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青い鬼と真実と

見返せばどんどん見つかる誤字脱字と矛盾…

そろそろ修正期間に入ろうか検討中です。



「あらぁ。巫女様も殺る気が出てきたみたいだしぃ、そろそろ始めましょうか」



「お手柔らかにお願いします」



「きゃははは! 出来たらねぇ。じゃ、もうそいつの術解くわよぉ。そうしたら殺す以外そいつは止まらないから頑張って巫女様ぁ」



「余計なご忠告どうもありがとうございま……っ」



言い終わる前に私の鼻すれすれで銀色が横切った。

咄嗟に後ろに仰け反ったから無事だったものの、反応できていなかったら顔のパーツの一つと完全に別れを告げる羽目になっていただろう。


斧の大きさと青鬼の腕の長さを考えて、青鬼との間合いを取る。

とりあえずは、しつこいくらい聞かされていた母さんの遥か昔であった十代の頃の武勇伝にもよく出ていた御札が効くのかどうか試してみようか。



「私が書いたものと、母さんが書いたもの。――さて、どっちが効くんでしょうねっ!」



私の家には家族全員朝に御札を一枚書かなければならないというルールがある。

ああ見えて真面目な弟や、母に逆らえない父は結構真剣に毎朝書いているが、朝に弱かった私は予め前に書いておいた御札を用意して誤魔化すというのを偶にしていた。

その同じような作戦で母の御札も何十枚かくすめていたので、旅支度をするときに一応懐に忍ばせておいたのだが……今思えば母のよりも弟の御札を持ってきた方が良かったのかもしれない。

御札というものは存外達筆なことは勿論、それに加えて絵心というものが必要なのだ。

父に似たのか手先が器用だった弟と私は結構上手いほうだと思うが、母の御札はあまり線などが均一でないことが多い。

まあ、本人曰く



『上手いか下手かより、効果があるかないかが重要なのよ!』



らしい。

本人があれだけ言っていたのだから、御札の効果も充分にあると思いたいがいかんせんあの母のことなのでいささか不安だ。

赤の墨で書いた私の御札と黒色の墨で書かれた歪な線の母の御札に、飛び易いよう同じような印を書いた石を貼り付けて青鬼に向かって飛ばす。


上手く貼りついた、か?



「……動きを鈍くする御札らしいですけど、効いたことになるんですかね。これは」



めちゃくちゃに振り回していた斧が突然止まり、不思議そうに目を開閉させながら御札が貼りついた手を見つめる青鬼を観察する。

私が書いた御札は残念なことに斧に張り付き、多少斧が錆付いた――ように見えなくもないみたいな微妙な効果だった。

まあ、本来あれは生きているものに効果を示すものだから効果もでないのが当たり前と言えばそうだが。



あと、一つだけ不思議なことがあるのだが。

今回使用した御札はとある朝に書いた、対象の動きを一時的に痺れさせて鈍くするというものだった。


そのはず、だ。

線が歪んでいる以外はほぼ私が書いたものと同じ模様なのでそれは間違いないだろうが、母の御札が貼りついた青鬼の様子がおかしい。


確かに、動きは鈍くなった。




だが、あの御札には貼られたところからどんどん変色していって腕が痙攣した後に腐り落ちるなんて効果ではなかった筈。

絶対に。



「なにとんでもないもの毎朝量産してるんですか母さん」



恐ろしい兵器を毎朝笑顔で量産している母に恐怖が背中を全力疾走な勢いで駆け抜けた。

これ、人には効果ないでしょうね。

あったとしたら、二度と私は母さんに逆らえなくなる。

背後で驚く香美さんや雨莉さんの声がどこか遠いものに聞こえた。



「さっすが、腹黒妖怪が連れてきた巫女なだけあるわねぇ。これは絶対に連れて帰らないと」



「それをわたしが許すと思ってるの?」



チラッと後ろを振り返って見たが、あれは次元が違う。

おそらく幻術の類だろうが、黒くて禍々しいナニカが蠢き合って火花を散らしていた。


身の振りに困っていると呆然と腕を見つめていて、微動だにしなかった青鬼が動き出したので油断しきっていた気を引き締め直す。



「全く、腕一本失ったっていうのにショックから立ち直るの早くないですか?」



片手で軽々とでかい斧を担ぎ上げる青鬼にただ私は苦笑するしかなかった。

実はというと、もう御札は持ってない。

だからもう私には妖怪と戦う術はないのだ。

そもそも、いつも危険な状態と隣り合わせな人ならいざ知らずつい最近まで妖怪の存在すら信じてなかった人が対妖怪用の護身具を持っているわけない。

あの二枚がたまたま懐に入っていたことすら、奇跡に近いのに。

どうやら私は今、かなりの絶対絶命の危機に陥っているようだ。


あれ、最近同じようなことがあったような気が。


既視感ではない。


前と同じなら、今回も助かるのだろうが。



「そんな都合のいいことはないですよねー」



自嘲じみた声で笑いながら、私はすぐ近くのテーブルの上に置いてあった果物ナイフを手に取った。


申し訳程度の小さな武器だが、これでもないよりはマシだ。

両腕を出来るだけ伸ばして牽制する。


汗で滑るナイフを何度も握り直す。

構えたナイフの位置が定まらないことに気が付いて初めて自分が恐怖を覚えていることが分かった。


私は小さい頃から、どこか感情の起伏がおかしいんじゃないかとよく言われていた。

自分では正常だと思っているが、普通の人なら怖がるものに反応しなかったり変な所で笑ったりするらしいから余計に。


まあ、確かに私は幽霊やグロテスクな物体程度は結構平気なので一般的には珍しい方だと思うが。


そんなわけで、珍しくまともな場面で感情を露にしてしまった私だが……タイミングが悪かった。


私なんて一気に身体の半分は食いちぎれそうな大きい口を左右に広げて笑ったような顔をした青鬼を見て心底そう思った。


あれほど小さい頃に母さんに言い聞かされていたというのに、自分のしかも負の感情を妖怪相手に出してしまうなんて。


一般的に妖怪は強い思いから生まれる。

それは、強い思いをもった魂同士の複合だったり長い間生きて力を持った生き物や長い間使われて思いが乗り移ってしまったものと様々だ。


特に妖怪になってしまうほど強い思いとは、大抵負の感情であることが多い。

対象に向けての憎悪、嫉妬、殺意。

これらの思いはその対象に向けて何かしらの復讐をしなければ消えないどころか、逆に膨れ上がって無差別に暴れまわったりするから余計に性質が悪い。


逆に正の感情は自分の生に不満がないことが多いので、妖怪や霊として自分を残すことはなく次の輪廻に向けて消えていくのだが。


妖怪や幽霊として生まれ変わったモノは、自分が出来たキッカケをなった思いや事柄で自身の力を強めることが出来る。


私の前にいる青鬼は、術が解けた途端に襲い掛かってくるくらいだ。

負の感情から出来た妖怪だろう。

力が強いモノ程、進化した生物の中で一番器用な人の姿へ近づけたような容姿だがこの鬼は輪郭は人でも他はほぼ鬼そのものなのでそこまで力は持ってない低級の類。


だけど、



「しまった……っ!」



負の感情である恐怖を感じ取ればもう主導権は相手の物。

一気に負の感情から力を吸い上げて自身の力に変える。

本性を露にした那音さんが私に術をかけた時と同じ、動きを封じられて気道が閉じかかっているのか呼吸が上手くできずに浅い呼吸を何度も何度も繰り返した。


酸素が足りずに霞む視界でなんとか捕らえたのは、力を得たからか変化しようとしている顔半分がひどく歪んだ鬼とも人とも言えない生物だった。



「うっわ、なにあの低級。巫女から力奪い取って変化しようとするとか、マジありえないんどけどぉ」



「柊ちゃん! ちょっと、連れて帰るんじゃなかったの!? あのままじゃ死んじゃうわよっ」



「うるっさいわねぇ。元々あたしの下僕なんだから、そんなヘマあたしがするはずないでしょお……え」



「何、どうしたの!?」



「嘘よぉ、あたしの術が効かない!!」



「はあ!!?」



騒ぐ彼女達の声がどんどん遠ざかっていくのを感じながら、あの時のように私は目を閉じた。



「あーあ。まだあの雑誌の……特集見てなかった、んですけどね」



最後の二酸化炭素を吐き出して。

振り下ろされる斧が斬る風の音だけが耳に入っていた。















「今度は雑誌かよテメエはぁあああ!!」



壁が破壊されたような轟音が響いた途端に私に掛かっていた術が解けて一気に酸素が肺の中に入り、前にも聞いたような怒声に笑いながらも私はむせ返った。



「これが既視感って奴ですか、智也さん。デジャブってますよねー」



「実際前にもあっただろうが!! めんどくせえから下がってろ」



前にも見た鬼の前で長い棍を構えた智也さんの光景。

ただ、前と違うのは



「話は聞いてたんだけど……君って本当にニンゲンの中でも馬鹿な方だよね」



座り込んだ私を高身長を利用して見下ろして毒を吐く那音さんと



「ふっへー。間に合ってよかったぜ。あれ!? あの低級もどき、右腕ないじゃん! もしかして柊ちゃんがやったのか?」



「まあ、ちょっと母の力をお借りしました」



「すっげー!!」



目をパチパチさせて驚く喧しい薊さん



「あ、ちょっとまだくらくらしますけど大丈夫ですよ」



心配そうに私の背を擦る仁さん達がいること。


尚も心配そうな仁さんにやんわりと告げると眉を顰めたまま、仁さんはとある所へ歩いて行った。

あ、



「仁さん! そっちは女同士の幻術合戦してる方で……あ、やっぱりなんでもないです」



言葉途中で耳を貫いた甲高い悲鳴と、気のせいかと思えるほどに一瞬で駆け上った寒気。

そろそろと覗いてみると壁際で震えている香美さんと、壊されていたドアの外で横たわってなんとか立ち上がろうとする雨莉さんがいた。


この一瞬で一体何があった。


呆然と見つめていると、背後でまた爆音が響いて振り返ろうとしたらそのまま近づいてきていた仁さんに頭を軽く抑えられた。

あの、顔に返り血がついてますよー



「見ない方がいいぜ? ちょーっと柊ちゃんには刺激が強すぎるからさ」



「そう? 見てて結構愉快で楽しいんだけど」



「それ那音だけな」



皆趣味悪ーいと頬を膨らませて拗ねる那音さんに、お前が一番趣味悪いんですよと声にならないツッコミをした後大人しく音が止むまで破壊音が響く方向から目を背け続けた。



数十秒後に音は止んで振り返ってみると、少し色が濃くなった赤い棍を軽く振り回して黒っぽい液体を飛ばしている智也さんと薄っすらと消えていく青鬼だったものが。



「――さて。粗方片付いたし、雨莉は逃げちゃったからとりあえずは詳しい話を聞こうか」



「それはこっちの話ですよ那音さん。聞きたいことがありすぎて……って、雨莉さん逃げたんですか? いつの間に」



「仁に殴り飛ばされた後、幻術使って自分の代わりを見せている間にね」



「そうだったんですか。っじゃ、なくて。それよりも私に言わなくてはならないことがあるんじゃないですか、御三方と確信犯様」



「え゛、那音だけじゃないの柊ちゃん」



私の言葉に途中までうんうん頷いていた薊さんだったが、最後の私の言葉で驚いたような声を上げた。

他の二人も、声には出さずとも似たような反応をしているのが気配だけで分かったが何で驚く。



「当たり前でしょう? 那音さんが説明していた時に補足もなにもせずに黙っていたじゃないですか」



「そうだよ、共犯の癖に自分は関係ないって思ってるなんて都合いい脳内してるよね」



「黙りなさい確信犯の極悪リーダーが」



よくぬけぬけとそんなことが言えたな、この腹黒妖怪が。

無意識に目を細めながら彼等を問い詰めるよりもまず、まだ壁際で震えている香美さんの下へ向かった。



「香美さん……香美さん!」



「――っ! あ……柊、ちゃん?」



二、三声を掛けてようやく私の存在を認識してくれた香美さんに安堵すると同時に、仁さんは一体何をしたのかがすごく気になった。

あのかなり強そうだった雨莉さんと互角の勝負を繰り広げていた香美さんを一瞬で震え上がせるほどのことなのだから、きっと相当なことをしたんだろうが。


仮にも親しそうだった香美さんでも耐えられない程の行動って、何?


自身の両手を握りこんで俯く彼女の背を擦りながら、唐突に仁さんが載っていた危険人物の名簿を思い出した。


もしかして、あれとなにか関係があるのだろうか。




しばらくして香美さんが落ち着いてきた頃にあの四人組には座ってもらって、隣で補足説明を香美さんに頼んで本題を切り出す。



「まずは、雨莉さんが言っていた私が天界に連れてこられた『本当の理由』を聞かせてもらいます」



「いきなり直球で本題ついたな……ちょっと遠回りしてからその話行かねえか?」



「遠回りも変化球もしませんよ智也さん。早く話して下さい、この話何故か私の命に関わっているような気がするんです」



「すごい動物的危機回避本能だね、柊さん。ま、かなり当たってるけど」



「おーい、お願いだから真面目にしてくれ二人共。柊ちゃんが般若顔負けのすごい目つきになってるから」



「格好と顔なら君が一番ふざけてるんだけどね」



「全くだ」



「それどういう意味!?」



「うるさいわよあなた達! 話が逸れてるじゃない、さっさと本題に戻して」



鶴の一声ならぬ香美さんの怒声で大人しくなった三人(元々仁さんは壁に寄りかかって静かにしていた)へ大きい溜息を吐きつける。



「言っておくけどね、僕が君に言ったことも嘘じゃないんだよ? ただ、そういう意味でもあるかなーって」



じゃあ、全部話すね?

満面の笑顔で真相を語る那音さんは、敵っぽい雨莉さんが言っていた『腹黒妖怪』の名に相応しいくらい無邪気で残酷だった。






「まずは元々の理由が四天王様の一人である毘沙門天様の裏切りってことは覚えてる?」



「ええ、一応は」



「それでなんだけど、どう裏切ったとか。どういう奴等と反乱を企んでるとかは言ってなかったよね」



「……そうですね」



確かに、今まで不思議に思わなかったのが逆におかしい。

四天王の一人という人が起こしたんだ。

とてつもない大事に違いない。



「前にも言ったとおり、毘沙門天様を誑かした輩はまだ調査不足で分かってないんだけどかなりでかい組織であることには間違いない」



「でかい組織、ですか」



「そう。そしてその組織はとある場所で一番天界の中で“してはいけないこと”をしようとしている。だからそれを防がないといけないんだ」



「そのことと私は一体どういう関係が……」



「その“してはいけないこと”にも、それを防ぐためにもどっちにしろ巫女の血族がいるからね」



少し、話が読めた気がする。

那音さんが私、ではなく巫女の血族が必要と言った時点でそれはほぼ確信した。

決して、いい話ではない。



「その“してはいけないこと”って言うのはね、遥か昔に君のご先祖様。つまり、僕等で言う伝説の巫女様が封印した妖怪の本元がいるんだ。それであいつらはその本元を解放して出来もしないくせに力を取り込もうとしている」



「世界で一番最初に妖怪になったモノよ。この妖怪を超える妖力の強さを持ってて、残虐だった妖怪や悪霊はいないと言われているわ」



「基本的に封印ってのは封印した奴の血がないと解けないし、再封印は出来ねえからな」



「――それで、私が……」



「そう。適当に僕達が巫女の血族の中で君を選んだように思ったかもしれないけど、実は違うんだよ? 確かに僕に会う前に君が智也に会ってたってことは予想外だったけど」



「柊ちゃんが丁度智也と会ってた時さー、天帝……あ。字の如く天界の帝なわけだけど、天帝がお告げを出したんだよ。封印の素質を一番持っていて、伝説の巫女様に近い血なのは柊ちゃんって」



那音さんの説明と香美さん、薊さんの補足に顔から一気に血が下がるような感覚がして、目眩がした。

まさか、自分がそんな大事に巻き込まれていたなんて。

分かり易い程に動揺する私を見て、めんどくさそうな表情だった那音さんが目を輝かせて露骨に嬉しそうな顔に変わった。


ほんと、こんな人が政府側みたいな組織にいていいのか。

色々問題があるだろう、絶対。



「分かった? あっちにも君は必要だし、それをさせない為の二度と解けない『再封印』をするのにも君はいるんだよ。雨莉が代わりはいるから別に君は死んでもいいって言ってたって? 確かにそうだけど君が一番無事に封印を解き、もう一度封印を掛けることができるニンゲンなんだよ」



一応は天帝がご指名した御客人だから守ってあげるけど素質がなければ、封印の印を組んだ途端死んじゃうからねえ。

口の端を上げて歌うように言った那音さんの言葉が頭の中で反響する。



そのワードが急に現実味を帯びてきて、傾く身体のままに私は意識を飛ばした。



「柊、」



意識を飛ばす瞬間、床に倒れこむ前に聞こえた那音さんの焦ったような声と私を抱き留めた赤い髪が視界に移って――消えた。









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