だから私は緊張なんかしてない
久しぶりすぎる更新ですが…
いつの間にかRelationの方が話数が追いついてきたことに驚きました。
それだけ更新してなかったってことですよね…
「なーにそわそわしてんの? 柊ちゃん」
「べ、別にそわそわなんてしてませんよ」
「のわりには落ち着きがねえけどな」
「してませんってば!」
小さい子供じゃないんだから、このくらいで緊張なんてしない……筈だ。
緊張するようなことがなかったからよく分からないけど。
何度も何度も片方は心配そうに、もう片方はからかうように問いかけてくる二人を払いのけながらアポを取りに行った那音さんと仁さんを待つ。
結構二人が取りに行ってから時間が経っているが戻ってくる気配が一向に無い。
何か問題でもあったんだろうか。
「それにしても遅っいなー那音と仁」
「まあ、この時期はいつも混んでるから月読命様も忙しいんだろ」
「……忙しい時期とかってあるんですか?」
「この時期は五月病とかで死者も多いからさー。救いを求めて有名な神様達の所に死人が集まるのはいつものことなんだよね」
「一人一人に面会されているんですか?」
「いや、そこまで暇じゃねえだろ。一気に数十人単位で話を聞いたり部下達が対応したりするらしいぜ」
……要するに、私の世界でいえば超人気なお悩み相談室みたいなものなんだろうか。
五月病で死人が多いっていうのも妙に現実味があって笑えない。
何故か汗で濡れて冷たい手を、懐から取り出した手拭で拭った。
「やっぱり緊張してるよね柊ちゃん。ホントに大丈夫? とりあえずこれでも飲んでおいたら?」
「だから、してませんってば。あ、水ありがとうございます」
差し出された水は受け取ってそれを一気に飲むというか、喉に流し込む。
自分で気が付かなかったが大分喉も渇いていたようで貰った水はありがたかった。
薊さんがうるさく言う緊張……してないのだがそれのことよりも、気を抜けば自分がある一点を見つめてしまうのに首を傾げた。
何故か、気になってしまう。
方向は丁度、那音さんが謁見のアポを取りに行った方向。
何かは分からないが凄いことが待ち受けているような、そんな気がする。
我ながらぼやかした表現だが、とにかく良くも悪くも凄いことが待ち受けているようで……早く行きたいという気持ちと少し恐れ多くてしり込みしてしまう気持ちが私の心の中でぶつかり合っていた。
この屋敷に入ってからずっと感じていたことだが、その気持ちは時間が経つにつれてどんどん強くなっていって落ち着かない。
尊敬していて、大好きだった今は亡き祖母と久しぶりに会いに行った時と少し似ている。
会いたいけど、会いたくない。
「えっと、月読命様はそこまで礼儀とかに厳しい神様じゃないから畏まらなくてもいいと思う。多分ね」
「多分な、多分。周りの部下はうるせえから断定はしねえけど」
「……充分に気をつけます」
「余計なこと言うなよ智也っ。逆に緊張させてどうすんだっつーの!」
「お前が多分って言うから俺が補足いれてやったんだろ。後、喚くなめんどくせえ」
場所が場所だからか小声で言い争う二人の横で私は小さく溜息を零す。
先に屋敷で待機って言われていた帯人さんは、もうすぐ到着するらしい香美さんと冬樹さんを迎えに行ったからか、ここにはいない。
アリスさんと夜祈さんに至っては、違う仕事が入った為かなり残念そうに仕事へ向かっっていった。
特にアリスさんの残念がる様子が凄かった……そこまで那音さんと一緒に居たかったのだろうか。
一方、那音さんはかなり嬉しそうに仕事へ向かっていく二人を見送っていたが。
「――あ、那音さん帰ってきましたよ」
奥の廊下から、かなり疲れた様子で歩いてくる那音さんと途中で合流したのか香美さんと香美さんを迎えに行った帯人さん、何度か見たことがある男性が待合室に入ってきた。
雑誌や香美さん達の話で何回も見たり聞いたりしたから分かるが、あの男性は恐らく冬樹さんだろう。
短い綺麗な黒髪が印象的な男の人。
生前、白雪姫と呼ばれた時は実の父が惚れて義母が嫉妬してしまうくらい美しい女性だったらしい。
この前、大分熱く香美さんと薊さんが語っていた。
「こんにちは。貴女が巫女の瀬川柊様ですね? 俺は情報部隊隊長、冬樹と申します。以後、お見知りおきを」
「よ、よろしくお願いします」
あれだけ雑誌で天界が騒ぐのも分かる。
雑誌で見たときも思ったが、冬樹さんはかなり顔が整っている人だった。
薊さんや香美さんが言うように、生前の白雪姫だった頃は絶世の美女だったに違いない。
私が通っていた寺小屋に冬樹さんが来れば女子生徒全員に囲まれそうだ。
「ごめんなさいね、柊ちゃん。帯人がいきなりそっちへ押しかけたみたいで……後でしっかり言いつけておくから」
「え、さっき散々……な、何でもないっす香美先輩!」
ここに来るまでに一体何があったんだ帯人さん。
困ったように私に笑いかけた後、明らかに違った微笑みを帯人さんに向ける香美さんに少し寒気がした。
まだ彼女とは短い付き合いだが、この様子を見る限りかなり怒っているようだ。
香美さんはどちらかというと根に持つ性質なので、言葉だけではなく必ず後で何かしら帯人さんに説教をするのだろう。
私は今まで彼女を怒らせたことがないから、小言をされた経験がないがかなりの回数をされた仁さんによると妖気を辺りに撒き散らしつつ長時間彼女の小言は続けられるらしい。
絶対香美さんだけは怒らせないでおこうと仁さんに話を聞いたとき私は堅く誓った。
「冬樹達も来たし、アポもとり終わったからそろそろ謁見室に行くよ柊さん。冬樹の隊は悪いけどここで待機してて」
「了解しました。まあ、那音が一緒なら何が起きても大丈夫ですよね。では、俺達は外で柊様をお守りいたします」
「任せて下さいっす巫女様! 蟻んこ一匹も通しませんよ」
「柊ちゃん、聞かれたことだけを答えればいいからそんなに身構えなくても大丈夫だと思うわ。嘘をつかない真っ直ぐな心で対応してね」
「分かりました。よろしくお願いしますね……では、行ってきます」
真っ直ぐ、なんて元々私は素直だから大丈夫だというのに。
謁見室へ行く途中で何度も何度も那音さん達に
「いい? 香美も言ってたけど、真っ直ぐな心でだからね。くれぐれも月読命様の前で捻くれた発言なんてしないでよ柊さん」
「しませんよ流石に」
「あんま反抗的な態度とかすんじゃねえぞ。側近共がうるせえからな」
「やりませんってば」
「敬語とかは柊ちゃんは大丈夫だと思うけど……態度も重要だから、ちゃあんと礼儀正しくなっ。これすっげえ重要だから!」
「子供ですか私はっ!」
「態度、気をつけろ」
「分かってますって! なんなんですか貴方方。そろいも揃って……」
謁見中の態度に関して注意されたのが不満だ。
彼等の中では私はどれだけ反抗期で荒んだ人に見えているのか。
特に、控えめながらも注意する薊さんと簡潔に言う仁さんにまで言われたことが衝撃的だった。
そこまで荒んだ性格じゃない……筈。
流石に神様相手にどうこうするなんて反抗的を超えてキチガイにも程があるだろう。
むしろこっちは動機が激しくて喋るどころじゃないっていうのに。