出会いⅤ
(静かだ。痛みもない。僕、死んだのかな)
「アギャャャーーーー」
静けさは叫び声にかき消された。
僕は慌てて閉じていた目を開け、状況を確認する。
目の前にいたのは、大きな血みどろの鎌を持ったインヴァネラではなかった。
(赤い髪……)
僕が見たのは、紺色のブレザーと赤を基調としたチェック柄のスカートを身につけた女の子の後ろ姿だった。
そして、僕が最も驚かされたのは女の子の右手に握られていた赤い柄の刀を見た時だ。刀身は透き通るような鋼色で、とても美しい。
「そこの君、大丈夫?」
背中を向けたまま女の子は話しかけてきた。
「あ、はい」
急に声をかけられマヌケな返事をしてしまう。
「ちょっと! 気を抜かないで! まだ倒せてないんだから」
叱られた僕はすぐに起立した。
そして、女の子の後ろから僕はインヴァネラの状態を確認した。
僕の前にいたはずのインヴァネラは、細い胴体を真っ二つに斬られ、女の子の前に倒れていた。
「えっと、もう死んでるんじゃないですか?……」
「まだよ」
その言葉と同時にガタリと音がした。
インヴァネラが2本の鎌で起き上がろうとしている。
「う、動いた」
「なるほど。戦闘力はあんまりだけど、再生力はそこそこあるようね」
「再生!?」
再生と言う単語に驚き、僕は切断部分に目をやる。
切断された下半身が蒸気のようになり、上半身へと吸収されている。そして、どんどん下半身が伸びていく。
「させない!」
女の子はそう言うと刀を構え、インヴァネラへと突進していく。
「はぁ!」
今度はインヴァネラは上から真っ二つに斬られる。
しかしそれでも女の子の攻撃は止まらず、地面に倒れようとするインヴァネラの体を空中で何度も切断する。見る影もなくバラバラにされる。
「見つけた」
斬撃音の中、女の子はそう呟いた。
そして、インヴァネラの頭蓋骨から少しはみ出て見えていた黒い宝石のようなものを見事な剣捌きで打ち砕いた。
ガラスの割れる音が店内に響き渡った。
そして、女の子の攻撃は止んだ。
「もう再生はしないんですか?」
恐る恐る僕は尋ねた。
「ええ、コアを破壊したからね。もう安心よ」
「そうですか」
僕はほっと胸をなでおろした。
本棚に隠れていた人たちも状況を把握したのか、物陰から出てくる。
「大丈夫ですか!」
警官隊が店内に入ってきた。
そして、中の人たちを外へと案内する。
「さぁ、君も早く外へ」
女の子に、急かされた僕はしぶしぶ外へと出て行く。
「あの、ありがとうございました!」
店を出る時、後ろを振り返りそれだけ伝えることができた。
女の子は軽く微笑んでくれた。
外には救急車が何台か止まっていた。
怪我の手当てなど受けた後、僕は外の空気を吸いに救急車を降りた。
「ふぅ〜」
外に出た僕は伸びをする。本屋さんの辺りは規制線が張られている。
「あの」
後ろから声をかけられ、僕は振り向く。そこには本屋さんに居た親子が立っていた。
「本当にありがとうございました」
母親が深々と礼をする。
「ほら、凛花も」
そう言われ、女の子の方もおじぎする。
「お兄さん、助けてくれてありがとうございました」
「いえいえ、そんな」
急なお礼にあたふたする。
「それでは失礼します!」
照れくさくなった僕はその場を後にして走り出した。
走りながら僕は思った。
(あの時、行動できてよかった)
その達成感の後に無力感が襲ってきた。
そして、思い出す。
(あの子、強かったなぁ)
僕は走る中、女の子の戦う姿、そして最後に見た笑顔を思い出していた。