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13 怪しい女は首を刈る

ほんのり残酷描写があります。ご注意を。

 都市国家ネメエは東の砂漠で最大のオアシスの中にある。オアシスはネメエ湖を中心とした一帯に広がっており、ネメエの城壁は湖畔に半円を描く形で築かれている。人々はその内外で暮らしているのだ。


 予定どおり四日の行軍でネメエのオアシスの縁までたどり着いたハイラ軍。その陣中にアグラー=サナトゥスはいた。アグラーは、すでに斥候を出して都市の様子を窺わせていた。 

 ネメエがサージィに攻められているとすれば、城壁を包囲されながら戦っているに違いない。あるいは市街戦に──そういった予測をアグラーは立てていたが、戻ってくる斥候の報告はいずれもそれを裏切るものだった。


「サージィ軍と思われる部隊、ネメエの城壁東側に駐留しております。交戦中の様子はありません」


「ネメエ城門は大きく開かれていますが、人の出入りはありません! サージィ軍が占拠しているものかと!」


「城壁内は静かで、戦闘の音もしません……ひとつだけ煙の上がっている建物がありましたが、政庁のようです」


 それらの報告からアグラーが出した予想は、最悪の結論だった。


「陛下!」


「アグラーか。何か分かったか」


 慌ててバエッタの元に駆けつけたアグラーは、頭を下げながら報告する。


「恐れながら、ネメエはすでに陥落したものと思われます。ネメエの城門は開かれ、戦闘の様子はありません。また、政庁らしき建物が燃えているとか……。東側にはサージィ軍が駐留しております。一戦交えるにしろ、退くにしろ、決断は迅速にすべきです。私としてはここで退くなどありえませんが」


「おぬしの物言いは、いつも明確で良いな。大抵の奴は、すべきではないでしょうか、とか、するほうがよいかと存じます、とか、まどろっこしい言い方をする。対しておぬしは、すべきです、とこうだ」


 面白そうに話すバエッタを、アグラーはやれやれという面持ちで眺めやった。

 軍中にあっても泰然自若に振る舞うのが、この王の常である。


「陛下、そんな悠長な話をしている場合では……」


 バエッタはアグラーの態度を意に介さず、そして迅速に決断を下す。

 その表情は自信に満ち溢れていた。


「一戦交えよう。向こうがこちらに気付くのも時間の問題だろう。すぐに全軍で攻撃する」


 王の言葉に、アグラーは姿勢を正して答える。


「はっ。準備は整っております!」


「ただし……おぬしは第三軍を率いて南方へ迂回し、そこで待機せよ。我が軍が苦戦するようであれば、すぐに北上し、援護するのだ。次、ゼエレス!」


「承知いたしました!」


 一段と深く頭を下げると、アグラーは受けた命令を実行に移すため、すぐさま王の前を退去する。

 それと入れ違いになるように、バエッタに呼ばれた男が前に出た。 


 ゼエレス=ステレシア。第四軍の副団長を務める騎士である。ゼエレスは騎士の中でも上位の魔法使いで、ほとんどの場合、魔法が得意な騎士を集めた魔法部隊を指揮していた。


「ははっ」


「おぬしは魔法部隊を率いて後方に控えよ。万が一、ネメエの城壁を攻めることになった際には活躍してもらう。それまでは、オアシスの中を探れ。逃げ出している者がいるかもしれん」


「お任せを」


 ゼエレスが、騎士にしては珍しいひらひらとした外套を翻して退去する。

 その背を見送ったバエッタは、よく通る声で、号令をかけた。


「全軍、出撃! 各軍団に伝えよ」


 そばに控えていた兵士がそれぞれ駆けて王の号令を伝える。

 その号令に応え、陣の各所で出撃の声が上がる。

 数分ののち、アグラー麾下の第三軍、ゼエレスと魔法部隊を除く全軍が、弧を描いて敵を押し包むような陣形で、ネメエに殺到していく。

 兵数で勝るサージィ軍を包囲し、封殺せんという目論見だった。


 アグラーはその様子を左手に見ながら、少しずつ距離を開けて南下していった。


「サージィの兵数は、どんなに多くとも我らの五分の一以下。負けるはずはありませんな」


 明るくそう言ったのは、アグラーの副官だ。


「数で言えばそうだが、ネメエが四日と持たず陥落しているのが気にかかる。どんな手を使ったのか、考え出せば切りがないが……それが我々に通じぬたぐいの手であればよい」


 ときの声が上がる。ハイラ軍と、そしてアグラーは視認できていないが、サージィ軍から。お互いに敵の姿を認め合ったのだろう。

 ハイラ軍が大きくうねる。騎士の鎧などに陽光が反射し、光がオアシスの中を駆け巡る。


 そのまま激突すれば、サージィ軍はたやすく崩れ去るだろう。

 そうアグラーが考えたとき、サージィ軍が姿を現した。


 主軍から離れ、南に位置する第三軍の──アグラーたちの目の前に。


「馬鹿なっ……敵!?」


 狼狽しかけたアグラーは、恐慌に陥りかけている第三軍を目にし、一瞬で自分を取り戻す。この軍を立て直す役目は、自分のものだ。そう言い聞かせ、目の前の敵を迎え撃たんと叫んだ。


「迎撃態勢! 一兵たりと通すな!!」



   ☆   ★   ☆



 都市国家サージィの将軍、ゲラス=サレグ。ネメエ侵攻の軍を率いる指揮官である。

 ゲラスは、はなはだ不本意な気持ちで、ネメエの城壁を見上げていた。彼は、昨夜のことを思い出していたのだった。


 サージィの国家長より命を受け、ネメエを強襲したまではよかった。しかし、ゲラスを出迎えたのは高い城壁と固く閉ざされた城門で、ゲラスが得たのは降り注ぐ矢と投石による被害だけだった。サージィ軍の動きは完全に察知されていたのである。

 三日間が徒労に終わり、これ以上時間をかけてはハイラ軍が救援に来てしまうと諦めかけたその夜。怪しい女がゲラスの元を訪れた。女は黒い布で顔をすっぽりと覆っていた。


「今日の真夜中に城門を開けて差し上げますわ。政庁を闇討ちなさってはいかが?」


「なに?」


「いたずらに兵を損ねることも、ネメエの民の恨みを買うこともなく、ネメエを落とせますわよ」


 妖艶な声で、そう女は言った。

 ゲラスはその女がまったく信用できなかった。どこの手の者か、何が目的なのか、探るように睨んで問いかける。


「貴様を信じられると思うか? 何者だ」


「あら、あなたのところの国家長は、信じてくださったわ。だからわたくしがここにいますの」


 女の声は、自分が疑われるのを面白がっているような調子だった。

 懐に手を入れる女の行動を見とがめ、思わずゲラスは剣を抜いたが、女は意に介さず、何かを取り出して見せた。

 サージィの紋章がついた短剣。それは、サージィの国家長が自分の意思を伝える者に渡す証であった。


「それは、長の……そうか」


 何者であろうとも、国家長の代理と言われては、逆らえるはずもない。

 ゲラスはこのまったく信用ならない女の言葉に従うことを決めると、低い声で言った。


「いいだろう、貴様の言うとおりにしてやる」


 そうして、女に言われるままにゲラスが十数人の精兵を選び用意を整える。すると、時を見計らったかのように、城門が開いていった。

 ぎしぎしと重たい音を立てながら門は左右に開き、ネメエの町並みが姿を現す。

 城門やその周囲を警戒しているはずのネメエの兵士たちは、誰ひとり姿を見せなかった。


「言ったでしょう。さ、すぐに国家長の首を獲ってしまいなさい」


 ゲラスたちは城門から真っ直ぐに通りを駆け抜け、都市の中央からやや湖よりにあるひときわ大きな建物に近付いた。


「これが政庁か」


 何もかも女の言ったとおりである。さすがにここには兵士が残っているようで、政庁を囲う塀の前には警備中であろう兵士たちが立っていた。

 物陰から、ゲラスが部下に指示を出す。弓矢で兵士たちを射殺そうというのだ。

 しかし、その指示が実行されるより早く、入口を見張っていたふたりの兵士が相次いで倒れた。


「なっ!」


 矢がゲラスたちの頭上から飛来したようだった。

 ゲラスが矢の飛んできた方向を見上げると、建物の上に黒装束の人影がふたり三人と見える。


「ちっ……あの女の仲間か? 行くぞ。屋敷の中の連中は皆殺しだ。誰ひとり逃がすなよ」


 ゲラスは指揮官としての才覚は人並みだったが、得物を持って戦うことには長けていた。そして、そのゲラスが選りすぐった兵士たちもまた、手練れ揃いだった。

 彼らは、音もなく忍び込むと、出会い頭に人々を一撃で葬り去っていく。子供、女、奴隷、相手が何であろうと関係なかった。


 こうして政庁の部屋という部屋を下から上までしらみつぶしに調べ、人がいれば殺していった。中には剣を取って反撃してくる者もおり、混戦になった際には部下を三人ほど失ったが、逃げ出せた者は誰もいない。そうして誰が誰やら分からぬままゲラスたちが政庁を制圧し、入口に戻ってくると、そこには先程の女が立っていた。


「ご苦労さま。それでは、これはわたくしがいただいてまいりますわ」


 女は手からぶら下げていた丸い何かを、薄明かりにかざして見せた。


「うっ……この女……」


「まったく、貴方たちが誰とも確認せずに殺していったおかげで、見失うかと冷や冷やしましたのよ」


 それは、ネメエの国家長の首。もちろん肩から下はない。

 女は髪を束ねて掴み、首をぶら下げているのだった。


「息子夫婦も探しているのですが、見当たりませんわね」


 まるで紐にくくりつけた西瓜でも運んでいるように、女は平然と生首を自分の肩にかけた。

 ゲラスの部下のひとりが吐き気を抑えるように腕で口を覆う。行動にこそ移さなかったが、ゲラスも同じ気分だった。


「出口はここひとつだけだ。貴様らがここにいたんなら、そいつらも中で死んでいるはずだぞ」


「仕方がありませんね、政庁に火を放ちなさい」


「……くそっ。おい、お前ら、油を持ってこい。火種もな。それから、お前らは陣に戻って人を集め、城門を閉じられないように壊せ。それでネメエは、終わりだ」


 ゲラスは吐き捨てるように、言った。

 謎の女たちも火が放たれるのを確認すると去っていき、すべては終わったように彼には思えた。


「ゲラス殿、いかがなされるか」


 そう声をかけられたゲラスは、はっと現実に引き戻される。胸糞の悪くなる昨夜の記憶を放り出し、彼は再びネメエの城壁を睨む。


 そう、陥落したはずのネメエの民は、諦めなかったのである。


 夜が明けると、ゲラスたちはネメエ軍へ投降を促した。

 ところが、ネメエの兵士たちは誰ひとりとしてそれに従わない。城門は開かれ、城壁の上から弓を構えるのは今やサージィ軍だ。さらに政庁は焼かれ、国家長らは誰も姿を現さない。

 そんな状況であっても、兵士たちは戦うことを選んだ。


 たくさんの民家にバラバラになって隠れ、徹底抗戦の構えを見せたのだ。

 ゲラスに残された選択肢は、ネメエをすべて破壊し、焼き払うか、それとも国家長を討った戦果に満足して帰るかである。

 早ければ明日にもハイラ軍がここに到達する。彼は、迅速な、決断を、迫られていた。


「どうするか……」


 ゲラスには、ハイラ王バエッタのような決断力はなかったし、ハイラ騎士団長アグラーのような判断力もなかった。

 そうして逡巡を続けたゲラスの元に、彼の予定より一日早く、ハイラ軍が襲来する。


「狼の旗印! ハイラ軍だ! ハイラだぁっ!!」


 ゲラスはまた迷う。迎撃すべきか、退却すべきか。

 だが、今回ばかりは迷っている時も短かった。敵が怒涛の勢いで接近してきているのである。


「全軍、撤退! 目的は達した! 南へと離脱する!」


 逃げる、と言わなかったのは彼の小さな誇りに傷をつけたくなかったからかもしれない。

 そして、西から来るハイラ軍に対し、東に逃げなかったのも、敵に背を向けたくないという彼の情けない誇りのせいかもしれない。


 その結果、サージィ軍は、遊軍となっていたハイラの第三軍と、正面衝突した。


「迎撃態勢! 一兵たりと通すな!」


 ハイラ軍にしても予想外の衝突だったのだろう。相手の指揮官が必死に味方に指示を送っているのが見えた。

 だが、サージィ軍の状況はそれに輪をかけて悪かった。


「退くな! 後ろから味方が来てるんだ! さらにその後ろには敵がいるんだぞ! 押し通るしかねえ! 行けえええ!!」


 絶叫。そして絶叫。ゲラスは力の限り叫ぶ。

 ここで先頭が止まったら、そのまま軍全体が潰される。


 しかし、ハイラ軍も必死だった。ここを抜けられれば遮るものは何もない。あとは砂漠でひたすら追いかけっこをする羽目になる。

 ネメエを陥落させられた以上、サージィ軍を逃がすわけにはいかないのだ。


三日月ハルヴァの陣を敷け! 敵を押し包めえ!!」※1


 ハイラ軍の指揮官も負けじと叫んだ。

 兵士たちがすぐにそれに応じ、前進する敵を、包むように横に陣形を広げる。


「中央に戦力を集中させろ! とにかく突破する!」


 相手の陣を見て、ゲラスは中央突破を指示した。

 そのまま自分で突っ込んでいき、敵兵を斬り散らして進む。


「お前がサージィの指揮官だな!」


 そのゲラスに前方から馬を寄せてきた男がいた。先程から陣頭で指揮していたハイラの将軍である。ゲラスは敵手強しと見て馬を止め、剣を上に構えて様子を窺う。


「ハイラ第三軍騎士団長、アグラー=サナトゥスだ。お前の首級くび、上げさせてもらう!」


「サージィ軍主将、ゲラス=サレグ。いくぞぉぐがはっ!!」


 こいつを倒せば、ここを突破できる。

 そう確信し、名乗りを返したゲラスを、直後、一本の槍が後ろから貫いた。

 首筋をえぐり、よろめいたところをさらに槍の柄がゲラスを馬から叩き落とす。


「ち……ちくしょ……」


 意識と共に命を失いながら、ゲラスは最期にふたりの会話を耳にした。


「ネーヴァ! 一騎討ちの名乗りをしている相手を後ろから殺すなど……」


「うるさいなあアグラー団長は! 戦場でぼさっと突っ立ってるほうが間抜けなのよ。サージィの主将サレグの首、このネーヴァが頂戴した!!」


 豪勇で知られたゲラスをはじめ、戦線の各所でサージィ軍の将校が討たれていった。ハイラの主軍から我先に逃げ出そうとした将校たちが、軍の先陣に固まっていたせいである。その結果、サージィ軍の戦意は急激にしぼんだ。わずかに包囲を抜け出す者はいたが、ほとんどがハイラ軍に包囲殲滅されていく。

 ハイラの主軍が追いつくと、さらに一方的な戦いが繰り広げられるだけだった。馬に踏み潰され、突き出された槍に刺さり、逃げようとして転んだ兵の上にさらに兵が転び、積み重なって圧死する。


 やがてバエッタの判断で包囲網の一角が、わざと崩れされた。完全に包囲してしまうと、死兵となった者たちが狂ったように戦い、味方の被害が拡大するからだ。

 崩れたところにサージィ軍が殺到し、そこに集中攻撃を加えることでさらに屍が増える。


 ネメエ近郊でのハイラ軍とサージィ軍の戦いは、ハイラ軍の一方的な勝利で終わった。



   ☆   ★   ☆



「……というのが、ネメエでの戦でありました」


 第三軍騎士団アグラー=サナトゥスが、一同を見回した。

 国王バエッタ=フィアロッドをはじめ、各軍の騎士団長、そして宰相ら重臣が卓を囲む中、大将軍の姿だけ見えない。また、それに加えて本来は会議に出席できないであろう男女二人が、そこには列席している。


 ファリシアの騎士団長──今はまだ代理だが──としての最初の仕事は、ネメエから帰還したハイラ軍の戦後処理会議への出席であった。


 会議が始まると、まず、ファリシアら遠征に参加しなかった者たちのために、遠征の顛末がアグラーから語られた。

 それは奇妙な話であったし、ネメエが理由も分からず陥落したというのも、一同にとって衝撃的であった。


「滅んだといっても、殺されたのは政庁にいた国家長の一族や都市の重役たちのみで、民にはほとんど被害がありません。言い方は悪いですが、頭をすげ替えればどうにでもなる話だと私は思います。現状は、大将軍が第二軍と共に駐留しており、都市としての機能はほとんど回復しております」


 歯に衣着せぬ物言いをして、自分の説明すべきことは終わったとばかりにアグラーが口を閉じた。続いてその四つ左の席の男が口を開く。第四軍副団長のゼエレス=ステレシアだ。


「サージィ軍の動きが非常に不可解なことから、今回のサージィ軍の目的はネメエの制圧でなく、その国家長の命だったのではと思われます。そしてそれは恐らくサージィの意思というよりも……裏に介在する何者かの意思だったのでは、と。それゆえ陛下が、おふたりをこの会議にお呼びになりました」


 ゼエレスが自分の右手に座る男女を手で差し示した。示されたふたりは立ち上がり、国王バエッタのほうを向いて深くお辞儀する。

 バエッタはそれを受けて、ふたりを紹介した。


「多くの者は知己であろう。セバルト=ライデン=ネメエス。ネメエ国家長の息子だ。そしてセバルトの妻であり、予の娘であるトレジア……を知らぬ者はおらぬだろうな」


 セバルトとトレジア。政略のため八年前に夫婦となった彼らは、実はファリシアと同い年である。当時十三歳のファリシアが、王女の意志などない完全な政略結婚を見て、自分は政治には従えぬと心に誓ったのを、彼女は覚えていた。そして八年間、残念ながらいまだ子供を授かってはいないらしい。

 どうやらふたりはネメエの城門が破られ、政庁が襲われて焼かれるより以前、ネメエを脱出していたようだ。


「今は亡きセバルト殿のお父上が、サージィ侵攻を受けておふたりを湖より逃がしたのです。陛下の命を受け、オアシスを探っていた私が見つけることができまして」


 ゼエレスが落ち着いた声で事情を説明する。

 その中でゼエレスがさらりと自分の功績を主張したため、ファリシアは、やはりこの男は好かない、と思った。いつも自分と魔法の腕を競おうとして、彼女に断られ続けている男だ。


「そのことについては、感謝の言葉もございません」


 ゼエレスとはと対照的に熱の篭もった、よく通る声が響いた。セバルトである。

 日に焼けてがっしりとした体つきのセバルトは、恐縮していることを示すためか、その身を縮こまらせるようにして話す。


「本来であればネメエに残り、民のため尽力せねばならぬところですが、我が命と、我が妻の命欲しさに、バエッタ様に保護をお願いしてしまいました。というのも、父は自分が命を狙われていたのを察していた風なのです。私と妻を逃がす時、父はこう言いました。この争いはネメエとサージィの問題ではない。私が一度はあの誘いに乗りかけ、そして結局は拒んでしまったからだ、と」


「この件については、予がすでに調査を命じて進めさせている。サージィとネメエについて、おぬしたちも聞き及んでいることがあれば報告せよ。いいな」


 バエッタの言葉に一同がうなずいて頭を垂れる。


「さて、そういう理由があるので、事実関係がはっきりするまでは、セバルトとトレジアは死んだものとして扱う。ふたりの居場所は限られた者のみ知れるようにしよう。くれぐれも口外するなよ」


 バエッタがそう締めくくると、セバルトとトレジアは退出することになった。

 ふたりがいなくなると、アグラーが再び口を開く。進行役のような状態である。


「次に、今回の戦の褒賞についてですが……」


 最も重要な話が片付き、少し気の抜けたような空気の中、戦後処理会議は進められるのだった。


 


※1 三日月の陣≒鶴翼の陣

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