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事件の後始末


 俺は末広達にジャック倶楽部壊滅の一報を入れた後に待機を命じると、マリーが待っている監禁場所に赴いた。

 俺が到着したとき、縛っていた縄は外されていており寺尾は寝転がっていた。うっすら目を開けており、俺のことはかろうじて認識しているようだ。

「受け答えはかろうじて出来る、といったところです、衰弱が激しいですね、それと外傷多数、余り良い状態ではありません」

「……治療が必要ということか」

 安比奈学園において怪我の治療もまた学生達の管轄ではあるものの、特殊な形態をとっている。

 大学部に医学部があり、付属病院もあるが、医師免許を持っていない人間の医療行為は普通に法律に触れる。よって安比奈学園内で医療行為は附属病院で、担当医師の講義に利用するという形で行うという方便を使っている。

 つまり、おのずと病院に連れていくほかないのだが。

「医学部に連れていくと必然的にことが露呈することになるからな……」

 内々に処理をするというのは、こういった問題もはらんでくる。

 もちろん事件性があれば、外の世界と同様風紀委員会に通報がいくようになっている。ただ寺尾コウタの様子を見ていると応急処置でどうにかなるレベルか分からない。

「あては……あることはあるんだよな」

 俺の言葉でマリーは俺を見る、そうか、確かマリーには俺のツテを話していなかったか。

「まあさ、怪我をしているのは分かっていたし、治療がどの道必要なのは分かっていたんだよな、いやさ、こうさ、問題を先延ばしにしてもやっぱり解決はしないんだよ、なあマリー?」

「なあと言われても、そもそもそんな繋がりがあるなんて初耳です、誰なんです?」

「まあ、簡単に言えば、ほら、よくある闇医者みたいな、そういった奴が知り合いにいる」

「闇医者って、不祥事起こした連中の末路でしょう?」

「ま、そこら辺は上手くやっていてな、手に負えない患者は、正規のルートで病院へと手配をしてくれるのさ、つまりマネーロンダリングの患者版と考えればいいのさ」

「なら頼めばいいのでは?」

「いやさ、まあ、変わった奴なんだよ、腐れ縁というか、女子と一緒になるイベントは、何故か全部こいつだったんだよね」

「ああ、いつもの癖の強い女ですか」

「いつものって、うーーーーん、どうしようかなぁ」

 俺が連絡しようとしている相手は、下赤坂アヤカというクラスメイト。

 とにかく頭がいい奴で典型的な天才型、中学時代何故かずっと同じクラスで一番仲が良かった女子、中間期末ではずいぶんと世話になったものだ。

 そして中学を卒業する時に、合格者が出ない年もある医学部枠に合格、これは医学部への無条件進学の特典が付いており、これに合格すると学籍は高校となるが実際は大学の医学部へ通い医学を学ぶことになる。高校を卒業できる学力は十分に持っているからという建前を使っている。

 医者としての才能もあったみたいで、実際の医療行為の補助みたいなのもしているぐらいだ。もとより高校生でありながら本格的な医学を学べるという理由でここに来たぐらいだ。

 俺も今の立場になってから、何回か診てもらっているのだ、という俺の説明を聞いて納得したように頷くマリー。

「なるほど、氷川さん以外に主従を結んでいる関係がいるんですね」

「え……俺と氷川先輩ってそう見えるの?」

 何かショック、とはいえ悩んでいてもしょうがない、これしかないと思い覚悟を決めて電話をかけるとすぐに繋がった。

「よう」

『あぁ~、イザナギだぁ~』

 この間延びした感じの口調、実際凄いのんびりした奴なのだが、学校の勉強なんて片手間で十分だといいきって実際満点連発していたんだよな。

「急で悪いが、ちょっと訳ありの怪我人がいてな、お前のところに世話になりたいんだが、頼めるか?」

『いいよぉ~、イザナギの頼みだもの、えっとね~、もちろんタダじゃないよぉ~』

「分かってるよ、なにをしてほしいんだ?」

『鼻からスパゲティを食べるか~、それとも私とセックスするかだね~』

「私とセックスするかだね~、じゃねえよ! そういう台詞を男に言うなって何度も言っているだろう、危ないんだぞ、本当に!」

『イザナギだけだよ~、どっちにする?』

「鼻からスパゲティを食べる、そういえば前に一度見てみたいとか言っていたよな」

『グスッ、グスッ、イザナギはいつもそう、肝試しの時だって、ヒック、クジに細工までしたのに、グスッ、気付く様子もなくて』

「そんなことしてたの!?」

『胸だって、押しつけたのに、無反応だし~』

「いや! ぶっちゃけそれは嬉しかったんだけど!」

『謝って』

「え?」

『傷ついたの、謝って、ごめんなすいみんぐ♪ って謝って~』

「なんだそれえ、意味が分からないんだけど」

『あ~、そう~、じゃあね~』

「わかった! わかったから! 謝るから!」

 ここで言葉を切る、恥ずかしい、が仕方ない、勇気を出す。

「ご、ご、ごめんなすいみんぐ♪」

『…………………プッ』

「お、おま、自分で言わせておいて」

『いいよ~、対価はそのときに、やってもらうから~』

「な、なあ、あのセックス云々って冗談だよな?」

『その怪我人を~、居住区のね、Z4561エリアにおいてほしいの~、お仲間さんがいたらその人には帰ってもらって~、イザナギだけ残ってね~、携帯の電源はちゃんと切ってね~』

「い、いやだから、あの」

 と言い終わらないうちに電話が切れた。

(疲れた……)

 良い奴なんだけど、マイペースすぎるのが欠点だ。

「……マリー、今から寺尾を運ぶから手伝ってくれ。今から居住区のZ4561エリアについたら、俺と離れて末広達と合流したのちにダバダバ同好会で集合。後は俺が来るまで待機、その間末広に報告書を作るように言ってくれ、その報告書をまとめたら氷川先輩のところに送ってくれ、それと位置探査の防止のために携帯の電源は落とすから連絡しても繋がらないからな」

 俺の指示に何も答えず、じーっとマリーは俺を見ている。

「イザナギ、貴方の周りにいる女って癖が強いというよりも、私も含めて変な女なような気がするんですが……」

「お前それ自分で言うなよ、薄々分かってたよ」



 アヤカに指定された場所に到着して、寺尾をその場に置いてマリーと別れた。

 スラム街から離れているとはいえ、ここもあまり治安がいいとは言えない。

 ま、それでもアイツの名前は知れ渡っているようで手は出されないみたいだが、それに俺以外にも色々世話になっているみたいだからな。

 その時にガラガラとやたら響く音が聞こえてくる。

 すぐにリアカーを引いているシルエットが見えて、アヤカが来たのだとわかった。

 暗い中どうしてわかるかというと、髪はがれこそ地面につくんじゃないかというぐらい伸びているからだ。

(夜で見ると迫力あるな)

 彼女が下赤坂アヤカ、向こうも俺に気付いたのだろう、よっこいせとリアカーを置く。

「いや~、リアカーがね~、重くてさ~」

「なら言ってくれれば手伝ったのに」

「ああ、そうだったね~、そうすればイザナギと早く会えたのにね~」

 ふらふらと近づくと、寺尾コウタをしげしげと見て、あちこち触っている。

「ふんふん、多分怪我だけだよ~、でも念のためラボに運ぶよ~」

 アヤカの言葉にほっとする、医学はさっぱり分からないがこいつの見立ては正しい。

「よろしく頼む、じゃ、そういうことで」

 立ち去ろうとした時に、普段とは思えないほどのスピードで近づくと襟首をむんずと掴まれる。

「駄目だよ~、治療しないよ~」

「早いなおい」



「これで終わりだね~」

 ラボ、アヤカが個人で営んでいる同好会、名前もそのまま「ラボ」で登録している。

 テキパキと応急処置を終える。のんびりしているようで、流石に実際に医療に携わっているだけあって手慣れている。

「後は寝ることだね~、明日には帰れるよ~」

「そうか、ありがとな」

「せっかく来たんだから、いつもの部屋でゆっくりしていきなよ~、別にセックス云々は冗談だからさ~」

「はいはい、お前はいつもそうだったな」

 いつもの部屋、アヤカの自室に入ると、いろいろな難しそうな医学書であふれかえっており私物も含めて相変わらずの散らかりっぷりだった。

「おい、下着ぐらいはちゃんと片付けておけよ」

「興味があるなら持っていっていいよ~」

「いや、いらないから」

「つれないな~、どうぞ~」

 アヤカは俺にお茶を出してくれた、いい香りが鼻孔をくすぐる。

「特製アヤカ汁だよ~、味も栄養も満点だよ~」

 そのままに口に含むと美味しさが口いっぱいに広がる。

「うわ、美味しい、なんだこれ?」

「私が発明した栄養ドリンクみたいなものだよ~」

「へえ、いや、マジでうまい、腕を上げたんだな」

 俺の言葉にアヤカは笑顔で返してくれた。そういえばチヒロも同じことをしていたな、研究者肌の奴って食事を手短にやりたがるのかなと思った。

 それからは雑談に花が咲いた、内容は主に中学時代の思い出話だ。

 中間期末の時には、ここによく泊まり込みで試験勉強を教えてくれて、こんな簡易食料を作ってくれたものだ。その時は栄養重視で味はまずかったが改良をしていたらしい。

 クラスでは俺たちはコンビみたいに扱われていて、随分冷やかされたものだが一緒にいるのが楽しくてよくつるんでいたものだ。

「アヤカ、お前がいつか正式な医者になったときは診療代まけてくれよ」

「ん~、私はね、医者というよりも、医学者としての道に進むんだ~、イザナギはどう~?」

「俺もやりたい事をやっているよ、楽しいって思えることは幸せな事なんだろうな」

「中学の時はイザナギがいたから楽しかったよ~、私はこんなだから、誰も相手にしてくれなかった、寂しかったんだよ~」

「…………」

 アヤカの言葉に胸が締め付けられる。

 そうだった、アヤカは俺以外に友人はいなかった。美人であるものの、浮世離れした言動に加えてずば抜けた頭の良さを持っていた。

 自分は他の奴とは違う、なんて誰もが一度は思う事かもしれないが、こいつの場合は本当に他の奴と違っていた。

 ただそれはアヤカが意図したわけでは無くて、自分なりに普通に振舞っていたのに違っていたから敬遠されて近くに誰もいなかった。

「アヤカ、言っておくが、お前と仲良くなったのはちゃんと人柄を気に入ったからだぞ」

「ありがとう、イザナギ~」

 ニコリと屈託ない笑顔を見て俺は安心する、そうだ、こいつの笑顔は昔から変わっていない、見ているとこっちも心が和んでくる笑顔だ。

「アヤカ、俺はお前の笑顔って好きだぜ、笑顔が良いってのは大事だ、お前の笑顔を見てドキドキする奴は絶対にいる……って、あれ、なにこれ、なんかホントにドキドキする?」

「お~、効いてきたね~」

「へ?」

「私特製の、媚薬を入れたんだよ~」

「はぁ!? お前、なにして」

「だから~、対価を払ってもらうって~、言ったでしょ~?」

 まずい、これは危ない、急いで立ち上がりドアをガチャガチャやるが、開かない。

「あ、開かない! や、やばい! アヤカ、いいか、悪いことは言わないから、ぶへ!」

 後ろを振り向いてびっくりする、いつの間にかアヤカはするすると服を脱いで下着姿になっていた。

「ちょ、ちょ、アヤカ!」

「中学卒業のお祝いでここで泊まった時に~、せっかく勇気を出してネグリジェを着たのに、なにもしなかったよね~、傷ついたな~」

 少しだけ恨めし気なアヤカの言葉、やばい、本気でやばい、このままだと俺は、それだけは駄目だ、言っておかなければならない、アヤカはどこか抜けている奴だからわからないのだろう、俺は心を鬼にしてアヤカをにらみつける。

「アヤカ! お前は男を知らないだろうから言っておくぞ! お前は友達だ! だが友達でも男は女を襲うんだ! 大丈夫だと高をくくっていたら大間違いだ! 早くこの部屋から俺を出して鍵をちゃんとかけろ!」

「いやだよ~」

「えー!? なんでー!?」

「別に彼女にしてほしいなんていわないよ~」

 アヤカはじりじりと近づいてくる、俺はじりじりと後退する。

「え、え、ほんと、いや、まじで、あの、アヤカ、お願いだから、辞めて、俺さ、はじめてはさ、好きな人とさ、ちゃんとしたシチュエーションで、ね? ね?」

「うふふ~♪」

 俺とアヤカとの距離は無くなった。


「い……」


「いいいいやあぁぁぁぁーーーーーーーー!!!」


―某所―


 神明イザナギが寺尾コウタの治療に向かった日の翌日、日が落ちる前に藤間ミズホはある部屋にいた。

 藤間ミズホは、応接スペースの椅子に座り無言で部屋の主を睨みつけている。

「何を怒っているんだ?」

 部屋の主である男子生徒が藤間ミズホに話しかける。

「おや、ご自分のしたことに心当たりがないと?」

「氷川が俺のところとコネクションを欲しがっていてな、とはいえ誰でもというわけにはいかない、俺なりに藤間にとって有益になると判断したから接触を許しただけだ」

「許しただけだって、私の捕獲命令が下った時に人材は選定したと言っていましたよね? つまり今回の状況まで織り込み済みという事ですか? 私にとって身分を明かす事がどれだけのリスクを負うか理解していないとは言いませんよね? 私にはなにも知らせないで」

 まくしたてるように責めるミズホであったが、件の人物は涼しい顔だ。

「俺も氷川も接触までの段取りはしたが、その後はお前達の裁量に任せたつもりだ、それでもシラを切りとおすことはできたはずだが?」

「……随分と、高く買っているんですね?」

「あの氷川の肝入りだからな、あの女は仕事の部分では冷酷と言っていいほどシビアな奴だ、で、実際どうだった?」

「…………」

 藤間ミズホはじっと考える、彼女にとって神明イザナギのチームがどうであったか。

「一言で言えば信じられませんね、個人だけを取れば非常に高い能力を持っていますが、いわゆるチームとしての活動にまるで向いていない人材ばかりです」

 藤間ミズホは、そう前置きをしたうえで説明する。

 まずは笠幡チヒロ。

 情報技術はけた外れの力を持っているが、マイペースすぎて自分のやりたくないことはテコでもやらない。しかも未確認ではあるものの彼女は第一級監視生徒であるロクロウであるという情報も入っている。

 続いて末広マイ。

 スナイパーとしての実力発揮は限定条件がつく上に、マリーとは逆に1人ではなにもできない、協調性もあるようで無い、故に「無能」という評価を得ている。

 これもまた未確認ではあるが、ライフルの射程距離が2000メートル級の実力者であるという情報も入っている。

 藤間ミズホの言葉に「すごいな」と感心する男子生徒ではあったが、ある人物に触れていないことに気が付き、藤間ミズホに問いかける。

「マリー・バードウィッスルについては何かわからないのか?」

 男子生徒の指摘に考え込む藤間ミズホ、しばらく考えた上で個人的推論だということを前置きしたうえで話し始める。


「マリーはネルベルグの惨事の犯人、風紀委員会最重要指名手配犯、通称254号です」


 さすがに驚いたのだろう、男子生徒は目を丸くする。

 今から半年前、スラム街で不良たちがターゲットにされ金品を強奪される事件が勃発していた。

 犯行はかなり派手に行われているようで、被害者の不良たちは全員が怪我を負っていた。

 連続して行われた派手な犯行、出会ったはずだが、風紀委員会は犯人について組織だった犯行なのか、単独犯なのか、人着すらもわからなかった。

 その理由は簡単、被害者は犯人について語らなかったからである。

 故に当初は身内同士の喧嘩かと思われたが被害者は完全ランダムであるのに、話さない、誰かをかばう様子もない。

 結局、被害者が出るたびに同じことを繰り返すこと羽目になったが、風紀委員会はこの事件よりもネルベルグと呼ばれる部の壊滅作戦をメインに計画していた。

 これは三か月前から女子生徒が中心となって襲われる事件が多発しており、捜査の結果その犯人がネルベルグであることが判明したのだ。

 極めて悪質なネルベルグ、風紀委員会の精鋭を集めて武力を行使しての壊滅作戦を計画し、いざ実行部隊がネルベルグの本拠地に突入。


 ここで突入した武力班が最初に見た光景は、暴力に慣れた風紀委員会ですら思わず目を背けるほど凄惨なものであったという。


 当時11名在籍したネルベルグの全員が瀕死の状態で発見され、再起不能の大けがを負い、最終的に全員が安比奈学園を退学することになった。

 口もきけないほどに痛めつけられた人物もおり、かろうじて会話もできる人物もいたものの全員が不自然なぐらいに黙っていたのだ。

 自業自得と言えど尋常な事態ではない、風紀委員会は執念深く事情聴取を続けた結果、1人だけがかろうじてこう答えた。


「たった1人の女にやられた、だったな?」


 男性生徒の問いかけにミズホは頷く。

 この発言をきっかけに注目が集まり、一連の不良連中をターゲットにした金品強奪の犯人が、その女子生徒であると断定し捜査をしたものの、結局犯人はわからず迷宮入りとなってしまったのだ。

 これがネルベルグの惨事と呼ばれ、その犯人は風紀委員会の最重要指定指名手配に指定されており、むろん未だに解除はされていない。

「確かに女にやられたら俺だって話さないな、ま、それが分かっていたからこそ被害者は男に限定したんだろうが」

 男が女に喧嘩で負けるなんて恥の上塗りでしかない。しかも不良集団なんてものは粋がることが生き甲斐のようなものだ、それすらも見越して犯行を重ねていたことになる。

 男子生徒は、藤間の言葉に考え込む仕草を見せると彼女に話しかける。

「だが、254号は本当に存在するのかという声も大きかった。たった1人の人間が多人数相手に勝つ、ドラマや漫画ならよく見るが現実には不可能といっていい、別にこれが男でもだ、マリーが254号だという根拠はあるのか?」

「ジャック倶楽部が壊滅したのはご存知ですよね?」

「知っているが……まさか」

「はい、あの作戦はイザナギ率いる部隊です。ジャック倶楽部にかつてレスリング部に所属していた生徒がいて、妙に観念した様子で戦いの詳細を話してくれたんですよ、驚く方法を使っていますよ」

「驚く方法?」

「石を投げてきたそうです、子供が喧嘩でそうするように、それで面食らって、その隙を突かれたと……」

「石だと……」

 石を投げる、そんな原始的な方法で、信じられない様子の男子生徒を見て藤間ミズホは続ける。

「たった1人でたくさんの人物がやられたのは知っていた。でも女だから勝てると思った、石を投げられた時も面食らったが、すぐに反撃できると思った、次の瞬間には殴られてすさまじい痛みとともに反撃できる状態ではなくなった、だそうです」

「…………」

 マリーの経歴自体は、調べているがいたって平凡なものだ。学力は非常に優秀で特に記憶力が凄まじいというぐらいしか出てこない。

 だからこそ戦い方に戦慄する、結局254号による事件はある時期を境にぱったりとやんでしまったのだのだが。

「事件が起きなくなった時期と、マリーがイザナギの仲間になった時期は?」

「一致しています、間違いなくイザナギはその事実を知っています。事件は勝手に終息したと見られていますが、そうではありません。経緯は不明ですがマリーがイザナギの仲間になったからですよ」

 ミズホの言葉に男子生徒は席に深くもたれかかる。

「となると、それをまとめあげる神明イザナギが凄まじいということになるのか、初任研修成績は下の下、配属された後もそんなに功績を上げているわけじゃないが、氷川のお気に入りの奴だったからな」

 初任研修の下の下の神明イザナギを当時中学2年生ながらにエースとして活躍していた氷川が自ら相棒にしたいと申し出たという話は有名だ。

「うーん」

 ここで再び藤間ミズホは首をかしげる。

「神明イザナギの能力は風紀委員会の評価項目には全くない点にあります、あの3人は自覚か無自覚はながらに感じ取っています。だからこそあの3人は神明イザナギの命令には従う、それは直接会ってみて理解しました、絶妙なバランスの元成り立っているのですよ」

「言っている意味がまるで分からないのだが」

「言っている私もそうですよ、まあ、個人的には気に入りましたけどね、それじゃ、ライブがあるんで失礼します」

 そのまま立つと、部屋の出入口に向かったが最後に振り返り男子生徒を見る。


「でも今回の事、覚えておきますよ、萱沼風紀委員長」


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