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裏の仕事

 昼時の店内。二人用のテーブルに俺と剣さんは向かい合うように座っていた。


「剣さん。良かったらメールアドレス教えてもらえません?」


 食事が終わり、デザートが届くのを待っている間。


 それを利用させてもらおうじゃないか。


 暇を潰す感じでなんとなく聞いた風にメアドをゲットしよう。

 店内はそう混んでいる訳ではないため、デザートが来るのにそう時間はかからないはず。


 なら早く。いや焦るな。焦らないように急ぐんだ。


「私のか?」

「はい。なんかあった時とかにいいかなって……。別に今時間が空いたから聞いてるだけなんで特別なあれとかはないんですけど」

「かわまないよ」


 あっさりと了承がきて少し拍子抜けである。


 剣さんってイメージ的に和風って感じの人だからな。

 携帯? そんなもの持っていない。

 とか言われる可能性も考慮していたから尚更だ。


「私のスマートホンは赤外線がついていないらしくてね、メアドを読み上げるから空メールでも送ってくれないか?」


 スマホを取り出しながら言った剣さんの言葉に俺が拒否する理由もない。


「了解です」


 と答えて彼女に言われる英数字を打ち込む作業に入った。

 英数字の並び方に規則性が皆無だ。何かの単語って訳でもないっぽいし。

 これはあれだ。初期メアドじゃないか。


 変えてないのか。


 珍しいな。剣さんらしくはあるけど。


「届きました?」


 俺が尋ねれば彼女はスマホの画面を見せてきながら肯定した。


「ああ。ほら、届いてるだろ?」

「……ん?」


 あれ? 見間違いかな? 受信ボックスに俺が送ったメール一通しか入ってないように見える。

  

 消したのか? 消したのか。 そうであってほしいな。


「剣さんって……メールでやり取りとかしないんですか?」

「あぁ。そもそもメアドの交換したのが君だけだ」

「マジっすか」


 まじかぁ……。


 『果て』が発生した場合は雪風さんから貰った専用の通信機から司令が入るらしいので(俺はまだ貰ってない)対策チームでの活動に不都合はないんだろうけど……。


「友達いらないですか?」

「いらないわけではないぞ。私が訓練ばかりに勤しんでいるから中々できないのだ」


 剣さんらしいなと思ってしまったが、もちろん本人には言わない。怒られそうだからな。


 というか俺に関しては訓練してるわけでもねえのに友達いないしな。

 剣さんの事とやかく言える土俵に立ててすらない。

 

「あれっ……千葉は? 下の名前で呼び合ってませんでしたっけ?」


 友達以下の存在で下の名前で呼ぶ事はないだろう。つまり友達以上と言う事か。自分で聞いておいてなんだが、不安が胸を過ぎった。


「従兄妹だ」

「なるほど」


 恋人関係とかではなかったわけか。それは良かった。


「おまたせしました」


 店員のおっさんの声が横からかけられ、テーブルの上にパフェが置かれる。デザートだ。剣さんの前にも同じものが置かれる。

 

 スプーンを手に持ち、いざ食べんとする時――


 それを妨げんばかりに着信音が鳴った。この音はメールではなく電話だろう。

 俺の携帯からだ。


 なんといううんこみたいなタイミングなのだろうか。

 せっかく食べようとしてたのに。


 スルーするのもあれだったので、渋々出る。


『やほぉっ〜!! ふぃぃぃばぁぁ!! だぜ!! 元気してるかぁい!!?』

 

 通話を切ってやろうか。

 そう思えるようなチャラい声が出た瞬間に聞こえてきた。

 この声は雪風さんだろう。


 無駄にテンションたけぇな……。


「なんですか」

『本当はね、専用の通信機で連絡したかったんだけどね。そういや持たせてなかったなぁ……と思ってね。君の携帯にかけさせて貰いました☆』

「はぁ……」


 横目で剣さんの方を見てみると、パフェに手を付けていない。

 俺の通話が終わるのを待ってくれているのだろうか。いいヒトだなぁ……。


『ちょっと今すぐ本部にきてくれなぁい? 大切な話があるの』

「パフェ食ってからでいいですか?」

『ん、ダメ。今すぐに』

「五分で食べるんで」

『三十秒で食べるなら……』

「無理っすね。なんで今すぐに向かいますよ……」


 愛しのパフェ……。名残惜しいが上司からの呼び出しなので仕方がない。

 

「すいません剣さん。ちょっと雪風さんに呼び出されたんで行ってきます」

「む、そうか? なら仕方ない。独那君の分のパフェも私が食べるとしよう。仕方ない仕方ないなぁ」 

「……」


 気のせいだろうか。剣さんの顔が気持ち嬉しそうだ。


 雪風さんの要件がいつ終わるかわからないし、せっかくのデートなのにこれでお開きか。残念……。

 



「すいません遅くなりましたって……あれ」


 心の篭もらない謝罪の言葉を吐きながらプレハブ本部へ入ると彦馬さんがいた。

 室内には彼一人しかいないようだ。


「雪風さんに呼ばれてきたんですけど……。あの人知りません?」


 あのチャラ男は人を呼びつけといて自分が遅れているのだろうか。

 もしそうならパフェ食っときゃよかった。


 そんな内心を含んだ俺の言葉を彦馬さんが受け、答えてくれた。


「私が君に用がありましてね。あいつに呼んでもらったんです」

「そうだったんですか……。お待たせしてすいません」


 マジかよ。副司令である彦馬さんが待ってんなら先に言えよ。

 副司令だぞ副司令。雪風さんとは格が違う。あの人は待たせていいがこの人はいけないだろう。


 なんだっけ。雪風さんの役職ってなんだっけ……。トイレの清掃員だっけ……? 多分違うけど似合ってそう。


「あいつの役職は司令官だよ」

「えっ」


 彦馬さんのまるで心をを読んだかのような発言。

 俺がそれに驚いた事は誰にも責められる気はない。

 別に司令官だと言う事に驚いたわけではない。知ってたしな。ちょっと雪風さんの人柄てきに合ってるか不安になっただけで……。

 大事な事なのでもう一度。

 司令官と言う事に驚いたわけではな(ry


「独那君の顔に雪風はうんこ拾いが仕事なんじゃ? と書いてあったから……」

「そこまでいってませんけどね」

「まぁいいです。本題に戻しましょう」

「はい」


 俺が促すように返事をすれば、咳払いをした彦馬さんが言葉を続けた。


「君には裏の仕事をしてもらいたいのです」

「お断りします」

「……何でですか?」


 眉をハの字に変え、奇怪そうな顔を作ってくる彦馬さん。そんなに意外だろうか。


「俺は俺の生存率を上げるためにこの組織に入ったんです。裏仕事が何するか詳しくは知りませんけど……。十中八九やばい仕事ですよね。嫌です」


 あれだろ? 暗殺とか闇取引きとかそういうのだろ? 対策チームは政府直属のそこそこでかい組織って聞くし……地下の未完成基地も大きいしね。たぶん高校の校舎くらいはある。

 それくらいの組織だがら裏の仕事があるって言うのは驚かないけど、でも自分がやるのは嫌だ。


「そうかですか……、いや」


 考えるような仕草を見せていた彦馬さんだが、何か思いついたように指を鳴らした。


「独那君。生存率は変わりませんよ」

「といいますと?」

「君の身元は我々が全力で保護しますし、なにより普通の人間では君に傷を負わせられない」

「昨日、敵対視してる組織が爆弾持ってるって言ってたじゃないですか」

「……それは大丈夫です。遠くないうちに方がつつきます」


 何か微妙に胡散臭いな。

 俺にじゃなくて剣さんに頼めよ。多分断られるけど。

 

「どうやってですか?」


 俺は彦馬さんに問いかけるが

 

「軍事機密なので言えません」


 機密を盾にはぐらかされた。

 

 正直裏仕事受けるつもりはないんだが……。受けなかったら受けなかったでなんかされそうだ。

 裏仕事の存在を知った以上生かしては返さない、とか。


 ……めんどくさいな。

 

 生存率が変わらないとかも口からでまかせだろうし。きっと今思い浮かんだんだろう。

 もし本当に変わらないのなら最初から言ってくるはずだ。


 裏仕事をやれば裏社会に敵対視され暗殺とかをされかねない。

 やらなければ対策チームに何かされるかもしれない。


 どちらも大きな存在だ。

 いくら俺が顕現者になったとは言え個人は個人。組織には勝てない。


 これ頼みというか実質強制だろ。


「裏仕事……やりますよ」


 こう答えるしかないじゃねえか。





「……くっさ」


 手にこびり付いた血の臭いに思わず嗚咽が出そうになる。


 結論だけ言うと、裏仕事は簡単に終わった。

 

 港の倉庫内で麻薬の取引が行われてるからそこを襲撃して売人と客、全て皆殺しにしてこいという任務だった。

 普通捕えて仲間の情報聞き出すんじゃないかと思ったんだが、違うらしい。

 

 顕現者って言うのは、ほんと対人戦では強いのな。

 特異能力が使えない俺ですらこれだ。


 特異能力が使える剣さんやヨキさんならもっと圧倒的なのだろう。


 俺の足元には三人の死体が転がっている。   

 売人二人と客一人の物。

 

 麻薬が入っていると思われる鞄も転がっているが、まあ放っておいてもいいだろう。

 彦馬さんが死体回収の時、一緒に回収するだろうしな。


「帰るか」


 初めての裏仕事だからだろうか。

 なんか嫌な予感がする。早く帰ろう。

 

 踵を返し、倉庫から出ようとした時だった。


「見つけた……」


 入り口を塞ぐように立ちはだかる人影。

 それを認識するのと同時に俺は臨戦態勢へと入る。


「誰だ? 見つけたって俺を探してたのか?」


 見た感じ少女だ。茶髪にポニーテール。その顔は怒りに歪んでいる。

 その怒りは相当な物らしい。醸し出す雰囲気が異常だ。


「ええそうよ。貴方をずっと探していた……」


 返ってきた少女の言葉に首を傾げる。

 

 この娘と俺は初対面だ。怒りを向けられるようなことはしていないはず……。


「何の用だ?」

「あんたを殺す……そしてあと一人のやつも殺す」

「あと一人……?」


 誰の事だ。

 それに殺すって……俺が殺意を抱かれるような事をしたってことか?

 

「舞お姉ちゃんの仇は私がとる……!!!」

「――ッ」


 なるほど。そういう事かよ。

 あと一人ってのは剣さんの事か。


 あの時のハルバード使いの妹ということらしい……。確かに顔に面影があるようにも見えなくない。


 俺達が仇だと知ってるって事は、俺が顕現者だと知っていると思ったほうがいい。

 それでもかかってくるってことはつまり、それに対抗しうるということだ。


 彼女も顕現者って言う可能性が高いだろう。次点で爆弾持ち。


 でも爆弾持ちなら姿を見せずに奇襲した方がいい。だから顕現者なんだろうな。


 剣さんがいない今、俺一人で戦うしかないわけで……。……不味いな。


「覚悟しろ――!!」


 叫びながら駆けた彼女の剣幕に、俺は冷や汗が流れ出るのを感じていた。

 

 自分に向けられた殺意というのは、こんなにも鋭利なんだな。そう考える余裕を微かに残して――。




「よし――かかった」


 場所は地下の会議室。

 パソコンのモニターで独那の様子を見ていた彦馬は、黒い笑みを浮かべていた。

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