七十六話
その輪にアンリ、タケミ、そしてノブコ先生が入ってくる。
「何やってんだい? 楽しそう……ではないか。妙に静まり返っちゃってさ」
「先生たちも仲間に入れてー」
「レイジがジュースを混ぜているのですわ……」
「へー、ミックスジュースだね!」
アンリの言葉にはっとした。
不気味な色で先入観を持ってしまったが、果物同士を混ぜたミックスジュースに他ならない。そこまでおかしい味になるはずがなかったのだ。
「混ぜるなら、こういうものもあるよ」
アンリはレイジの前に無色透明の液体が入ったボトルを置く。中には細かい気泡が無数にある。
「見たことないサイダーだね?」
ぷしっと封を切ると、レイジはコップに注いた炭酸を飲んだ。
味がしない。ビリビリとした炭酸の刺激だけで、正直おいしくない。味覚がおかしくなってしまったのだろうか。
もう二度とサイダーをおいしく飲めないのだ。そう思うと、レイジを深い悲しみが襲った。最後にサイダーを飲んだのはいつだったか。
――そう、あれは夏の暑い日だった。汗をかきながら帰宅したレイジは、真っ先に冷蔵庫へと向かった。ひんやりとした冷気の出迎えを感じながら、扉の棚に立っているボトルを迷わず取り出す。蓋を開けるとその場でラッパ飲みをした。少し強すぎるぐらいの刺激が喉を下っていくと共に暑さを吹き飛ばしてくれるようだった。飲んだ後、香料が鼻から抜け、すっきりとした後味がふわりと消えていく。この清涼感は他の飲み物では得難いものだ。
あの感覚をもう味わうことはできないのだ。なんという悲劇だろう。あれが最後だと知っていれば、もっと味わって飲むべきだった……。
遠い目をしたレイジを見てアンリが笑いだした。
「レイジくん、サイダーじゃないよ。ただの炭酸水。ほら、お菓子やジュースで口が甘くなりすぎちゃうでしょ。これでジュースを割ったら、甘味が抑えられるし風味も変わっていいんじゃないかと思ったんだ」
「どうりで味がしないわけだ。びっくりしちゃったよ」
「六号くんはおっちょこちょいねー」
ノブコ先生にも笑われてしまった。
それをごまかすわけではないが、では早速とレイジは飲みかけの炭酸水にオレンジジュースを注ぐ。混ざり合う際にしゅわしゅわと泡がはじけた。
「半分づつだと味気ないから、炭酸水の倍ぐらいのジュースがいいかな。あとは好みで甘みや炭酸の強さで調整してね」
レイジはアンリのアドバイス通りに一対二の割合で混ぜてみた。一口飲む。
「おお、かなり雰囲気変わるね。飽きがこなくていいや」
メンバーは様々なジュースでオリジナルのブレンドを試し始めていた。さらに、それに合うお菓子はどれだろうと食べ比べているようだ。
味が変わるのはもちろん、自分で作るのが楽しい。次はどんな組み合わせにしようかとレイジが考えていると……。
とん、とん。
肩を叩く者がある。




