11話
両者が位置に着くと会場は静まった。
二人は戦いの前に深呼吸をして呼吸を整えている。
観客の中で生唾を飲む音が聞こえてきた。
二人が準備完了の合図をする。
「礼。」
互いにぎこちなく礼をする。
彼女達にとってはこれが本番であるので今までにない緊張感を感じているようだ。
「決勝戦はじめ!」
合図と同時にセリナが強く早いウインドアローを放つ。
ラピアは最初からウォールを打つつもりでいたようでセリナのアローが届く寸前でアイスウォールが発動した。
アローを受けたアイスウォールは少し破損したがあとアロー一発分は耐えられそうだ。
それを見るまでも無くセリナは次の魔法を発動させようとしている。
「ウィンドランス!」
セリナから唸る風の槍が放たれる。
ラピアはまだ詠唱の最中のようで追いついていない。
セリナのウィンドランスがラピアのアイスウォールに当たるとアイスウォールは一瞬で砕け散った。
「アイスランス!」
やっと詠唱が終了したラピが魔法を発動させる。
それはギリギリ障壁に当たる前にウィンドランスに当たった。
二人の魔法がぶつかり合い均衡が生まれた。
しかしラピアは少しでも押し込まれれば負けとなる。
セリナとラピアは魔法に籠める魔力を増やした。
一瞬ラピアが押し返したかと思えたがすぐにセリナの魔法が押し返し最初のギリギリの位置まで押し返されてしまった。
「負けるな。ラピアー!」
「ラピアがんばれー。」
「セリナ後少しだ。」
「押し込めー!」
均衡は崩れることはなく二人の魔力をドンドン奪っていく。
このままいくと魔力量勝負となるがどちらが魔力量が多いのか俺はわからない。
「セリナって魔力量多かったっけ?」
「多いって位しかわからない。」
均衡状態を保っていた二人だがセリナが動いた。
セリナは両手で魔法を打っていたが片手を離し、魔法を詠唱した。
「ウィンドアロー!」
新しい魔法攻撃にラピアは一瞬驚いた。
しかしラピアはアイスランスにより多くの魔力を籠めた。
魔力を籠められたアイスランスは範囲が広がりウィンドアローを打ち消した。
片手でウィンドランスを打っていたセリナは威力を増したアイスランスに一気に押し込められた。
セリナは慌ててウィンドアローを打った手を戻し両手でランスを打つ。
一気に押し返したラピアだったがセリナが両手で魔法を唱え始めるとまた均衡状態になった。
戦いが始まって始めてラピアは5分5分の状態まで持ち直した。
今のやり取りで二人とも魔力を多く消費したようで額に汗が浮かび始めている。
みんなが歓声を上げる中、またも均衡状態に突入した二人だったが息が荒くなってきた。
このままでは不利と思ったのかセリナが再び動いた。
ウィンドランスが範囲と威力を増してアイスランスを飲み込もうとしている。
一方ラピアは徐々に押され始めた。
ラピアの魔法はさっきより威力はましているものの、一目見てセリナのウィンドランスの方が強力だ。
このままセリナのウィンドランスがラピアにかけられている障壁に当たるかと思われたが、最後の一歩分の所で止まった。
あと一歩で勝ちというところまで来たセリナだったがラピアが持ち直したの見て焦らずにはいられなかった。
「はあああああ。」
セリナが一気に勝負に出た。
ウィンドランスが今までで最大の大きさになった。
それに合わせるかのようにラピアのアイスランスも威力を増した。
ウィンドランスとアイスランスがぶつかり合い目映い光を発した。
円錐状に形を変えたラピアのアイスランスがウィンランスを貫きセリナの障壁にぶつかった。
「勝者ラピア!!」
「おおおおお。」
一斉に歓声が上がった。
魔力が尽きたセリナは膝をつき、ラピアは放心状態で杖にしがみ付く様に身を預けた。
「やったー!」
「ラピアすげええ。」
俺とメリはラピアに駆け寄った。
メリはラピアに飛びついてラピアを掲げた。ラピアはぐったりとしていたが自分の勝利を確認して涙を流した。
「やったよ。私勝ったよ。」
「そうだよ。ラピアは勝ったんだよ。すごかった。かっこよかった。」
「うん。うん。うん。ありがとう。」
本格的に泣き出したラピアをメリは優しく包み込んだ。
俺もメリも気が付いたらもらい泣きしていた。
俺はあせって涙を拭った。
一方セリナも大泣きして回りに慰められている。
セリナが泣いているのを始めてみた俺はびっくりしたがあれだけの勝負をしたんだからそうだよなと思った。
「休憩を挟んで学力試験を始める。参加者は急がなくていいので会場へ移動すること。」
俺達はラピアが落ち着くのを待って会場の孤児院へ移動を始めた。
ラピアの戦いを見た俺は胸が熱くなるのを感じ、戦闘試験が待ち遠しくなってしまった。
熱くなった頭を落ち着かせて冷静に学力試験に臨まなくてはならない。
見ているほうが熱に浮かされて失敗しましたじゃ駄目だからな。
会場に着くとまずラピアを席に着かせた。
ラピアはもう落ち着いていてさっきの事が恥ずかしくなったのか赤くなっている。
それを見た俺とメリは大丈夫そうだと思い各自の席へと移動した。
「ラピアもがんばったんだ俺もがんばらないとな。」
「私は学力試験は棄権したかったのに!」
「試験の時くらいはまじめにやれよ。」
ラピアの戦いっぷりに影響されたメリは早く戦闘したくて堪らないといった様子だった。
俺は自分の席に着くとゆっくりと深呼吸をして心を落ち着かせた。
今度は俺が結果を出さないとな。
みんなが所定の位置に着き、学力試験が始まった。
去年より明らかに手応えを感じる。
これならとりあえず上位は狙えそうだと思った。
しかしわかるようになったからこそわからない問題も浮き彫りになった。
来年は今回わからなかった問題も余裕を持って解かないといけない。
そうこうしている内に学力試験は終わった。
「学力試験終了。各自は食堂に向かうように。試験の結果はわかりしだい発表する。」
「よっしゃあ。飯飯~。」
相変わらずグロウは能天気だな。
俺はラピアの席に移動した。
「どうだった?俺は去年よりはできたぞ。」
「うん。私も結構できたよ。」
「よしよし。とりあえず後は結果待ちだな。」
「私はこれで終わりだけどロッシュは武力試験がんばって。」
「ああ。上位には潜り込みたい。」
「一生懸命応援するよ。」
「うん、お願いする。メリを拾って食堂に行こう。」
結果を聞くまでもなく渋い顔をしているメリと合流して俺達は食堂へ向かった。
「頭が痛い。もう勉強関係はお腹いっぱい。」
メリが愚痴をこぼす。
「そんな感じだと午後の武力試験も危ういな。」
「そんなことないよ!元気いっぱいだよ。」
すぐメリは元気になった。
「とりあえず昼飯を食って英気を養おう。」
「朝はせっかくの白パンを味わえなかったけど昼からはゆっくり味わって食べられるよ。」
ラピアは今日の試験はもうないので足取りは軽い。
俺も一番大事なところが終わったので一安心といった所だ。