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 新しい強化の訓練を始めてから数週間が経った。

秋の仄かな暖かさが少しずつ冷たい寒さへと変わっていく。


冬が近い。

町もそれを感じとっていくかのようで少しずつ空気が重くなっていくのを感じる。


特に下級紹介所に集まる人々は明らかに殺気立っている。

俺達はそんな人の群れにできるだけ近づかないように静かに上級紹介所へと入った。


 結局はいつもの下水掃除を嫌々受けたがあの人だかりを見た後では仕事があるだけましなのかもしれない。

下水掃除はこの時期に残っているだけあって寒くて臭いが顔なじみになった管理人の人からは食事をちょくちょくおまけしてもらえるので少し嬉しい。


仕事をするにもやはり感謝された方が気持ちが良い。

人が嫌がる仕事こそやる人が少ないのでまじめにやればそれだけ目立てるのに下級紹介所に群がる人はそれがわかっていない。


 ネズミの警戒心から最近は人が来ていないことが手に取るようにわかる。

俺達にとってはありがたい。


こづかい稼ぎは今回も上手くいった。

寒くなりすぎる前に一回やっておけば次の下水掃除は春先まで粘れるだろう。

仕事が無くなれば俺達以外も嫌々受けるはずだ。


 今までは常に魔力を温存していたが最近では強化の訓練の為に魔力を使う事が増えた。

回数をこなさなければこつは掴めそうにない。


経過はまあまあ順調だと思う。

手での瞬間的な強化は慣れもあって効率を考えなければものになってきた。


しかし足での強化となると難しい。

こうなると魔力の操作が得意なラピアが俺とメリより1歩前へ出た。


手の強化は手の感覚を延長するイメージでやるので簡単だった。

普段手で物を持ったり使ったりするので違和感はなかったが足となると完全に別だ。


足での強化はまずイメージから始めなくてはならなかった。

そして今の所はまだその途上にある。


小さな壁にぶつかったと言った所か。

俺は大きな靴を履いてそれを強化するとイメージすることにした。


足場を作るというより大きな靴を強化するといった具合だ。

靴は毎回脱ぎ捨てる事になるが多少は前進した。


イメージが固まると不思議なもので徐々に足回りの水への強化が滑らかになる。

この方向性でいけそうだ。


やってみて思ったが実際にやる事も大切だが頭の中でやってみるのも有効だと気がつきはじめた。

普段は体に動きを覚えさせるが、逆に心に動きを覚えさせる。


普段とは順番が逆だ。

そして徐々に心の動きと体の動きを一体化させていく。


魔力を使う訓練はできる回数が有限なので少ない回数でできるだけ経験を多く積みたい。

そうなると心の中で考える分にはただなので良い訓練だと思う。


ふとデロス町で見たあの老人を思い出した。

今まで見た中で一番素晴らしい剣だった。


頭の中で少し色が褪せ掛けていたその記憶を必死に思い出した。

せっかくの貴重な一振りを忘れる所だった。


強化の訓練とは別にあの動きを何度も何度も思い起こす事にした。

あれこそ俺達が目指す所だ。


今はまだ遠すぎて参考にならないがもっと先に行けばほんの一握りの理解を得られるかもしれない。



「肉蜂のせいで小さな村が1個滅んだそうだ」


いつもの受付が俺達を見つけるなり話しかけてきた。


「お前達は魔境にも行ってるんだよな? もし見つけたら絶対に報告してくれ。自分達で倒そうだなんて思うなよ」


普段の気の抜けた様子は一切に消えて真剣な眼差しで俺達を見つめた。


「わかってる。けど普通なら肉蜂の巣が出来たらすぐわかるはずだよね」


「ああ、お前達はわかっているだろうが一応説明するぞ。肉蜂は普通の蜂の10倍程度の大きさの蜂だ」


手を使って肉蜂の大きさを表現する。


「肉蜂は普通の蜂と違って動物などの肉も食べる。働き蜂は普通の蜂と一緒で花粉を食べるが兵隊蜂は肉を食べる。肉蜂は群れで小さな獣を狩る。そして餌になる肉が増えると兵隊蜂がどんどん増える。しまいには群れが大きくなって人間だって狩り始める。」


受付は体を竦める振りをした。


「ただ、肉蜂には特徴があって肉を食べる時に腐らせてから食う。だから肉蜂の巣ができると腐った肉の臭いがして離れていても巣が出来たのがわかりやすい。森や山に入る狩人は自分の命にかかわるので常に肉蜂を警戒している」


村でも肉蜂の死体を大人に見せてもらったことがある。

あんなでかい蜂が群れで襲い掛かってくると思うと寒気がする。


あえて救いがあるとすれば毒を持っていない事だ。

自分で食べるから毒は打ち込まないだろう。


と思えばしっかり毒持ちだったりする場合があるがそういうのは麻痺毒が多い。

逆に小さい蜂なんかは毒持ちが多く、注意が必要だ。


動物等も大きくなればなるほど毒持ちが少ない。

毒が不要ってことなのだろう。


常に例外は存在するが生き物の生態ってのはおもしろいものだ。

魔境だと毒持ちの生物が毒を持たなかったり、逆に毒のない生物が毒を持っていたりという場合がある。


俺が怪我を嫌がるのはそういう所にある。

イメージとしては小さい生き物の方が毒を持っているので目に見える敵が居ないからといって安心はできない。


魔境では小さな傷でも付けられないように注意しなくてはならない。

だから常に強化を薄く張る必要が出てくる。


ただでさえ魔力が奪われる魔境で強化を使うのは効率が悪いが不意の事故を防げるなら安いものだ。

俺達は魔境での魔力の吸収力が増えたから大して気にはしていないが慣れていないと注意力も魔力も削られるわで大変だ。


今の時期は動物達は冬篭りの為に栄養をしっかり溜め込んでいるので一番の旬だ。

今年最後の狩りとしゃれ込みたいな。


「それに肉蜂は体の大きさが普通の蜂よりでかいのでハチミツの量が多い。それ故に常にハチミツを天敵に狙われている。天敵と殺しあって巣が大きくなるが防がれるのだが今回はなんかの原因で巣が大きくなりすぎたそうだ。普通だったら村が滅ぼされる前に腐臭から肉蜂の巣があることがわって何かしらの対策を取るんだけどなー」


「わかった。俺達も気をつけるよ」

「おう、もし見つけたら手を出さないでさっさと逃げてこいよ。欲張ってハチミツを狙って返り討ちにあう奴が多いことなんのって」


「そもそも怖いから近づきたくないよ」

「私は大丈夫だよ!」


メリが空気の読めない事を言ってるが受付も俺と同意見のようだ。


「という訳でその内、下水掃除をまたやってほしいな」

「寒くなるからやめとく」


「だよなー」


普段の調子に戻った受付に軽く片手を挙げて俺達は帰路に着いた。


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