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俺は目が覚めると焦って顔を拭った。

すると俺の慌てた動きを察してメリとラピアが起きた。


俺は2人の顔が恥ずかしくて見られなくなるのをぐっと我慢して何を言ったら良いのか迷った。

しかしここは攻めてこそ男だ。


「昨日はありがとう。おはよう」


声が上擦っていないか心配だ。


「う、うん。おはよう」


ラピアは昨日の事を思い出して恥ずかしそうに背を向けた。


「ロッシュ君も可愛い所があるよね。泣きたくなったらお姉さんの胸に飛び込んで来て良いよ」

「メリも泣いてただろ」


得意気だったメリも図星をつかれて慌て始めた。


「そ、そんな事はないよ。ロッシュは1人、私は2人倒したから私の勝ちなんだからね」

「そうだな。メリが強かったから怪我なく勝てた。次は俺も強くなる」


メリは嬉しそうに腕を組んで頷いた。


「うんうん、ロッシュ君も最初の奇襲は中々だったよ。私に比べるとまだまだだが精進したまえ」

「へい、姉御!」


俺とメリのつまらない小芝居が終わるとラピアも復活してきた。


「うん。私達の方がお姉さんなんだからロッシュはもっと私達に頼ってよ。昨日はロッシュが怖かったけどロッシュなりに頑張ってたんだね。ごめんね。今度は私も、がんばるよ」


ラピアさんのお言葉は身に染みるなあ。

けど俺も含めてみんなの調子が戻ってきて俺は一安心した。


まだ怖いが自分の大切な物を確認できて力が漲ってきた。

思いっきり泣いたのが良かったのかもしれない。


よし、俺は立ち上がるとウカリスの様子を見た。

ウカリスはまだ眠っている。


顔の腫れは昨日のヒールの甲斐もあって少し引いてきている。

俺は自分達の幸運を噛み締めつつもウカリスを見る二人に話しかけた。


「とりあえず昨日買っておいた食べ物を食べよう。食べ終わったら俺が1人でウカリス用のポリジと何か食べ物を買ってくる。メリは護衛役としてここに待機だ」

「次の買出しは私が行くからねー」


「メリを1人で出歩かせるのは俺はちょっと不安だな」

「ぶー」

「とりあえず腹が減ったから朝飯を食べよう」


俺は不安を吹き飛ばすべく元気よく振舞った。

昨日は夕飯を食べなかった事もあって多めに買って置いた食べ物はすぐに食べつくされた。


「俺は食べ物を買ってくる。もしなんかあったら町から逃げてフォレの所にでも逃げ込むか。ゲニアの所でも良いが町に住んでるゲニアにはちょっと悪いかな。いや、いいや。ゲニアだし。何かあったらゲニアの所に逃げ込むってことで」


「うん」

「了解」

「行ってくる」


俺は昨日の人攫いから回収したショートソードを鞘に入れて腰に括り付けた。

背負い袋を背負って静かに部屋から出た。


まだ冬の早い時間なので人通りは少ない。

いつもより視線に注意しながら俺はとりあえず近間のパン屋へ向かった。


特に俺に注意を払う人は今の所いないようだ。

俺はパン屋に着くと黒パンを9個買った。



これだけで背負い袋はパンパンになった焼きたてのパンだったので背負い袋を通して背中が温かくなった。

俺は次に井戸に向かった。


井戸に向かって手持ちの水筒や水袋に水を補充する。

水を補充すると来る途中で見つけたポリジの屋台でポリジを一杯買った。


俺は視線に注意しながらも宿に静かに戻ってきた。

宿に入る前にメリ達の気配を探った。


3人の気配を確認した後、俺は宿に入って部屋に向かった。

俺が宿に入った辺りでメリは気が付いたようで扉の近くに移動したのを感じた。


「ただいま」

『おかえり』


俺はポリジをこぼさない様に注意しながら素早く部屋に入った。

ウカリスはまだ寝ている。


「とりあえず黒パンを9個買ってきた。外に出たけど特に変わった視線は感じなかったよ。ウカリスが起きたら部屋を変えようか。この分ならここの宿で別の部屋を借りる程度でも大丈夫かもしれない」


「良かった。でも、もし私達を探す人が居るとしたら昼になるだろうからできるだけ宿から出歩かないようにしようよ」

「私の買出しはなしかー。まあしょうがないかー」


「今日1日は大人しくしてようか。メリの買出しは明日の朝だな。水が足りなくなったら宿の人に頼めば割高でもらえるだろ。俺は今からウカリスにヒールをするからラピアは横で見ててくれ」


「うん」

「へーい」


俺は袖をまくって眠っているウカリスの横に陣取った。


「顔以外に怪我はあった?」

「ロッシュが出かけている間に体を拭いて昨日買った服に着替えさせておいたよ。怪我の方はさっき少し見たけど腕とか足に少し打撲があったね。他には手首と足首に縄で縛られた後があった」


「さすがラピアだな。俺はどこにヒールをすれば良い?」


「どの怪我もそこまで深くないから放って置いても大丈夫な範囲だね。だからとりあえずロッシュは顔にヒールをして私は手首と足首をヒールした後に体に残っている打撲にヒールをするよ」

「了解。」


俺はウカリスの顔にヒールをかけ始めた。

一先ず大きな怪我が無くて安心だ。


何があったかはウカリスに聞かないとわからないが今は治療に専念しよう。

俺は魔力の4分の1程度を使った所でヒールを止めた。


復讐者が来る可能性もあるから魔力は温存気味で行くつもりだ。


「俺はこれ位にしておく。深い怪我がないならラピアも温存気味で頼む」

「うん」


俺はラピアがヒールをするのをじっくりと眺めた。

俺のヒールとは違い、ラピアのヒールは効果が高いようだ。


俺のヒールでは顔の腫れが少し引いた程度だった。

ラピアがヒールをすると手首にあった縄の後は徐々に消えていった。


さすがに鍛えているだけあってすごい。

俺は感心しながらラピアの治療風景を眺めていた。


手首と足首の怪我を治療した後は打撲にヒールを少しずつかけて一旦終わりとなった。


「おつかれ。後はウカリスが起きるのを待つだけだな」

「そうだね。魔力を使っちゃったから瞑想して待ってよう」

「おう」


「私は~? 何をしてればいいの?」

「メリは引き続き見張りだ。俺達の中では一番鋭いから頼んだぞ」

「しょうがないなー」


俺とラピアは魔力を回復させる為に瞑想を始めた。

いつもより色々な事が頭に浮かんで集中が浅いが心は充実している。


珍しく俺も熱くなっているようだが短期的にはこれはこれで有りだ。

ウカリスが動けるようになったらさっさとエル村に向かいたい。


俺達だけなら今日の夜にでも移動して良いがウカリスが居るとなると無理はできない。

復讐者も怖いが町の兵士はもっと怖い。


勢いで奴隷商人に売り払ってしまったが町によってはルールは違うから町の法に触れる恐れがある。

ほとぼりが冷めるまでは身を隠しておきたい所だ。


しかし如何せん問題は金だなあ。

人攫いから回収した金は合わせても1銀貨を少し上回るくらいだ。

懐が寂しいにも程がある。


4人の一日の食費を考えると黒パンだけでも12個で12大銅貨、つまり1日1銀貨分はかかる。

働いてるからこそ食べられる食事量だ。


おまけに宿代もかかる。

ここは一部屋にペットが2つで1日5大銅貨だ。


これでも安い部類に入る。

考える余裕が出てくるとつい金勘定し始めてしまう。


ウカリスには早く元気になってもらわないと困るな。

そんな俺の願いが通じたかの如くウカリスが跳ね起きた。


起きたウカリスは周りを必死に見回した後にやっと肩の力を抜いた。


「ウカリス、おはよう」


ラピアは笑顔でウカリスに近づいた。

メリもそれを追う。


「みんな、ありがとう。夢かと思った」


ウカリスはいまにも泣き出しそうな顔をしている。

そんなウカリスをラピアは抱きしめた。


ウカリスは泣きはじめたが少しすると落ち着きを取り戻した。

ラピアの抱擁の後にはメリが手荒く抱擁をしてウカリスの背中をトントンと叩いている。


俺は遅れ合流してその様子を眺めた。

そしてやり取りが一段落した所で話しかけた。


「冷めちゃったけど、とりあえずポリジでも食べて一息付こう。話しはそれからだ」


俺は冷めたポリジをウカリスに手渡した。

ウカリスはポリジを受け取っていただきますと呟いて食べ始めた。


顔がまだ腫れていて口の端が裂けてるので少しずつ食べている。

見ていて痛々しい。


しかし俺はウカリスがポリジを食べ始めたのを見て内心ほっとした。

食べ物をしっかり食べられるなら大丈夫そうかな。


ラピアは木のコップに水を入れてウカリスの横で嬉しそうにしている。


「ごちそうさまです」


ウカリスはポリジを食べ終わるとコップの水を飲み干した。

そして今までの経緯をたどたどしく話し始めた。


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