神明イザナギ部隊、始動!
末広とチヒロが仲間になり、俺たちの部隊は完成した。
末広は心配をかけたお詫び兼部隊結成記念ということで、末広の部屋で夕食を取ることになった。
そして今末広の部屋のキッチンでは、エプロンをつけた末広がトントンと包丁をリズムカルに野菜を刻んでいる。
続いてテキパキと刻んだ野菜を鍋に入れると、スプーンですくって味を確かめる。なにを作っているかは部屋を包んでいる香りで分かる、カレーだ。
「急だったんで、カレーで申し訳ないですけど、イザナギ先輩の好みしか知らないので」
「「え?」」
末広の言葉にキョトンとする2人、そうか話していなかったっけ。
「裏に行ってからは無くなったけど、時々料理を作りに来てくれていたんだよ、俺の反応を見て味付け変えてくれていてな、さりげない細かな気遣いが出来るのが末広のいいところだ」
2人に話しかけながら末広の方を見てみると「い、いえ、そんな」と照れたようでモジモジする末広が可愛い。
「ま、その代わり今はさっきみたいに美味しいものを紹介しあうってことに変わったけどな、ま、今は気にすることもなくなったけどな」
自分の言葉で末広も大事な仲間になったことを再度実感する、やっぱりうれしい、本当に完成になったんだ。
俺の横に座っていたマリーも察したようで笑顔で応えてくれた。
「なにハーレム系主人公気取っているんですか?「え? なんだって?」じゃねえよバーカ、イラっとするんですよ」
「そんなこと一言も言ってないでしょお!」
「え? なんだって?」
「なるほど! 確かに凄いイラっとくる!」
俺達のやり取りを見て末広は目をぱちくりしている。
「へー、マリーさんって綺麗だけじゃなくて、お茶目なところもあるんですね」
(コイツはコイツですげープラスに捉えているし)
末広はクスクス笑いながら、テキパキと食器を並べると、ご飯とルーを盛りつけてカレーは完成した。
4人で「いただきまーす」との言葉のあと、カレーをスプーンですくって食べる、うん、美味しい。
他の2人も口々に「美味しい」と感想を述べていて、末広も嬉しそうにしている。
「それにしても、イザナギが気に入る割には癖の強い女の子では無いですね」
カレーを食べながらマリーが話しかけてくる。
癖が強いか、まあいい、末広にはある秘密があるが、これは俺の胸の中にしまっておくべきだろう、折を見てマリーが知ればいいことだ。
「末広、おかわりいいか?」
「はい、ちょっと待って下さいね」
そのまま皿を受け取り、コンロに近づこうとした時だった。
「あ……」
段ボールに足を引っ掛けて、そのまま巻き込む形で転倒してしまう。
「マイ! 大丈夫です……」
慌てて駆け寄るマリーではあったが、そのまま固まってしまう。
床には、大量のBL本と乙女ゲーが散乱していた。
「ちがちが、ちがくて!」
思いっきり慌てる末広に、チヒロがフォローする。
「別になんてことはないよ、ボクも知っている趣味だからね、恥ずかしがらなくていいさ、マリーはどう思う?」
チヒロの問いかけに、マリーもなんてことないように首を振る。
「確かにそうですね、マイ、びっくりしただけですよ」
そのまま一冊を拾い上げてパラパラとめくる。
「ふんふん、これがBLなんですね、初めて読みました」
そのまま他の一冊を拾い上げると、パサパサと「原稿」の束が落ちた。
「あわわわわわわ!」
「へえ、いや、書いているとは知らなかった、別にいいじゃない……」
原稿を拾い上げた瞬間チヒロの言葉が止まる、不思議に思ったマリーがチヒロから原稿を渡され、ふんふん見る。
「…………」
「…………」
パラパラと原稿を読むとそのままトントンとまとめる。
2人は顔を見合わせるとマリーとチヒロが同時に末広に問いかけた。
「「このイケメンキャラってイザナギがモデル?」ですか?」
「そそそそそそそそそそそそんなことないですよ!」
「いや、でもキャラの名前が」
「ダメーーーーー!!」
とそのままひったくろうとした瞬間に今度は、マイの懐から携帯ゲームが落ちた。その衝撃からか、勝手に電源が入る。
『やあ、マイ、今日も可愛いな』
「いいいいいいぃぃやややあああああぁぁぁ!!」
電源が入ると同時に入るボイスメッセージ、これを聞かれるのは恥ずかしい……。
「こここここここここ」
パニックで意味不明な事を叫んでいる。チヒロが地面に転がったゲームのトップ画面を見て呟く。
「この乙女ゲーって、確か、自分の好きなキャラを合成や育成が出来るって話題の奴だよね」
「へーー! そうなんだ! 知らなかった!」
「いや、いやいや、知らない訳ないだろう、別にいいじゃないか、女の子なんだからさ、イケメンにトキめいてなにが悪いと言いたいね」
そのまま取り上げるとスタートボタンを押す。
「ちょー! ちょーーっと!!」
「ふふん、マイの理想のイケメンとやらに興味が出て来たのさ、失礼するよ」
ソフトを立ち上げたトップ画面には中性的な美青年が現れた。
「なるほど、確かにマイは美青年が好きだったね、神明先輩、残念だったね、脈は無いようだよ」
いたずらっぽく笑うチヒロに俺は何も答えない。チヒロがランダムで開いたセーブデータは、ちょうど主人公とヒロインのベッドシーンに入る時だった。
『末広、来いよ、抱いてやる』
『はい、イザナギ先輩、あの、優しく……してください』
「いいいいいやあああああぁぁ!!!」
とひったくってその場で蹲ってしまった。
「…………」
チヒロは黙っている、というか固まっている。
「だってしょうがないじゃない! イザナギ先輩にそっくりのキャラ作ったって! ねえマリーさん!?」
「え!?」
突然自分に振られると思わなかったのかビクッと震えるマリー。そのまま半泣き状態で差し出された携帯ゲームを受け取り、俺をしげしげと見る。
「に、似ているんじゃないんですか、その……眉毛とか……」
「ですよね! 聞いたチヒロちゃん!? 似てるってさ!」
「おお、落ち着いてくれ、ボクが悪かった、良く見てみたら、神明先輩にそっくりだよ、別に引いてはいないよ、うんうん、ボクも乙女だ、気持ちはよくわかるよ」
「うん、チヒロちゃんならそう言ってくれると思ってたよ、ありがとー」
「はは、そうだね」
何とか落ち着いた様子の末広にほっとする2人。
そうあの夕暮れの日、俺達の最後の日、あの後こう続いたのだ。
●
「私! BLが大好きなんです!」
決意表明と共に差し出された封筒を見てみる。
BL、BLってあの女性向けの男同士の同性愛のやつだよな、なら知っているけど、この封筒はどういう意味だろう。
中を見ろということだろうから、中を開いて見てみると漫画原稿が入っていた。
「これ、お前が書いたのか?」
「はい!」
「へえ~、知らなかったよ、こんなこともできるんだ」
「……引かないんですか?」
「別に、引くような趣味じゃないだろ」
「良かった! なら読んでください! 私の渾身の作です!」
「いいけど、でも、男同士の絡みは、ちょっと、最後まで読めないかも」
「構いません!」
パラパラと読み進めると、内容はこうだった。
明神イサハテは学園の生徒会長の強気のドS2枚目キャラ、彼には彼女がおり、年下で妹系の広末イマと交際をしていた。
「ちょっと待ってみようか、あのさ、この強気のドS2枚目キャラのことなんだけど」
「イザナギ先輩です! やっぱりそっくりに書けていますよね! 自信あったんですよ!」
「……そうか」
そんな綺麗を目をされては突っ込めない、彼女の名前については怖くて聞けない、と思いながら読み進める。
生徒会には、内気で弱気の副会長(男)がいたが、広末とイチャイチャしているところを偶然に目撃してしまい、内気で弱気のはずの副会長の秘めたる想いが爆発、そのまま広末の前で生徒会長(名前では呼べない)を押し倒した。
「どうしてここで生徒会長!? 広末じゃないの!?」
「内気で弱気なのに強引に攻めるのが興奮するんじゃないですか!」
「ちげーよ! どうしてここで男を押し倒すんだよ!」
「BLだって最初言ったじゃないですか!」
(理由になってないっ!)
まあいい、よくないけど、もう既に限界だぞ、だが俺は負けない、そのまま根性で声を出して読み進める事に決める。
「副会長の攻めは同じ男があるがゆえに生徒会長は気持ちよくさせ! 次第に副会長しか見えなくなってしまった生徒会長! そしてそれを見て何故か感じてしまう広末! って何で感じてんだよ! なんかもう別物になってんだけど!」
「なにを言っているんですか! そこに興奮するんですよ!」
「そもそも俺は男が好きとかじゃないんだけど!?」
「そこは妄想で保管するんですよ! ノンケがその道に落ちるのはBLの王道です!」
「いやだから落ちないから! これが大事な話!?」
そこではっとする末広、さっきまで血走った目が消えて、真剣なまなざしで俺を見る。
「いいえ、もう一つあるんです」
「うん、そうか、なんだ?」
「乙女ゲーも好きなんです!」
「ああ、そうなんだ、そんな流れだと思った、まあそれは理解できるかなあ、女だってイケメンに囲まれたいだろうよ」
「いえ! 違うんです!」
「なにこれ?」
差し出されたのは携帯ゲーム機、たち上げろという事だろうか、電源を入れてみる。
『やあ、マイ、今日も可愛いな』
イケメン声が電源が立ち上がると同時に聞こえる。
「この声を作るのに6時間もかかりました、はあ、イザナギ先輩の声が立ち上がるたびに聞こえるって素晴らしい、これって私の目覚ましボイスにも使っているんですよ」
(ええー、俺ってこんな2枚目声してないと思うんだけど……)
とはいえ、突っ込めない、うっとりとしながらも、話し始めてからは色々と吹っ切れたような顔をしている末広は興奮気味にゲーム画面を指さす。
「そのままゲームを続けて下さい! これはですね、男キャラを自分の理想のビジュアルで作り上げる事が出来る乙女ゲーでありながらありえないほどのイベント数、しかも育成ゲームの要素も入っているんですよ!」
「そうなんだ、あのさ、念のため聞くけど、ゲームのトップ画面に出てきたこのキャラのモデルって」
「イザナギ先輩です!」
俺ってこんな美形だったっけ、髪型は、似ているのかなぁ、原型留めてないんだけど、自分で言ってて悲しくなるんだけどという切なく思いつつ、末広は止まらない。
「イザナギ先輩、このままロード画面に飛んで、4番のデータをロードしてください」
「…………」
もうなにも逆らうまい、言われるがままにデータをロードする。
出てきたのは雨の降りしきる夜の公園、俺は切なそうな顔で末広をじっと見つている。
長い沈黙の後、俺が口を開いた。
『お前……なんて顔してるんだよ』
「ここで泣いているところに気付くのが最大の萌えポイントです!」
「そうなんだ、うん、よくわかったよ」
「逆ハーレムプレイもよし! そのまま一途に理想のイケメンとラブラブするのもよし! 今はですね、禁断のイザナギ先輩に囲まれての逆ハーレムプレイを企んでいるんです!」
「俺に囲まれるってどういうこと!?」
「よくぞ聞いてくれました、この今のキャラがイザナギ先輩そのものなので当然メイン。周りを固めるサブのイザナギ先輩は、イザナギ先輩のそれぞれの性格をキーワードにして誇張した作りにしようと思っているんですよ、まずは子供っぽいイザナギ先輩、興味がある事にすぐに夢中になって、時々私をおざなりにするんですけど、最後にそれに気がついて申し訳なさそうに不器用に精一杯優しくしてくれるです。次に情けないイザナギ先輩です、女子のトキメキ鉄板「こいつちょっとここがなぁ」というのを前面に押し出して、これはイザナギ先輩との実話をふんだんに盛り込んで作ろうと思っているんです、強気ドSとは違うキュンキュンする感じがたまらないですよ、次はエッチなイザナギ先輩です、とはいっても口ではエッチなことばっかり言っているのに、いざ私と二人だけになると急に紳士になったりとか、それを指摘すると精一杯強がって襲うぞとか言うくせに絶対襲わなくて、こっちがちょっとアプローチをかけると急に焦ったりする様子がもう! って感じです、そしてエンディングはですね、全部のイザナギ先輩に囲まれて、後はベッドでキャー! もう言わせないでください! セクハラですよ! 体中全部が色々なイザナギ先輩の色に染まることを考えだけで濡れますね! ねえイザナギ先輩!?」
「そうだな! それは面白いゲームになりそうだな!」
「はい! そのために先輩にお願いしたい事があるんです!」
「なんだい!?」
「乙女ゲーの王道台詞を言ってほしいんです! 録音しますから!」
「あははは! 断る!」
●
半泣き状態から、チヒロになだめられてやっと復活した末広ではあった。その横で「なるほど、イザナギが気に入るからそうですよね」と妙な具合に納得したマリー。
まあ表には出さないだけいいのだろうか、そう思っておこう。ちなみに俺のことはあまり考えない事に決めている。
そんなことを考えているとマリーが話しかけてくる。
「イザナギ、自分がネタとかにされて平気なんですか?」
「うーーーん、まあ末広だからなぁ、アイツなりに凄い勇気を出したんだろうからな、でも、たまにはこうさ、お淑やかで優しくてってさ、そんな女の子はいないものかね」
「なにをいまさら、貴方が言う女らしい女はそもそも貴方の近くには来ませんよ、そういった女は、イケメン相手に「真実の愛」を見つけるんです」
「マリー、生々しい」
「自分の本当の気持ちに嘘はつけない、とか言いだす女は要注意です」
「だから生々しいから!」
『い~い湯だな、ハハハン♪ い~い湯だ~な、ハハハン♪ 湯気が天井からぽたりと背中に♪』
「なに、この曲、いや知っているけど」
曲が流れた瞬間、チヒロが素早くタブレットを取り出す。
「ボクのチヒロ号の緊急警報だ」
「どんなセレクション!?」
●
俺とマリーはダバダバ同好会のある建物を隣の建物屋上からずっと見ている。
今度は事情を理解しているだけ行動は早かった、すぐに俺とマリーは防護スーツに身を包み、監視場所にたどり着いた。
おかげさまで、忍び混んで10分後にはたどり着くことができた。
「派手にやりますね、何か忘れ物でもしたんですかね?」
マリーの言葉とおり、ここからでもドタンバタンと音が聞こえてくる。おそらく色々ひっくり返しているのだろう。
「ま、現行犯なら面倒でもこうやってみているのは必要だ」
俺達の一番大事な仕事の一つにこうやってトラップにかかって直接行動に出てくる奴が誰であるかを把握することだ。
そして学園の敵と判断すれば、まず今回の侵入容疑で身柄を拘束し、本格的に調査を進める。
「監視カメラでもつけられればいいんですけどね」
「それは今回のヤマが片付いてからの話だ、あの2人が加入した事で色々考えているんだよ、なんといっても今の俺達には優秀なスナイパー兼事務員と解析員がいるんだからな」
その後、3、4人の人影が、玄関ドアを開けてこっそりと外に出てきた。
それを受けてマリーは持っていた双眼鏡で、忍び込んだ人物の顔を確認する。
「ミズホの親衛隊員ですね」
あらかじめ末広とチヒロに親衛隊のファイルをまとめてもらっていて、マリーに全部覚えてもらっていたのだ。
「…………」
さて、どう考えればいいのやら。忍び込んだ生徒たちの手には資料を抱えている。
『おい、大丈夫か』
『ああ、周りには誰もいない、早くいくぞ!』
ちなみにこの声は盗み出した資料から聞こえてくる。チヒロ特性のシールをさっそく使わせてもらった、ただのシールだから気付いていない様子だ。
「周りには誰もいないって、いますけどね」
マリーの突っ込みに思わず吹き出してしまう、見張り役も周囲の状況も確認しないでよく言えたものだ。
「…………」
笑ってはみたものの……。
(妙だな……)
やっぱり変だ、奴らの行動すべてが。
「マリー、お前は末広とチヒロに合流してくれ、俺は親衛隊の本拠地に忍び込む」
俺の言葉が意外だったのがマリーがさっと俺を見る。
「……危険では?」
「それを確かめに行きたい、気になる事があるんだよ、やばいと思ったら撤退するさ」
「……分かりました、気をつけてください」
そのままマリーはひょいひょいとビルを駆け下りていった。さて、向こうだって警戒しているから、やばくなったら引くとして……。
「ウヒヒ、学園アイドルのプライベートを探るなんて真似はファン内では最大のタブー、だけどしょうがないよね、職務だものね、ミズホちゃんの着替えとかうっかり覗いちゃったとしても、事故だものね、オホホ」
『イザナギ、骨伝導で通信しているのまた忘れているでしょう? ダダ聞こえですよ』
●
ダバダバ同好会を荒らした親衛隊の男子4人がビルの中に消えて、本拠地に入った後、その直後会話が途切れた。正確には音が拾えなくなったのだ。
『イザナギ、知ってますか? ラッキースケベはどちらかが故意じゃないと成立しないんですよ』
「知ってます! チヒロ、このシールって、障害物があると聞こえなくなるというのはあるのか?」
『まあ、通信環境によるけど、切れ方が不自然だね、盗聴されないようにしているようだよ』
「……そうか、まあ、アイドルだからなぁ、盗聴とかそういったものに気を配っていてもおかしくは無いが……」
ここで言葉を切る。
(やっぱり変だ)
俺は今、親衛隊が入っているビルの屋上にいる。となりの建物から飛び降りて今ここにいるのだが、何の変化もない、不自然なほどに。
『イザナギ、さっきからなにが引っかかっているんです?』
「マリー、最初の捕獲作戦の時と今回、それと俺達が尾行に失敗した時に合わなくないか?」
『というと?』
「捕獲した時は護衛をたった2名、今回も周囲の確認をまるでしてない、今回は俺がこうやって屋上にいても何の動きもない、尾行に失敗した時だけ見せたあの統率が取れた動きと比べて、ちぐはぐじゃないか?」
『確かに、妙ですね』
「チヒロ、親衛隊の本拠地のパソコンに潜り込めるか?」
『潜り込んではいるけど、親衛隊の活動日誌しか保存していないね、おそらくスタンドアローンのパソコンを使っているね、多分今みたいに潜り込まれた対策だろう、いくらボクでも繋がっていないと無理だね』
「ちょっと待ってくれ、前に取ってくれた名簿のデータはどこからとってきたんだ?」
『……今の潜り込んでいるパソコンからだね、そういえば』
「…………」
考え込んでいると、今度は末広の声がこだまする。
『あのー、お二人がさっきから言っているミズホって、ウインズのミズホちゃんのことですよね? どうして彼女が』
「詳しいことは後で話す、さて、どうするか……」
どうにも相手が掴めない、だが、この状態だと危険を冒さずして収穫が得られるとは思えない、そう思って俺は1人でここにいるのだが。
「疑問点があるが、どこまでやればいいのか判断できかねるな」
ここで詰まってしまう、何かきっかけがあればいいのだけど。
『イザナギ、ことを急がずとも、様子を見るのもありなのでは?』
「うーん」
確かにマリーの言うことも一理ある。とにかく焦ってはろくな結果を生まないのがこの仕事だ。とはいえ最初の捕獲作戦からの今までのミズホちゃんの流れがどうしても気になる。
「いや、すまないが、このまま進める、最初から全て繋がっているような気がするんだよ」
『根拠はあるんですか?』
根拠か、俺は、うん、勘でしかないのだが、前々から言いたいセリフがあったのだ。
「そう、囁くんだよ、俺の」
『ゴーストがですね、はいはい』
(んもう!)
全く、相変わらず女は男の浪漫を理解しない、まあいい、それは分かり切った事じゃないか。
色々悩んでいると、携帯に着信がある。着信者を見るとボランティア部と表示されていた、氷川先輩だ。
「はい、どうしました?」
『任務中失礼、取り急ぎある人物と接触してほしいのよ』
「誰です?」
『藤間ミズホ』
「…………」
まさか、偶然では、ないだろうなぁ。
「彼女は何者なんです?」
『これが驚き、身内よ』
「身内って! 風紀委員会!?」
思わず声が大きくなってしまって口をふさぐ。
「って、氷川先輩、俺たちのことを泳がせてましたね」
『あら、やっと気が付いたの? 向こうも貴方たちに夢中で調べやすかったのだけどね』
「だけど?」
『身内としかわからなかった』
「……氷川先輩が調べて、それしかわからなかったって、まさか……」
『できれば彼女の言質が欲しいところね、そして仲間に引き入れなさい』
「わかりました、望むところですよ」
氷川先輩との通話が終わりしまい込むと今まさに自分の立っているビルの屋上の床を軽くトントンと足踏みをする。
「ミズホちゃん……」




