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天界辞典の家

ちょっと長いです。

この物語の世界観を少しでも説明できたらなーと思います。

※宗教的な話が飛び交っていますが、あくまでこれはファンタジーであり更夜の足りない知識のものなので名前だけお借りしているものだと思ってみていただけると嬉しいです。

宗教関係の方には腹が立つようなことも書いてあるかもしれません。

ご了承下さい。


※キャラの名前が間違っていたので修正しました5/15


私達が今歩いているここは、天界でもかなり外れの方にある小さな街らしい。

聞けば、人も多く住んでいるそうだ。



「何故、天界に人が住んでいるんですか?」



「あ、それは三つくらいのパターンがあんだけどさー。一つ目、迷い込んで来てそのまま永住することに決めたニンゲン。二つ目、仙人志望で修行しているニンゲン。最後、仙人や神が一目惚れしちゃってそのまま連れてこられたニンゲン」



「なるほど」



自分の故郷のことを質問されるのが嬉しいのか、ご機嫌で薊さんは質問に答えてくれる。

私が心配していた黄泉戸喫もないんだそう。

彼曰く、



「だってここは天界であって黄泉じゃないし」



とのことだ。

彼の言い分はごもっともだが、こちらはついさっきまで天界の存在を信じていなかったのだから知らなくて当たり前だろう。

そんな知ってて同然のような顔をしないでほしい。



「いやー。それどころじゃないって分かってはいんだけどさ、ここに誰か連れてくんの初めてだからなんか新鮮っ」



「分かってんなら浮かれんなよ薊。とりあえず今日はもう遅ぇから、紅のところでこいつを預けるぞ」



「えー、紅に何か頼むのー?」



「紅が嫌なら別に冬樹の部下でもいいが」



だるそうに私を指す智也さんに私は首を傾げる。

紅?

冬樹?

一体誰の話をしているんだ。

というか、こいつを預けるってどういうことだ。

とりあえず近くにいる智也さんに聞いてみると



「あ? 紅も冬樹も俺等の同僚だよ。それぞれのチームリーダーでもあるけどな」



「はあ……」



だからなんなんだという説明の足りない言葉が返ってきた。

少ない情報に私が頭を抱えていると、隣から聞き慣れない掠れた声が聞こえてきた。



「……俺達は、上――神に瀬川柊、巫女を連れて来いという指令、受けていた。だから、連れて行かないといけない。でも今日は遅い」



「え!?」



どこかぎこちない言葉は、確かに仁さんから発されたものだった。

突然の出来事に驚いて目を見張ると、先程までうるさかった人達の声が聞こえなくなったことに気がついて三人の方を振り返り見た。



「何で私より驚いてるんですか」



振り返った先には私よりも大きく目を大きく見開き、仁さんを指差しながら口を開閉しているのが二人、興味深そうに眺めているのが、一人。



「だ、だってオレ初めて仁の声聞いたんだけど」



「さっきも言ったが、俺や薊と那音も名前聞いた時以外は仁の声を聞いたことがないんだよ」



「うんうん。珍しいよね」



「そうやって貴方達が珍獣扱いするからじゃないですか? ……って、どこ行くんですか仁さん!」



口々に自分の驚きを言葉にする三人を尻目に私の手を引いてどこかへ行こうとする仁さんに私は声を荒げる。

なんで天界の人って……人じゃなくて妖怪と仙人だけど、自由人ばかりなんだ。

ああ、頭痛がひどくなってきた。



「このままじゃ、話まとまらない。だから、俺の知り合い、柊、預ける」



「知り合い、ですか」



「あ、仁が連れてってくれんの? じゃあオレ等は上に報告してくるわ。柊ちゃんをよろしくー」



気楽に手を振って二人を連れてどこかへ消えていく薊さんに頭を抱えながらも、私の手を引いている仁さんに着いて行った。

道中、さっき私が行ったことに対しての答えなのか小さく言葉を零していた。



「冬樹の部下、香美。女だから、泊まっても心配しなくていい」



「いや、そういう心配は最初からしてないんですけど」



その後は二人共無言でを歩いていく。

元々、普段は私も余り喋る方じゃないから別にいいのだが、今は違う。

何と言ったってここは私にとって異世界に近い場所なのだ。

聞きたいことが山ほどある。

矢継ぎ早に質問していくと、仁さんは困ったようにゆっくり首を振った。



「俺は、説明上手くない。香美に聞けば、答えてくれる」



「……わかりました」



そう言われてしまえばこれ以上何も聞くことができず、私は大人しく仁さんに着いて行った。



「ここ」



「ここが、香美さんの家なんですか?」



十五分程歩いた頃。

私達は真っ白な小さい家に着いた。


一つ頷いた仁さんはそのまま小さな家に近づいて……容赦なく強い力で扉を叩いた。

扉が叩いた音ではなく、みしみしと扉が軋む音がしている。



「ちょ、ちょっと待って! 出る、今出るからっ」



そろそろ扉が壊れるんじゃないかと心配になってきた時に若い女性の叫ぶような声が聞こえてくると、そのまま勢いよく扉が開いた。



「ホント勘弁して仁。あなたのお陰で何回この扉作り変えてると思ってるの。いい加減にしないと壊れにくい鉄製の扉にするわよ……って、別に全然構わないって顔すんの止めなさい」



片手で額を押さえながら声を絞りだす彼女――この人が香美さんだろうか。

彼女は透き通った綺麗な白髪で右目にモノクルをかけていた。

香美さんは額を押さえていた手を外して顔を上げると、仁さんの隣にいる私に気付いたのか不思議そうな顔で首を傾げた。



「あら……別にニンゲンが訪ねてくるのは珍しくないんだけど」



そこで一旦言葉を切ってチラリと視線を黙ったままの仁さんに向ける。



「あなたがニンゲンの女の子連れてくるなんてね。それに、仁は確か、那音のところであの子達の指令手伝ってるんじゃなかったの?」



「え、あ、私は」



「いやいやいや、仁が仕事を放棄するはずないし……あ、その子が指令の巫女様なのね」



随分なマシンガントークですね。

何故か母さんが頭の中で出てきましたよ。

話を挟む隙間がまるでない。

どこか意識の片隅で、ペチャクチャと保護者会の人もドン引きで自分の考えを捲くし立てる母。

寺小屋での開かれていたそんな母の保護者会議を、扉の隙間から覗いて私が観たシーンが繰り返し繰り返し脳内で流れていた。



「なるほどなるほど。それでもう遅いから、わたしのところに巫女様を預けにきたってわけね……うんうん」



一人で納得したように頷く香美さんに思わず苦笑が漏れた。

この人一体どうしようかと、仁さんの顔を見上げても彼はいつもの無表情で何も分からない。

とりあえずここは彼女が満足するまで止めないほうがいいのだろう。

そう結論付けて私達は彼女が落ち着くまで待つことにした。




――これが間違いだったのだが。













「香美」



「何、今考えを纏めているところなんだから邪魔しないで」



「もう、夜」



「え……え!?」



「結構前から暗くなってましたよ香美さん……」



心底驚いたとでも言いたげにキョロキョロと辺りを見渡す香美さんに、私は本日何回目だろうか。

深い溜息を零した。

あれから結局、考え込みだしてしまった彼女は五分や十分なんて小さい規模ではなく何時間単位の長い間考え込んでいた。

流石にこれ以上待っていられなかったので仁さんに声を掛けてもらう。

ここまでくると逆になんで止めずに律儀に待ってたんだ私はと、自分で自分を突っ込みたくなる。



「やだ、わたしったら。ごめんなさいね、巫女様。わたし、考え出すと周りが見えなくなって……時間とかも気にならなくなっちゃうの」



「そうみたいですね。ここ数時間でそれがよく分かりました」



「あははっ。それじゃあ仁、巫女様はわたしに任せて? ちゃんと明日にはそっちに送るから」



「ああ。それと……天界のこと、いくつか教えてやってくれ」



コク、コクと香美さんの言葉に一つ一つ頷いていた仁さんだったが、別れ際に思い出したように香美さんに頼んだのはさっき私と仁さんのやりとりのもの。



「仁さん、ありが……あれ?」



「もう、行っちゃったわよ? さ、家の中へどうぞ巫女様」



それに気付いた私が、礼を言おうと振り返ったがそこにはもう仁さんはいなかった。

暗いとはいえ、ほぼ一本道なのに後姿が見えないとはどういうことなのか。


……仕方ない。

明日彼等と合流した時にでも言おうか。

そう決めると、家の中へ入っていく香美さんに続いた。











「さてさて、わたしに何を聞きたいのかしら巫女様は」



食事や入浴も済み、彼女の部屋に置かれていたソファーに座って近くに置いてあった雑誌を読んでいるとテーブルを挟んで目の前に椅子を持ってきた香美さんがニコリと私に笑いかけていた。


ひとまず、読んでいた雑誌をテーブルに置いて私は深くソファーに座り込む。

……さっき読んでいた雑誌の内容が『必見! これであなたも天界美人』という題名で、かなり気になってはいるが。

その隣にあった『天界ランキング殿堂入りした男――冬樹が語る今の妖怪事情』の記事とかも目を引かれる。

基本私は雑誌は見ない性質だが、これは面白い。


少し名残惜しかったが、自分から言い出したことなので雑誌の未練を断ち切って私は順を追って質問していく。



「まず、これは私が幼少の頃から気になっていたんですが……天界では神と仏の違いはなんですか?」



「え? そうねえ、神はニンゲンが生み出したもの。仏はニンゲンが悟ってなったもの、かしら。ついでに言えば仙人はニンゲンが仏に弟子入りしてなったのもいるし、力を授けられてなったのもいるわね」



「人が神を生み出した? どういう意味ですか」



哲学者の中ではそんな話もあるし、年頃の少年少女なんかは神仏なんかいねーよなんて言ったりしているが……

まさか、天界でもそう思われているなんて。

戸惑う私に彼女は不思議そうにしていた。



「確かに、神――というよりは力を持ったナニカはいたかもね。でも、それに名前をつけて役を与えたのはニンゲンでしょ? だから神は自分を信仰してくれるニンゲンがいないと消えてしまう」



「消え、る?」



「そう。神というのは存在を信じた瞬間から生まれるのよ。例えば……小さな村の守護神とか」



確かに、その村だけを守る神様を信仰するのはそこの村人だけだ。

だからその村の人がいなくなれば信仰する人はいなくなる。


でも



「生まれはわかったんですけど、なぜ信仰する人がいなくなったら消えてしまうんですか?」



それがよく分からない。

私――いや、人なら誰しも持っているイメージだと思うが神というのは強い力を持っていて永遠の時間に存在するもの。

そんな神がただ人に信仰されなかったくらいで……それよりも私がいる国でも最近流行りだしたのだが、海を越えた異国で信仰されている宗教では神が人を造ったとされている。

私の国でも似たようなことを言われていた。



「神はそこまで全能じゃないわ。神はニンゲンに存在を認識され続けないと存在できないの。だから信仰されずに忘れ去られた神は信仰から力を貰えずに自身を保つことすらできずに消える」



「信仰で力を得るんですか……ありがとうございます」



「それでいいの? それじゃ、どんどん質問していいわよー。こう見えてもわたし、天界の辞典って言われてるくらいなんだから」



二つ名があるということは結構有名な人なんだろうか。

それなら、明日那音さん達と合流する前にできるだけ聞きたいことは聞いておこう。



「では、天界のご飯とか風習とか――」



「ああ、それなら――」



それから約二時間ほど彼女に質問し続けていた。

普通ならめんどくさいだろうに彼女は最後まで嬉しそうに笑顔で答えてくれた。

これで、大体は分かったと思う。

聞いたことを忘れないように後で整理しておいたほうがよさそうだ。


もう一度私は座り直し、深々と彼女に向けて頭を下げた。



「ありがとうございました香美さん。お陰でだいたいは分かったと思います」



「あら、もういいの……って、やだもうこんな時間」



見上げると、時計のようなものが私が知っている時計だと12時を針が差していた。

時計の盤が、描かれている文字が見たことがないようなものだったので正確にはわからないから推測に過ぎないのだが。



「それじゃあそろそろ寝ましょ。巫女様の部屋に案内するわ」



「はい。あ、香美さん」



階段の方へ歩いていく香美さんを呼び止める。

これは流石に言っておかないといけない。



「会った時から思っていたことだったんですけど……私は巫女は巫女でも、まだ見習い程度の腕。だから、様づけはいいです」



「うーん。そういう問題じゃないんだけど……いいのか、な? まあ、本人も言ってることだしいいか」



この時、彼女の煮え切らない態度に疑問を持っていたのだが後日してくれた彼女の説明によると、私は事実上天界の犯した失態を収拾つけるために連れてこられたいわば神の客人らしい。

だから、敬称をつけないといけないんだとか。


ん……?

そういえば那音さん達は普通に私の名前を呼んではいなかっただろうか。

まあ、那音さんが様とか言ったら鳥肌がたつどころじゃ済まないだろうし私もそのほうがいい。

普通、一般的な学生がレストランとか公共事業以外で様付けされることはないから慣れないし、私も余りそういうのは好きではない。



香美さんに着いて行って宛がわれた部屋に着いた。

その部屋は広々としていて、いきなり押しかけたのにこんな待遇を受けていいのだろうかと申し訳なくなる。

持ってきた荷物を下ろし、明日もやることはあるらしいので寝てしまおうかと寝床に向かうと、小さな机のところに分厚い紙の束が置いてあった。

気になってその紙を手に取ると束の隙間から小さなメモ用紙が落ちた。



『那音やわたしが所属している組織の資料よ。ちゃんとあなたにも読めるように訳しておいたから一応見ておいてね。香美より』



ああ。

そういえば、組織の話はさっきまでしていた香美さんとの話の中でも出ていたな。

香美さんの気遣いに感謝しつつもその資料を掴み、用意されていた寝台に寝そべって目を通していく。



「へえ。階級なんてものもあるんですね。――っ!」



階級順に並べられている名簿を下から見ていると、かなり上の方に那音さんの名前を見つけて息が詰まってしまうくらい驚いてしまった。

あんな人がこんなに上の階級で大丈夫なんだろうか。

いつか寝首をかかれるんじゃないか、組織のトップ。

少々心配になったものの、すぐそれを頭から振り払って次の資料を見る。

資料の二枚目は組んでいるチームごとでの役割と名前が記されていた。


どうやら那音さん率いるチームは主に現場へと向かわされる特攻部隊で、香美さんがいるのは冬樹さんの情報部隊らしい。


冬樹さん、か。

智也さん達も言っていた人の名だが、どこかでこの名前を見た気がする。

しばらく考えてみたが、出てきそうにないので早々に諦めて資料の続きに目を通す。


資料に目を通している内に私はあることに気が付いた。

那音さん達のチームのところに仁さんの名前が載っていないのだ。

……ああ、そういえば仁さんは最近他のところから那音さんのところに派遣されたって智也さんが言ってたような。


では、彼の名前は他のところに載っているのかもしれない。

少し気になった私は次々と用紙を捲っていく。




「――あった」



彼の名前を探し始めて十分後、ようやく仁さんの名前を見つけることができた。

だが、その見つけた名前の場所が少々問題だった。



「仙人の名簿じゃあ、ないですよね」



仁さんの名前が載っていた場所は、組織のメンバーの中でも一番後ろの方。

要注意人物の欄。



「何故、仁さんの名前がこんなところに」



私が勝手に思っているだけだが、少なくとも彼はあのメンバーの中で常識人と無害の称号をものにしている人の一人。

因みに言うと、もう一人の常識人は薊さんだ。

彼も派手な見かけや軽い口ぶりに反して中々に常識人だと思う。

智也さんは一見常識人に見えて自分が面倒だと思ったら絶対関わってこないから、どれだけ誰かが暴走していても無視を決めこむところがある。

勿論、那音さんは言うまでもない。


だから、私に画仁さんが注意人物なんて信じられなかった。

だが、私と仁さんは出会って半日しか経っていない。

結局、どちらが正しいだの正しくないだのは私は言うことができないのだ。



「……もう寝ましょうか」



どうせ今からどんなに考えていったって分かるはずもない。

それに明日になればまた彼等と会う。

考えた結果、変な方向へ考え付いてしまったら会った時に気まずくなってしまうだけだ。

そのまま資料を脇に置いてもそもそと寝床に潜り込むと、冴える目を無理やり閉じて私は朝までの時間を過ごしていた。

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