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「大雑把に現状を言うね。ウカリスの件とは別件で俺達は人攫いに襲われたんだ。それを返り討ちにして、生き残った奴を奴隷として売ることにした。その時に行った奴隷商人の所にウカリスが売られていたから保護できたんだ。もしかしたら俺達が殺した人攫い達の仲間が復讐に来るかもしれないからさっさと町から逃げてきた。だから飯を食べたらさっさと移動したい。二人ともきついかもしれないけどよろしく」
「わかった。俺は大丈夫だよ。ウカリスも俺が運ぶ」
「わ、私も大丈夫だよ」
「ありがたいがとりあえずメリに運んでもらう。俺達は体力も魔力も余裕があるからな。ラコスは少し疲れてるだろ?」
「うっ。まあ、そうだけどさ」
「私にまかせて! ウカリスを背負ってても素早く走れるよ」
「追手が居るかもしれないからラコスが動けなくなると一番困る。エル村に着くまでは油断は禁物だ」
「グロウ達がデロス町で待ってるんだ。早く合流して無事を伝えたい」
「へえ、グロウ達もデロス町に来てるのか。ネポスには色々と責任を取ってもらわないとな」
「そうだね。しっかり村の警備はやってもらわないと困るよ」
「グロウのお手並み拝見と言った所だ」
「うん」
その後、ウカリスが攫われた後の事をラコスから聞いた。
ラコス達はウカリスが朝の水汲みから帰って来ないに気が付いて村人総出でウカリスを探した。
しかしウカリスを見つけることはできなかった。
ラコスは町に居た時に稼いだお金を掴んですぐさま村を飛び出した。
西には小さい村しかないので東のデロス町へ真っ先に向かった。
デロス町に着いて奴隷商人をあたったがウカリスを見つけることはできなかった。
そこでラコスは2択を強いられる事になる。
他の大きな町は北と東にある。
ウカリスが居た町、俺達が居たグリエ町はデロス町から東にある。
ラコスは北の町に行く事を選んだ。
焦っていたしウカリスを見つけることで頭が一杯だったのでデロス町でウカリスが攫われたであろう事は誰にも伝えなかった。
ネポスとまでは行かないがデロス町の兵士に事情を伝えていれば少しは状況は変わったかもしれない。
だがその時点では本当に攫われたかどうかはまだわかっていなかった。
北の町に辿り着いたラコスであったがそこでもウカリスを見つけることはできなかった。
迷ったラコスだったがそのまま北へ向かいもう一の先の町まで進んだ。
しかしそこでもウカリスは見つけられなかった。
ラコスは自分の失敗を悔やんだがここからは大きな町が東西と北にあるので追いきれないと思い泣く泣くデロス町へと戻った。
そしてデロス町へ戻ったラコスは北門で待っていたグロウと合流する事ができた。
一方、ラコスが飛び出した後に残されたグロウはウカリスが攫われたと確信するとデロス町へ赴いてネポスに訴えた。
エル村は今年の秋の収穫が成功してすでに少しではあるが作物を税として収めている。
作物はエル村から元ミュッケ村に届けられている。
今一番必要な場所に輸送費もほとんどかからず食物を送れるようになったのだ。
その事もあってネポスはグロウに全面的に協力しなくてはならない状態となった。
普通は村娘が攫われた程度では町長が動く事は無いが今回に限りネポスはエル村の為に動いた。
エル村がネポスに恨みを抱いて裏でミュッケ村にいるダンジョン攻略組合やデロス町の兵士長のミデンと繋がるのを恐れた為だろう。
さすがに兵士は動かせないが大手の商隊に捜索を依頼したそうだ。
グロウは自分達もウカリスを探しに行きたかったが先に出たラコスが北と東のどちらに行ったのか知る由も無く不用意に動けなかったようだ。
そこで仕方なく、北と東の門に分かれてラコスが帰ってくるのを待っていたそうだ。
ラコスはグロウと合流した後、反対を押し切ってそのまま自分で東に向かって俺達と邂逅したってわけだ。
この様子だと俺達が見つけなくてもウカリスは保護されていただろう。
しかし自力で見つけたのとネポスの言伝で見つけたのとでは全く別物だ。
自分達で見つけたとなれば貸しも大きく付いた事になる。
これならネポスからウカリスを買った代金くらいは払ってもらえるかもしれない。
いや、払ってもらわないと困る。
それに村の警護も増し増しにしてもらわなければならない。
交渉自体はグロウ達がやるのだろうが俺も無駄に気合が入ってきたぞ。
勝ちが決まった状況で交渉ができるなんて最高の気分だ。
ここ数日移動しっぱなしだったラコスが後半少しバテたが俺達は無事デロス町に到着した。
ついでにメリと俺によって冬眠中の蛇が3匹捕まえられた。
追っ手が来るかもしれないのに我ながら随分と図太い事だ。
信頼できる仲間が増えるとついつい気が緩んでしまう。
東門にはグロウとグロウの妻で村長の娘のルッタが居た。
ウカリスは背負子に座っていたので正面からは見えなかったがメリが気を利かせてクルクル回りながら走ってウカリスの無事を伝えた。
最初は元気だったウカリスの顔色が回り過ぎたせいなのか若干悪くなったが見なかった事にしておこう。
グロウ達は俺達が近付くと手を大きく振りながら駆け寄ってきた。
「ウカリスは無事だったみたいだな良かった。それにロッシュ達も元気そうだな。大丈夫だと思ってたけど心配したんだぜ?」
「久しぶりだな、グロウ。見違えたぞ」
グロウの纏う空気が子供の物から大人の落ち着いた物へと変化している。
グロウもグロウで苦労したのだろう。
俺は兄になった気持ちで弟の成長を喜んだ。
「なんで上から目線なんだよ!いや、元からたけどさ」
「グロウ、立派になったなあ。うんうん」
俺はわざとらしくグロウの肩を叩いた。
「ったく。とりあえずみんな無事で良かったぜ。お帰り!」
『ただいま!』
「色々話したいこともあるし俺達もちょっと事情があるからゆっくり話せる場所に移動したい」
「なんか厄介な事情でもあるのか?」
「あるかもしれない。落ち着いて話したいな」
「わかった。とりあえず夕飯を買って借りている家に行こうか」
「黒パンが何個か残ってるぞ。それにまず水を補充させてくれ」
「おう、じゃあ行こうか」
俺達は時間をかけずに水を補充して夕飯を買った。
そしてすぐ借家へと移動した。
「来る途中にラコスからだいたいの事情は聞いたぞ。だからこっちから直近の問題とあの後の事を話そう」
俺は自分が置かれている状況やラコス達と別れてからの事を説明した。
俺が説明している最中にメリが退屈そうに欠伸をしてたので途中からはメリに説明させた。
夕飯時にはネポスに会いに行っていた村長のカタロさんが合流した。
村からはグロウ、ルッタ、カタロンさんが来たそうだ。
本当はもっと人を増やしたかったが村の防衛の為に人を残したそうだ。
俺はカタロンさんにウカリスを買った代金をネポスから徴収できないか相談した。
とりあえず明日、報告する時に伝えてもらえる事になった。
奴隷の相場は成人後の成長しきった状態で女が5金貨、男が10金貨位のはずだ。
美男美女はもっと高値が付く。
ウカリスは子供だから2-3金貨程度かな。
10金貨で売れる男とほぼ交換だったからもう少し貰えても良かっただろうが無理できる状況じゃなかった。
「それでロッシュ達はこれからどうする? せっかくだから村に顔を出せよ」
「そうだな。向こうの部屋の契約は更新してあって余裕があるし少しお世話になるかな。2人はそれで良い?」
「いいよ!」
「うん、いいよ」
「ほとぼりが冷めるまでの少しの間よろしく」
「おう、まかせておけ。村も随分復旧してきたから楽しみにしててくれ」
「ミュッケ村のみなさんがよく働いてくれるお陰で今年から税金が納められるようになって助かってます。ゴブリンの数も増えましたが今の所怪我人が出さずに倒せているのもみなさんのお陰です。ロッシュさんもみなさんに会いに来てください」
「カタロさんも村の子供に接するような感じでお願いします。もし町での生活がつらくなったらエル村に逃げ込むかもしれないのでその時はお願いします」
「はい、その時はまかせてください。村には畑しかありませんが歓迎しますよ」
なんてできた大人なのだろう。
俺達への言葉使いはもっと雑で良いんだがな。
話しは尽きなかったがラコスとウカリスにしっかり休んでもらう為に早い時間で切り上げとなった。




