七十八話
ここでレイジに一種のひらめきが走った。それはレイジの胸を高鳴らせ、体の末端まで血液の勢いが感じられるようなひらめきだった。
二人きりになるような呼び出し。いつもと違う態度。……これはまさか、愛の告白というやつなのでは!? レイジに春来たる!
スミカがたっぷり間を開けて続けた。
「なら一日程度休んでも問題ないな。明日は私と一緒に出かけるぞ」
ぴしゃーん!
ひらめきを越えてレイジに衝撃が走った。
こ、こ、これは……まさか……この流れは、デートのお誘いなのか? そうなのだな!
むふふ。講義を休んでまでとは、さすがスミカだ。大胆にもほどがある。しかし、その意図は繊細だ。ここで告白するのではなく、デートの最中、どこかのタイミングで思いを伝えるつもりなのだ。スミカのやつ、可愛いところがあるじゃないか。
もちろんレイジにはこんな経験皆無である。すーはー。落ち着けレイジ。慌ててはならない。いつもはスミカに振り回されっぱなしだが、ここぞとばかりに「明日は俺に任せておけ!」と男らしくドバババーンと胸を叩くのだ。
叩き過ぎると、男らしさを通り越してただのゴリラである。
「わかった。じゃあ、行く場所は考えておくから!」
レイジはそう言うと、自分の世界に入っていく。もやもや。
それにしても、まさかスミカが……。だが待てよ。告白されたとして、どう返すべきなんだ?
スミカはかわいい。すぐにぼかぼか殴るのはいただけないが、行動力があるし、頭もいいし、何より仲間思いだ。本来であれば問答無用でオッケーするべきだろう。だが、他のスレイ部メンバーが気にかかった。
キョウはレイジを好いてくれている。スミカと付き合えば、当然その気持ちには応えられない。キョウの中には怪しげなレイジのビジョンがあるようだが、真剣なのは疑いようがない。きっと、がっかりしてしまうだろう。
それだけじゃない。スレイ部メンバーにとってスミカは主人だ。その主人と付き合っているレイジはどういう扱いになるのか……全く予想がつかなかった。少なくとも今まで通りの関係とはいかなくなるだろう。レイジが奴隷でも主人でもない宙ぶらりんの状態になることで、部員との関係が壊れてしまうかもしれなかった。せっかく仲良くなれたのに、それは嫌だ!
……などと、レイジはかなり真剣に考えていたところ。
「おい、レイジ」
外からの声でもやもやが払われ、レイジは自分の世界から現実に引き戻された。
スミカはどうにも怪訝な顔をしている。
「何を言っている? とにかく明日は私についてこい。わかったな」
「あ、うん」
デートではなかったらしい。
頭の中身がだだ漏れじゃなくてよかった。もし一パーセントでも内容がスミカに伝わっていたら、レイジは恥ずかしさで燃え上がりながらこの場を走り去るしかなかっただろう。遠赤外線のふっくら仕上げです。
「変なやつだ。朝から出かけるからな。遅刻は許さんぞ」
「わかってるよ。必要なものは?」
「特にない。服装も制服で構わん。強いて言うなら、身だしなみには気を使え」
「あの……どこに行くとか……」
「伝えることは以上だ」
バタン。
ドアが閉まる。レイジを置いてスミカはさっさと部屋に戻ってしまった。唖然とするが、これもスミカらしい。
レイジも遅れて部屋に戻った。
レイジはちらちらとスミカを横目で観察するが、何のことはない、いつも通りの態度に見えた。
スミカの用事とはなんだろう? 彼女のことだから予想もつかないことなのだろうが、考えてもわからないとなると余計に気になってしかたがない。
その後も部屋では楽しい時間が続いたが、レイジはいまいち身が入らないまま過ごしてしまった。




