出会いⅠ
結城 義人。
これが僕の名前だ。
正しい人であってほしいという願いが込められている。
母さんからもらった大切な名前だ。
幼い頃から正しくありなさいと教えられた気がする。
「気がする」という曖昧な表現をするのは、僕には小学校低学年くらいまでの記憶があまりないからだ。
でも、それは特別なことではないと僕は思っている。
だって、小さい頃の記憶なんてみんなあまり覚えていないだろうから。
まぁそんなことより、僕は正しくあろうとずっと生きてきた。
学校には遅刻せずに通った。
赤信号は破ったことがない。
ご飯は好き嫌いせずに何でも食べた。
困っている人がいれば力になろうと努力した。
いじめられてもやり返さなかった。
暴力は振るわなかった。
いじめられても相手を恨むようなことはしなかった。
見て見ぬ振りをする人に対して嫌悪感を持ったりしなかった。
「正しくありなさい」
母さんのその言葉にただ従った。
でも、それでよかったのだろうか。
僕は今までの人生を振り返ってみる。
いや、これは人生を振り返ろうとしているのだろうか。
今まであった事を思い出して、反省しようとしているのだろうか。
それとは違う。
思い出そうとしている訳ではなく、無意識に、僕の目の前に今までの人生が、まるで動画の早送りのように次々と流れている。
でも、どうしてこんなものを僕は見ているのだろうか。
まるで、走馬灯のような……
そうか、走馬灯か。
僕は死を覚悟したのか。
「死」
その単語を思い出した時、両膝を抱え、頭をうずめていた体が身震いした。
そして恐る恐る顔をあげ、前を向いた。
「インヴァネラ……」
一匹の化け物を見て、僕はそう呟いた。