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十八話

 購買? いやいや、これは百貨店だ。


「でっけー」


 レイジは見上げた。

 三階建ての大きな建物がどどーんと敷地内に立っている。

 当然、中も広い。案内板を頼りに書籍コーナーまでようやくたどり着いた。

 勉強に必要な教科書、参考書や学術書。最新の小説、コミック、雑誌。続きものは番号が途切れることなく、新旧問わない書籍と呼ばれる書籍がこの一角に集まっているようだった。

 それらしい場所を探してみるが、目当ての教科書は数冊しか見つからない。


「ううー、こんなにいっぱいあると、逆に見つけられないよ」


 数分後。

 レイジはお気に入りの漫画の最新刊を発見し、立ち読みしていた。


「――って、だめだめだめ!」


 しっかり読み終えてから棚に戻すと、学術書のコーナーに戻る。いやあ、面白かった。続きが気になる。


 鈴ヶ森学園では教科書は何とか省に決められるではなく、先生が必要なものを指定するらしい。だから、これは教科書!と明確に分けることができず、一般図書と一緒くたにされてしまっていた。

 その自由さがレイジの地獄を生んでいた。

 入学シーズンであれば、教科書専用のコーナーがあったかもしれないが、レイジは実に中途半端な時期に転入してきた。もう、それぞれの本はあるべき場所に戻されてしまったのだろう。


 ようやく、さらに二冊を見つけたところで、時計を見る。数学ができなくてもわかる。はい、このペースでは間に合いません。

 漫画を読んでいた楽しいひと時が、今では惜しまれる。


「ねえ、君」


 背表紙をなぞって、いかにも探してますアピールをレイジがしていると、背後から声をかけられた。

 振り返ると、線の細い、前髪が片目にかかった生徒が立っていた。ブレザーではなくカーディガンを着て、その下に細身のネクタイをしている。

 ネクタイは緑。年下だ。ここは年上の威厳を見せねば。


「何か探しているのかな」

「教科書をね」

「この時期に?」

「転入なんだ」


 生徒はふうんとうなずく。


「苦労しているみたいだけれど、手伝おうか?」

「手伝ってください」


 半泣きでレイジは即答した。威厳なんて、ないね。


「いいよ」


 にこりと微笑む。

 なんだ野郎、えらく可愛いぞ。堀之内の笑顔も危険だが、彼の笑顔はそれ以上だ。なんだかくらっとする。

 いかに中性的な容姿とはいえ、まさか危ない道を渡り始めているのでは……。

 レイジは頭をぶんぶんと振った。


「どうかしたのかい?」

「いや、なんでも。これが欲しい教科書のリストで、いくつかは見つけたんだけれど……」


 レイジが見つけられたのは五冊。半分以下である。


「必修の教科書か。もうコーナーは撤去されているものね」

「だよねー。困ったなあ」

「でも、わかるよ」


 おお、すごいぞ!


「僕、ここは詳しいから」


 そう言いながらも目的の物を見つけたらしく、棚から引き出した。

 彼はすたすたと歩いていき、立ち止まっては本を取り出す。すぐに歩きだす。見つける。

 ものの数分でリストの教科書が揃った。あまりに簡単に終わってしまったので、レイジは自分のやり方が悪かったのかと不安になる。


「会計はあっちだよ」


 彼は視線で示した。


「ありがとう。助かったよ」

「ううん、いいよ。同じスレイ部なんだし、助け合わなくちゃね」

「うんうん、そうだね。助け合いって素晴らしいなー……って、え?」


 彼はふっと笑う。なんて可愛いんだ。

 ……はっ! 彼は男だぞ。

 しかし、もったいない! なんだかわからないけれど、もったいないぞ! いや、それより今なんて言った?


「僕、倉持アンリ。よろしく、六号くん」


 レイジがぽかんとしていると、その手に教科書が押しつけられる。

 アンリは本棚の影に消えた。


「彼もスレイ部……だって!」


 山になった教科書の頂上が崩れ、ぱさぱさと地面に落ちた。


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