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 魔境で兎を探しているとよくキジバトを見かける。

せっかくなので捕まえられるか試してみる事にした。


方法は至って簡単、魔力を悟られないようにゆっくり貯めて魔法を打つ。

それだけだ。


ここの鳥は警戒心が薄いので人が居ても逃げない。

できるだけ視界に入らないように隠れた場所を選んでラピアは魔法の準備をする。


「ウォータアロー」


キジバトを狙った魔法はキジバトを捕らえる事はなかった。

声が聞こえた時点で素早く逃げた。


魔法は声を出して唱えた方が威力も早さも上がり狙いも上手く行く。

無言でやるとどうしても色々と効率が落ちてしまう。


次は無言でやってもらおう。

警戒心の薄い鳥達は少し歩いたらすぐ見つけられた。


余裕ぶっているがそれが命取りだ。

今度は声に出さずに無言で魔法を撃った。


しかしキジバトは魔法が発動した瞬間に魔力を察知するとすぐ飛び立った。

思ったよりやる。


これが水魔法ではなく風魔法だったら良かったのだが水魔法では速さが足りないようだ。

その後何度か試したがキジバトは捕らえられなかった。


しかし一回だけ1本の木の枝に3匹のキジバトが止まっている時に1羽獲ることができた。

ラピアが魔法を打つと、キジバトは飛び立つ。


いつもの光景で今回も駄目だと思ったら1匹だけ飛び立つタイミングが遅くて枝のしなりに足を滑らせて飛び立てなかった。

魔法を当てたラピアも微妙な顔をしていた。



 ほとんどまぐれで取れたキジバトだが売ると12小銅貨位だ。

以前に兎を食べた事で魔境産の動物の美味さを再確認したので食べてみたい。


しかし売ると3大銅貨になる。

黒パン3つ分だ。


値段の確認の為にも、やっぱり売ってしまおう。

メリも食べたそうにしていたが今回は我慢だ。


食べるとしたらもっと安定して取れるようになったらにしよう。



 木材運びや魔境に採取に行っていると魔境に向かう探索隊に会う事がある。

今までも会っていたが最近では向こうも俺達が魔境に入っている事を知ったようだ。


視線に警戒の香りが少し混じっている。

今までは材木運びだけだったので彼らからは特に注目されていなかったが同業者となると話しは違う。


ばれないように注意して魔境を荒らさないようにしていたが冒険者ギルドの買取窓口から情報は駄々漏れだろう。

俺達は冒険者ではないので直接店に持って行くこともできるが肉と皮で売る場所が違うしなめし技術も少ない上に個々に交渉もしなくてはならない。


その苦労を考えると冒険者ギルドで売るのが一番安定していて確実だ。

ただ俺達が結構儲けてると知られるのは頂けない。


鉄の剣をしっかり持っているので剣狙いで襲われる可能性がある。

そして捕まえれば奴隷として売ることも出来る。


俺達は悪意を持った者にとって美味しい獲物なのだ。

もう少し警戒を引き上げる事にしよう。


ギルドの買取窓口で物を売る時は以前のように上限金額を意識する事にしよう。

そう、決して全部売らないで残った分を食べようなどという食欲の為ではないのだ。



 魔境の狩りでは今の所まともに狩れるのは蛇と兎だ。

鳥は純粋に水魔法を打つだけでは難しい。


もぐらは硬い土の下を移動するのでどうにかして罠に嵌めるか追い込むかしなければならない。

現時点では攻撃力不足だ。


罠を買ったら魔境じゃない普通の所にいるもぐらなら捕まえられるだろうが魔境のもぐらの通じるか怪しい。

罠の問題点は設置した次の日に罠を回収しに行かなければならない所だ。


設置も大変だし罠にお金がかかるしあんまり気が進まない。

となると鳥を捕まえられるように知恵を絞るのが効率が良い。


魔法より下手すれば石投げた方が当たるかもしれないな。

試してみよう。



 道場で狩りについて色々と考えながら木刀を振っていると突然殺気を感じた。

俺の注意が散漫だと見たゲニアが木刀を振るう。


俺はこうなる事を予想していたので避ける準備は既に万端だ。

むしろわざと隙を作って誘い込んだとも言えよう。


俺は余裕を持って回避行動を取った。

ゲニアの木刀が空を切る。


そう思ったがゲニアの木刀は振りかぶったままで止められている。

俺は失敗したと思ってたがそんな俺の様子をゲニアは嬉しそうに見ている。


そして回避行動を取ってしまって無防備な俺の頭に木刀は振るわれたのだった。

実力でも化かし合いでもまだまだ手が届きそうにない。



 市場を探すまでもなく、普通の店にもぐら用の罠があった。

もぐらが入ると蓋がされる筒状の罠だ。


もぐらは大食漢で畑仕事をする人に取っては大敵だ。

もぐらは1日に自分の体重と同じ量の餌を食べなくてはならない。


基本的には肉食だが植物の根なども食べたりする。

そして餌を半日食べないと餓死してしまう。


もぐらの通り道に罠を仕掛けるのが一番確実だが俺達は魔境の土を掘る道具がない。

木刀で無理やり掘れない事もないがそんなことをしたら木刀が傷付く。


それに木製の罠じゃ魔境のもぐらには壊されて逃げられてしまう可能性の方が高い。

調べれば調べる程もぐらの皮が遠くなっていくのを感じるのだった。


皮が高く売れるのでまだ諦めないで頭の隅に置いておこう。



 俺達が市場を見ていると端の方にヤギが数頭いるのを見つけた。

こっちにいるのは珍しい。


メリも興味を持ったようでヤギの方に釣られて行った。

その露天ではチーズとヤギの乳を売っているようだ。


「いらっしゃいませ。ヤギの乳1杯で1小銅貨です」


俺はヤギよりもチーズの方に目が行った。

メリはヤギを撫で回している。


人に慣れているヤギのようで嬉しそうに目を細めている。

ラピアの方は屈みこんでチーズをじっくりと観察している。


ヤギは良い家畜だ。

体も強いし粗食にも耐えられる。


乳はそのまま飲んでも良いしチーズにしても良い。

毛も皮も使うことができる。

そして肉も美味い。


俺は豚肉の方が好きだけどね。

それにしても最近はチーズを全く食べてない。


村に居た時はたまに食卓に並んだものだ。

そう考えていると急にチーズが食べたくなってきた。


俺はラピアの様子を見た。


「どう? 久しぶりにチーズが食べたいな」

「うん。これいくらですか?」


「チーズ買うの? やった!」


ラピアは小さい真っ白なチーズの塊を買った。

それでも2大銅貨だ。


「おまけでヤギ乳1杯無料です」

「ついでに2人分お願いします」


俺は背負い袋から木のコップを取り出して、ヤギの乳絞りを見学した。

少しずつコップに溜まるヤギの乳からは青臭い匂いがする。


その匂いを嗅いでいるとヤギが草原で一生懸命草を食む様子が思い浮かんだ。

久しぶりのヤギ乳はクセがあって懐かしい味がした。



 魔境にいく度に毎回浅瀬でも違う場所で狩りをする。

移動距離や時間も増えるが俺達の利点である体力と足をしっかり活用できていると言える。


それに狩り自体はぬるいのでそんな状況に慣れすぎるのも危険だ。

簡単に稼げるようになると普通に働くが嫌になるからなあ。


俺達が狩っている場所を探索隊に悟られるのも避けたい。

目立たず程々に稼ぐの最良だ。


それに毎回新しい場所を探索するので気が抜けないのと同時に楽しい。

今は持ち物の制限で取れない野草が多いが鍋を買えばそれらの多くが採取可能となる。


焼くと火加減が難しくて焦がしてしまうか半生になってしまう。

魔境の外の植物なら生でそのまま食べても大丈夫だろうが魔境の植物の場合はしっかり火を通さなくてはならない。


例えば以前にわらびの群生地を見つけた。

わらびは既に季節外れになっていたので今年はもう取れない。


根っこを掘り出して加工することもできるが道具が足りない。

それに手間と時間がかかる割には量が取れないのでそれなら普通に日雇いで働いた方が良い。


この普通に働いた方良いってのが結構でかい。

採取は場所を先に見つけていないと取れたり取れなかったりの差が激しい。


兎取りだって運が悪いとほとんど取れない時だってある。

それなら確実に稼げる日雇いに人が集中するのも仕方ないと言える。


まじめに働いていれば上の人の目に止まって正式採用もありえる。

こういう安定性が俺は大好きだが魔境だって好きだ。


未知の場所ってのはそれだけで楽しい。

おっと話しが完全にそれたな。


来年の春になれば相当な量のわらびを取る事ができるだろう。

しかし問題はアク抜きやら調理だ。


わらびはアク抜きをしなければ食べられない。

魔境のわらびとなるとアク抜きは絶対必要だ。


わらびのアクを抜く為には灰汁と一緒に鍋で煮込む必要がある。

鍋がないと無理だ。


その上、長時間煮込まなければならない。

フォレなら貸してくれるだろうが借り物じゃあなあ。


その内、鍋を買いたいものだ。


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