表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

捜し人との遭遇

まだ智也のターン!


「久しぶりだけど、やっぱなにも変わらないな。ここは」



暗いじめっとした路地の砂利を踏みしめながら、俺は相変わらずの景色に溜息をついた。

最近、やっと他国の文化を取り入れたとかで少々排気ガス等で空気が汚らしいがこれでこの国も他の国より劣るなんてことは言われなくなるだろう。


俺達は……ニンゲン好きが過ぎてニンゲンに化けて同じ世界に住んでいる奴もいるという例外もあるが、基本はニンゲン達とは違う空間に住んでいる。

が、元々この世界ありきの俺達の世界だ。


この世界が変われば連動して俺達の世界も変わる。

だからと言うのもおかしいかもしれないが、この時代に妖怪になった奴は『ゆとり教育世代』って言うのか?

そのせいでかなり礼儀がなってない奴等ばかりだ。


ゆとり教育というのも、考えようだと俺は思う。



「さて、と。いい加減に巫女の子孫サマを見つけ出さないとな」



ニンゲンのところに来て早三日。

朝昼晩を四人のローテンションで街を探し回るが、探し人である巫女は全く見つからなかった。

この街には冬樹が『巫女の気配がする』って情報を俺達に渡したから来たのだが、ガセネタだったかもしれない。


そう思ってしまうくらい何も見つからない。



「……どこにいるって言うんだ。子孫サマは」



毒づいたところでその子孫が出てくるはずもなく。

出てきたのは俺の長い溜息だけだった。



……いや、違うな。

余計なものも呼び出してしまったらしい。


角を曲がった途端に風が運んできた鼻を突く汗臭いような獣のような匂いに顔を顰める。

その後に感じた薄っぺらい妖気にすぐ妖気の持ち主は小物だと判断して少しだけ俺の口角が上がった。


丁度いい。

この苛立ちはその小物に向けさせてもらおう。

そもそも、禁を破ってこんなニンゲンの都市に出て来てしまったそいつが悪い。

上がった口角はそのままに、気配を辿っていく。


気配を辿った結果で着いた路地裏の突き当たりで俺は、驚愕の光景と人物に遭遇してしまうことになる。



「あーあ。まだあの本読み終わってなかったのになぁ」



ふざけたことをぬかす女と、



「ガァ!」



鉄臭い臭いを撒き散らす、低級の赤鬼。



「『本読み終わってなかったのになぁ』じゃないだろ!?」



咄嗟にニンゲンの女と赤鬼の間に滑り込んで鬼の貧相な槍を難なく受け止める。

低級程度の槍を受けるなんて造作もないが、距離が少し遠くて間に合うかどうか分からなかったが間に合って良かった。


知らないニンゲンとは言え、目の前で死なれるのは後味が悪い。


目の前の低級妖怪を気にしつつ、視線だけを後ろの女に向けると女は細い目を少し見開いていた。

死ぬかもしれなかった女にしては間抜けな顔してるなと、心底そう思った。

なのに、女の顔を見た途端に妙に胸が騒いだ。

……言っとくが一目ぼれとかそんな甘酸っぱいようなものではない。

緊張にも、恐怖にも近いものをその女から感じた。

……何ニンゲンの女を恐れているのか。

馬鹿馬鹿しい。



「すいません、ちょっといいですか」



「見て分からないか。今取り込み中だ」



考え込んでいた時に声を掛けられたからか、随分ドスの効いた声でかえしてしまった。

確かニンゲンの女って、キッツイこと言われたらすぐ挫けるから優しくしなさいとかなんとか那音が言ってたような?

ま、言ってしまったものは仕方ないか。

女も別に俺に対して動揺していないようだし、今は取り込み中。

正直、黙って大人しくしてほしい。



「いや、それは分かってるんですけど」



俺が怒鳴っても尚、言葉を濁す女に苛立ちが募る。

ついつい、また怒鳴ってしまった。



「解ってるなら黙ってろ。死んでもいいなら別だけどな」



「嫌です絶対死にたくないです。私が言いたいのはですね……帰ってもいいですか?」



「……は?」



一瞬だけ、時間が止まった気がした。

今俺は、随分と間抜けな顔をしているのだろう。

今、この女は何て言った?


いや、こんな状況なら誰もがチラッとは思うかもしれないが口に出す奴がいるか普通。

いない筈だ普通は。

一言、その女に何か言いたくて鬼との鍔迫り合いを棍に力を入れて払いのける。

赤鬼との距離が充分に離れたことを確認してから俺は女のほうに顔を向けた。



「ふざけてるのか。お前……っ! まさか」



この、女は。


胸騒ぎが、激しくなる。

この気配は、巫女の子孫……なのか?


そう考えた途端、その考えを肯定するかのように心臓が早鐘のように動いた。

俺達は特徴なんて、何一つ知らされていなかった。

誰かにこいつがそうだ、なんて言われていない。


だけど、俺はこの女があの巫女の子孫だともう信じて疑わなかった。

那音が言っていた『会えば分かる』の意味が今なら分かる。

間違いない。


この女は俺達の問題を唯一解決できる、伝説の巫女の子孫だ。

そうと分かれば、赤鬼なんて相手にしてないでこいつに俺達のところに来て貰わないと。

女に、『さっさとこいつ(赤鬼)を片付けるからそこで待ってろ』と言うつもりで口を開こうとした。

した、のだが。



「ふざけていませんよ。見たところ余裕みたしだし、足手まといにならない内に私は避難しておきます」



「おい、待て!」



「もしも次に会えたら、何かお礼しますねー。それじゃ」



女は既に、自分が言ったふざけたことを自分で実行していた。

足を大きく上げて、器用にも細い塀の上に立ち昇る。


女は、最初に見たときと余り変わらないめんどくさそうな顔を少しだけ緩ませてヘラッと笑う。

そのままゆっくり俺に向かって手を振ると、後ろを向いて俺の制止も聞かず塀から飛び降りて姿を消した。



「あのニンゲン次会えたらって会う気ないだろ……言い逃げか」



俺も組織の中では若い方だが、ニンゲンからみれば結構年期積んでいるはずだ。

ざっと、五、六百年くらいか。

そのくらい生きて、覚えきれないくらい数のニンゲンに会った俺だがこんなニンゲンには初めて会った。

そして、出来れば会いたくなかった系統のニンゲンだ。

あの女が指令の女だって、泣けてくるくらいに。



「グウゥゥゥ……」



赤鬼の低い唸り声にすら苛苛してきた。



「とりあえずはコイツを何とかして……後は那音に報告だな」



しかし、よくもまあ俺が考えている間待っててくれたものだな。

この赤鬼は。


牽制してかなりの距離をとっていたとはいえ、俺も結構戦闘中にしては長い時間考え込んでいたはず。

低級のくせに、そういう礼儀はあるのか。

鼻息荒く俺に向かってくる赤鬼の槍を軽くいなして俺は棍を振りかざした。



「じゃあな」



軽い別れの言葉を呟くと、そのまま棍を振り下ろす。

鈍い音と共に悲鳴もなく倒れていく赤鬼を無感情で見つめる。


妖怪そのものの姿に近い程弱い低級妖怪、ニンゲンとほぼ同じ……つまり俺や那音は上級妖怪にあたる。

その中でも、こいつは鬼そのものの姿。

つまり低級妖怪の訳だが、上級の俺が低級を殺すなんてことは造作もない。


ただ、少し前では……反乱が起こっていなければ、同胞として違う出会い方をしたかもしれないと思うと少し切ない。

鬼の種族のほとんどは毘沙門天の部下である鬼神の夜叉や羅刹の管轄だから。



「何、考えてるんだか。……面倒だが、早く那音達と合流しないとな」



俺にしては珍しい甘すぎる考えに、そんなことを考えた自分に吐き気がした。


自嘲気味に笑いながら、待ち合わせの場所に向かう。

赤鬼の遺骸は処理班が片付けにくるだろう。


待ち合わせの場所に着く前に、懐に入れておいた携帯電話が鳴って不覚にも俺は少し驚いてしまった。



「……誰だよ、こんな夜中に電話してくる非常識な奴は」



薄々誰がかけてきたのは分かっていてはいたが、それを思うと電話にでたくない。

現実逃避じみたことを呟きながら喧しい音を響かせる携帯に手をのばした。



「あ、猿!? オレオレっアザミだけど!!」



「うるさい。猿って呼ぶなクソ鳥。焼き鳥にするぞ」



いっそ、着信音のほうが静かだったんじゃないかと思うくらい受話器越しに喚きたてる仲間に遠慮なく罵る。

……その所為で余計に騒がしくなるのだが。



「で、俺に何の用だ。用がないんだったら、きるぞ」



「ち、違うって! えっと、巫女の子孫様の中で一番力を持っていて多分指令の子が見つかったんだよ。冬樹が教えてくれた」



「奇遇だな。俺もその指令の奴らしき女を見つけた」



ぇえ!? と、かなり驚いた声で叫ばれてそろそろ鼓膜の危機を感じた俺は携帯を耳元から少し離した。

冬樹から聞いた話によれば、その巫女の子孫の名は『瀬川柊セガワ シュウ』というらしい。


巫女の血筋で唯一その家系を受け継ぎ神社を営んでいる家の女。

別に俺は今まで力をある程度持っていて、尚且つ俺達に協力的であれば誰でもいいと思っていた。


でも、今は違う。

あの女を見てしまってから俺はもう毘沙門天をなんとかするのはあの女以外ありえない。

それくらいあの女に魅せられていた。


それは、あの巫女の力が強いからなのかはたまたは妖怪としての俺が感じたことなのか……それはわからない。



「とりあえず、お前等が言う奴にも一応は会って置くがそいつが俺が会った奴と違った場合は俺が見つけた奴にも会ってもらうぞ」



「え、は?」



「じゃあな」



「はい!?」



素っ頓狂な声を上げる仕事仲間である薊を無視して俺は電話を切る。

薊は、昔桃太郎の時の仲間だった雉の弟分だ。


同じ鳥類のカラスの魂と男の魂が混じった妖怪で、俺と同じく彷徨っていた所を雉……勇真に拾われてそのまま組織に入った。


それからは同じ新人としてよく共に任務に行っていたからか、いつしか俺や那音のチームの一員になっていた。


カラスの部分を一部分だけ継いでいるのか、軽率な言動とは逆にかなり頭がまわるし好奇心が旺盛。


……それも、派手な外見のせいでよく理解されないが。


あともう一人、今回の任務で臨時に派遣された奴がいるがそれは会った時でいいだろう。

あいつも中々に個性的すぎて俺も慣れることがまだ出来てない。



さて、と。

明日会う女は俺が見つけた女なのかそれとも別人か。



「どっちにせよ、協力的な奴だといいけどな」



楽しみだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ