第49話 解決後の温泉問題
「んで、なんであんたはこんなところにいるんだよ。女一人で無用心にもほどがあるだろ」
ゴツい男が遠慮なく顔を寄せてくる。わかりやすい威嚇にあたしは敏感な反応を見せてしまい、冷や汗が滲んで喉が詰まり焦点が揺らぐ。
「いやー……その、あたしはですね」
「あんだよ、もっとはっきり喋れねえのか、あぁんっ?」
「ひっ」
威圧する声にビクン、と全身が震える。硬直して言うことを聞かないはずの体が、こんな時だけ動くから困る。
しかも変な風に身をよじらせたせいで、手の端を壁に擦ってしまった。そんなに深くやらかした感じはないけど少し痛む。
「おい、どうすんだよ。これじゃ話になんねえぞ」
「こんなところで時間潰してる暇ないんだ。さっさと決めてくれよ」
「ふむ、そうだな……」
意見を求められた冷徹な瞳の男が、顎に手を当てて考える素振りを見せる。こいつがリーダーなのだろうか。
どうにかこのまま帰してやろう、という気まぐれを起こしてくれないだろうか。もちろんここで見聞きしたことは忘れたことにして誰にも言わないからお願いします見逃してください。
「まあ、やることと言ったら一つしかないだろ」
短く溜息を吐いて冷徹男が一歩踏み出した。それを追うように、残りの二人も気味悪い笑みを向けてくる。
えっ、ちょっと何これ。
「や、やだ……来ないで……」
ちゃんとそう言えたかもわからない。掠れた喉はまともな言葉の形すら作れなくなっていた。こんな時に叫び声を上げるのは、やっぱりお話の中だけで起こる幻らしい。
誰か助けて。そう願ってもこれは現実。颯爽と救世主が現れるなんてこと――。
「夏海!」
その声で硬直が少し和らいだ。少なくとも顔をその方向に動かして短い言葉を発するくらいには。
「テオドラ、さん?」
ついにあたしは幻を見てしまうようになってしまったのだろうか。こんな展開は都合が良すぎる。
今ここにいてほしいと強く願ったその人が、物凄い速さでこちらに駆けてくるのだから。しかもそのまま男達とあたしの間に滑り込み、かばうように肩を抱いてくれる。
直に伝わる温もりでようやく理解した。これは夢でも幻でもない、本物のテオドラさんなのだと。
「ようやく見つけた……大丈夫か? 何もされていないか?」
「は、はい……」
「そうか、良かった。本当に……」
強張った表情を緩め、テオドラさんが肩の力を抜く。慣れ親しんだ優しい笑みがそこにある。
そうか、もう安心していいんだ。テオドラさんが来てくれたんだから。それがわかると、途端にあたしも全身の力が抜け、背後の壁に寄りかかる姿勢になった。
「ん? 夏海、その手は……」
「ああ、これはさっき」
うっかり壁で擦ってしまったんです、と最後まで言い切ることはできなかった。
穏やかだったテオドラさんの顔色が一変したのだ。最初に見えたのは無表情。そこに新たな色を浮かび上がらせながら、テオドラさんは男達の方へと振り向いていく。
あたしの目に映ったのは一瞬だったけど、これけは確かに言える。
今まで見たこともないあの表情を表現するには、驚愕とか絶望とか憤怒とか負の感情をこれでもかってくらい詰め込む必要があることを。
「貴様らか……夏海を傷つけたのは」
静かな声だった。
けれど今までに聞いたテオドラさんの声とは違う。聞くだけで胸の奥に鉛を打ち込まれるような、憎悪に満ちた響きがある。
「いや、俺らは何も」
「黙れ。屑の声を聞く耳など持ち合わせていない」
「あぁ? 今なんつったオラァ!」
空気が痛い。これが張り詰めた緊張感ってやつなのだろう。こんなの経験するものじゃない。また喉の奥が詰まってきた。
テオドラさん、どうしちゃったんだろう。そんな挑発するようなことしたら、怪我じゃ済まないかもしれないのに。
「聞こえなかったのなら、出来の悪いその体に直接教えてやる。受けるべき報いを」
「ほう……やれるもんならやってみやがれってんだあっ!」
格闘家風の男が動いた。その巨体からは想像できない動きで疾走し、テオドラさんに掴みかかろうと手を伸ばす。
対するテオドラさんは身動き一つ見せない。相手の動きに反応できていないのか、棒立ちのまま視線を前に向けているだけだ。
「テオドラさん、あぶな――」
言い終わる前に勝敗は決まっていた。何が起きたか、その過程はあたしの目では追えなかった。
わかったのは結果だけ――そう、男の体が宙を舞っていたのだ。
「……えっ?」
その場にいた誰もが、そんな言葉を口にしていた。あたしはもちろん、男三人集も何が起こったかわからないと呆気に取られたように口をポカンと開けていた。
ただ一人、当事者であろうテオドラさんは涼しい顔をしている。だが、横顔から窺えたその目に光る明確な敵意は変わっていない。
すべてがスローモーションに感じられた時間は元の速さを取り戻し、巨漢はその体を慌てふためかせながら地面へと落下する。
ズドン、と叩きつけられた音が響く。受身も取れずに石造りの道に沈んだのだから当然だ。
「グハッ、が……」
良くないものでも吐き出したんじゃないかって思うほどの呻きが上がる。体は動いているから命に別状はないかもしれないけど、その動きがピクピク痙攣しているみたいだからしばらくは再起不能になりそうだ。
「こ、こいつ……」
部下の片割れであるひょろ長の男はそう吐き捨てると、懐から何かを取り出した。
細長く、鋭い刀身が光って――ってもしかしてナイフ?
「待て、手を出すな! 落ち着け!」
「うるせえっ! やらなきゃこっちがやられるだろうが! 調子乗りやがって……ざけんじゃねえぞテメエッ!」
リーダーの制止も聞かず、威勢よく叫びながら男が突進してくる。当然、手に持った得物の切っ先はテオドラさんに向けたままだ。
あたしは刃の鈍い光に体が固まってしまい、目を覆って逃げることすらできなかった。ただ凶刃がテオドラさんの体へ吸い込まれていく様子を鑑賞させられるだけだ。
短剣がテオドラさんに突き刺さる――その寸前、男が急に動きを止めた。テオドラさんの目前で立ち止まったかと思うと、徐々に目の焦点を失っていく。
手から離れたナイフの後を追うように、そのままガクリと膝から崩れ落ちた。あたしの位置からでは何が起こったのかをはっきりと確認はできなかった。仮に角度が違っていても確かなことなんてわからなかったかもしれないけど。
ともかく、テオドラさんは無事だった。まるで完全無敵のバリアを張っていて、それに触れたからあの二人がやられたように思えた。発想が飛躍しているだろうけど、そうでも考えないとあたしの頭脳では説明できない。
「……あとはお前だけだ」
ジャリ、と地面を踏み締めてテオドラさんが最後の一人を睨みつける。一触即発、そんな言葉が似合う雰囲気。どちらかが動けば勝負はすぐに決まるだろう。
対する男は目付きの悪さに磨きをかけ、テオドラさんの様子を窺っている。その眼光は感知するだけで痛みすら覚えそうだ。ただでさえ空気が肌に痛いのだから勘弁してほしい。
目を背けようとした瞬間、男の口が開く。瞬間、こんな言葉が飛び出した。
「その顔と武術の腕前……お前、まさか放浪の鈴……?」
なんだろう、その名誉ある異名みたいなのは。なんてことを思った次の瞬間、あたしの体は硬直することになる。
「その名を呼ぶな!」
空気が震えた。
それは比喩でもなんでもなく、反射的に肩を強張らせてしまうほどの大音声が響き渡ったのだ。
今まで聞いたことがない怒声。それは確かにテオドラさんが発したものだった。食い縛った歯から溢れる膨大な敵意――殺意と呼べるほど強い感情を露骨に表した横顔が見える。
「ひゃっ」
ほんの少し、ちらりとその視線があたしに向いた。射抜かれただけで全身が引き裂かれそうなほどの鋭さに、思わず恐怖を感じて一歩後退してしまう。
「夏海……」
途端にテオドラさんが悲しそうな顔になる。あたしの怯えが伝わってしまったのか、省みて悔いを滲ませた表情で再び男に対峙した。
「……今はもうその名を捨てた。それより、早くこいつらを連れて去れ」
テオドラさんの声は力なく、さっきまでの覇気は微塵も含まれていなかった。その身に帯びていた戦意も消えており、張り詰めたような雰囲気も薄れつつある。
「わかった、すまないことをしたな。俺らはその子が困ってるみたいだから助けようと思ったんだが……いや、やめておこう。こいつらには後で言い聞かせておく」
地面で呻いている二人を軽々と起こし、リーダーは肩を貸してなんとか歩かせている。あのマッチョを支えるなんて意外と力があるらしい。
「おい、お前らちゃんと歩け。いつまでも伸びてんじゃねえぞ」
「いてて……なんだよアイツ強過ぎるだろ」
「血の気が多すぎるんだよ。ただでさえ外見で誤解されやすいんだから、もっと冷静になれ」
「でもよお」
「それと、相手をよく観察しろっていつも言ってるだろうが。その身で思い知っただろう。今こうして立ってられるだけでもありがたく思え」
「わかったよ……」
「よし、じゃあ気を取り直して飯に行くぞ。予約の時間に遅れたら、せっかくの上物魚介料理が無駄になっちまうからな」
三人組の会話がだんだん小さくなっていく。話しているのを聞いていると、もしかしたら悪い人たちじゃなかったのかなという気もした。
けれど、それより何倍も重要なことが目の前にある。すっかり意気消沈してしまったテオドラさんは、二人きりになったのに全然こっちを向いてくれない。
「テオドラさん、あの」
「帰ろう。もう暗くなる」
背中を向けたまま、沈みゆく夕日が作り出す逆光の中へとテオドラさんが歩き出す。
なんだかそのまま知らない場所へ行ってしまいそうな気がして、あたしは咄嗟に手を伸ばして服の裾を掴んでいた。
「待ってください! 置いて……いかないで、ください」
「そんなことはしないさ。ただ……今は夏海に見せる顔がない」
相変わらずの弱い声。反してあたしの握力は強くなっていく。
「どうしてですか」
「争う姿を見せてしまった。夏海を怯えさせてしまった。夏海を危険な目に遭わせてしまった。それだけではなく怪我まで……全部、私の責任だ。だから私は」
「そんなことありません!」
思わず叫んでいた。飛び出した感情に続いて理由が後を追う。
「さっきのテオドラさん、とてもかっこよかったです! あんなに強そうな人たちだったのに、あっさり倒しちゃうくらい強いんですね!」
「……夏海」
「それに、なんか昔の異名みたいなの呼ばれてましたよね。ああいうのすっごく好きなんです!」
放浪の鈴、ってどんな由来があるんだろう。放浪ってことは、昔セレナさんを探してあちこちの国へ行っていた時に付けられたのかな。名前からもういかにもクールで気高い雰囲気が出ているし、テオドラさんにぴったりだと思う。
気にはなるけど、今そこを掘り下げるべきじゃない。触れられたくない過去は誰にだってあるんだから。テオドラさんにあたしの気持ちを知ってもらうのが優先だ。
「……幻滅、しないのか?」
「まさか。むしろテオドラさんの新たな一面が見れて嬉しいです!」
「しかし、怪我をさせてしまった」
「これはあたしが不注意で擦っちゃっただけです! 囲まれた時はちょっと怖かったけど……あの人たちには何もされてません!」
「そう……だったのか」
テオドラさんはまだ顔を背けたままだけど、ちらりと流し目だけは送ってくれる。いつもあたしを見守ってくれる優しさと、わずかな戸惑いを帯びた視線。
そこにあたしは正直な心情を笑顔に乗せて送った。視界を塗らす涙の理由は、さっきまでとは違う。
「テオドラさんのこと、嫌いになんてなりませんよ。この気持ちは、ずっと……」
「そっ、そうか。なら、よかった……」
またすぐにそっぽを向いちゃったけど、少しだけ見えた頬が瞬時に染まるのがわかった。
やった、ちゃんと通じたみたい。
「一人で行動してすみませんでした。だから、今度はこうして……」
言いながらテオドラさんの手を取る。力なく開かれていたその掌へ、あたしは指を滑り込ませた。
「離れないように、繋いでおいてください」
最後に、絡めた指をきゅっと握る。うわ、なんかよくわからないけどドキドキする。手の甲にあるでっぱりに指先が当たっていい感触。
「……そう、だな」
三人組に見せた威勢を忘れさせるほど、その声は小さく温かい。でも、握り返されたその手は本物だ。今までよりも深く繋がっている感じがする。
こんなこと言うの変かもだけど……きっかけを作ってくれたチンピラさん、どうもありがとう。あなたたちの犠牲は無駄にしないよ。
「戻りましょう。部屋にいる方が安全ですもんね」
「……そう、だな」
さっきと同じことしか言ってないけど大丈夫かな。照れがオーバーヒートしてたらどうしよう。離れたら戻るかな、と思ったらあたしだけじゃもう手は外せないんだった。
うーむ、まあいいか。そうなったらまたテオドラさんの新しい姿が見られるから万事オーライってことで。
――――
その後、手を繋いだまま宿に帰ったことで、またまた女将さんに燃料を投下してしまったんだけど……詳細は秘密。
だって、そこでテオドラさんが見せた一世一代の爆発ってくらいに赤く染まりきった可愛い表情は、あたしだけの胸にとどめておきたいから。
少し怖い思いもしたけど、それがテオドラさんの色々な姿を見るための代償だとしたら安すぎてむしろもっと払いたくなるくらいだ。
これからも、テオドラさんの近くで色々なことを知っていきたい。
そんなことを考えながら、あたしもテオドラさんの隣で頬の熱を感じていたのだった。
――――
そして夜。
時間が過ぎても、あたしたちの染まった空気は薄れることを知らなかった。
「ご飯おいしかったですね」
「ああ、夏海はよく食べていたな」
「あはは、つい……」
特別な部屋だからなのか、食事は部屋まで運ばれてくるシステムだった。出向かなくても用意してくれるのは引きこもり精神の保持者としてはありがたい。
もちろん、テオドラさんとの時間が増えるという一番の理由もあるけれど……それは心の中にしまっておく。
食休みを口実にまったりしつつ、机に置かれていた旅館のパンフレットらしき冊子を開いてみた。宿泊約款やら館内図やらが載っていて、文字も地図も苦手なあたしの頭をゴチャゴチャさせてくれる。
速読みたいにページをめくっていくと、温泉についての説明が目に留まった。どうやら海底火山が近くにあるようで、温泉に含まれる成分も濃厚らしい。美肌効果があるとか。
「温泉かぁ……」
考えてみれば旅館に温泉は付き物だ。それが海や山の近くとなれば尚更じゃないか。
館内の大浴場にも力を入れているようで、露天風呂はもちろんサウナや砂風呂なんてのもあるらしい。
けれど、あたしはそういうのには興味ない。正確に言うと行く気にならない。なぜってそんなの決まっている。不特定多数に裸を晒すとか考えられないしお互い目の毒だ。
まあ、テオドラさんとなら嫌じゃないこともなくはない感じの傾向があったりなかったりするかもだけど……これについては一旦保留。
話を戻そう。そもそもここは特別仕様のスイートルームなだけあって、部屋自体に温泉が引かれている。だから様々な問題はこれで解決。あるものは遠慮なく使わせてもらおう。
と思ったけど、やっぱりこういう場合はテオドラさんに一番風呂を譲るべきなのかな。いや、温泉にそんな概念があるのだろうか。源泉かけ流しに一番も二番もないんじゃないかどうせ流れちゃうんだから。
「テオドラさん、温泉なんですけど……どうしますか?」
一人で考えていてもしょうがない。テオドラさんがすぐそこにいるんだから聞くのが正解だろう。異世界にはあたしの知らないルールがあるかもしれないし、テオドラさんの決定には従うつもりだ。
「そうだな……私はそろそろ入ろうと思うが、夏海はどうする?」
「えっ、それって」
テオドラさんが温泉に入る。あたしはどうする。
これはまさか……テオドラさんからのお誘い?
「えっとそのいきなり一緒になんてそれは別に構わなくもないんですけど確かに離れないでくださいとは言いましたけどでも心の準備というものがありましてあたしの体なんて見てもつまらないと言いますか」
わちゃわちゃとまくし立てた早口は酸欠を呼び、目はぐるぐると回り、酸素の不足した血液が頭を混乱させる。
テオドラさんに従うつもりではあったけど、やっぱり恥ずかしさがつきまとうわけで。
そもそも誰かとお風呂なんて修学旅行の時に端っこで目立たないようにしていたくらいしかないぞ、と暗い過去を思い出して悲しくなった。
いやいや待て待て。バルトロメアも言っていたじゃないか。これは急接近のチャンスなのかもしれない。
大丈夫。女同士だしコミュニケーションの一種ってことにすればセーフだ。特権だ。健全だ。
「何をそんなに慌てているんだ? 準備に時間がほしいというなら私が先に行ってきてもいいが」
そして気付く。
入るとは言ったが、一緒になんてテオドラさんは一切言ってないことに。
「あ、一緒にってことじゃないんですね……」
急ブレーキを踏んだ心はガクンと揺れ、その衝撃で変な言葉が飛び出してしまった。
それはテオドラさんにあたしの勘違いを理解させるのに十分な衝突で、玉突き事故のようにテオドラさんも挙動不審になっていく。
「夏海、その……」
「え、えっとあたし変な勘違いしちゃって」
「いや、私も言葉が足りなかったというか、だが夏海と一緒というのもやぶさかではないが……」
「あたしも、その嫌ってわけじゃないんですけど……」
「へ、部屋に温泉もあることだしな。人の目を気にする必要もない、な」
「で、ですよね。はい」
源泉の代わりに変な汗を噴き出しながら、あたしたちは顔を真っ赤にして視線を迷子にさせる。
知らず荒くなっていた呼吸を無理矢理止める。当然ながら逆効果で、ますますよろしくない状況に陥ってしまった。
なんとかしなくては。このままじゃ入浴前にのぼせるという日常の謎ストーリーに出てくる問題みたいなことになるぞ。
「あ、あの、テオドラさんお先にどうぞ。あたし部屋で待ってますから」
「そ、そうか? では……」
と、そそくさ準備してテオドラさんは温泉へと向かっていった。
ふう、とようやく一息ついた。なんだよさっきのよくわからない空気は。ああいうのキャラじゃないし慣れてないし変なところ見せちゃったかもだし……。
ボスン、とベッドに倒れこむ。冷たいシーツが火照った頬から熱を奪って気持ちいい。
ふと見れば、すぐ隣にもう一つのベッド。そこに寝るのは当然テオドラさんなわけで。
「……あう」
手を伸ばせば届きそうなほど近いところで並んで寝るのか……。また意識してしまう。さっきカッコイイところを見たから尚更だ。
寝るときは部屋を暗くするから寝顔を見られるってことはないだろうけど、それでも間近にいるということは変わらないわけで。
近い未来に訪れる現実を空想し、あっさりとシーツはぬるくなり、再びあたしの頬が熱を持ち始めた。
こんなので寝られるのかな。夜はまだ長そうだ――。




