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 魔境の狩りと木材運びのお陰で少しずつお金が溜まってきた。

しかし大きな買い物をするにはお金がまだ心許ないので今の内に次に何を買うか考える事にした。


武器、本、鍋、服等が真っ先に浮かんだ。

その中でも優先度が高いのは服だ。


今はデロス町で買った服をまだ使っている。

あの時は大き目の服を買ったが体が大きくなったので今では小さい位だ。


特にメリは成長目覚しい。

いつも一緒にいるのでどれくらい大きくなったかは細かくわからない。


しかし着ている服から当時の背の高さが逆算できる。

3人の中では身長の伸びはメリが一番良くて、俺がそれを追う形だ。


今ではメリは平均的な20代男性の身長を上回っている。

身体つきも筋肉質な割には細身で遠くから見ると奇妙な威圧感がある。


研ぎ澄まされるのは肉体美としては良いが脂肪分の貯蓄が少なそうだ。

一応出る所は出ているが全体的にもう少し肉を付けてもらいたい。


しかしこれ以上食事を増やすのは難しい。

安くて栄養価が高くて量があって、ついでに美味しい食材はないだろうか。

あったら既に毎日食べてるんだよなあ。


俺はどうだろうか。

平均的な同年齢より少し大きい程度だ。


だがメリに比べて全体的に大きくなっている感じでメリに比べると肉に厚みが出てきたというか、なんと表現すれば良いのかわからない。

現時点では良い感じに成長しているだろう。


ラピアも同年齢より少し大きい程度だ。

しかしメリより背が高くない為か、肉付きは良い。

俺と同じで良い具合に成長していると思う。


おっと、話しがずれた。

体が大きくなったから服がほしいという話しだったがグリエ町を探してみると地域での差が顕著に出ている。


デロス町に比べて服の値段が1,5倍から下手すると2倍近くになっている。

理由としては2つだ。


グリエ町のダンジョンではドブヌートが出ないので皮の供給量が少ない。

他の皮の含めての供給量が少ないので服の質がいまひとつだ。


デロス町ではドブヌートの皮が大量に手に入るので職人達の腕も磨かれていた。

しかしグリエ町では品質が良くないのでデロス町で買った服と同じ程度の服を買おうとすると随分と割高になってしまう。


縫いをよく観察すると質の差がわかるそうだ。

全く興味がなかったのでは俺には全然わからないがラピアが言っていたのでそうなんだろう。


今着ている服は加工し直して小さな布袋にして、残りは材木運びの時に肩に乗せる布や雑巾等といったところか。

お金が溜まるまで時間はあるので市場を回る時などは意識して服を見ることにした。


最低限、メリの服だけ買えれば良い。



 さっそくだが市場へ向かった。


「ねえねえ、あれがやりたいよ」


メリはシチューを売っている屋台を指差した。

俺もラピアもメリが言いたい事を把握した。


「あんまり水っぽかったらきついぞ?」

「大丈夫。ちゃんと見てたよ」


メリは自信満々で答えた。

俺もやりたいので2人してラピアを見た。


ラピアは俺とメリに見られてしょうがないなといった顔をして頷いた。


「やったー!」


メリは歓声を上げると買っていた黒パンの上の方をナイフでえぐり始めた。

俺とラピアもそれに続いた。


メリは器用に黒パンを上から底を突き破らないようにパンを円柱状に抉り取った。

メリだけ早くできて俺達が終わるのを今か今かと待っている。


ようやく俺とラピアの準備が終わるとメリは駆け足で屋台へ向かった。


「シチュー一杯ください」

「はいよ」


メリは2小銅貨を手渡して黒パンの円柱に抉り出した部分にシチューを入れてもらった。

俺達もそれに続く。


シチューはここらへんでは珍しくドロっとしていてパンに入れてもすぐに漏れてくる事はないだろう。

普通の屋台のシチューは水っぽくてこの方法が試せないので俺は諦めていた。


メリはいまだに諦めずにしっかり屋台を観察していたようだ。

こういう事には目聡いよなあ。


まるでグロウのようだ。

けどこうやって食べるといつもより美味しい気がしてならない。


またやりたい。

そう思いながら俺はパンの底が染みて来てないかを確認しながらゆっくりとシチュー入り黒パンを食べるのだった。



 順風満帆な俺達であったが、その浮ついた心に冷や水をかける事件が起きた。

俺達がいつものように木材運びをしていた時の事だ。


一日の終わりの木材運びはいつも大きめの木を運んでいる。

最後は稼ぎ重視なので走る速さを上げる事はできずに早足程度だった。


秋の夕暮れを眺めながらゆっくり歩いていると突然剣呑な気配を感じた。

2人も感じたようですぐさま警戒体勢を取った。


町へ向かう道を3人の男が塞いでいる。

俺達は丸太を道の横に投げると木刀を抜いた。

俺達が武器を抜いたのを見ると男達が木刀を肩に乗せながらゆっくりと近付いてきた。


「おい、その丸太をよこせ」

「断る」

「大人しく渡せば」


メリが男達を真横に一閃するような気配を俺達に飛ばした。

次の瞬間メリが強化を纏って男達に飛び掛った。


俺もメリの動きに合わせて上段に振りかぶりながら間合いを詰める。

ラピアは距離を取って詠唱を始めている。


メリが木刀の腹で男達をなぎ払った。

俺はそれに反応した相手に上段から鋭い一撃を入れるつもりだ。


相手の動きによってはラピアの魔法が重要になってくるので射線に注意する。

突然の出来事に戸惑いつつも頭は戦う状態に一気に加速した。


俺はメリのなぎ払いに合わせる様に相手の出方を窺った。

しかし男達はそのまま薙ぎ払われた。


俺は逆に驚きつつも吹き飛ばされて団子状態になっている男の腕を狙って手加減せずに叩きつけた。

骨が折れる鈍い音がして手に嫌な感覚が残る。

戦いはすぐ終わった。


そもそも戦いにならなかった。

団子状態になった男達は体勢を立て直す前に俺達に腕や足を折られてそのまま抵抗を諦めた。


無様に泣き喚いているが油断はしない。

不意を付いて毒を塗った短剣でも投げられたら危険だ。


格上の相手だったら気配を察知した時点で逃げる予定だったが遠目から見ても木刀しか持っていなかった。

その上、相手はそこまで強そうじゃなかったので今回は逃げるという選択肢は取らなかった。



 呻き声を上げる男達を囲みながら今回の事情を聞きだした。

俺達から丸太を奪って自分が運んだ事にしてお金を稼ごうとしていたそうだ。


そういえばこの男達も最近は木材運びをしていた。

良く見るとなんか頭に引っかかりを感じる。


脅して俺達に丸太を運ばせて自分達は楽して儲けるという予定だったそうだ。

そんなの上手く行ったとしてもすぐばれるに決まっている。


本気で大丈夫だと思っていたのだろうか。

あ、そうだ思い出した。


下水掃除をしている時に子供を脅していた奴等だ。

あの時はドブネズミの取り方を教えてやった奴らだ。


それで調子に乗ってしまったのかな。

うーん、あの時はあれが最善だと思ったけど中々思ったとおりにはいかない。


しかし今思い出しても怒った振りはしたが悪くない対処だと思ったんだけどな。

俺は3人の男が持っていた木刀をへし折ってそこらへんに投げ捨てた。


勿体無いと思ったが今はそれ所ではない。


「足が折れている奴以外は少し離れろ」


2人の男が折れた腕を庇いながら少し離れた。

逃げ出しそうな気配が感じられたが一睨みすると諦めたようだ。


足が折れたままだと移動するのも大変だが、町はすぐそこだ。

移動するのが面倒だったから町の近くに待機していたのか。


逃げられたらすぐ町に逃げ込まれる可能性があるのに随分と杜撰な計画だ。

せめて、もうちょっと離れた所でやれよ。


「足にヒールをかける。とにかく動くなよ」


残った男は顔をしかめながらも頷いた。


バキッ。


俺は大人しくしていた男の腕を折ってあげた。

足を直したら暴れられてもおかしくはない。


腕も折られた男は情けない声を上げて許しを請った。

こちらもこれ以上、危害を加えるつもりはない。


だから安全の為に腕を折っておくのだ。

これなら無駄に抵抗しようとは思うまい。


ヒールをしてもらえると思っていた男は面食らっている。


「動くと怪我が増えるぞ」

「わ、わかった。もう動かないからやめてくれ!」


俺はラピアに目配せすると痛みが落ち着く程度にヒールをしてもらう。

それを見ていた残りの男達も抵抗を完全に諦めたようだ。

良い事をした。


その後、俺達は門番に男達を引き渡した。

少し説明を受けたが、初犯のようで鞭打ち刑で済むとの話しだ。


以前、甘い対応をしたのは間違いだったのかもしれない。

しかし今回は見せしめになったので最終的には成功の部類に入るのかな。


ただ今回の件で逆恨みされたかもしれない。

自分から喧嘩を売っておいて勝手に逆恨みされては困る。


しかしこういう事をする奴だからこそ、そうなる可能性の方が高い。

関わりたくない部類の人間だ。


最初からできるだけ関わらないように注意するしかないが向こうからやってくるので手に負えない。

というか材木運びですれ違った時に勝てる相手か否かわからなかったのかな。


一目ではわからなくても材木運びをしていたなら動きを見ればわかりそうだ。

俺達は常にすれ違う相手の強さを計っている。


自分達より強い奴をしっかり覚えておけば何かあった時の判断材料に使える。

逆に自分達より弱い奴は特に記憶していない。

こいつ等はその部類に入る。


ただ、今回は俺達があいつ等より強かったからこんなに簡単に済んだという事を忘れてならない。

やはり力を付ける事が最優先事項だ。


今回の失敗をほんの少し反省しつつも訓練への情熱を燃やすのだった。

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