五十六話
ガタクは両腕を広げ、鈴ヶ森生徒の集団に突っ込んだ。
「押せー! 押し返すんだ! こちらの方が人数は圧倒的だ!」
だが、全員の力を合わせてもガタクを後退させられない。
「仲良く集まって……その程度かよ!」
ガタクが一歩踏み出すごとに重機のような馬力が発揮される。人数で対抗するはずの生徒たちは、ガタクの腕と後衛に挟まれて身動きが取れなくなってしまう。ガタクは数十人をひとまとめにボールのようにすると、空高く蹴り上げる。ボールは空中で分解し、バタバタと地面に倒れた。
残った生徒はその光景に恐れをなし、身を強張らせた。戦力と同時に戦いの士気もごっそりと抉られたようだった。
「たわいねえな。一等級と言ってもこんなもんかよ」
ガタクは一人の少女に気づく。オレンジの髪、褐色に焼いた肌、改造が過ぎる制服。およそ一等級にはふさわしくない容姿だ。だから遠目でも彼女はガタクの目にはっきりと映った。
キョウはずんずんとガタクに近づいた。ギロリと睨む。その視線をガタクはまともに受け、睨み返した。
「ずいぶん派手にやってんじゃねーか。レイジたちを探してたんだが、まあいいや。お前をぶっ倒せば少しは静かになって、探しやすくなるだろ」
「派手なのはお前だ。チャラチャラ、キャンキャンしたやつが強かったためしはねえ」
「へー、そうかよ。じゃあ、おまえは生涯この名前を忘れねえ。鷲嶽キョウだ」
「覚える必要はねえな。だが名乗られた以上、俺も名乗ってやる。俺はガタク……金剛寺ガタクだ」
睨み合ったまま二人の顔が接近する。おでこが衝突しても二人は視線を逸らさない。逸らしたら負けとでも言わんばかりだ。
先に動いたのはキョウだった。頭を僅かに後ろに逸らし、顔面に勢いよくぶつける。頭突きというやつだ。怯んだ隙に間髪入れない右ストレート。ガタクの巨体を吹き飛ばす。
スレイ部に入ってからもキョウは自己鍛錬を怠っていなかった。復讐を忘れ、目的が前向きに変化したからかもしれない。彼女のパンチの威力は、スミカに挑んだときと比べ数倍にまで跳ね上がっていた。
ガタクは足裏をぴったりと地面につけて減速する。
「伊達じゃねえな、大口叩くだけはある。とんでもなく固てえ頭と拳だ」
そのどちらも効いた様子はなく、ガタクは平然と歩き出す。
だが、キョウに慌てた様子はない。
「ふん、攻撃に耐えてどうだと言いてえんだろうが、残念だったな。その程度の不死身は見慣れてんだよ」
「そんなやつがこの学園にいるのか。おもしれえ」
「おまえに会わせるのはもったいねえ。会わせてやんねー」
「なら、倒してから探すまでだ」
「やってみやがれ!」
キョウがガタクに肉薄する。それに応ずるように巨大な拳が振り上げられた。




