赤ずきんちゃん なろうバージョン
「やっぱスキーは海外に限るよなぁ、アラスカ最高ぅ~」
俺は日本では味わえない、久々のオフピステを満喫していた。
調子にのって森の中へ入ると、ソイツがいた。
「なっ、お狼……」
恐怖に体は硬直し、俺は転倒した。
「あ、う、うがぁぁぁ~」
狼の牙が俺の体に食い込んでくる。
「ごぼっ、おぉぉ」
首に喰い付かれ、口から溢れ出る嗚咽と共に、意識は遠のいていった。
……助かったのか?でも、目が良く見えない、体も上手く動かせない。
「あ~あ~」
首を噛まれたからだろうか、声は出るが言葉にならない……。
助かって病院に運んでもらえたのだろうが、ヤバイ、相当重症みたいだ。
アメリカって保険無しだと、トンデモナイ治療費を請求されるって聞いたけど、この場合どうなっちまうんだよ。
「あ~あ~う~」
俺の叫びは言葉に成らなかった。
「……???……???……」
何だ何だ?訳の分からない言葉を話しながら、パツキン美女が俺を抱き上げた。
……抱き上げた?
抱えられた感触で、自分の体が小さくなっているのを理解させられた。
何だ、まだ夢の中なんだな、ラノベじゃあるまいし、転生なんて有り得ないもんな。
いくら異世界ファンタジーが好きっていっても、夢まで見る様になったらヤバイかもな。
いつま経っても夢が覚めない…………現実なんだと理解した。
ラノベだったらチートにハーレム、無双でヒャハッーのはずなのに、現実は甘く無かった。
いくら何でも赤ちゃんからやり直しは面倒、ってより罰ゲームだろう。
まぁそれはいい、一番訳分からないのは俺のチ○ポが無い………どうしてこうなった?
「ユリア」言葉を理解出来る様になって分かった、転生後の俺の名前だ。
屈強な拳法使いに愛され、取り合いになりそうな名前だが、当然ながらそんな訳は無い。
予知能力も治癒能力も持っていない。ナイスバディで有る筈も無い。
ただの金髪幼女である。
つまんねぇ~、ウインドウ開かないじゃん。チート能力無いのかよ。特殊なスキルはどうしたんだよ。
魔法とか使えないのかよ。
ほれ「ベギ○マ!!」
目の前の垣根が燃え尽きた……。
原因不明の火事に村中が大騒ぎになったので、人目の無い森に入って色々な魔法を試してみた。
ドラ○エの呪文が全部使えそうだったのは、やり込んだ甲斐があったというものだ。
さすがに、メガ○テやパル○ンテみたいな、ヤバイのは試さなかったのは、言うまでも無い。
その後も、魔法の練習を続けていたら、魔物の森と呼ばれる様になっていた。
俺に祖母がいるのは、ものごころが付く前に分かった。
とても可愛がってくれるし、前世がお祖母ちゃん子だった俺は嬉しかった。
その祖母が赤い頭巾をプレゼントしてくれた。
何かどこかで聞いた様な気がする……。
「赤ずきんちゃん。お祖母ちゃんのお見舞いに行って来てちょうだい」
これは間違い無く例の話に違いない。
やっと異世界転生らしく成って来た。
森の入り口に狼が立っていた。
立って……。さすが異世界だと思ったが、今はそんな事はどうでもいい。
コイツには関係無いかもしれないが、俺には前世で狼に殺された恨みがある。
いや、関係無いどころか、コイツはこれから、お祖母ちゃんと俺を食べる人食い狼だ。
眦を決して、俺は狼に向けて歩を進めた。
「魔法幼女赤ずきんちゃん」の初陣であった。