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フォレの家に着いた俺達はさっそく調理場を貸してもらって調理を始めた。

行者にんにくの葉は量があるので町に帰る事を考えるとあんまりゆっくりしていられない。


葉を洗って食べる分だけ茹でる。

残りは家の外で風魔法で乾燥させる。


袋に洗った葉を入れて口を縛ってから外から風魔法を使う。

もっとよい道具があればそれを使うのだが匂いが強いので借り物を使うのは気が引ける。


メリは蛇を1匹ずつ魔境で拾ってきた木の枝に突き刺して焼いている。

強めに焼いて今日食べ切れなかった分は明日以降に食べよう。


魔境の蛇なので火が通りにくいのでじっくりと焼いていた。

メリは俺より早く終わって家の中へラピアの手伝いに向かった。俺は料理が完成するまで風魔法を使い続けた。


「ロッシュ、ご飯ができたよー」

「わかった」


俺は乾燥させていた葉の匂いを嗅いでみた。

多少はましになったかな。


まあ、いいや。

俺は久しぶりの兎肉に内心ウキウキしながら家に入った。

俺以外は既に席についている。


『いただきます』


俺達は早めの夕食の挨拶をした。

内容は行者にんにくと昨日買っておいた人参のスープに焼いた兎、蛇肉、どんぐりパンに二度焼きパンだ。


スープは緑色でにんにくの匂いが強く漂っている。


「わしには硬すぎるから二度焼きパンはいらんよ」

「硬いよねー。今度は黒パンにしよう」

「そうだね」


「木は手に入ったようじゃが魔境はどうだった?」

「今日見た範囲だとそこまで警戒しなくても大丈夫そうだった」


「おもしろかったよー。また行きたいなー」

「今日行ったのは浅瀬だけだったけど木材はもうちょっと奥に行かないと使えそうなのはなかった。小動物はいっぱい居た」


「食べられる草もあったけどお鍋がないと食べるのは難しいね」

「この兎肉は魔境産なだけあった上手いな。わしも森でたまに捕まえるが食い応えが違う」


確かにそうだ。

兎の見た目の大きさは同じでも魔境の兎の方が倍近く重くて肉もぎっちりしている感じだ。

何度噛んでも肉の旨味が口に広がる。


行者にんにくの葉でさえただの葉っぱと侮れない噛み応えというか存在感がある。

ミュッケ村のポリジと町で食べるポリジでは腹持ちが違うとは思っていたが魔境の物や魔境の近くで取れた食べ物だったからなのかもしれない。


町のポリジはミュッケ村より薄めっていうのもあるだろう。

ミュッケ村のポリジはドロっとしていたが町のポリジはトロっとした感じだ。

腹に溜まるならそれに越したことはない。



フォレに今日あった事を話していたが俺達はこれから町に帰らなくちゃならない。

全員がラピアにキュアを掛けて貰った。


食べた物は特に問題なかったが一応やっておいて損はない。

話しを程々で切り上げて俺達は帰路についた。


乾燥させたお陰か行者にんにくの葉の匂いが少しましになった。

城門に入る時に兵士に臭いなという顔をされたが特に何も言われなくてほっとした。


町の中に入ると兎を売る為に冒険者ギルドに向かった。

肉屋や皮なめし屋に直接売ってもいいのだが今回は血抜きをしただけだ。


一番安い長屋で皮なめし作業はさすがにできない。

それに手間がかかりすぎる。


よって安くはなってしまうが冒険者ギルドで売った方が楽だし子供だからと舐められて安く買い叩かれる事もないだろう。

その内行く事になるから見学代わりに見に行きたかったのもある。


俺達は冒険者ギルドの買取窓口へと向かった。

遅めの時間の割には窓口に並ぶ冒険者は居なかった。


受付の男は暇そうにカウンターに肘をついてあごに手を乗せている。


「兎2匹でいくらになりますか?」


俺が兎をカウンターに乗せると男は椅子に座りなおして姿勢を正した。

秤を出して慎重に重さを調べた。

重さの後は兎に傷が無いか丁寧に調べた。


「これは魔境の兎だな。特に傷はないし1匹9大銅貨になる。矢傷などがあれば7~8大銅貨、皮が傷つきすぎてたら肉だけの値段になって6~7大銅貨って所だ」

「はい。買取お願いします。皮をなめすといくらになりますか?」


「皮は出来次第だが3大銅貨前後になる。傷が多いと買取できなかったり安くなったりだ。大きい獣は自前で剥いだ方が金になる。鳥とか普通の大きさの兎なら当日中ならそのまま持ってきてくれた方が嬉しい」


「きじ鳩とかの鳥はいくら位になりますか?」

「普通の大きさで6小銅貨前後、魔境産だと倍近くだ」


「窓口に人があんまり居ないようですけどいつもこんな感じなんですか?」

「ここらへんじゃ採取はあんまり盛んじゃないからこんなもんだな。忙しいのは探索隊が来た時だけだな」


質問をしながらも男の様子を観察する。

暇だったようで色々聞いても大丈夫そうな雰囲気だ。


「薬草類の買取価格はわかりますか」

「ああ、そこの掲示板に常に買い取っている薬草の価格表があるぞ。それとは別に納品の依頼がある。これは早い者勝ちだ。兎2匹の代金で18大銅貨だ」


「銀貨でお願いします」


俺は金を受け取った礼を言うと掲示板の方に向かった。

それにしても兎は思ったより金になった。


豪勢に2匹も食べるんじゃなかった。

薬草の買取表を見たがパッと見てわかるのは安いのだけで高い方に行くほどわからない。

買取値を見ると薬草の採取だけで稼ぐのは厳しいのがわかる。


希少な高い薬草を安定して取れれば別だが取るのが難しいから希少なのだ。

ここだと魔境の木か動物を狩る位しか金になる物はなさそうだ。


日雇いの方が安全で確実に稼げるので冒険者になる理由の多くが日雇いの報酬が上がるというのも頷ける。

その他の納品依頼書を眺めたがすぐ集められそうな物はなかった。


依頼している方も駄目で元々なのかもしれない。

メリは掲示板を見るのにすぐ飽きてきて他の場所を見ようとしてフラフラと動こうとするが俺が捕まえた。


ここで変に動き回って目を付けられたくない。

ラピアが掲示板を見終わるまでメリをしっかり見張っていた。



冒険者ギルドを出た俺達は真っ直ぐ長屋へ戻った。


「今日はおつかれ。目標の魔境の木を取ってこれたし、兎は思ったより高く売れて良かったな」

「そうだねー。また行きたいー。お肉がもっと食べたい!」


「うん、そうだね。薬草の買取表は見たから次行く時には気をつけて探そう」

「安くて俺的にはいまいちだったけどお金になりそうなのはあった? 俺じゃあ簡単なのしかわからなかったよ」


「うーん。安いのなら何ヶ所か見つけたけど兎狩りに力を入れた方がお金になるね」

「もう出てるけど反省点とか次にこうしたい事とかを話そう。まず、俺からはもっと動物の足跡とか生態とかをしっかり勉強したいな。今は浅瀬だから気配察知でなんとかなってるけど大きい獣とかは注意が必要だ」


美味しく食べるには獣ごとに処理の方法も変わってくる。

大きい獣は捕まえた事が無いからあんまり覚えてないんだよな。


外傷を付けなければ血抜きもしなくて良かったんだっけ?

知識が足りない。


「大きい獣かあ。鹿に猪かあ、むほほ」

「今の俺達じゃ危険だから遭ってもすぐ逃げるぞ。猪は皮が硬くて良い剣でしっかり切らないと傷を付けられない。強化を使う強い個体だったら俺達が走るより早いぞ。鹿は警戒心が強くて逃げ足が速い。強い雄鹿は魔法も打ってくる。それが群れでうろうろしてるんだぞ。下手すると俺達が追われる側になるって」


「私のお肉が・・・・・・」

「強くなるまでお預けだ。だから早く強くなろう。鹿は難しいけど猪なら強ささえあれば捕まえられるぞ」


「うん。分かった、まかせてよ!」

「私は採取用の袋が必要だと思った」


「そうだな。物を乾かす時用に目の粗い袋とかもほしいし今度見に行こう」

「私もねー。良い案が思いついたよ。魔境の木で串を作ろうよ。今日蛇を焼いた時に串がしっかりしてて使いやすかった」


「串に簡単な模様を彫ろうよ」

「いいね、いいねー。ラピアはわかってるなー。ロッシュとは大違いだよ」


今日の魔境は純粋に楽しかった。

久しぶりの魔境だったので3人とも興奮が中々冷めない。


兎が金になるなら帰りにフォレの所で木を担いでくれば魔境での金稼ぎも効率が良くなる。

しっかしなんか背中が痒いな。


俺が背中を掻くと大きなおできにぶつかった。

なんか硬いな、昨日までは別に痒くなかったのにな。


俺ははっとすると服を慌てて脱いだ。


「ラピア、見て。これもしかしてあれか」


突然脱ぎだした俺を2人は驚いて見ている。

俺はラピアに背中を突き出して確認を迫った。


「大きいダニだね。動かないでね」

「はやく!」


俺は無性に肌を掻き毟りたくなるのを我慢した。

ラピアがファイアを使ってダニを炙っている。


肌にへばり付いたダニを力任せに取ると皮膚ごと剥がれてしまう。

そうなるとヒールでも直りが悪い。


俺はダニが焼けるのをいまかいまかと姿勢を正して待っている。

力任せにダニを千切り取りたい衝動に駆られる。


「はやく、はやく」


背中が熱いけど今はそれ所じゃない。

ダニが何匹も背中に張り付いているのを想像すると鳥肌が立ってくる。


そんな俺を見てメリは腹を抱えて笑っている。

くそっ、こんなでかいダニに取り付かれたら誰だって驚く。


ダニの焼ける臭いが少し変わってきた。

ラピアは火で炙るのを止めてダニを丁寧に触る。


「取れたよ。キュア。・・・・・・・。ヒール」

「やった! ありがとう。他は?」


「ちょっと待ってね。はい、腕を上げてー」


俺は素直に両腕を上げてた。

ついでにズボンも足で無理やり脱いだ。


ラピアは他にダニがついて居ないか俺の周りを一回りして調べた。

メリはついにひーひー言いながら大げさに転げまわっている。


「もう居ないよ」

「ありがとう、ラピアも兎を持ってたから調べてあげるよ」

「え、私は大丈夫だよ」


ここからは速さが勝負だ。

俺はラピアの背後を取って背中を探った。


ラピアは突然の事態に固まっている。

ふむ、ダニはついていない。


他の場所は自分で確認できるだろう。

真っ赤になってしゃがみこんだラピアを置いて俺は次はメリに向かった。


やっと俺の気配が変わったことを察したメリだったが転げまわっていたので迎撃の体勢が取れていない。

体勢を立て直そうとするメリだったが焦ってしまって普段の機敏さはない。


「メリも調べてあげるぜ!」

「や、やめ」


逃げ出そうとするメリを掴んで脇から盛大にくすぐる。

笑っていたのもあってメリはたいした反抗ができないまま俺の攻勢を受けたのだった。


空しい勝利だ。



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