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光浪夏海の異世界百合物語  作者: 虹月映
第四部  平穏への日々
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第28話  思案の夜

 夕食は自分でもそれなりの出来になったと思う。少なくとも変なアレンジはしなかったので、悪くても無難ってところだろう。ちゃんと全部食べてもらえたし。


「はあ……疲れた」


 元物置の自室で気の抜けた声を出す。体重を預けた椅子の背もたれが、キイと短く鳴った。

 ガタが来ているというわけじゃない。机やベッド、衣装棚といった家具はどれも新品で、しかも値が張りそうな風情がある。高級ってほどじゃないかもしれないけど、多少の奮発はあるだろう。

 明かりだってちゃんとあるし、窓にはカーテンらしき布まで取り付けられている。細やかな準備を知るたび、なんだか複雑な気分になる。


 もしかして、内装の準備に力を入れすぎたのかもしれない。そのせいで、部屋の外に出したいらない物たちを処理する時間がなくなっちゃったとか。

 そうだとしたら、あたしの行動はちょっと褒められたものじゃなかったかも。


 もっと早く察することができていたら。

 最初に部屋の内装を見たのは一瞬だったから仕方ないといえばそれまでなんだけど。

 その後すぐに片付けを始めて、それで――。

 

 思い返せば濃厚な一日だった。こんなに充実した時間を過ごしたのも久々だ。

 夜も深まりつつある時間だし、早めに寝て明日に備えるべきだろう。早く体を慣れさせておきたいし、テオドラさんより遅く起きるなんてことにならないように。

 

 けれど、そう思うほどに頭は勝手に考えを巡らせる。部屋を暗くして布団に潜ると、同じ歌が頭の中でリピートするみたいに色々な思考が脈絡なく飛び出してきた。

 それは次第に姿を形成し始め、これまでの出来事や自分の行動が時系列を無視して浮かんでは次の記憶を呼び起こしていく。


 そうした漂流の果てに辿り着いたのは、あたしの行動原理がどこにあったのだろうという疑問だった。

 そもそもあたしは今まで惰性でしかない日々を送っていたわけだけど、この世界に来てからは張り切って日々を堪能している。自分の中で確実に起こっている変化。

 それはいいことだ。責められるようなことじゃない。

 だけど、自分でも不思議に思うことがある。自分のことは自分が一番わかるってのは半分くらいしか正しくない。

 

 天井に斜め下からの視線を向けつつ考えていると、なんとなく一つの結論が浮かんできた。

 最初にテオドラさんを見た時に感じた、あの憧れに似た何か。

 きっとそれが原動力になっているのだと思う。今では心の奥深くに潜り込んでしまい、その姿を確かめられない小さな種。

 掘り起こすまでもなかった。既に芽吹いて顔を出していたのだから。その小さな葉が揺れるたび、あたしの心はざわめいて未知の感情を呼び起こす。


 そして、テオドラさんのダメっぷりがそこに重なる。深刻で笑えないほどではなく、ちょっと頑張れば改善できるような可愛いものってことも重要な点だ。

 こんなだらしない生活は似合わない。もっとふさわしい姿になってほしい。そんな一種のワガママにも思える欲があたしを動かしていたのだ。

 

 おせっかいだったかも、という不安も残る。テオドラさんも仕方なく容認していたのでは……と考え始めたらキリがない。

 だから確かなことだけを参考にする。

 テオドラさんがあたしの行動に嫌悪を示したことがあっただろうか。


 答えはノーだ。

 そういう気持ちは隠しても伝わるものだ。いくらあたしでも、それくらい感じ取る自信はある。

 そこから推測すると、テオドラさんも心のどこかでやらなければいけない、と考えていたのだろう。急に核心を突かれたから動揺した、ってところだろうか。

 ちょっと飛躍してるかな。だけど見当違いとまではいかないはず。一歩間違えば自意識過剰になりそうだけど、なぜかこれだけは自信があった。


 色々と理由を並べてみたけど、結局は自分がそうしたかったから行動したってのが大前提だ。

 あたしのためでもあり、テオドラさんのためでもある。これこそまさに一石二鳥。誰も損をしない理想の形じゃないか。

 

 さてと。

 明日は早起きしてテオドラさんに朝食を作ってあげよう。きっと今まではろくに食べないで仕事に向かっていそうな気がするし。

 また、おいしいって言ってくれるかな……。

 

 なんだか今夜はちょっと暑いかも。

 でも、全然嫌な熱じゃない。布団の上でゴロゴロ転がりたくなる。

 

 って。

 それじゃ眠れないじゃないか。何も考えるな考えるな……。

 

 それからも結局、体感で一時間くらい布団の中でモゾモゾし続けていた。

 なんとか翌日に寝坊することはなかったから、一応は結果オーライということにしておこう。

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