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 ウカリスの話しをまとめると数日前にエル村で朝の水汲みに川へ行った時に3人組の男に攫われたそうだ。

武器を持っていなかったので必死の抵抗も空しく、縄で縛られて袋に入れて連れ去られた。


抵抗が思いの外に激しかったで必要以上に痛めつけられてしまったようだ。

手間取って声を上げられたので人攫い達はデロス町でウカリスを売るのを諦めて隣の町のグリエ町まで連れて来たそうだ。


そしてあの奴隷商人に売られたのだ。

普通の奴隷商人はわざわざ奴隷の話しなんて聞かないがあの奴隷商人はそういう物語が大好きで奴隷の今まので人生を聞くのが趣味だそうだ。


以前にその趣味のお陰で金持ちの息子が見つかった事もあって趣味とほんの少しの実益を兼ねた奴隷商人のお楽しみは今に至るまで続けられている。

そういう意味では奴隷商人の趣味に助けられた面もあるが素直には喜べない。


自分に利益がある物なら正でも悪でもまあ目を瞑っておこう。

けどあいつはまともな死に方はできないな、うん。


この町で売ったのならウカリスを攫った奴がまだいるかもしれないから外に出る時は帽子を被ってもらおう。

もし見つけられたら強さ次第だが詰め所に突き出したい。


などと考えて見たものの、仕返しはしたいが自分達の身が大事だから見つかってくれない方がいいかもしれない。

力がないと仕返しすら難しいなあ。


昨日の人攫いだって形振り構わずに4人で一気に攻めてきたらこっちの心構えが間に合わなかった。

メリは大丈夫そうだが、俺とラピアは突然の事態には弱い傾向がある。


相手の慢心によって俺達が有利になっただけだ。

だが1度経験してしまえば次は俺も素早く心の切り替えができる。



 ウカリスの話しが終わった。

ラピアは涙を浮かべている。


メリは人攫いに対して殺気にも似た怒りを滲ませている。

俺はまあ、普通だ。


人攫いに対する怒りはある。

しかし過度な怒りは自分の行動を縛る。


人攫いがすごく弱くて確実に勝てる条件が揃えば捕まえてやりたいがわざわざ探し出して制裁を喰らわせる気にはならない。

それより自分達の幸運の方に驚く。


やはり俺達は持っているという子供特有の謎の自惚れが沸くが図に乗らない程度なら問題ないだろう。


それよりも次の行動が重要だ。

ウカリスの回復次第では明日の朝にこの町を発ちたい。


現時点では大きな問題が2つある。

人攫いの仲間が襲撃してくる可能性があるのと、ラコスがウカリスを捜索に出ているだろう事だ。


襲撃の有無は身を隠していればある程度は回避できそうだがラコスが俺達と入れ違いで町に来たらどう転ぶかわからない。

一応、奴隷商人に金を渡しておいたから尋ねられれば素直に話すだろう。


人攫いの仲間とラコスが鉢合わせなんて事態が起こる可能性があるのが問題だ。

襲撃の可能性が無ければ町に留まってウカリスの回復を待っても良いし、金はかかるがエル村に手紙を出しても良い。


しかし襲撃の可能性がある現状では素早く逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。

大丈夫だと思うが返り討ちにした件で俺達が捕まる可能性もある。


俺達は被害者だから捕まらないよな?

お金で解決できるならある程度払っても良いがその相場がさっぱりわからない。


情報不足を強く感じる。

俺が考え事をしていると女性陣の方も落ち着きを取り戻したようだ。


今はラピアが俺達の状況について掻い摘んでウカリスに説明している。

説明が終わるのを見計らって俺は話しに加わった。


「ウカリス、体の調子はどう? 早ければ明日の朝に出たいんだけど」

「ウカリスは捕まってたんだよ。そんなに早く動いたら体に良くないよ」


「ウカリスは軽いから走れなくても俺達が背負えば良い。それよりウカリスはどうだ?」

「うん。大丈夫だよ。それよりまた人攫いが来る事の方が怖いな」


ラピアはまだウカリスが心配のようだが襲撃の可能性を考えると迷いが生じているようだ。


「わかった。でもウカリスの調子が悪くなったらしっかり休憩するからね?」

「ああ」

「うんうん」


「私達も疲れてたし今日はゆっくりしてよう。メリは人が居ない時にこことは別の部屋を取り直して」

「わかった。けどお休みの日なんて久しぶりだなー。いつも何かやってたよねー」


「襲撃があるかもしれないから気を抜きすぎるなよ?」

「へいへいー」

「3人はすごいねー」


空気が和らいできたのを感じて俺は一息ついた。

ウカリスはまだ硬そうだが俺達は昨日盛大に泣いただけあってかなり解れた。


緊張するのは良いがしすぎも良くない。

普段と同じ程度が理想なのかもしれない。


その後、別の部屋を借りて移動した。

昼飯の黒パンを食べて俺とラピアは瞑想を始めた。


メリは気配を探っているはずだが暇そうに欠伸をしている。

その精神力を少し俺にも分けて欲しいものだ。

早めに寝て夜通しの見張りをしたが結局襲撃はなかった。



 朝の鐘が鳴る前に俺はみんなを起こした。

パン屋が開いたら黒パンを大量に買って人通りが少ない内にさっさと町を出る予定だ。


俺達は水を補充してから予定通り黒パンを買った。

視線に気をつけているが特に変化はない。


門を出る時に止められる可能性があって内心ドキドキしていたが特に止められる事もなく素通りできた。

俺達は念の為に東門から出た。


町から見えない範囲まで進んでから大回りで町の南側を通って西にあるデロス町を目指す。

グリエ町から西に伸びる街道に到着すると周りの気配を探ってから俺達は走り始めた。


ウカリスにあわせてゆっくりめだがしっかり着いてこれている。

ウカリスも成長しているようで少し嬉しくなった。



 昨日は時間があったのでダンジョンが枯れて俺達と別れた後の話しをお互いに報告しあった。

ウカリスとラコスはあの後1ヶ月程身を隠した後にエル村に向かったそうだ。


町の兵士長ミデンはセイ達をダンジョンの入り口で待ち構えていたが捕らえる事に失敗した。

町長のネポスは娘の許可書でダンジョンに入った者がダンジョンを攻略してしまったのでかなり危ない状況になったそうだ。


しかし私財を投じて元ミュッケ村の復興作業を早急に始める事でどうにか最悪の事態は逃れたそうだ。

お陰でセイ達を取り逃がしたとは言え元々町人達から信頼の厚かったミデンが急速に力を付けている。


ダンジョン攻略組合や運営会、冒険者をミュッケ村に送った事でなんとか一時しのぎが成功したらしい。

しかし最初の年の冬は復興作業などの仕事があったが今年になって冬場の仕事不足が問題になった。


 ダンジョン攻略組合の人々はあと数十年はダンジョンで生活できると思っていたのに今では普通の冒険者と同じ待遇になってしまい不平不満の声を上げている。

それでも道路整備等で優先的に仕事に有りつけるが苦労して入ったダンジョン攻略組合の人々はネポスへの怒りを溜め込んでいるらしい。



 エル村はミュッケ村とデロス町の間にあってミュッケ村の開拓が始まった事でより重要な立ち位置になった。

しかし畑仕事しかした事がない村人達にとっては人通りが増えてお金が儲かる事よりも静かな生活の方が向いているそうで戸惑いの方が大きいそうだ。


冒険者の中には粗暴な者も多く、エル村の純朴な人間には恐怖の対象でしかない。

ダンジョンがある町でさえ冬は仕事が減ってピリピリした空気が漂うのに前線の開拓村ではどのような事態になっているのかは見なくても想像に容易い。


魔境も1年間で近場の採取は根こそぎしてしまって奥まで行かないと金目の物がないそうだ。

それらの状況が重なり合って今回の人攫いに繋がったようだ。


だいたいネポスのせいだな。

今回の事件が毎年起こってもおかしくない状況だ。


これはネポスから警備の増強などの色々な便宜を計って貰わないとな。

そんな状況なのでエル村では戦闘訓練により力を入れ始めたそうだ。


周りに沸く魔物はミュッケ村の年中以上の子供なら1対1でも勝てた。

なのでエル村に移り住んでからは忙しい事もあって戦闘訓練が少なかったそうだ。


しかし以前に俺達が遊びに行った時の1件により戦闘訓練を増えた。

間近で俺達の動きを見てグロウは戦闘訓練の必要性を感じたそうだ。


それ以来、村では戦闘訓練が行われている。

今回は周りの治安の悪化によって訓練により力を入れ始めたが人攫いの方が賢かったようだ。


次からは常に複数人で動いて武器もしっかり携帯するようになるだろう。

今回の件でエル村の防衛体制がしっかりすると良いんだが・・・・・・。


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