榊祐哉
「あ、榊くん!球技大会のことなんだけど……。榊くんはどの競技がいい?」
開放感あふれる放課後の教室で一人、てきぱきと帰る支度をしていた榊祐哉はクラスメイトの女子に声をかけられて、その手を止めた。
「おれはどれでもいいよ」
「あ、そう……」
――あ、今の言い方だと、ちょっと素っ気なかったか?
相手の表情の変化を読み取った祐哉は、きちんと彼女へ向き直り、少しだけ微笑んで見せた。
「君の好きな競技にしてくれる?」
裕也に笑いかけられた彼女の顔が赤く染まる。
「う、うん!」
彼女が返事をしたのを見て、残りの荷物を手早くまとめた祐哉は、未だに見惚れたように彼の横に突っ立っている彼女に気づいて、「じゃあね」と声をかけると教室を後にした。
「かっこいー……」
先ほど祐哉に微笑みかけられた彼女がそう零したのを皮切りに、周りの女子たちが騒ぎ始める。
「いいなー、私も榊くんに笑いかけてほしいー!」
「なにあれ、かっこよすぎ!」
「あのちょっと冷たい感じがたまらないんだよねー」
「美形だから!美形だから!」
「あの儚い感じもねー。触ったら消えちゃいそう」
その騒ぎから少しはなれて、少数の男子たちが祐哉に対してまた違った見方で話し合っていた。
「でもさー榊は最近ちょっと変わったよな」
「美形なのは相変わらずだけどさあ」
「なんていうか……」
「笑顔が作り物めいて見える」
その最後の意見に、彼らは「そうそう」と同意した。
「特に『目』がな」
「まあ、あいつにもいろいろ思うところがあるんだろうさ」
「あんなことがあった後じゃ、それもしょうがないだろ」
彼らの表情が曇る。その中には祐哉に対する同情や、哀れみも含まれていた。
「家族全員が事故死なんてなあ」