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出費を増やさずに食事量を増やす、一見難題に思えるが一つだけ現時点で判明している答えがある。
かぼちゃだ。
時期的にも丁度良いので市場には様々なかぼちゃが売られている。
市場に出荷されるかぼちゃが増えるとかぼちゃの値段が下がってくる。
その上、保存性が良いので冬の間は主役を張れる逸材だと言えよう。
農家ならどこでも植えているので今が一番安くて旬だ。
食事量を増やすにはこれしかない。
じゃがいもも量が取れる部類に入るがまだ出回り始めてたばかりのようで売っている人は少なめだ。
村では普通に育てていたが思ったよりまだ普及していないようだ。
じゃがいもさえ出回ってくれれば食事事情が救われるのにな。
かぼちゃには半歩ほど劣るが大根やかぶ系も捨てがたい。
根っこの部分は生でも食べやすいのがかぼちゃとは大きく異なる。
上の葉っぱの部分は我慢して食べる。
以上の感想は生で食べる事を基本とした考えだ。
かぼちゃは生で食べられるが一個のかぼちゃが大きいので全部食べるのは少々きつい。
種類によっては甘い瓜もあるが小さいか育つ数が少ないかでどうしても高くなる。
俺達が買うのは量がたくさん取れる青臭い瓜やかぼちゃだ。
生で食べる時は若いまだ小振りのかぼちゃの方が好きだ。
若い内はしゃきっとしていて歯ごたえが良い。
バリバリ食べられる感じだ。
熟してしまうと歯ごたえがなくなってしまう。
熟したもの特有の柔らかと熟しすぎた感じがあんまり好きではない。
火を通せば熟した方が味があって美味しい。
最近は魔境で串を揃えたので焼くのが楽にできるようになった。
串などがないと焼く時に色々面倒で敬遠していたがこれからは毎日かぼちゃを焼ける。
焼いてしまえば他の野菜とは違ってかぼちゃは急に食べやすくなる。
焼いたかぼちゃを食べる時は水が必須だがそれは愛嬌だ。
つまり、かぼちゃ再びだ。
村でも飽き気味だったかぼちゃだが安くて量があると考えると中々に良心的な存在だ。
よって春まではかぼちゃ満載だ。
と言う話しをメリの前で説いたらメリは顔が歪ませた。
好き嫌いは許されないのだ。
ラピアも賛同してくれたので当分はかぼちゃ生活となった。
しっかり食事を取る為には必要な事だからしょうがないよね。
秋になると市場に出る野菜も増えて市場巡りが楽しい。
自分の口に入るのは稀だがいつも食べているような王道的野菜から偶には横道にそれたくなるのも一興だ。
考えれば考える程、村に居た頃の食生活に戻っていくのが恐ろしい。
最終地点はポリジになるのか。
しかし黒パンは捨てがたい。
ポリジは食べてて体に良い感じがするけど食べてて美味しいのは圧倒的に黒パンだ。
いつか黒パンとも別れる事になるのかと思うと今食べている黒パンが一層輝きを増すのだった。
来年からは冒険者学校に行くので道場に通うのは難しくなる。
よって様々な訓練方法を短期間で詰め込まれている。
「もう少し時間に余裕がありゃ、ゆっくり教えられたんだけどねえ」
ゲニアが木刀をぶらぶらさせながら言った。
ゲニアは勿体ぶらずに色々な訓練を教えてくれるので内心では感謝している。
「ま、元々下地がしっかりしているからやり方だけ知れば後は自分達でやれるね。私の教えをしっかり守って精進するんだよ」
冒険者学校では道場のように濃い訓練はできないだろうから春までが勝負所だ。
俄然やる気が出てくる。
「今日は足の強化を中心にやるよ。これは強くなればなるほど重要になってくるから自主訓練でも多めにやりな。お前達ならそう遠くはない内に有効的に使える時が来る、はず」
ゲニアはたらいを3人分運んできた。
たらいの中には水が満たされている。
「さっき足の強化をすると言ったけど今日はそこまで行かないだろうね」
俺はわざとキナ臭そうな顔をした。
ゲニアは俺の反応を見ても特に何も言わずにさっさとたらいを俺達に配った。
「本当は砂利とかがあれば良かったんだけどここらへんじゃ手に入れるのが大変だから今回は水を使う。今回のを一言で表現するなら強化の訓練だ。水面に一瞬触れてみな」
俺達は言われた通りに水面に触れる。
「水面を触れた瞬間に水を強化するのが今回の訓練さ。最終的にはこれを足でやってしっかり踏み込んでも大丈夫な位に足元の水を強化をするのが目標。これができると水の上を走れるようになる」
「すごい! 私もできるようになりたい!」
「俺も!」
噂では聞いた事があるが眉唾物だと思っていたのに実際にできる人がいるのか。
俺はここ最近で一番興奮してきた。
メリも同様のようで一生懸命水面を触れたり離したりしている。
水が派手に飛び散って困る。
「今から私が説明するけどお前達はそのまま続けていいよ。これは足元が不安定な場所で戦う時の為の技術だ。砂漠や砂浜、沼地ではその場所にあった戦い方をしなければならない。歴戦の戦士も足を取られてあっさりやられたりする。逆に慣れていれば格上の相手にでも勝機が生まれるってもんさ」
何度か試して見たが結果は芳しくない。
水に触れた後に離すと手の表面に1cm程度に強化された水が付いている。
つまり水に触れた瞬間に強化しきれた水の量はその程度だという事になる。
思ったより少ない。
これが普段使い慣れている手でこれだから慣れてない足ではもっと厳しい。
だが速さ重視で魔力を多めに使えばもっと大量の水を強化する事ができた。
これでは駄目だ。
水を強化する技術自体を鍛えなければならない。
力押しでは正しい成長を阻害してしまう。
「足を踏み込む瞬間に地面を強化する。これは強くなればなる程、必要な技能だ。なぜかというと強化が強くなると踏み込んだ時に足が地面に沈んでしまうからだ。それではせっかくの力が逃げてしまう。強い奴にとっては地面は柔らかすぎる。魔境なら意識しないでも大丈夫だけど魔境以外だと地面が柔らかかったり不安定な場所では足場に注意しながら戦わなければならない」
ゲニアが左から右へ軽く水面に触れるように手を振った。
振り切った手には水の塊が纏わり付いている。
「踏み込みの強さは攻撃の威力に比例する。しっかり踏み込めば踏み込むほど威力は増す。防御でも重要だよ。攻撃を受けなければならない時に受けたのは良いが足が地面に沈み込みましたじゃ困るからね。攻撃する時、防御する時、回避する時、移動する時、つまり戦う時は常に必要ってわけ」
俺は早くもやり方を変えた。
まずは水を強化する事に慣れる。
「水じゃなくて砂でもこの訓練ができる。夏の砂浜を足元を強化しながら走れば最高の訓練になるよ。私も昔やったことがあるけど体力も魔力もすぐ尽きて干乾びるかと思った」
俺は水の中に手を入れて短い時間で水を強化した。
固い物に比べて強化の通りがいまいちだ。
手応えというか強化応えが悪い。
「うさぎ飛びなんかは初心者向きだね。両足だし一回一回の間隔が長いから比較的簡単だ。いざという時の為に形振り構わず逃げる為に水面を四足歩行できるようにしておきな」