俺達の事情
長いです。
ご注意を!!
※話が重複していたので修正いたしました。申し訳ないです…
どんどん同士である妖怪が急に増えてきたな、と感じられるようになったある日のこと。
「なんだその指令。上からか? 那音」
うん。そうなんだよね、と言いづらそうに言葉を濁らせる童顔の青年――那音は困ったような顔を俺に向るた。
いや、俺にそんな顔されても困るが。
俺達は遥か昔に鬼を倒して村を救った奴や、ニンゲンから亀を助けて伝説の宮に行ったとされる人物。
所為、ニンゲンが子供に語る『御伽噺』の妖怪化した奴等が作った組織に属している。
そもそも、『御伽噺』の類は多少の脚色はあれど実際にあったことが琵琶法師やら吟遊詩人が語っていったもので物語ではなく実話なのだ。
そんな奴等が集まった組織の主な活動は、妖怪達の治安を見たりニンゲンの陰陽師が封印した妖怪が復活してニンゲンに復讐しにいかないよう見張ったりする警察みたいなもの。
そして、今回那音が持ってきた指令みたいに上(神)が下してきたものを遂行するときもある。
因みに、那音は組織の中の俺が所属する四人チームのリーダーで確か……三蔵法師ってニンゲンと、桃太郎って奴の魂が融合してできた妖怪だ。
なんでこんな人畜無害そうな印象をうける奴が妖怪になったかというと、まあ英雄になった奴のその後なんてたかが知れてるからな。
ニンゲン同士でなんかあって、それで魂が消えないくらい世界を恨んで死んだんだろう。
那音はそんな魂の影響も特になくて、荒ぶったやつじゃなくてどちらかと言うと大人しめだけど。
ある一点を除けば。
俺?
俺は……ニンゲンが言う『西遊記』の悟空っていう仙人の魂と、『桃太郎』のお供の猿の魂が融合した妖怪だ。
は?
猿妖怪だと?
殺されたいのかテメェは。
那音みたいにある意味素直じゃなくてひねくれていた俺は、中々自分の居場所を作ることが出来なくてそのまま何百年と時が過ぎてほとんど妖怪から悪霊化していた。
そんな時に那音に会って二つの魂の朧気な記憶で俺との接点があったことを思い出すと、嫌がる俺を引きずって今の組織に引き入れた。
今じゃ、そのことにすごく感謝してる。
それから俺は、忠誠って言ったら少し大げさだが那音からの命令は全てきくようにしている。
あー、ちょっと説明が過ぎたな。
そろそろ本題に戻すか。
今回那音が持ってきた上からの指令は、最近四天王の1人毘沙門天の反乱による妖怪の暴挙についてだ。
仲がいい、とまではいかなかったがそこそこ協力して妖怪達の管理を行っていた四天王は一見何も問題がないように見えた。
一見、な。
ニンゲン達は何を思ってあの四大神を崇めているのは知らないが、あの四天王は一人一人の個性が強い。
恐ろしいくらいに。
例えば四天王の一人、持国天はかなり……
やんわりと言えば、加虐的思考の持ち主だ。
これはニンゲンが作った持国天の像(邪鬼を踏みつけて仏敵? を睨みつけているそんなやつ)でも分かると思う。
そして同じく四天王の一人である裏切った毘沙門天はニンゲンが作った像こそ、邪鬼の上に乗った威厳ある姿だが実際は極度の怖がりで宝物ものに目がない。
要するに、何かと心が弱い。
しかも、話をよく聞いてくれるということで色んな奴に付け込まれ……ゴホン。
頼みごと兼相談を受けていたから、誰が毘沙門天を誑かして裏切らせたのかが今だよく分かっていないのだ。
おそらく、ニンゲンを恨んで死んだ魂の妖怪が誑かしたと思うがそれも推測だから今は何も言えない。
毘沙門天が裏切ったということは、その配下である鬼神の羅刹と夜叉も裏切るということになって俺達の世界では御法度の『ニンゲンを喰らう』を手始めにやりだした。
俺達は、別にニンゲン達が想像しているみたいにニンゲンを喰い荒らすなんて真似はほとんどしない。
確かに、ニンゲンを喰らうのはそのニンゲンが持っている魂も喰らうことになるからほとんどの妖怪にとって妖力が増したり知識が増えたりと色々プラスになる。
だが、そんな風習はとある巫女が
『人間から産まれた妖怪もいるのに……なんだか、共食いみたいね』
なんてその時の妖怪を統べていた神に嘲笑いながら言ったらしく、その簡単すぎる挑発にのった神は直後に『ニンゲンを食べるべからず。ニンゲンの前に現れるのも禁止とする』という巫女の思惑道理の法律を作った。
最初は馬鹿馬鹿しいと思っていた妖怪達も時代が変わるに連れてニンゲンを喰らうということは弱い低級妖怪がすることだ、と意識が変わりほとんどの妖怪達はニンゲンを喰らうことはなくなった。
なのに、毘沙門天が率いる妖怪達がまた法律違反とされるニンゲンの前に行ってニンゲンを喰らうようになったから他の妖怪もその真似をしだすようになってしまった。
有名人が、俺達にもできそうなことをしだしたら真似しちまうのと一緒だな。
最初は密かに。
だんだんとおおっぴらになってきたニンゲンの捕食は、流石のニンゲンも『変死事件!』じゃ済まされないレベルになっていく。
それで、若いニンゲンの奴等からどんどん都市伝説だの幽霊だの当たらずとも遠からずな憶測を立て始めて騒ぎが大きくなってしまった。
だから、俺達が動き出してこの騒ぎを治めることになったんだが……
もうすでに事は俺達だけじゃどうにもならないことになっていた。
毘沙門天が潜んでいるという館を包囲しても、ニンゲンを喰らって膨大した妖力を持ってしまったアイツ等を止める術はない。
俺達は、包囲していた奴等が次々殺されていくのを呆然と見ることしかできなかった。
「――でさ、手分けして捜そうと思ってるんだけど……智也? 僕の話、ちゃんと聞いてる?」
「……あ、悪い全然聞いてなかった」
「一応僕、君の上司なんだけどな」
「だから、悪いって言ってるだろ?」
「いいけどね」
むぅ、と何百年も生きている大妖怪とは思えない分かり易い拗ね方をする那音に俺は苦く笑う。
見た目は確かに幼いが、ガタイがいい為にあまりよくは思わない。
たまーに、コレがいいの! なんて言う女がいるが趣味悪過ぎるだろと、俺は思わずにはいられない。
……さて、と。
そろそろ那音には機嫌直してもらって、指令の内容を聞かないと。
余り機嫌が悪いままで放っておくと後でどんな仕返しをしてくるか分からないからな。
「本当に悪かった。最近色々ありすぎて、それを思い出しちまったんだ。もう一回説明してくれないか?」
「そう、だね。確かに最近は色々あったし……うん。もう一度説明するから、今度はちゃんと聞いてよ」
「ああ。頼むわ」
俺が言った言葉に分かり易く表情を変えた那音に、少しだけ罪悪感を覚える。
正直に言うと、あんまり俺は気にしてないんだけどな。
死んだ奴等も俺とは無関係な奴だし。
元々の魂に孫悟空がいるからか、あまり俺はそういうことを気にしない性質だ。
那音は三蔵法師の魂だから、すっごい気にするけど。
「じゃあ、説明するよ。今回、四天王が僕達や他のグループに出した指令はね」
「他の? 俺達以外の奴等も同じ指令を受けているのか?」
今回俺達に出されたらしい指令は俺達だけではなく、他のグループにも出されたことに俺は少し驚いた。
今まで俺達は他にも『悪霊化してしまった魂を排除せよ』とか、『彷徨っている魂を保護せよ』など色々な指令を受けてきた。
だが、それは俺が所属しているグループや個人での話であって今回みたいに他のグループと共同でやるなんてこと俺が組織に入ってから五百年くらいだが今までなかった。
「うん。僕達以外に、冬樹とおちびちゃんのグループにも出されているよ」
「お前……紅自身にまたおちびちゃんなんて言うんじゃねえぞ。いつもそれで面倒なことになるだろ」
「面白いんだけどな」
「おい」
悪びれもなく笑う那音を軽く小突くと、俺は浅く息を吐いた。
この組織は俺や那音みたいに、例外はあれどニンゲン達が語る『御伽噺』の奴等の魂で出来た妖怪が多く集まっている。
不思議なことに。
那音が言っていた冬樹はえーっと、グリム童話だっけか?
そこで語られている『白雪姫』っていう女の魂の妖怪だ。
ニンゲンだった時は義母に嫉妬されるくらい美しい女だったらしいが、妖怪化したときに他の魂が混じって男として誕生した。
残念なことにな。
本人は、今の姿を気に入っているらしく見かける度に男らしくなっていく。
この前見た雑誌では『イケメン妖怪ランキング』で一位でとうとう殿堂いりを果たしたと書かれていた。
世の中って不平等だとその時ほど思ったことはない。
いや、俺の今の容姿に不満があるわけじゃないけど。
初めて妖怪化した自分の姿を認識した時はニンゲンみたいな顔、身体になっていてかなり驚いた。
だって、今までニンゲンに近いとはいえ猿の姿だったからな。
孫悟空の時はニンゲンに限りなく近い姿をしたり、ニンゲンに化けていたりしていたがそれでも霊長類の顔をしていた。
そのことを思うと大分かっこよくなったと思う。
……よく分からないが。
ついでに、だが那音がおちびちゃんってよんでいる紅って女は名前で大体想像つくと思うがグリム童話の『赤ずきん』の題名どおり赤ずきんって童だ。
そのせいか、もう何百年も経つのに身体は子供のままで全く成長しない。
それを身長180の那音が身長140の彼女をよくおちびちゃんと呼んでからかっている。
俺が組織に入る前に何か色々あったらしいが、あまり進んで知りたいとは思わない。
面倒だから。
「話が逸れたね。そろそろ本題に戻すよ。智也も薄々勘付いていると思うけど、四天王の一人の毘沙門天様がおこした反乱はもう組織の手には負えないことになっているんだ」
「だろうな。あと、那音。裏切り者に様なんていらないだろ、呼び捨てで充分だ」
「……智也。まだ毘沙門天様を信じている妖怪もいるんだから、余りきわどい発言はしないでくれるかな」
「知るかよそんな馬鹿共」
「――全く、智也は……もういいや。で、四天王様が僕達に下さった『あの巫女の子孫を捜せ』だけどあの巫女ってやっぱりアノ人だよね」
「ああ。あの女しかありえないだろうな」
あの巫女の子孫、か。
そいつは、さっき神を嘲笑って何百年も続いていた風習をいとも簡単に変えたって話していた女だ。
そしてその女は、ニンゲン達が語っている多くの妖怪を手懐づけてあまつさえ悪霊化した奴等はまとめて封印してしまったという巫女でもある。
この話には少し語弊があるが、それを話していたらキリがないから今はやめておく。
「でもさ、巫女様の子孫を捜そうにもその子孫の方の特徴なんにも聞いてないんだよ」
「じゃあどうやってその子孫を探せって言うんだよ。女か男かも分からないんだろ?」
「僕に言われてもね……四天王様が仰るには、会えば分かるだって」
「そんな曖昧な情報で捜せと? ふざけてるのか、アイツ等は」
「だから、その言い方は止めなよ。誰が聞いてるか分からないんだからさ」
その変な指令とはいえ四天王のから命じられたものをまさか拒否するなんてこと、出来る筈もなく俺は久しぶりにニンゲンがたくさんいる都市に行くことにした。