十七話
部屋に入ると荷物をひっくり返す。
レイジは履修科目が載った冊子を発見した! てれーん!
ぱさ。
おや。ページの間から薄い別の冊子が滑り落ちた。
とりあえず分厚い方を開く。
「なになに……失敗しない科目選択、だって」
まさにレイジが読んでおくべき内容だ。
「でも、長い! こんなの読んでる暇ないよ!」
無視して次に進む。
科目の名前、担当する先生、教室、概要などが一ページごとにまとめられている。次のページも。次のページも、次も次も次もだ。途中からはだーっとページをめくった。パラパラ漫画が描かれていたら、さぞかしスムーズに動きまわっただろうね。
最後の方に索引がついているだけで、後は全部科目だった。
「何でこんなにあるんだ……」
よく見ると備考の部分に必修、選択必修Aなどという文字が見える。この分厚い冊子を一枚一枚めくって確認していくものなのだろうか。ちょっと考えられない。
索引から探せるかと考えたが、科目名とページが並んでいるだけだ。
「そうだ、あの薄い方は?」
予想通りだ。薄い方の冊子は必修科目と選択科目がグループ別に記載されていた。
「でも、本紙参照ってなんだよー!」
薄い方は薄いだけあって、細かい内容が載っていなかった。
普通であれば、この簡易情報だけで十分なのだが、レイジは転入生だ。
前の学園の授業を受けているのだから、すでに履修したと見なしていい科目がいくつもあった。それらは弾いていかなければ、カリキュラムを消化しきれなくなる。
問題はもう一つあった。必修だからと言って何でもかんでも詰めこんでいると、必修科目同士がブッキングしてしまうのだ。今年の計画で衝突させないのはもちろんだが、来年もぶつかりあわずに履修できるように計画しないといけない。
そのレイジに必要な情報は、この薄い冊子には一切書いていないのだ。
「結局、この分厚いモンスターを見なければいけないのか」
ででどん。
威圧感を放ちながら、部屋に履修冊子が鎮座している。
重い。これで殴られたら昏倒する。
ロールプレイングゲームだったら、後半に出てくるやつだ。まさか転入初日にエンカウントすることになろうとは……。
それでも一ページずつ確認するよりははるかにましだ。
レイジはちまちまと該当ページを別紙で探し、その詳細を本紙で照らし合わせていった。
数時間後。
「できたー!」
レイジは必修科目をピックアップし終わった。ファンファーレ。
何度か見直したので、致命的な取りこぼしやミスはないものだと思いたい。もうやだ、この作業。
もう正午を大きく過ぎている。
お腹が鳴った。
「休憩も兼ねて、お昼にしようっと」
食堂の方角に購買があったはずだ。ついでだ。昼食を済ませたら、脚を伸ばして教科書を購入してしまおう。
時間こそかかったが、一番難儀な部分をクリアできたので、レイジはウキウキ気分で食堂へと向かった。
その途中、堀之内からメールがあった。
〈本文:準備の方は問題ありませんか?〉
簡素だが、案じてくれているのだ。
〈返信:必修科目のリスト作りは終わったよ。これから昼食。その後、教科書を買いに行くよ。〉
すぐに返信がある。
〈返信:順調ですね。それなら間に合いそうです。何か困ったことがあれば、教えてください。講義が始まるので、また後ほど。〉
進め方に問題はないとわかって、より心が晴れ晴れとした。
履修計画に時間がかかると聞いたときはどんより曇天だったが、今では雲間から天使の梯子のように光が差しこみ、レイジはそれを駆け登っている。天使も両サイドからラッパを持って祝福してくれている。そんな気分だ。
さあ、ご飯だ、ご飯。
スキップしながら食堂へ向かっていたら、奇異の目で見られた。これは恥ずかしい。
食堂をぐるり一周したレイジ。
彼はまたもやかつ丼を注文していた。かつ丼が特別に好物ではないのだが、朝食べた味が忘れられない。
「いたただきまーす」
早速一口。
むむ!
「朝より、もっとおいしい気がするぞ!」
気のせいかもしれない。何が変わったのかもわからない。だが、おいしくなっているという実感がある。
箸が止まらない。あっという間にどんぶりが空になった。
「食べたー。ごちそうさま」
満足感も高まっているような。うーん、なぜだろう?
「空腹は最高のスパイスってことかな」
レイジはそう結論付けた。
ほうじ茶を飲みながら、少しお腹を休める。
次は購買で教科書を買わないといけないな。