六話
残るはあの暴力女、スミカだ。彼女のリボンも青。なんだ、同学年じゃないか。
堀之内、エリナ、そしてノブコ先生は、何も言われないうちに後ろに下がった。
おお、よくわからないが、すごく統率がとれているぞ。
「最後は私だ。寳栄スミカ。今日から、おまえの主人となる。光栄に思え」
「はあ、どうも」
寳栄スミカも間違いなくかわいい。小さくて、髪の毛がふわっとしていて、小動物のような愛らしさ。だが、内に秘めているのはライオンかトラである。見た目詐欺だ。
「そして、ス――部の部長でもある」
スミカはもごもご早口になって、部名のところだけよく聞き取れない。
とりあえず、レイジは聞こえた通りに聞き返してみる。
「スレイ部?」
ノブコ先生は顧問だと言っていた。つまり、奴隷というだけでなく何かの部活なんだ。
しかし、スレイって聞き慣れない。確か、ソリって意味の単語だったかな。雪の上を滑る、あのソリだ。ウィンタースポーツの部活動なのか。
「そうだ。奴隷部では風紀を乱すとやらで、審査を通らなかったのでな」
スレイブ。意味、奴隷。
少し期待したのがバカだった。やっぱり、奴隷じゃないか!
しかも、なんだそのセンス。そりゃあ、奴隷部やスレイブ部よりはいいかもしれない。
考えておいてなんだが……スレイブ部だって。うぷぷ。濁音が連続すると、何となく間抜けだ。レイジは自分でおかしくなってしまった。
「ごっふん!」
唐突なスミカパンチでレイジは壁までぶっ飛ばされた。
ひりひりする頬を抑える。
「今のはなんで!?」
「奴隷の癖に、よからぬことを考えていそうだったからだ」
スミカは眉をしかめているが、ほんのり頬を染めている。
自分で言えないぐらい恥ずかしいなら、そんな名前は止せばいいのに。
堀之内がスミカの後ろで首を振る。言葉にはしないが、絶対に口に出すな、とそういう素振りだ。
いやあ、口には出していないんですがね。出しませんとも。命は一つ。
だが、さっきから奴隷、奴隷って、なんだよ。すぐにボコスカ殴る。
なるがままにここまで来てしまったけれど、思い返せば理不尽だ。レイジ自身の意思が一つも反映されていない。
レイジの中で反骨精神がむくむくと起きあがった。
「今日から六号はスレイ部の部員、つまり私の奴隷だ。よかったな」
「いやだ」
部屋がしんとなった。
この空気はまずい。でも、もう後には引けない。
「全然よくないよ。俺は奴隷になんてなりたくない。スレイ部になんて入りたくない!」
「あっ! 六号が逃げますわ!」
レイジは言葉の終わらぬうち、部屋から駆け出る。
振り返る。
スミカが鬼の形相で追いかけてくるかと思いきや、誰も追ってこない。
怖えー、めちゃくちゃ怖えー。
でも、自己紹介までしてくれたのに、あそこまできつく言う必要はなかったよね。
ドアの上には、手書きで〈スレイ部〉と書かれたバナーがあった。
スミカが書いたのかな。あんまりうまい字じゃない。あの高さじゃあ届かないから、きっと堀之内が貼ったんだろうな。エリナ生徒会長が貼る位置に細かく注文を出して、ノブコ先生はそれをにこにこ見ていたんだろうな。
光景が目に浮かぶようだ。
「いかん、いかん」
レイジは首を振る。
ここでぼんやりしていたら捕まってしまう。今度こそ、どんな目にあわされるかわかったものではない。
後ろ髪を引かれながらも、レイジはスレイ部を離れた。




