五十七話
学生寮屋根の上、ポニーテールを風に吹かせながら〈学園破り〉を見物するのは龍晃学園リーダー、逆瀬リン。
「さすがは一等級。二等級のように簡単にはいかないか。だが、時間の問題だな」
彼女自身は〈学園破り〉に飛び入らず、高みの見物である。
「おい、あんた。そこがどこだか知って立っているのかい」
声の主はタケミだ。いつの間にかリンの背後にタケミが仁王立ちしていた。
リンはゆっくりと振り返る。
「ここの学園寮のようだが」
「わかってんなら、覚悟はできてんだね」
彼女は自分の寮を足蹴にされてお冠なのだった。リンの頭を無造作につかむ。
「む」
リンは振りほどこうとするが、タケミはバカみたいな怪力だ。指が外れない。指に万力のような力が込められる。リンの足が屋根を離れた。
「寮母を怒らせたら……いけないよ!」
タケミはリンを地面に向かって投げつける。弾丸さながらの勢いでリンが飛ぶ。煉瓦で舗装された道は頑強だ。
しかし、リンはくるりと空中で回転すると羽毛のように柔らかく着地する。長い髪が宙をうねる。
追ってタケミがすとんと屋根から降りた。
「なんなんだい、あんた?」
「さすがは一等級学園鈴ヶ森。寮母も一級品だ。私は逆瀬リン。学園の等級をぶち壊しに来た」
「等級を……ぶち壊すだって?」
タケミの背筋をぞくっと何かが這い上った。こんな感覚、味わったことがない。
逆巻くように風が吹き、リンの髪が巻き上がった。まるで龍のように。
――その頃、本棟。
学園長室の前に教師たちが集まっていた。
「学園長! 出てきてください!」
「〈学園破り〉なんですよ! 生徒たちに指示を!」
学園長はと言うと、通常業務に没頭していた。いや、没頭しているふりをしていた。
「だめだ、出てこない」
「こんな大事な時に……」
「おい! 出てこい学園長!」
最初は控えめにされていたノックも、扉がバコンバコン歪むぐらいに荒々しくなっていく。ついに鍵が耐えきれなくなって、扉がバーンと開く。教師たちが部屋になだれ込んだ。
彼らが見たのは、暖かい陽光差しこむ部屋、ゆったりと椅子に腰かけた学園長の姿だった。この非常時に全く動じていない。
さすがは一等級の学園を治めるだけはある。彼なら、学園長ならどうにかしてくれる。教師たちは感服した。
だが、少し様子が変だ。学園長は落ち着いていると言うよりも、身動き一つしない。
教師の一人が学園長に近づき、手を取り持ち上げてみた。離すと重力に任せてぱたりと落ちる。
「き、気絶してる」
「こりゃ、だめだ」
学園長は扉が勢いよく開いたショックで気を失っていたのだった。
外では激しい戦いが繰り広げられている。教師たちは窓からそれを見守るしかなかった。




