prologue.
血に汚れた冷たい廊下を歩いて行く。
いつからだっけ。
この道を歩くのが嫌になったのは。
なんで思い出せないんだろう。
違う、思い出したく無いからだ。
思い出してしまえば
きっと私はまた
__泣いてしまうから。
✣
目に映ったのは十字架に磔にされたあの子。
あの子の胸元を狙い長い槍が突き刺さった。大きな悲鳴が聞こえる。槍が刺さっている部分は紅く染まっていった。目を逸らしたくなる様な光景。あの子はそのまま眠りについたように静かになった。
炎があの子を包んで行った。熱気は伝わらないが赤く燃え上がった火柱は遠くから見ている私にもはっきりと見えた。もう、悲鳴は聞こえない。
足元にリボンがひらひらと落ちて来た。ピンクの愛らしい色だったはずのリボンは少し茶色くなっていた。
炎が消えた。さっきまで磔にされたあの子じゃない黒焦げの物体が磔にされていた。
でも確かにあれはあの子だった。原型を留めずに骸骨を通り越していた。見たくなかった、あんなあの子など。酷く悲惨な姿となってしまったあの子など。
やがて何秒か経つと喜びの声が部屋を埋めた。人が死んだと言うのに何故、喜べるのだろう。
抑えきれなくなった感情が、気持ちが、溢れ出して形となった。しゃがみ込み、泣き続けた。
あの子は悪く無いのに。
魔女なんて酷い汚名を浴びせられて挙句にはあんな姿になってしまうなんて。
あの子は何もしてない、あの子は悪くない。
同じ人間だと言うのに、どうして。
こんな結果、望んでいなかったのに。
それから私は決めた。
あの子に会えた時に胸を張れるように
あの子の分までしっかりと
生きると。
何があっても生き延びて見せる。
そう決めた。
✣
長い、長い廊下をただただ走って行く。
あの子の分まで生きるって決めたんだ。
こんなところでは死ねない。
私に魔女の疑いが浴びせられた。
私は人間なのに。あの子の次は私なのか。
だけれども私は死にたくない。
逃げないと、追手はまだ来ていないけれどばれる前に早く。
出口が見えない廊下を私が走る音だけが鳴り響いた。
✣
目が痛くなるようなくらいに明るく騒がしい街を無言で横切って行く。地面は冷たく、ゴツゴツしていて痛かった。人々は私を見れば、嫌な顔をしたり、可哀想な目で私を見たりする。何処に行っても魔女扱いなのか。
何処かに引かれるように足が進んで行く。あの場所以外は何処も知らなかったのに。この街を知っているかのように私は歩いていた。知らない街なのに自然とこの街が好きになれた。
あの場所から抜け出して全く新しい人生を歩んで行くと私は決めた。もう引き返す事が出来ないだなんて知っている。
未来地図って言うあてにならない地図を持って歩いていこうって決めたんだ。
もちろん、あの子と一緒に。
ーこれは新しい私の新しい人生を描いた物語。