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──おまけ

 パンチな母は、翌朝になってもちりっちりだった。

 一晩経てば元に戻っているだろうと高をくくっていた母の、またしても「いやーん」という微妙な雄叫びで目が覚めた。

 目覚めが最悪だ。


 朝も早くからスカーフを頭に巻き、つば広の帽子を目深にかぶり、サングラスをかけて、今時芸能人でもしないような変装をして、こそこそと美容院に出掛けた母が、数時間後涙目で帰ってきた。

 そこまで変装したのに、いつの間にか元に戻っていた迷彩柄の軽トラに乗っていったものだから、我が家の誰かだとバレバレだ。


「縮毛矯正すら太刀打ちできないパンチ……」


 母の呟きがイタすぎる。せめてアフロならまだ笑えた。ドレッドならむしろイケるかもしれない。だがしかし、パンチはない。かなりヤバイ。


 その日から、母は女神様のほこら周りをそれはもう丁寧に整え、朝昼晩とほこらに泣きつき、それはもう心から反省しているかのように見えた。一見。


 テレビを見ながら、二つ折り座布団枕に横になり、ばりばりとおせんべいを食べながら、がははと笑っているのは、これいかに。

 どこからどう見ても反省の欠片がない。


「えー、だって、それはそれ、これはこれ、でしょ?」


 いやいや、でしょ? って聞かれても。日々慎ましやかに過ごすという気はないのか。


「それにね、三日もすればパンチも見慣れるわよ」

「あのさ、多分一生パンチだよ」

「まあ、いいんじゃない? いざという時はカツラでも買うわ」


 この開き直り。


「あのさ、夏休み明け、進路面談があるんだけど、おばあちゃんに来てもらうから」

「えーっ! いいじゃない。パンチな母でも」


 嫌すぎる。学校中の笑いものになるのは母ではなく私だ。折角今まで清く正しく慎ましく生きてきたのに。


「あっ、羊羹じゃない? ほら、おじいちゃんのおばあちゃんだったっけ? 羊羹お供えしてお願いしたって言ってたじゃん!」

「そうだっけ?」


 そういえば母はあの話の時、興味なしとばかりに聞いていなかったかも。


「とにかく、羊羹三つだったか五つだったかを枕元において寝るといいよ」

「特売のでいいかしら」


 ちょうど広告に載ってるわ! という母の手元のチラシを破り捨てた。これ以上悪化させてどうする!


「ほら、前にお取り寄せしてた、老舗和菓子屋の羊羹にしなよ。最高級品にした方がいいから。ケチって安いのにしないで。これ以上お母さんが見るに堪えない姿になったら、私、家出てくから!」

「やださっちゃん、庭にテントはもうないわよ?」


 そんな近場に家出しないから。


 その数日後、お取り寄せの最高級羊羹が無事に届き、翌朝、母はちりっちりから脱却した。




 その一方。

 すっかり見慣れたドピンクのふりふりカードが枕元にひらり。


「でかしたさっちゃん? 羊羹のお礼? 時代はゆるふわ?」


 私の自慢の黒髪が、茶色のゆるふわに変わっていた。時代はゆるふわじゃない!


 毎日手塩にかけて大切にしてきた黒髪が……。こけしと罵られても聞こえないふりをしてきた自慢のストレートが……。


 なぜかみんなに大好評だったのが、一層涙を誘った。






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