↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
60/90

六十話

 呪い……そんなもので、この人数をあっさりと倒せるものだろうか?

 アンリはマヨを見つめるが、その暗い表情は何とも読み取れない。

 マヨを中心として描かれた精巧な図形。その周りに倒れた生徒たち。香炉から湧き出る煙が辺りにうっすらと拡散し、妙な臭いを漂わせている。雰囲気はたっぷりと言えよう。

 そんな中で倒れ、もがき、呻く生徒たちは、呪い、あるいは魔術の存在を立証しているようにさえ思えた。


「私が名乗ったのに……。あなた、名前は?」

「僕は倉持アンリだ。〈学園破り〉なら容赦しないよ」

「アンリ……。いい名前ね」


 するとマヨはアンリによく見えるよう、人形を差し出した。どうしても視線を奪われる。

 全体にぞんざいな作りだが、それには顔があり手足がある。人形は麻のような目の粗い生地で、所々が破けて綿が少し飛び出していた。目の部分に木製のボタンがつけられ、口をけば立った糸で縫われていた。

 突然、人形の首がくりっと動いた。マヨが動かしたのだろうが、その動きはあまりにも生き生きとしていて、人形がアンリと目を合わせたように見えた。


「見たね……。この人形と目が合ったなら、アンリの精神はもうこの人形の中……。この人形が傷つけば……アンリも傷つく」


 マヨは人形をじっと見つめ、顔の前で指をこちょこちょと動かした。


「抜け落ちた羽根、石の下蠢くムカデ、粘膜突き刺さる繊毛……顔を覆うは乾いた空気」


 マヨはゆらりと体を揺らす。それにつれて首から下げた香炉も動く。

 アンリは鼻の頭がむず痒くなった。マヨのあの動きのせいだろうか。思わず眼前を手で払う。

 マヨは人形の顔を手で覆った。


「冷たい石畳、二段目の押し入れ、闇夜の烏……夜の帳は濡れ衣の重み」


 目の前がふっと一段階暗くなる。まぶたが重く、息苦しい。

 アンリはネクタイを緩めた。息を吸うと、あの嫌な臭いがどっと肺に押し寄せてきた。気温はさほどでもないのに、むしろ体は冷えてきているのに汗が止まらない。


「ダンスしましょう」


 マヨが人形をくにくに動かす。それに筋肉が反応しそうになる。

 アンリはオカルトの講義を受けて、一つの自説を確立していた。呪いや魔術は存在しない。限りなくそれに近い何かがあったとしても、必ずカラクリがある。

 だとすれば、これは暗示だ。しかも飛びきりに強烈な。


「抵抗すると、余計苦しむ……」


 マヨの手がより激しく動く。それに合わせて人形が踊る。

 だが、アンリはその通りにならなかった。

 表情を歪めながらも走り込むとマヨに向かって手刀一閃。マヨは目を見開く。とんと後ろに飛び退き、かろうじてそれをかわした。


「どうして動けるの……」

「人に宣言して行う呪いはまやかしだからだよ。本物なら大げさな演出は一切必要ない。ただ黙って相手を呪えばいい。そうしないのは、何かタネがあるからさ」

「呪いや魔術をトリックだと思っているのね……」


 マヨはじっとり半眼でアンリを見た。人形をしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。