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 俺達が着くと奴隷商人は隠し事を披露する子供のようなキラキラした顔で答えた。


「じゃーん、これです!」


小さな檻にわざとらしく掛けられていた布を力強く取った。

無駄に布をはためかせて効果的に演出している。


その中には、ぐったりとした子供がいる。

子供は女の子のようだが顔中を腫らしていて暗くてよく見えない。


薄暗い店の中を俺達はその子をよく見ようと近付いた。

その瞬間、俺の背後から殺気が放たれた。


俺は焦って飛び退いて武器に手をやる。

護衛達も武器を構えた。


しかしその場には俺達しか居ない。

そこには鋭い殺気を放つメリが居た。


俺はハッとして檻に近づいた。

ラピアも駆けつける。


「ウカリス!」


ラピアが悲鳴に似た声を上げた。

その少女はラピアの声を聞いて弱弱しく俺達の方を見て目を開けた。


「ラピアあ、あぁ」


ウカリスは体全体から搾り出すようにか細い声でラピアを呼んだ。

そして目からは涙が溢れ出した。


俺は、はらわたを火鉢でかき回されたかの如く怒りが湧き上がった。

なんでこんな所に居るんだ!


しかし話しが終わっていないので無理やり怒りに蓋をした。


 奴隷商人はそんな俺達をおもしろそうに眺めている。

俺は声に感情が乗らないようにゆっくりと話しはじめた。


「確かに俺達が欲しがる商品だな」

「そうですともそうですとも。しかしあなた方は本当に持っている人間ですねえ。入荷されてすぐ知り合いが訪れるなんて普通はありませんよ。それも数ある奴隷商店の中の一つにですよ。お客さんの様子からしてうちが一店目ですよねー。まさに奇跡ですよぉー!」


俺が頷くと奴隷商人は天に両手を掲げて喝采した。

そんな奴隷商人をメリは殺気の篭った目で睨みつけている。


「この男の代金はその子と1金貨でいい」

「ひぁー、いくらボロボロになった女の子供でも2金貨はするんですよ? この状態で値段の増額を要求するなんてすごいですねえ。けど私は最高に気分が良いのでそれで取引成立です。いやー、この商売やってるとこんな場面にも立ち会えることがあるんですねえ」


1人で喜んで小踊りしている奴隷商人は置いておいて、横にいた護衛に人攫いを受け渡した。

護衛ではない普通の店員は男が檻に入れられたのを確認するとウカリスの檻の鍵を開けた。


ラピアは檻の中に飛び込んでヒールを掛け始めた。

メリは檻の扉を閉められないようにウカリスの元に駆け寄りたいのを抑えて待機している。


ウカリスの啜り泣きがやんでラピアのヒールが掛け終わると俺はやっと少し落ち着きを取り戻して奴隷商人に話しかけた。


「もし次に同じような事があったら上級紹介所に連絡をくれ。ついでに他の店にもこのことを伝えておいてくれ」


俺は今さっき店員に渡された金貨を奴隷商人に渡した。


「わかりました。噂には聞いていましたがさすがタウロ開拓団の関係者ですねえ。せっかくなので焼き鏝をただでおまけしますよ。一般的な物から珍しい物まで取り揃えています。子供は大きくなるからちゃんと考えて焼かないと後で形が変わって後悔しちゃいますよー」


「いや、いらないよ」

「そうですか、残念ですねー。あの肉が焦げる臭いと奴隷の悲鳴は一回体験すれば病みつきになりますよ」


「もう2度とお世話になりたくないな」

「そうですか、またのご利用お待ちしています!」


タウロ開拓団の関係者ではないが否定する気力が俺にはもう残っていなかった。



 ウカリスはメリに抱きかかえられて静かに寝ている。

俺はラピアとメリを見てお互いに頷きあった。


今日は色々な事がありすぎて頭がいっぱいだ。

俺達はウカリスの着替えを急いで買っていつもの長屋には行かずに普通の宿に向かった。


メリからウカリスを受け取ってメリが受付で一部屋借りる。

多少金はかかるが今日は怖くて長屋には泊まれない。


ウカリスが回復するまでは宿を毎日変えた方がいいかもしれない。

そう考えると急に金が心配になってきた。


黒パンなどの食べ物を買ってきていたが食べる気にはなれずに俺達は寝ることにした。


「俺は用心の為に起きておく。2人は先に寝てくれ」

「え、私も起きているよ」


「ラピアはウカリスが起きた時の為にできるだけ魔力を回復させていてくれ」

「私は起きててもいいよね?」


「前衛で戦えるのが2人とも疲労困憊じゃ話しにならない。先に寝てくれ。まだ早い時間だから敵が来るとしたらもっと夜遅くになる」

「えー、じゃあ私が途中で起きるから交代ね?」


「わかった。メリは後で起こす」

「うん。おやすみ」


部屋には2つのベットがあるので一つにウカリスを寝かせてメリとラピアはもう一つのベットに向かった。



 俺は槍を持ったまま扉の方を向いて座った。

敵が来るとしたらもっと夜になってからだろう。


鉄の槍を布の切れ端で拭く。

今日は色々な事が起こりすぎて知恵熱が出そうだ。


ただ前向きに考えれば最高のタイミングだったと言える。

ウカリスの顔の腫れから見ても連れ去られて時間はほとんど経っていない。


奴隷商人も入荷したばかりだと言っていたしウカリスの可愛い顔をわざわざ腫れ上がるまで殴るのは人攫いでも奴隷商人でも利益に反するはずだ。

顔の腫れが治まっていたら俺達が買える値段ではなかったかもしれない。


俺だったら買ったらすぐに治療をするだろうがわざと治療せずにいたのだろう。

あの奴隷商人なら嬉々としてやる。


でもそのお陰で助かった。

怪我を負っていなければお金が足りなかったかもしれない。


怪我をしていた理由は人攫いに抵抗して殴られたというのが一番可能性が高い。

ただ、この考えを続けても時間の無駄だからこれくらいにしておこう。


ウカリスの目が覚めたら聞けば良いことだ。

それより俺達を攫おうとした男達の方が重要だ。


質はいまいちだがショートソードが3本に鉄の槍が1本も手に入った。

何本か手元に残して残りは売ってしまった方が良い。


武器屋に持って行ったら足元を見られるだろうし、露天で売ったら、売れても売れなくて金目当てで狙われそうだ。

となると残念ではあるが武器屋に持っていくのがお金にはならないが一番かもしれない。


金にしないならメリが予備に1本、俺が1本、ラピアが鉄の槍を1本という分配になる。

残りの1本は売ってしまおう。


これで良い気がしてきたぞ。



 次は今回の戦いについて考えよう。

我ながら中々良い奇襲だったと思うがラピアを人攫いに向かって押したのはやりすぎだったかもしれない。


しかしそれによって人攫いは俺が完全に錯乱して自分だけ逃げようとしていると信じきっていたと思う。

悪くは無かったが良くもない。


俺が2人を相手に正面から堂々と切り伏せられればこんな戦い方をしなくて良かった。

要するに力不足だな。


俺達の一番の戦力はメリなのでメリが最大限に動きやすい状況を作り出す事が重要になる。

例え俺の初撃が防がれても2人を抑えている内にメリがどうにかしてくれる作戦だ。


メリとラピアの方も2対2ではなく、1対1が2組となるようにラピアを突き飛ばして1人を捕まえる為に引き付けさせた。

だが結果論だと下手に小細工せずに2対2でも余裕で勝てただろう。


だがあの時は全く余裕がなかった。

初めての殺し合いではっきり言って内心動転していた。


実は今だって気を抜くと歯が鳴りそうになる。

本当は戦いたくなかった。


殺したり殺されたりしたくなかった。

でも戦わなければ死ぬよりつらい目に合ってた。


俺は鉄の槍を抱くように強く握った。

そうしなければ震えが体全体を支配しそうだ。


なんてことはない、俺は臆病者なのだ。

堂々としている振りをしているのは弱みを見せないようにするためで村で兵士になろうとしなかったのはただ怖かったから。


戦いは怖い、戦いは危険だ。

もし実力が同じ2人が殺しあえば勝率は五分五分になる。


半分の確率で死ぬ可能性がある戦いなんて真っ平ごめんだ。

スタンピートの最後に戦った強いゴブリンなんかはもう金輪際会いたくも戦いたくも無い。


みんなが居たから戦えた。

今日だってメリとラピアが居たから戦えたんだ。


だが俺1人になると戦いが終わった後なのに恐怖がこの身を支配している。

涙が滲んでくる。


こんな状況で寝られるわけがない。

今だって無様に胃の中身をぶちまけない様に耐えている。


メリを起こすまでにあと数時間はある。

その間に俺はどうにかして自分の中にある恐怖を押さえ込むんだ。


そして明日には強い俺が居る。

しかし意識すれば意識するほど震えは我が物顔で暴れだす。


体は素直だ。

俺は体を小さく丸めて震えを悟られないようにきつく体を抑えつけた。

油断すると息まで荒くなってくる。


俺は物音を立てないように深呼吸を続けた。


ベットが軋む音が聞こえた。

俺が振り返ろうとすると誰かが俺に飛びついてきた。


俺は焦って顔を埋めて涙を拭く。

しかし涙は止まらない所か止め処なく溢れ出して来る。


俺は恥ずかしくて悔しくて顔を埋めたまま押し黙った。

するとベットが軋む音がしてまた足音が聞こえた。


足音は俺の正面に立つとどっしりと座り込んだ。

そして俺を丁寧に包んだ。


俺はもう耐えられなくなって鼻水を流しながら嗚咽した。

ラピアとメリは黙ってそんな俺を抱いてくれた。


俺の涙は2人にも静かに伝播して2人も体を震わせ始めた。

小さく丸まった居た俺だったが胸に熱いものが湧き上がってきて2人の抱擁を解き放った。


そして両手を精一杯広げて思いっきり二人を抱きしめた。

涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を2人に晒す事になるが今はただ2人を抱きしめたい。


怖くて仕方ないけど、メリとラピアの為なら戦える。

そう、いつだって俺は迷わず戦えた。


みんなが居たから、メリとラピアが居たからだ。

俺達は互いに抱き合って泣き合った。


いつまでそうして居ただろうか俺達はそのまますっかり寝入ってしまった。

幸い、夜が明けても襲撃者が来ることはなかった。


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