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いざ、彼等の世界へ

うーん、那音の性格がどんどん悪い方向へいってるような…

精進します。


誤字、脱字を見つけた方は報告して下さるとありがたいです。

・・・出来る限りそれがないよう頑張ります

家を出て、近所の山を少し登った頃。



「いやー、中々に感動的な場面ありがとう」



「あ゛?」



「ちょ、那音! お前そこら辺で止めとけよ。一応お前は二つのニンゲンの魂から妖怪になったんだからこう……分かれよ空気とかっ。今もの凄く低い声でたぞ柊ちゃんから!!」



声を荒げる薊さんとコクコクと頷く仁さんを視界の端に捕らえたまま私は頭一つ分以上上にある幼くも整った顔を睨み付けた。


めんどくさそうに私の襟を掴んでいる智也さんがいなければすぐにでも母から教わった知識を総動員させて術を使うところだ。

いや、その前に殴りかかっている。



「確かに僕はニンゲンから妖怪になったけどさ、ニンゲンだった頃って何百年前だと思ってるの。そんなの覚えてないよ」



「貴方が人だった頃を覚えてるとか覚えてないとかどうでもいいんですよ。初めて話してから数分に薄々とは感じていましたが貴方、私……というよりも人のこと嫌いでしょう」



強く那音さんを指差すと彼は目を丸くした。

途端に口の端が上がって段々声を上げながら笑い出す。

逆に仁さん以外の二人は顔を青ざめさせていた。



「っく、お、お腹痛い……なんでそう思ったの?」



「母さんの扱いで、どう接すればいかに面倒になるかどうか分かりきった様な適切だったところとか私と弟が話していた時にどうでもよさそうにしてた処とか」



後は、私を見るときの目ですかね。


言い終えた瞬間、空気が変わった。

術が使える以外はほぼ一般人と変わらない私のような凡人でもしっかりと分かってしまうくらい空気が一気に冷たくなったのを肌で感じる。



「いい線はいってるよ。うーん、一応僕も生前はニンゲン達だったから嫌いとかじゃないんだよ。ニンゲンを」



「嫌いじゃないってことは、好きでもないんですね」



「大正解」



ぐりぐりと押し付けるように頭を撫でられ、思わず私は眉を顰めて無言で手を振り払う。

それでも、彼は嫌な顔で笑っていた。



「お、お願いだからその辺にしてくれよ那音と柊ちゃん。オレもうこの空気耐えらんない」



「右に同じく。っつーか、俺達のこと説明してた時に薊も言ってたがこれから長い付き合いになるんだ。仲良くなれとは言わないがせめて協力というか協調性ってものを身に着けてくれないか」



「はいはい。結構仲がいいと思うんだけどなー僕達」



「相っ当、歪んでますね。性格が。どこをどう見ればそう思えるのかが不思議なんですけど……った」



二人に懇願されてつまらなさそうに肩を竦める那音さんに食って掛かろうとしたら、安定の沈黙を保っていた仁さんに額を弾かれた。

地味に痛む額を押さえながら恨みがましく見上げると、初めて会った時と同じ――つまり無表情で自分が指で弾いた私の額を今度は労わるように撫でていた。

無表情なところとかが弟に似ているからか、あまりこの人は那音さんのようには邪険にできない。

それにこの人は、この中では結構な常識を持った人だと私は思う。

そういえばこの四人の中で仁さんだけが妖怪ではなく天界の仙人だと那音さんが言っていた。

私の家のご先祖様である巫女様が書き残した書物のコピーを見て思い出したが、仙人達にとって人は格下であってその人が治める世は穢れそのもの。

だからそんな世で声を発すれば、喉から身が穢れていき最終的には仙の力を失ってしまうので仙人の規律では人の世で声を発することを硬く禁じている。

中々に腹が立つ規律だが、人の上に立つ神や仏の下で仕えているんだからそんなものかと元々神仏の存在すらを信じていなかった私はそう納得していた。


そんな訳で、仁さんが会った当初から一言も発さない理由が分かったのだがそれを口に出せば



「いや、俺もあいつとは長い付き合いじゃねえから分かないが……少なくともあいつが俺達のチームに派遣されてからは名乗った時以外は声を聞いたことないぞ」



すぐに智也さんに首を横に振られた。

まあ、要するに



「ただ無口なだけなんですね」



そういうことだ。

こんなアクが強い人達といるのだからこのくらいは何かあるだろう。

これを差し引いても良い人なので他に理由があったとしても私からは何も言わないし、無用な詮索はしない。



「那音さんと喧嘩するなってことですか」



撫でていたせいで乱れた髪を整えてくれている仁さんにそう問えば、静かに頷かれる。

……仕方ない、それじゃあ今は休戦するとしようか。


腹は立つが、かと言って応戦しようにも相手が本気を出せば私なんか瞬殺だろう。

私は半人前の巫女。

だが相手は何百年も生きている上級の大妖怪。

分が悪すぎる。

今は無理でもいつかは隙をついて反撃することにしよう。

そう思い直すと、急に私が大人しくなったのが気に食わないのか那音さんは頬を膨らませた。



「つまんないの。余計なこと言わないでよ仁……あ、言ってないか。余計な意思疎通しないでよ。反撃してこその遊びだろ?」



「おーいおい、仁を責めるなって。本当にそこまでにしてくれってば那音。……柊ちゃん? 一言言わせて貰うと天界にいる奴全員がこんな性格してないからな。たとえばオレとか」



「全員どころか那音しかいないだろ、こんな奴。じゃないと俺達の世界なんかとっくの昔に崩壊してる」



「どう意味かな智也」



「……別に」



那音さんみたいな性格の人は他にはいないと言うが、こんな人が一人いるだけでも大丈夫なのか天界。

組織に属しているとか言っていたがその社長の安否は無事なのか。

こんな部下がいればおちおち仕事なんかしてられないだろうに。

いつ背中からぐっさり殺されるか、とか。

リアル下克上が始まる気がする。

子供のように頬を膨らませて智也さんの肩を掴む那音さんを見て心底そう思った。

あ、なんか智也さんの肩から何かが軋む音が聞こえてきた。

顔も心無しかどんどん青くなってきたような。

それに気付いた薊さんが慌てて止めにいって、そこでまた騒ぐ三人を眺めた。



「さっきから気になってたんですけど」



私と一緒に三人を見ていた仁さんの袖を引くと、中々に良いとは言えない目つきの金色の目がこちらに向く。



「那音さんが私に連れて行きたい“とある場所”ってどこなんですか?」



彼は今まで喋ることはなかったので今回も喋って説明してくれるのかは分からないが、駄目もとで一応聞いてみる。


意外にも、仁さんは私の予想を外れた方法で教えてくれたのだが。

その場所が問題だった。

スッと彼特有の褐色の腕が上に上がったかと思うと、その指先は空を指していた。


いやいや、そんなまさか。



「天界……ですか? いやいや、そんなわけないですよねー」



乾いた笑いを零すと、仁さんは一度首を傾げてから首を振った。

音のでない唇が私に何かを伝える為にゆっくりと動き出す。

それを慎重に読み取りながら私は確かめるように呟く。



「て……ん……か……い? ……天界!? 本当に天界なんですか!」



「ん? どうしたの柊さん」



いつの間にか騒ぎ終わったのか、私の驚いた声に騒いでいた三人が集まってきていた。

なら、丁度良い。

聞かせてもらおうじゃないか。



「仁さんが言っていた……じゃなくて、方向を指差してくれたんですけど今私達が向かっている場所って天界なんですか?」



「なんだ。聞いちゃったのか……いきなり連れて行って驚かせたかったのに」



悪びれもなく肩を竦ませる那音さんに若干の殺意を覚える。

後で術式が書いてある書物をもう一度よく読んでおく必要がありそうだ。

今まで妖怪やら幽霊に会ったことがないから、一度も教わった術を使ったことがないし使うことは一生ないだろうと思っていた。

だから私の術が効くかどうかは分からないが、やってみる価値はありそうだ。

分が悪いなんて関係ない。

こういうのは勢いでいけばなんとかなる。



「溝の中にでも封印してやりましょうか」



「できるものならね」



見えない火花が私と那音さんの間で交差する。

気のせいか空気も冷たくなってきた。



「それじゃ、こんなところで時間つぶしてないでそろそろ行こうか。……智也、薊」



「え、オレ等がやんの?」



「仕方ないな」



さんざん睨みあった後に那音さんがけだるげに二人に呼びかけると、二人は横一列に並んで座り込む。

二人して両腕を伸ばし、まるで大きい襖を開けるような動作をした。

智也さんは右を。

薊さんは左を。


そのまま二人が腕を引いていくと、山特有の生い茂る木々があった景色が歪んでいく。

みるみる内に歪みはひどくなって最終的には



「本当に、人じゃなかったんですね」



見たことがない街並みが広がっていた。



「今更だろ?」



私の呟きにそう言ってニヤリと振り返った智也さんは、確かに人ではないモノに見えた。

躊躇いもなく――まあ、彼等は天界の住人だから当たり前かもしれないが次々と山の風景から境界線を張られたように現れた街へ入っていく。


当然、私は躊躇った。

人……つまり私達では天界のことについては学者達によって沢山の推測がある。

例えば、人が死ねば輪廻を回ることになっているのだがその前に天界にて自分の行く六道を決められるとか。

そして、生きている人が天界に行ってそこで水でもなんでも口にすれば二度と人の世には帰る事ができないらしい。

確か、黄泉戸喫(よもつへぐい)だったか。

そのような名称だったと思う。

そんなところにほぼ一般人の私が行って大丈夫なのだろうか。


無事ですむのか。

そもそも帰ることはできるのか。

っていうか、こんな方法で行くならこの山の中を彷徨った一時間くらいの時間はなんだったんだ。

色々な思いが頭の中でぐるぐる回る。

目の前の街を凝視しながら立ち止まっていると



「何を心配してるのかは分かんないけど、大丈夫。ちゃんと全部終わったら五体満足に家に帰すことを約束するよ」



おそらく、会ってから初めてだろう。

穏やかな顔で私に笑いかけていた。



『じゃあ、僕達と妖怪退治しようよ。協力してくれるよね、柊さん』



あの時と同じように彼は私に手を伸ばしていた。

だが、あの時と違うのは



「心配なんかしてません……よっ」



「痛っ」



手を取られるのではなく、自分から伸ばされた手を掴んだことだ。

少々力を込めて手を掴むと、私は山から天界の街への境界線を飛び越えた。

爪まで立てたので、流石の妖怪でも痛いらしい。



「……いい度胸してるよね、君。覚えておいたほうがいいよ」



「こんな方法があるのに、無駄に歩かせた罰ですよ。可愛いもんでしょう?」



口元を歪ませる那音さんにニコリと微笑み返す。

そのまま私は四人が案内されるがままに天界の街を歩いていった。


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