表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/90

十一話

「レイジくん」


 明りを消し、うとうとしていると堀之内が名を呼ぶ。

 レイジはごろりと転がって、堀之内を見た。彼はメガネをはずし、天井を見つめている。


「私は君がいてくれるだけで救われたのです」


 唐突すぎる。一瞬、思考が地球の裏側とまではいかなくても隣の大陸ぐらいまではぶっ飛んだ。

 まさか、これは愛の告白!? だが、心の準備というか覚悟というか、まだ出会ったばかりだし、そういうのはちょっと……いやいや、出会ったばかりでなくても遠慮していただきたい。レイジはごく普通の方向性の男子学生なのだ。


「御覧になった通り、スレイ部は女性ばかりで構成されています。男子生徒は私一人。スミカ様の筆頭奴隷という自負はありますが、性差による至らなさを痛感したことは一度や二度ではありません。私が男性であるため、他の部員との間に壁を感じることも少なからずあります」

「なんだ、そっちか」

「そっちと言うと、他に何があるのです?」

「なんでもないよ」


 下手なことを言って、その気になられたら困る。

 同性のルームメイトと浅からぬ関係になるのは……想像するだけでも恐ろしい。何色の学園生活だ。


「ともかく、レイジくんが来てくれて助かりました。君とはお互い助け合い、高め合い、そして全てをさらけ出し合えるような、そういう関係を築いていきたいのです」


 言葉だけ聞くと非常に感動的なのだが、堀之内の周囲に咲き誇るバラの花のおかげで、どうも別の意味に聞こえてしまう。むしろ確信的に、さらけ出すの部分で堀之内が服をはだけるビジョンが脳内に浮かんでしまった。アウトだ。

 レイジは念のため確認する。念のためだからね。


「それって、友達になりたいってこと?」

「簡単に言えばそうですね」


 よかった。友達以上ではないことを祈ろう。


「同じスレイ部じゃないか、ホリー。聞くまでもないよ。俺たちは友達だ」


 こういう台詞、少し憧れてたんだよね。でも、いざ口に出してみると、とんでもなく恥ずかしいぞ。


 堀之内はレイジの方へ体を向けると、バラと共に微笑んだ。

 イケメンすぎる。レイジが恋多き乙女なら間違いなくトゥルーの方で攻略されていた。

 だが男子の相部屋で、しかもベッドの上でするべき表情じゃないぞ、堀之内。そもそも、そのやたら出てくるバラは何なのだ。


「ありがとう、レイジくん。明日からは一緒に、身を粉にしてスミカ様に尽くしていきましょう」

「ああ、うん」

「それでは、おやすみなさい」

「うん。おやすみ、ホリー」


 そうだった。何もかも解決したかに思っていたが、レイジは奴隷になってしまったのだった。

 奴隷とは一体何をするのだろう。一等級学園の中で起こった出来事としては、非現実的すぎて実感が湧かない。

 だが、主人はあの寳栄スミカだ。穏やかには済まないんだろうな。

 そんなことを考えながら、レイジは眠りに落ちていく。




 レイジはカーテンから差しこむ朝日で目を覚ました。

 うーむ、よき朝じゃ。ベッドがいいんだな、ベッドが。家にあるスプリングがきしきし鳴って、やたらと体が沈みこむのとは違う。

 昨日の疲れがすっかり取れたようだった。これが快眠というものか。


「おはようございます。今日もいい天気ですよ」


 突然の挨拶にぎょっとしたが、そうだった。ここは相部屋で堀之内と一緒なのだ。こればっかりは慣れないといけないな。

 堀之内はすでに制服に着替えていた。


「おはよう、ホリー」

「着替えて身だしなみを整えたら、早速行きましょう」

「朝食?」


 そう言えば、お腹がしっかりすいている。

 鈴ヶ森学園が一等級である理由は、品行方正で穏やかな気風や、平均よりも高い学力偏差値にもあるが、なんと言っても領内の施設の充実にある……と学園パンフレットに書いてあった。もちろん、それは飲食にも当てはまる。一流企業の社内食堂でもめったに見ないような規模の、それでいてオシャレな学園内食堂がある……と写真で見た。

 所々伝聞なのは大目に見てほしい。まだ、レイジは実際には見ていないのだもの。

 一等級の学食か。一体どんな料理が出るのだろう。考えただけでレイジの口腔に唾液が溜まってきた。


「朝食も大事ですが、その前にスミカ様に挨拶をしなければいけません。その後、日課の園内散策です。今日のルートは中庭ですね。朝食はその後になります」

「あ? ああ……」


 朝食のおいしそうなビジョンが、奴隷という石っぽい質感のヘヴィな二文字に押し潰され、儚く消えた。朝食、カムバック。


「そうか。俺もスレイ部になったんだもんな。また今日もボコボコぶん殴られるんだろうか……」


 ため息が出ちゃうよ。


「レイジくんなら上手くやれます。私も及ばずながらサポートいたしますからね。まずは何事も私の真似をしてください。そうすれば、とりあえずは形になるでしょう」

「何をするかはわからないけどさ、大変そうだなあ」

「何も難しいことはありませんよ。すぐにスミカ様にお仕えするのが、至上の喜びに感じられるようになります」


 そうかなあ?

 思うのだが、堀之内は過去にスミカに殴られ過ぎて、ねじの二、三本が緩んでるんじゃなかろうか。


 レイジは顔を洗い、歯を磨く。ぱっと制服に着替える。胸にはぴかぴかのピンバッジ。ちょっとへこんでいるけれど。

 これでよし。


「準備できたよ。行こう」


 堀之内は無言でレイジの寝癖を櫛で撫でつけ、制服に残っていた埃や砂をブラシでささっと絡め取った。


「完璧ですよ、レイジくん。どこに出しても恥ずかしくない奴隷ぶりです」


 褒めているのか、いまいちわからん。

 それより堀之内の女子力スキル高すぎだろう。ステータス振り分けを間違ったんだろうな。これは絆創膏も常備していると見た。裁縫セットすら携帯してるかもしれない。


 とにかく、準備は整った。いざ、スミカの元へ出発。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ