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──おまけのおまけ

「あのさー、なんでいつも私と賢さんだけが過酷なの?」


 異世界に行く羽目になって久しい今日この頃。ずっと疑問に思っていたことを両親にぶつけた。


「それがさっちゃんに一番むいているからでしょ?」

「いやいや、力業は向いてないから。なんかお母さんから聞いてた話と違う……」


 母が一瞬目を丸くした後、心底呆れたと言わんばかりにため息をつきながら、食後のお茶をずずっと啜る。母のいれるお茶はいつだって高温だ。もっと優しい温度でいれてほしい。


「さっちゃん、お話と現実は違うのよ?」


 まさか母からそんな言葉を聞くとは思わなかった。母には一番似合わない言葉だ。


「知ってるよ。知ってるけど納得できない」


 それまで黙って聞いていた父が、「じゃあさ」と声を上げた。


「さっちゃんは異世界の知識ってお母さんほどないだろう? 元々お話の中のことっていっても、これが行く先々で結構役に立っているんだよ」

「そうなの?」

「そうなのよー」


 両親は行く先々で国の中枢的な場所に毎回早い段階でたどり着いて、政治的な何かを解決している。

 得意満面の母が恨めしい。こんなことなら、私も異世界ファンタジーを読むべきだった……。


「お母さん、おすすめの本貸して?」

「残念。今おじいちゃんが読んでる最中」

「えー! おじいちゃん読むのものっすごく遅いじゃん!」

「そうなのよね、基礎知識的な十冊を貸したんだけど、いつまでたっても戻ってこないのよ。なんか、レポートにまとめてるとか言ってたけど……そういうのは賢さんにお任せすればいいのに」


 本当だよ。イケメンたちに読んでもらって、できれば要点だけをまとめてほしい。


「それにさ、勇者や聖女って、出会った人たちに生きる道を助言することが多いみたいなんだけど……さっちゃんにできる?」


 祖父母は行く先々で勇者や聖女のようなことをやってる。そして女神様が示したゴールに向かう道中、立ち寄る先々の揉め事を穏やかに解決している。

 確かに。精神年齢はさておき、成人前の小娘に人の生きる道を説くことなんてできない。自分で考えろと言ってしまいそうだ。


 私と賢さんは毎回二人っきりで荒野のような場所に飛ばされ、そこから立ち寄る先々の揉め事を力業で解決している。主に賢さんが。私はその後のフォロー担当……。


 そう考えるとチーム分けも理にかなっているような……?


「なんか、納得した? ような気がするかも?」


 腑に落ちないながらも、そういうものかとも思う。父も母も、そうだろうと言わんばかりに頷いた。


「あとさ、なんで魔法の呪文がアレな訳?」

「ああ、エノレちゃんのゲームは〝昔懐かし昭和の香り〟ってサブタイトルがつけられていて、その呪文が特徴的だったんだよ」

「お母さんが子供の頃は、魔法ってそんな呪文だったのよ。魔法のステッキ振り回さなくていいだけマシだわ」

「変身もしないしね」


 父と母が何気に楽しそうだ。


 なんだかんだ言って、裏家業を始めてから、みんな生き生きとしている。


「でもあの呪文、口に出して唱える必要はないだろう? 発動は最後の一言だけだし」

「ええ!? そうなの?」

「そうなの? って、まさかさっちゃん、あれ全部声に出して唱えてたの?」


 くそう、やられた。


 女神様が呪文を間違えると発動しないから、慎重に唱えるようにって言うから……。確かに声に出してとは言われてない。でもあの時の言い方だと、はっきりと声に出して唱えろって感じだったのに!

 だから毎回賢さんは笑いをこらえていたのか! あれは呪文を笑っていたわけではなくて、私のバカさ加減を笑っていたのか! くそう。知っていたならなぜ言わない!


 両親の遠慮ないバカ笑いが心に突き刺さる。クソ女神め!




 今、私の髪は頭の上でとぐろを巻いている。ふん、ソフトクリームヘアーだ!

 毎朝起きるたびに妙にリアルな銀蠅のヘアピンが刺さっているのが、一層腹立つ。






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