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四十八話

「おい、六号。今のはなんだ」

「わからないよ」

「わからないで済むか。怖いではないか」

「あ、やっぱり怖いんだ」

「ち、違う。わからないから怖いと言っているのだ。未知のものに恐怖を感じるのは正常な本能だ」

「へー」

「真面目に聞け。……よし、六号。調べるぞ。原因を突き止めるのだ」


 ちょっと待て。それって、道を逸れて林の中に入るってことだ。しかも人魂らしいものを追って行けと。

 幽霊を信じないといっても、さすがに腰が引ける。


「余計怖くなるんじゃないかなあ。やめない?」

「だめだ。正体をつかめば、なんだこんなことかと安心できるだろう。行くぞ」


 林の中に入っていくスミカ。

 怖がりなのか勇敢なのか、よくわからない。行きたくないなあ。

 なんてことを考えていると、すごいスピードで戻ってきたスミカにぶっ飛ばされた。


「ぐほー!」

「バ、バ、バカ者! ちゃんと着いてこんか!」

「ご、ごめん」


 やっぱり怖がってるじゃないか。やめたらいいのに。でも、これがスミカなんだよな。

 レイジはスミカの足元を照らしながら林を進む。


「おい、見ろ」


 また光だ。

 同じようにしばらくすると消えた。

 かと思うと、少し離れたところにぽわぽわ漂っている。


「追うぞ」

「道はわかるよね?」

「無論だ。それは心配ない。今はあれを追うのに集中しろ」


 光に誘われ、さらに林の奥へ。

 ちょろちょろと水の流れる音が聞こえてきた。


「スミカ、気をつけて。沢があるよ」


 沢は小さなものだが、水がきらきら反射するばかりで縁がわからない。ずるりと滑ったら危険だ。

 それを挟んで向こう側に光が現れる。二人を呼ぶようにちらちら瞬いている。


「あそこに見えているけれど……これ以上は進めないね」

「何を言う。跳ぶぞ」


 スミカは助走をつけた。跳び越える気だ。

 レイジはとっさにスミカを抱き上げた。


「こらー、何をする!」

「危ないって。何かあったら、どうするんだ」


 小さい体がじたばたと腕の中で暴れた。


「離せー!」

「離したら向こうに渡ろうとするだろ」

「わかった、やめる! だから、もう離せー!」


 レイジの腕から逃れると、スミカは拳を振り上げた。

 うわー、殴られる! 抱き上げたのは明らかにやり過ぎだった。人魂さん、今そっちに行きます。

 ……あれ? 変だぞ。いつもならスミカパンチが飛んでくる場面だ。

 無事は結構だが、何もないと不安になるじゃないか。どうしたんだ、スミカ。こいよ! いや、殴られたいわけではないんだ。

 暗くてスミカの表情は量れなかったが、ともかく沢を飛び越えるのは諦めてくれたようだ。

 人魂もいつの間にか消えていた。


「見失ったな。だが、結局あれは何だったんだ」

「うーん。わかんないね」

「このままでは説明がつかん。夜眠れなかったら、六号の責任だぞ」


 あれは本物の人魂だ。

 追いかけているうちにレイジはそう思い始めた。今持っている知識では説明のつかない現象。実際に見てしまうと信じざるを得ないし、そうなると薄ら寒く感じてくる。

 しかし、それを結論としてはスミカが治まらない。怖いままだ。

 ここは……。レイジは務めて平静であるように装った。


「この沢だよ、スミカ」

「沢がどうした」

「あの光の正体さ。水辺の空気は水蒸気を多く含む。それが夜になって冷えて、薄っすら霧のようになっているんだ。そこに沢水に反射した月明かりが投影されて、さっきのように見えるんだよ」

「ほう。なるほど」


 スミカがふむふむと納得した。

 テキトーもいいところである。でも、スミカが安心したのなら、それでいいじゃないか。

 全くのいい加減だったのだが、本来のスミカが戻ってきたのを見て、不思議とレイジの中の恐怖も消えていた。


「やはり、わかってしまえば何でもなかったな。鬼火だ、人魂だと思うから怖いのだ。どうだ、追ってきてよかっただろう」

「そうだね。迷わないうちに戻ろっか」

「道は覚えている。こっちだ」


 スミカの方向感覚は大したものだ。林には特別目印と呼べそうなものがないのに、難なく元の道へ帰ることができた。


 林道は大きく曲がり、方向を変えた。

 スミカの足取りも軽く、ゴールは目前かと思われた。


 突然、スミカの足が止まった。ぎくしゃくとした挙動でレイジ袖をつかみ、後ろに隠れる。

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