十三話
「その意気です。では、清掃を続けましょうか」
立ちあがる堀之内の手に握られたものを見て、レイジはびくっとした。もっさもっさと中身の詰まったゴミ袋があったのだ。
ゴミが見当たらないわけだ。完璧な回収人が先に進んでいたのだから。
「よくもそんなに見つけたね」
「あるところにはあるものですよ」
わさわさ。
ゴミ袋が動いた気がした。
気のせいじゃない。袋の中に何か生き物が入っている。
袋が動くと、中のゴミが崩れ落ちた。男子生徒が窮屈そうに、ゴミと一緒に袋に詰められているではないか。
「ホリー、できれば聞きたくないんだが、それは……」
「ああ、彼ですか。彼はスミカ様の散策ルートに入りこんでいたのです。邪魔になるといけませんからね。こういった者たちを取り除くのも奴隷の役目ですよ」
朝早くだから中庭に人がいないのだとレイジは勝手に思いこんでいたが、そうではなかった。スレイ部が人払いをしているのだ。
思い返せば、スミカと初めて会ったときも散歩中だったのだろう。逃げるように去って行った女子生徒たちの行動もうなずける。あれを見て避難しなかったのが、レイジの運命を変えたわけだ。
それにしても、かわいそうな男子生徒である。たぶん名前も出ないまま、ごみと分別されて解放される。それだけの役回りなのだろう。
まずい。ゴミ袋の彼と目が合ってしまった。何かを訴えかけてくるが、レイジはそっと視線を外す。すまない、成仏してくれ。
堀之内は生徒一人とたくさんのゴミが入った袋をひょいと持ち上げる。
ええっ。持ちあがるの、それ!?
スミカも大概だが、そのお世話をする奴隷も並大抵ではない。スレイ部でやっていけるかどうか、レイジは心配になってきた。
それから中庭を回り、レイジと堀之内はゴミを拾えるだけ拾い集めた。八割方は堀之内が見つけたのは言うまでもない。
「レイジくん、お疲れ様です。これでスミカ様も気持ちよく散歩を終えられるでしょう」
「ゴミ拾いと言えど、なかなか重労働だね」
「この程度でへばっていてはだめですよ。一日は始まったばかりですからね」
レイジは少し息が上がっていたが、堀之内はけろりとしたものだ。さすが筆頭奴隷。
「それでは、私はゴミを捨ててきます。レイジくんは手を洗って、ここへ戻ってきてください。スミカ様も直にいらっしゃるはずです」
堀之内はうごめくゴミ袋を持って立ち去った。
あの男子生徒、人ごととは思えない。明日は我が身という気がするぞ。
手を洗って戻ってくると、ノブコ先生とタケミがいた。
「おはよー、六号くん」
「おはようさん。六号は早速清掃か。精が出るね」
「おはよう。二人はどうしてここに?」
「ごめんねえ、私たちは仕事やその準備があるから、なかなか朝のお散歩の手伝いはできないのー」
「けれど、その後の朝食ぐらいは一緒にとろうってことになってるのさ。他の部員も来るんだろう?」
「もうすぐ来るらしいよ」
レイジがそう言い終わらないうち、堀之内が手を軽くしてやってきた。
「恩田先生、名護山さん、おはようございます。スミカ様と笠舞さんはもうすぐいらっしゃいます」
「そうかい。で、どうだい?」
「と言いますと?」
タケミはレイジを肘で小突く。レイジはよろっとした。
「決まってるじゃないか。こいつの働きっぷりさ。使えそうかい?」
「私としては合格点を上げたいのですが、スミカ様からするとまだまだのようですね。笠舞さんに認められるのも時間がかかりそうです」
痛いぐらい的確な評価だ。
友人の的確過ぎる評価って心に刺さるね。頑張らないと。
「あっはっは。そんなことだろうと思った。どうも私から見ると頼りないからね、六号は」
「でも、いいのよー、六号くん。初めから上手くなんて、誰だってできないんだもの」
「要は慣れだ。やってりゃ身に着くさ」
タケミはレイジの背中をバシバシ叩く。
スミカパンチを基準に考えてしまうせいか、嫌じゃない。むしろ力強いその手が心地いい。ぴろりろりん。レイジの性癖が密かにランクアップしそうになっていた。
「スミカ様がいらっしゃいました」
堀之内がそう言うと、一斉に壁際に整列した。レイジもそれに倣って、端に並ぶ。
「お帰りなさいませ、スミカ様」
堀之内に合わせて、全員で礼をする。レイジはちょっと遅れて頭を下げた。
「うむ。みんな揃っているな。それでは朝食にしよう」
「朝食!」
レイジはぴくっと反応した。
「どうした六号」
「きっとお腹がすいてるのさ」
「それもあるけれど、食堂にまだ行ったことがないんだ」
「そうなんですの? きっと驚きますわ」
エリナがまるで自分のことのように自慢げに言った。