力――そしてあらたなる顕現者
ベットの上で病院特有の蒸暑いような感覚を味わっているとノックが聞こえてきた。
「やあ。目が冷めたな?」
病室の扉が開けられ、一人の男が入ってくる。
茶髪で毛先を跳ねさせてる。チャラそうだ。
服装はスーツ。
「えっと……」
「うんうん。戸惑うよね。わかってる」
首を傾げた俺に、オーバーリアクションで応えるチャラ男。
「俺の名前は黒野下雪風」
チャラ男――雪風さんが自己紹介をしようとしてきたのでそれに返そうとするが、それは彼に止められた。
「おぉーと! 君の名前はわかってるから自己紹介しなくていいよ。独那心気君だよね」
「はい。あってます」
なんでこの人は俺の名前を知ってんだろうか……。
雪風さんは踵を地面に擦らせながら歩いてくると、ベットの脇に置いてあった椅子の上へと座り込む。
そんな彼はスーツの上を脱ぎ、椅子へかけながら言った。
「剣から話は聞いてるよ」
「剣……? 誰ですかそれ」
聞いたことの無い名前だ。
「お前が殺した女だよ」
「え……」
雪風さんの言葉に思わず息が止まる。
殺した……俺が……?
心当たりがあるとすればあの黒髪の女か。
……あの出血……。確かに死んでいてもおかしくはない量だった。でも……平気そうに話してたから……俺を抱きしめてくれたから……大丈夫だと思っていた。
そうか……俺はあの人を殺してしまっ――
「んまあ嘘だけどね」
腹立つなぁこの男。
テヘペロ☆と舌をだしてくるチャラ男に抱いた率直な感想である。
「えっとあの女の人……剣さん? が言ってた仲間っていうのは」
「うん。俺のことでぇ〜す。俺の他にも沢山いるよ」
いえーい! と向けてきたダブルピースを無視して、俺は言葉を続けた。
「あの変な黒い生き物って……それに剣さんの事とか、俺の体に起きたあの、黒いような感覚は一体……」
「順を追って説明するよん。まずあの黒い生き物、俺達は『果て』って呼んでるんだけど、まあ、言葉の通り君がなるかも知れない果ての姿さ」
なるほどわからん。
「すいませんちょっとわかんないです」
俺が言えば、彼は考え込むように指をおでこにあて唸り始めた。
「ん〜〜っ。君が感じた黒い感覚。あれに完全に呑まれてしまえば『果て』へと変貌する。だから君、危なかったんだよ?」
「マジ……ですか」
「マジマジ」
あの黒い感覚。そんな危ない物だったのか。
よく考えてみればいきなり牙が生えてきたり身体能力あがったり無茶苦茶だもんな。
「あれ……でも確か剣さんは衝動を抑えれる強さを持った人間にしか顕現しないって……」
「君を励ますための言葉だと思うよ。実際はのみこまれ『果て』となってしまう人間のほうが多いしね」
「そう……なんですか……」
つまり本当に危なかったって事か……。
俺が黙った事で、理解したと認識したのだろう。
「それで剣の事だけどね」
雪風さんが説明を再開する。
「はい」
「とりあえず顕現者と言う存在がいる事を覚えていてほしい。君や剣の事だからね」
「顕現者……ですか」
「そうそう。あの黒い感覚に呑まれなかった人間の事だよ。顕現者には身体能力が強化されているのに加え、特別な能力が付与されている場合が多い」
「あ……剣さんのあの二対の剣が」
どうやら俺の推測はあっていたらしい。
ぱちんと豪快な音を指で鳴らしながらサムズアップしてきた。
「そうそう。あの子は二対の剣を具現化してるんだけど……詳しい話は本人に聞いて」
「はい」
「では!! ここからが本題でぇす!!」
急に立ち上がり、どんどんぱふぱふー!
などと叫び始める彼は、ここが病院だと忘れているのだろうか。きっとそうに違いない。
「『果て』に通常兵器は効かない。対抗できるのは君達顕現者だけなんだ。そして顕現者の数はすご〜く少ない。何せ黒い感覚を顕現させた人間の一万人分の一の確率でしか呑まれない人間はいないからね……っておわぁ!?」
「えっと……」
椅子に立ち上がりふぉぉぉぉ!!! っと叫んでいた為だろう。
椅子が倒れ、それに伴い雪風も落下した。
「……いつつ………。お、俺達の組織は国直属の『果て』対策チーム。そして剣ともう一人の顕現者を保有している。特別な能力の使い方も熟知しているんだ」
脇腹を椅子でうったらしく痛そうにさすりながら彼が言う。
本当に痛そうだ。と言うか軽く泣いてる。
そして読めてきたぞ……。この流れ……。
「だから、独那 心気君!! 君も俺達の組織に加入しないかい!?」
「お断りします」
読めていたからこそ、すんなりと返事をする事ができた。
―
暗い夜道を俺は一人歩く。
あの説明から3日がたっていた。
検査入院とかで今日の昼まで入院していた俺は、ついストレス発散に本のパッケージ買いをしてしまい、昼間に病院を出て本屋に行ったはずなのに、現時刻十九時となっていた。
本屋の魔力と言うやつだろう。
――なんでだ断るんだい?
尋ねてきたきた雪風さんに、俺は
――そういう組織に所属すれば自分の命のリスクが増えそうだから
と答えた。
漫画やアニメだと大体敵そっちのけで内乱が始まるもんだ。
別にそれを真に受けてるわけじゃないが、なるべく危険性は下げておきたかったのと、……やはり俺がまだ認めきれていないからだ。
――『果て』は確かに一般人を襲いこそするけど、顕現者の方が重点的に狙われる。お互いが助け合うという意味では、リスクは下がると思うよ?
危険性で考えるなら頷くべきだ。
確かに力が何なのか理解していない俺一人よりも他の人間に助けられていた方がいいだろう。
でも、頷けなかった。
俺は自分一人で生きていきたい。
誰に助けられるでもなく助けるわけでもない。
まだそんな事言っているのか。
『果て』に襲われ剣さんに助けられた時に捨てたんじゃないのか。
そう言われそうだが、俺もわかっているんだ。
こんな考え捨てるべきだと。
でも捨てられない。俺は一人で生きられないなんて認めたくない。だから首を横に振った。
幸いにも
――そうか……。ならいい。気が変わったら言っくれ。俺はいつでも君の加入をまっているぅ!!
彼はそう言ってくれ、そのまま後ろ向きで手を振りながら病室から去っていった。
(餓鬼臭えなぁ……)
自分の醜態につい溜息をついてしまう。
ただの意地だ。でも捨てられない。あと一歩の所で踏ん切りがつかないのだ。
(あ、そういや剣さんにお礼言ってねえや。またいつか言わねえと……)
再度溜息をつき、歩く速度を少し早めた時の事である。
「なぁ、兄ちゃん名前教えてくれよ」
後ろから声をかけられた。ハスキーボイスというかだみ声というか、そんな感じの幼い少女の声だ。
振り返った先にいたのは予想通り少女。
風貌は茶髪のツインテドリル。目を細めてみてみればうんこが二つ頭にひっついているようにも見えるとてもユニークな少女。
「あ? いきなりなんだお前」
「お前じゃねえ。私の名前は平 舞って言うんだ。あんたの名前は?」
頑なに名前を聞いてくる少女。あれだろうか。逆ナンだろうか。
美人局……の可能性はないと信じたいが。
「なんでそんなに俺の名前が知りたいんだ?」
少女――舞に問いかける。
「いや名前も聞かずに殺すのはちょっと可哀想かなって思って……。まぁ……強者の慈悲ってやつ?」
「――ッ!!」
少女の言葉に殺気を感じて後へ跳んだ。
両者の距離が五メートルほど離れるが、まああってないような距離だ。油断はできない。
「お嬢ちゃん。冗談にしては殺意が篭ってるな」
「冗談じゃないもの」
「さいですか」
返ってきた返事に虚偽は感じられない。
なんでかは知らないがこの娘は俺を殺す気らしい。それに先刻の殺気、只者ではないだろう。
なら……。
「とァ!!」
先手必勝。
相手が少女だろうと幼女だろうと赤子だろうと関係ない。
俺の命を脅かすのなら倒すまでだ。
黒い感覚。あれを思い出す。
大体の制御の仕方は本能でわかっている。
胸の内の黒い靄を体外へと出し、全身を覆わせるような感覚。
その本能は正しかったらしい。
駆けた俺の足は、僅か一歩で五メートルの距離を詰めていた。
右手の先に黒い感覚を集中させ、その拳で彼女の腹部を殴りかかる。
「きゃッ!!」
アッパーのような形でヒットしたため、舞の体が軽く宙へ浮き、口から可愛らしい悲鳴が漏れ出る。
が、そんなものは関係ない。
浮き上がった体の横腹へと左手でフックして、思い切り振り切る。
案の定その小さな体は飛んでいき、十メートルほどしたところで背中から落下した。
「ちょ…痛ぇよ……お兄ちゃん……」
「……」
訴えかけて来るような声音を出しながら立ち上がる少女。
俺はそれを見、冷や汗が滲み出るのを自覚していた。
黒い感覚を制御している事で自分の身体能力が向上しているのがわかる。
今のパンチは二発とも普段の俺の倍近い威力が出いるはずだ。
いや、そうでなくても、十七才の俺の全力パンチを受けて、見た感じ小学五年くらいのこの少女が平然と立ち上がれるわけがないのだ。
(普通じゃねえとは思ってたど……。何者だこいつ……)
「今度はこっちから行くぜ!!」
ぶれた。
言葉を放つと同時に少女の姿がぶれ、俺の右横へと出現する。
「な――」
「おせぇ!!」
右手で彼女を攻撃しようと試みるが、それよりも早く蹴りが俺を襲う。
それは左足を軸にした右での回し蹴り。
もろ腹正面へと喰らい、今度は俺が吹き飛ばされた。
「がッ!!」
住宅の塀に体をぶつけ、そこで停止する。
痛い……。蹴られた腹だけじゃない。ぶつけた背中だけじゃない……。体全身が痛い。
今の俺は塀に背を預け、尻もちをついている状態。
そんな状態で舞を睨みつける。
俺とは違い彼女にダメージは無いようだ。
「お兄ちゃんよえぇな。本当に私と同じ顕現者か?」
「って事はお前も顕現者かよ……」
なるほど。それは強いわけだ。そんでもって大ピンチなわけだ。
「おい。舞とか言ったな。お前が雪風さんが言ってたもう一人の顕現者ってやつか?」
ふらふらと立ち上がりながら少女へ聞く。
せめてもの時間稼ぎだ。少しでも会話して体力を回復させねえと。
「雪風ぇ? 誰だそいつ。私はそんな奴とは関係ねぇよ」
「ってことは剣さんとも、他の一人とも違う顕現者って事かよ……」
「よくわかんねえけどそういうこった!! 今度はもっと凄いの行くぜ!!」
言って舞の体が青白く光った。
「これは……電気か……!!」
ビチビチと音を立てるその光。お互いの距離が離れているのにも関わらず肌の表面が軽く痺れる事から、かなり強い電流なことは明白だ。
そしてその光が彼女の手へと集まり、形を作り始める。
「ご名答!! んでもって!! これが私の特異能力!! 電流製武!!」
ハルバード。
電流で形成された武器がその手には握られていた。
「お兄ちゃん。いくぜええええ!!!」
「ははははっ……来てみろよ!!」
ハルバードを手に向かってくる舞を迎え撃つべく構える。
あれだけ大きなハルバードだ。とりあえず回避して壁なり地面なりにめり込ませよう。
そこで動き出しを奪って反撃。
うん。完璧だ。
近づいてきた舞が獲物を横へ振るう。
それを跳んで回避。彼女の頭上を通りながら背後へと着地しようとして、確かに見た。
(よし……!! この軌道なら壁にめり込むぞ!!)
彼女が振るったハルバードは壁へとぶつかるはず――だった。否。ぶつかった。
しかしそこで霧散したのだ。
ぶつかった箇所から何もなかったかのようになくなった。
「な――っ」
背後への着地に成功俺は、驚愕の声を隠しきれずに声が出てしまう。
何が起きた……。
俺の驚愕が余程楽しいらしい。
舞がドヤ顔をしながら答えくれた。
「へへっ……このハルバードは電気でできてるから、壁にあたったって電気が逃げるだけなんだよ」
柄から先が無くなったハルバード。
しかしそれも構えれば無くなった先から電気の刃が再生する。
「なるほどな」
マジかよ。
俺は無手。あの電流の強さだ。触れば気絶くらいはするだろう。
チートじゃねえか。ふざけやがって。これが特異能力なのかよ。
剣さんの能力もこんなふうに強いのだろうか。
「お兄ちゃんは特異能力使わないの?」
「……」
使わないのではなく使えないのである。
身体能力の強化は基礎だ。だから直感である程度はできる。しかし特異能力は応用に値する力。
どうやったら発動するのか、今の俺には検討すらつかなかった。
「もしかして使えないの?」
「あぁ」
俺がそう答えれば、舞は露骨につまらなそうな顔をする。
その顔はおもちゃを取り上げられた子供がする表情にそっくりだ。生粋の戦闘狂なのだろうか。
「顕現者の反応がしたからさ……楽しく戦えると思って来たのに……。なに、特異能力が使えないとか、ペーペーのぽっと出じゃん。つまんない」
「つい四日前に顕現したばっかなんだ。だからさ、見逃してくれないか?」
両手を上げ、降参を示しながら言った。
そこに年下に負けを認める事への抵抗はない。
と言うか、このまま戦ったら死にそうだ。
「うん。やだ」
しかし俺のお願いは天使のような笑みで否定された。
「つまらなくした罪を償って。死んで」
腰を落とし、いつでも飛び出せる体勢へと移行した舞。
「はっ断る」
俺も負けじと構えを取る。
(殺るしかねえか……。じゃなきゃ俺が死ぬ)
勝ち目はゼロに近いが、ゼロではない。
仮に終始圧倒されていたとしても一瞬の隙さえつければ俺の勝ちだ。
そしてさっきの戦いで分かったことがある。
スピードは向こうが完全に上だ。
それはつまり退路が絶たれたことを意味する。
逃げてもすぐに追いつかれるんじゃ意味がない。
――故に
「死ねええええええ!!!」
舞は楽しそうに狂気の笑みを浮かべながら突っ込んでくる。
「死ぬかよ!!」
俺はそれを避けようとして――
(あ……)
それは無理だと悟った。
早い。わかっていたが俺の体がついていかない。
ハルバードがいつ振られたのかすらわからなかった。
気づけばそれは俺の横腹に肉薄している
このままでは彼女の攻撃をまともに受け倒されるだろう。
そして――
衝撃が襲った。
……違和感。
襲ってきた衝撃は斬撃によるものでも電撃によるものでもなく……もっと優しげな――
「大丈夫か?」
そして聞こえてくるは覚えのある声。
「剣……さん……?」
俺の目に映るは間違いない。
黒髪ロングで厳しくも、どこか優しそうな剣さんだ。
――またか
どうやら彼女は俺を抱えて一緒に回避したらしい。
先程の位置とは五メートル程離れた場所へ移動していた。
そして何よりこの格好。……お姫様抱っこだ。
するのではなくされていた。
――また助けられた……。
助けられた。
また助けられた。
俺は一人で生きていけなかった。一人だったら死んでいた。
糞糞糞糞糞ッ!!!
わかってるだろう一人で生きていくには俺は弱すぎるって。
「……」
体をよじらせて剣さんの腕から降りる。
悔しさのあまりその間無言。
八つ当たりも良い所だ。
「独那君。ここは私に任せて――」
「手を出さないでください!!」
剣さんは声を荒げた俺に驚いたような顔をする。
それもそうだろう。助けたら叫ばれたのだ。キレたってしかたない場面だと思う。
「君ではあの少女に勝てないと思うが?」
しかし怒った様子はなく、彼女は冷静に問うてきた。
「俺は対策チームに所属していません。だから貴方が俺を助ける必要も、俺が助けられる義理もないんですよ!!!」
「義理だなんだという話じゃない。ただ私が助けたい。それだけなんだ」
「……ッ」
あぁ……。やっぱりこの人は剣さんだ。
優しくて思いやりがあって、誰かを当たり前に助けられる人だ。
つい縋りそうになってしまう。
駄目だ。縋るんじゃない。
そうだ、俺は……俺は――
「俺は一人で生きていけるんだァァァァァ!!!」
大声を出しながら舞へと殴りかかる。
「何? 話は終わり? というかそこの顕現者が強そうだからそっちと戦いたいんだよね。お兄ちゃん邪魔」
俺の拳は簡単に躱され、カウンターに蹴りを喰らってしまった。
押し出すように蹴られ、真後ろへと倒れ込む。
蹴られた腹が痛む……が、
そんなの関係あるもんか。立ち上がり再度殴りかった。
「ああああああああ!!!」
倒す。なんとしてもこの少女を倒して――それで――
「しつこい」
しかしまたカウンター。
今度は肘鉄だ。へその下あたりに直撃したそれの威力は凄まじく、その場に座り込み嗚咽を吐いてしまう。
無様だ。
自分でもそう感じる。
「ぐ……あぁ……」
「汚い」
そんな隙だらけの俺を舞が見逃す訳もない。
頭を蹴り飛ばされ、剣さんの足元へと転がり込んだ。
そのまま寝そべり鈍痛に耐える。
ひんやりとした夜の冷気が、いやに気持ちよかった。
「……」
そんな俺を無言で見つめる剣さん。その目は優しさに満ちていて――
わからないんだ……。
わからない。どうすれば他人に頼れるのかがわからない。
「わからない………」
これが今まで一人で生きてきた代償なのだろうか。
それはあまりにも大きすぎるだろう。
「独那君……」
「剣さん……」
俺はどうしたらいい?
簡単だ。チームに所属すればいい。剣さんに助けてもらえばいい。
俺はどうしたい?
剣さんに助けてほしい。
一人ではなく剣さんと生きていたい。
わかっているわかっているんだ。
でもそうするべきじゃないと訴えかけて来る俺もいる。
俺は……。
俺は……!!!
「俺はどうしたらいいんだ……!!!」
涙が溢れていた。寝そべったまま、情けなく涙を溢す。
ちくしょう……。ちくしょう。ちくしょう。
そんな俺を見る舞は完全にゴミを見る目をしていた。
「お兄ちゃん……グタグタうるさいよ。 今殺してあげるね」
「させると思うか?」
俺へと近づこうとした舞へと立ちはだかったのは剣さんだ。
「剣さん……何で……俺は助けて欲しくなんか……」
「……一人で生きていける人間なんていないんだ。私も誰かに助けられ、そして誰かを助けている」
剣を構え、剣先を舞へと向けながら言う剣さんの言葉を俺はただ聞いていた。
「独那君。君は私を守ってくれるか?」
「――ッ」
彼女の言葉に唾を飲む。
守るでなはく守ってくれるかと彼女は言った。
守り守られる。あくまでも対等な関係を築きたいと言った。
そうだ……。俺は弱い。
何を自惚れていたんだ。何を恐れていたんだ。
一人で生きる――それは他者はへの恐怖から来ていたのかもしれない。
でも、この人は違う。剣さんは違う。
恐怖なんて抱く余地もなく、優しく美しい。
この人なら……この人なら……。
この人なら信じられる。この人なら預けられる。そう思った。
「俺は……。俺は……!!」
そうだ俺は
「対策チームへの加入を……希望します……ッ!!!」
そんな俺の声を聞いて、剣さんが優しそうに微笑んだ。
それも一瞬。
次の瞬間には真剣な表情に変わっており――
「あぁ。なら同胞――独那 心気の命は、この私が全力で守ろう」
俺の人生にその言葉ほど、安堵できた言葉は、今の今まで無かった。