報告するだけで済みそうだ。


ウカリスはグリエ町で奴隷になったので戸籍の登記がまだこっちまで届いていないだろう。

だから奴隷を正式に開放するには時間がかかってしまう。


そこらへんの手続きは町長がやってくれるだろう。

普通は村の人間が攫われて奴隷になっても町の長が動く事はないが今回は特別だ。

まあ、そういうのも込みでエル村はデロス町に税金を払っているから当然と言えば当然だが実際にそれが履行される場合は少ない。


奴隷には焼き鏝で所有者の印を付けたり、価値の高い奴隷には鉄製の首輪や腕輪を付ける。

しかし一般の奴隷にはわざわざ金がかかる腕輪などを買うのも勿体無いので与えられない。


その場合は焼き鏝が主流になる。

特に素性のわからない奴隷は外見からすぐわかる場所に印を付けられる。


娼館に買われた女性は傷を付けると価値が下がるので足の腱を切られる。

男は肉体労働系の仕事をする事が多いので焼き鏝が主流だ。


性格の悪い人間だとわざわざ顔に焼き鏝で印を付ける。

普通は目立たない場所に小さい印を付ける程度だ。


印を付けない場合も稀にあるがそういう奴隷は逃げ放題である。

もちろん、買った人間はわざと逃がす事はないから注意しているが奴隷にしてみれば一生がかかっているから命を賭けで逃亡する。


逃亡奴隷は遠くの町で名前を変えれば見つかりにくいが戸籍が無いので正規の仕事を得る事は難しい。

逃げるのは簡単だがお先は真っ暗と行った所か。

そうなるとほとんどの者が盗賊になるしかない。


もしくは隠れ里を作ってひっそり暮らす。

都合よく隠れ里を作れる場所なんてほとんどないけどね。


もし見つけられたとしてもそこには既に先客がいそうだ。

魔境なら隠れ里を作る場所はたくさんある。


しかし危険だ。

人が切り開いている浅いの場所ではすぐ見つかってしまうだろう。


普通の人だと魔境で過ごすだけで魔力が減るので実質不可能だ。

それならまだ離れた土地で身分証明なしで頑張った方が良い。


だから魔境で人の痕跡を見つけたら注意しなければならない。

魔境で恐ろしいのは魔物もそうだが人間もそうだ。


死人に口無しという言葉に全てが集約されているな。

同年代の同姓の人間を殺して戸籍を奪う事もできるが何かの拍子で事が露見するかもわからない。


ウカリスの場合は犯罪奴隷でなく、何もしてないのでちゃんと手続きをすれば奴隷から解放される。

奴隷になったという情報が届くまで待つのは面倒だし、町にいるだけで金がかかるから手続きを代行してくれて助かる。



 グロウ達と別れて俺達は別行動だ。


「昨日話した通りで剣を1本売っちゃいたいから俺達は武器屋に行くぜ。買取価格次第では市場で売ってみるかもしれない。そこらへんはまだわからない」


「俺達は最初は値段を見て回ってから買い物するから昼過ぎまでは買い物してると思う。昼飯はとりあえずは各々取るって事にしよう」

「わかった。じゃあまた後で」


俺達は武器屋に剣の買取価格を聞きに向かった。

結局剣2本、槍1本はそのまま持っていて剣1本を売ることにした。


何軒か回ったが交渉したとしても15~18銀貨位になりそうだ。

思ったよりは高く売れそうだ。


店を回った所、以前は一番安い剣で25銀貨位だったのが今では30銀貨になっている。

ダンジョンからの鉄の供給が止まったからだ。


俺達は相談して市場で売ってみる事にした。

市場で空いている狭い場所をなんとか見つける事ができた。


本来なら木の札に値段を書いて出したかったが木も文字を書く用の炭もなかったので口で宣伝する事にした。


「剣が鞘込みで25銀貨だよー。今日1日限りだよー」


農家から出てきたおばちゃん達に比べると力負けしているが初めての売り子をしている俺達にはこれが限界だ。

すごく恥かしい。


メリだけが元気良く声を出していて若干負けた気分だ。

冒険者風の人がチラチラと見ることはあっても向こうも警戒しているのか中々近付いてこない。


途中に1人だけ明らかに持ち逃げしそうな空気を漂わせた男が15銀貨でいいよな等と脅してきたが俺とメリが2人で武器に手をかけて殺気を飛ばしたら何もせずに早足で去って行った。


やはり武器を売るのは難しい。

メリの背が高い事も相まってメリだけは大人の冒険者に見えるのでそういう意味では助かっている。

しかし周囲がメリに向ける視線が最近では粘っこくなっているので注意も必要だ。



 結局剣は売れなかった。

俺達は昼になったのでさっさと見切りをつけて飯を食べに行った。


午後はどうするか話し合ったが武器が揃った俺達にとっては必要な物は大してなかった。

市場を軽く冷やかしていたらこっちでは珍しい小魚の煮干が売っていたのでつい買ってしまった。


ぐるっと市場を回ったあとはする事が無くなったので午前とは別の空き場所を見つけてそこに陣取った。

冬じゃなければ朝早くから場所取りをしなければならないだろうが寒いお陰もあって場所をまた確保できた。


俺達はさっき買った煮干や炒り豆をチビチビと食べながら剣を売る為に呼び込みをした。

小魚の煮干はほんのり苦味があるが塩味があって手が止まらなくなる。


自分でもなんてやる気がない売り子なんだろうと思いつつも売れなかったら売れなかったで別の機会に売れば良いかなと思っている。

武器屋で買うとしたら鞘なんて付いてこないし値切る事もできないから今の値段でも安い部類に入る。


次回に売る時には剣をしっかり研いで、木の札に値段を書いて準備をしてからやろうと思いながら売り子気分を味わうのだった。

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