狼と紅頭巾と猫
だが、そうも事は上手くはいってくれない。
「はあ? 敵の作戦に見事に嵌った上に、護衛対象怪我させたって? しかも後もう少し駆けつけるのが遅かったらあいつ等に連れて行かれてた……? 何それ、ふざけてるの薊」
「も、ももも申し訳ございませんでしたぁああああ!!」
私が今滞在させてもらっている組織のメンバーの方の寮に着いた途端、薊さんが部下に言付けた報告を聞いて怒り心頭の那音さんによって華麗な土下座を繰り出すことになった。
まさか、那音さんが入り口に仁王立ちで待ち構えているとは……
彼から発せられる夥しいほどの殺気と妖気にさっきから寒気が止まらない。
「天ねえ……おい、瀬川」
「あ、はい。なんでしょう智也さん」
顎に手を当てて、しばらく考え込んでいた智也さんだったが指先で私を呼ぶと傷を見せろと言って来たので髪を横に流して大人しく見せた。
「やっぱりか。香美」
「どうしたの? って、これ」
首を覗き込んだ後すぐに納得したような声で頷き、香美さんを呼んだ。
香美さんも私の首を見た瞬間に息を呑んだのを見て、あまり私はいい予感がしなかった。
私達の様子を見て、那音さんに加勢していた仁さんもこちらに来て私の首筋をゆっくりなぞる。
「術式」
「術式、ですか?」
頷く仁さんに私の予感はまた当たったようだと確信する。
最近嫌な予感ほど当たってしまうから嫌になる。
「香美、なんの術か分かるか?」
「命を奪うようなものじゃないと思うけど……多分、印じゃないかしら」
「印?」
「ええ。まずいわね……これじゃあいくら結界を張っても柊ちゃんの居場所がばれる」
「だってさ。本当にどうしてくれるの薊」
「ご、ごめギャアアアアアア!!」
断末魔をあげる薊さんの方をなるべく見ないようにして私は自分の首を撫でた。
薊さんも気になるが、あれはあまり見ないほうがいい気がする。
私の教育上、よろしくない。
「仕方ないね。ものすごく不本意だし、絶対嫌だし、本来なら死んでもしないけど紅に頼もう。仕方ないから」
「どれだけ嫌なんですか」
顔を思いっきり顰めた那音さんはそのまま薊さんを引きずってどこかへ向かった。
紅? さんを呼びにいくらしい。
「めんどくせえことにならなきゃいいけどな」
ぽつりと呟いた智也さんの言葉が、すごく印象的だった。
「で、アタシの協力が必要ってこと?」
「そうなの……お願い、紅」
赤い羽織に頭巾が連なったような不思議な服を着た小さい少女――紅さんというらしい。
この人が、那音さん達の話に冬樹さんに次ぐよく出てきた人なんだろうが……
随分可愛らしい姿をしている。
私の肩程しか身長がなく幼い顔をしていて、小さいときに弟にさせた女装を思い出して思わず頬が緩んだ。
「別にいいけど……流石は那音の隊ね。もう巫女様に術をかけられるなんて。警備が雑過ぎて笑えるわ」
「何? 言いたいことがあるならはっきり言えば」
「何を? 暴れることくらいしかできないアンタ達に特に期待なんかしてないから、どーでもいいんだけど」
「うるさいよおちびちゃん。術の解除しか出来ないんだから、それくらいは役に立ってよね」
「誰がおちびちゃんよっ!!」
「はいはい。落ち着けよ、紅も那音も」
そのまま飛び掛ろうとする紅さんの襟首を掴んで止めた智也さんは、やっぱり小さな声で
「嫌な予感はしてたんだけどな……めんどうなことになった」
毒づいていた。
小さな身体に見合う華奢な腕をぶんぶん振り回す紅さんはとても可愛らしくて、うっかり状況を忘れて和んでしまう。
まあ、その横で口だけが笑っている那音さんから放たれる妖気ですぐ現実に引き戻されるのだが。
自分のことでもあるのだがどこか他人事のように見えてしまう。
智也さんにつられて、私も小さく溜息をついた。
「紅さまぁあ!!」
「今度は誰ですか……?」
少女の丸い目と少年の様な目の冷たい視線が交差する中、突然場違いな軽い足音が殺気と妖気で冷たい部屋に響いた。
バタン、バタンと荒々しく扉が開け放たれる音がするが、どれもこの部屋とは程遠いもので必死に少年の紅さんを呼ぶ声だけが木霊する。
「紅さま、どちらにおられますかぁあああ!」
「……呼ばれてるよー紅ちゃん」
「いいのよ。あの馬鹿は放っておいて」
「紅さまぁああああああっ」
叫んでいるからか、声がどんどん掠れていく少年の声が流石に可哀想に思えて部屋のドアから出て声の持ち主を捜す。
那音さんと紅さんに注目していたので特に何も言われなかったが、私を見て少し動きかけた仁さんを手で制して身振りで捜しに行くことを告げるとそのまま手を振る。
口の動きだけで『気をつけろ』と告げていて、それに深く頷くと満足そうに仁さんは私から視線を外した。
意外と探し人はすぐに見つかった。
部屋から出て、角を二、三曲がった所にいた探し人は背中を丸めてとぼとぼ歩いている。
「紅さまぁ……一体どこに……」
廊下を項垂れながらとぼとぼと歩く少年の様な声の持ち主は、予想通りの十を少し過ぎたくらいの細身な少年だった。
かなり顔つきが整っているが、残念なことに涙やら鼻水でぐちゃぐちゃなので持ち前の顔が台無しになっている。
声に覇気がなくなり、少年が着ている異国の服――スーツだったか。
赤いスーツの裾で目元を強く擦り始めたのを見て、こっちが切なくなってきた。
「あの、紅さんなら此方ですよ」
「え!?」
「はい……え?」
私の声に勢いよく振り返った少年は驚いたままの顔で私に近づくと、そのまま手を奪い取るかのように握った。
同時に、私もひどく驚くことになったのだが。
泣きそうになっている少年のには、あるべき場所に耳がなかった。
代わりに髪から覗く明らか人ではないヘタリと下がった耳や、同じく下がったフサフサの尻尾。
前に寺小屋で講義中に落書きしていた女子生徒が書いていたキャラクターそっくりだ。
人に獣の耳が生えている所とか。
突っ込まない方がいいのか……?
暫く考えた結果、触れないことにした。
後で、後で香美さんに聞いてみよう。
「ど、どこですか!? 先程から捜しているのですが中々見つからなくて……ヒック、自分が、自分が紅さまから目を離したばっかりに」
「す、すぐ! すぐそこです! 大っ変お元気なので、心配しないで下さい。行きましょう、ご案内いたします」
また泣き出しそうな少年の手を慌てて引いて、来た道を遡る。
昔から、私は泣き声が苦手だった。
特に小さい子供の泣き声。
聞いていると、何もないはずなのにどんどん不安になっていってこっちが泣きたくなる。
私も榊も声をだして泣く方じゃないので、私が聞き慣れていないだけかもしれないが。
とにかく、今泣かれては困るのだ。
泣かれたとしても口下手な私が慰めれる筈がない。
逆に煽って余計に泣かしてしまうだけだ。
せめて、他の人がいる場所じゃないと。
手を引っ張りながら歩いていくと落ち着いたのか少年は大人しく着いてきてくれた。
良かった……
安堵に長い息を吐くと、大人しく着いてきた少年が突然止まり踏鞴を踏む。
「どうしました?」
「え、あ、あの、アナタは妖怪じゃないですよね。勿論仙や霊でも」
「そんなに違います? 確かに私は妖怪でも仙や霊でもない人の子ですが」
「妖気が感じられないので。あ、あれ? この寮で人の子……? え、ぇえええええ!? まさか、アナタは巫女である瀬川柊さまですか!?」
「様って柄でもないですけど。はい、私は瀬川柊と申します」
そうか。
確かに私には妖気の代わりに神の加護やら元々持っていた力があるらしいから、妖怪の人達とは気配が違うんだろう。
一つ納得できたが、あともう一つ。
なんでこの少年はこんなにも取り乱しているんでしょうね。
「まあ、とりあえずもう少しなので行きましょう。あ、あと貴方の名前を伺っても?」
「すっすみません。僕としたことが巫女さまだけに名乗らせてしまって……僕は恢と申します巫女さま」
「いえ、別に柊と呼んで下さっても……なんでもないです」
頭を抱えて、今にも床で転げだしそうな少年に首を傾げてから先を促す。
恢君の巫女様呼びに思わず訂正を入れようとしたが、ついこの間香美さんに言われたことが頭によぎって口を噤む。
『いい? 私や那音達はそうじゃないからいいけど、組織のメンバーでも色々な奴がいるから出来る限り巫女っていう立場は捨てない方がいいわ。柊ちゃんが様呼びを嫌がっているのは分かってるんだけど、あまり下手に出ると嘗められて利用されちゃうわよ』
『そうかもしれませんが』
『大丈夫よ、その内慣れるわ。それに、本当に信頼のおける奴だと判断したら止める様言えばいいんだから』
――という会話が四、五回程香美さんとの文字の勉強の時に繰り広げられた。
ここまで繰り返し言われたのに、それを破るとあとでどうなるか分からない。
恢君には申し訳ないし、私も気が進まないが暫くは距離を取っておこう。
天さんの時みたいに皆に迷惑をかけてしまうのも嫌だ。
自嘲しながら私は恐縮する恢君の手を引いて那音さん達がいる部屋に向かった。
……のだが。
「恢君。もしかして、なんですけど」
「自分も、ちょっと思うことが……」
「私の予想が当たっていたとしたら、本当に申し訳ないです。……私達、誰かの罠に引っ掛かってません?」
「すみません、自分が着いていながら巫女さまに術をかけられてしまうなんて」
「あ、やっぱりかかってたんですか」
「すみません」
「いえ。私が術を受けたまま一人でうろついていたからだと思うので、どちらかというと私の所為だと……申し訳ないです」
「い、いえそんな! 巫女さまは何も悪くないですっ」
薄々とは予想できていた。
だって――いくらこの寮が広いとはいえ廊下の長さがこんなにも長い筈がないし、見たような柄の花瓶やら絵画を歩いていた内に何回も見た気がする。
それに、狙われている奴が無謀にも単独行動をした時に何かしら敵にされるというのがセオリーだ。
ほら、小説やらゲームでよくあるお決まりの。
余りフラフラうろつくんじゃなかった。
私が悪いのに申し訳なさそうに頭を下げる恢君に頭を上げてもらってから、歩いていても無駄なのでその場に立ち止まる。
さて、と。
これは無限回廊、といったところか。
一体どうしたらいいんだろう。
永遠に続く同じ壁を軽く叩きながら唸っていると、遠慮がちに恢君が手を上げた。
「あ、あの巫女さま」
「はい?」
「このくらいなら自分、解けると思うので一度やってみてもいいでしょうか」
「え……?」
「自分は紅さま率いる、主に術の解除や呪いに関しての研究部隊に所属しているので多分出来るんじゃないかなあ、と」
そ、そんなにすごい妖怪さんだったのかこの子。
パッと見て幼い子にしか見えなかったから完全に忘れていたが、そういえば恢君は見た目こそ幼いが私の何十倍も生きているんだった。
なら、私がでしゃばって余計に事を拗らせる前に恢君に全部任したほうがよさそうだ。
「情けないですけど……私には何もできないので、恢君にお任せします」
「はい! 自分、中級妖怪なんで頼りないかもしれませんけど、頑張ります!」
拳を強く上に上げて子供らしく明るい顔で笑うと、恢君はそのまま壁際まで寄って懐から取り出した筆で印を描きながら詠唱を始めた。
詠唱が進むがごとに壁に描かれた墨の縁をなぞるように橙色な光が発光しだす。
……中級さんだったのか。
通りで完璧な人型じゃないと思った。
妖怪においての階級は基本は強さや知識、生きた年数だがたまに上級程の力を持っていても親が中級や低級だったら親の階級で示されるらしい。
元々、妖怪の繁殖能力はすこぶる低くて夫婦はいれど子が出来ることがまったくないので稀な例なのだが多分恢君はその類だろう。
それほど、詠唱した時に恢君から溢れた妖力は中級とは思えないほど凄まじかった。
まあ、余り上級の妖怪や中級の妖怪とたくさん会った訳じゃないから分からないが。
「――っと。後は」
詠唱が終わった後に指を軽く曲げたり伸ばしたりして、鋭く伸びた爪を確かめた次には何もない空を切り裂いた。
切り裂かれた空間は張り紙が剥がれるように歪んだ回廊の景色が変わり、元の先が見える廊下に戻ったことに私は肩の力を抜く。
自分が思っていた以上にこの状況に対して緊張というか、不安だったらしい。
息をゆっくり吐いて気持ちを落ち着かせる。
「……出来た! 出来ましたよ巫女さま!」
「はい! ありがとうございます。さ、早く紅さんのところに行きましょう」
笑顔ではしゃぐ恢君に笑いかけてから今度こそ部屋に戻ろうと足を踏み出した。
……踏み出した、のはいいのだが。
どうも私は天界に来てから考えが足りなくなっているようだ。
普通に考えれば分かる筈。
突然寮に多分私を嵌めようとした術が掛かっていたということはつまり、その術を掛けた誰かがいるということ。
で、掛けた人物は基本その場で私達がどうするのかを観察しているというのが定石。
「あっ……! 巫女さま、お下がりください」
恢君が私を隠すように小さな身体を精一杯広げて私の前に立った途端に聞こえてくる、男性の微かな忍び笑い。
妖怪や霊が現れる時特有の冷たい空気が肌を撫でたとき、私はもう怒鳴り散らしたくなった。
何回、私は危うい目に会うんだ。
護衛である仁さんや那音さん達にも迷惑になるっていうのに。
自分の無力さに強く私は唇を噛み締めた。
「誰ですか。ここに居られるのは瀬川柊、巫女さまですよ!?」
「ダカラ、来てるんだよ。唯の人間なんか興味ないからネ……よっと」
「あ、ぁああ!! アナタは夜祈、なんでアナタがこんな所に」
「夜祈? 誰ですか?」
「この人には余り関わらないで下さい。嘘で人を惑わします……病猫鬼、それが彼です」
「うっわ、妖怪の種類で決めるのって差別って言うんダヨ? 知ってた?」
どこからともなく、軽やかに無音で降り立った夜祈さんに私は天さんの件があったからか警戒心を露骨に出してしまう。
それに――恢君が言った病猫鬼とは蠱毒の一種であり、一般的に猫を絞め殺して四十九日の間コレを祀って、その霊を呪殺かまたは財産を奪う為の呪法から生まれた妖怪のこと。
ターゲットを唆し、自殺させたりするのはまだ序の口でターゲットの臓腑を喰い殺してその人物の財産を人知れず運ぶという昔に近くの国で大流行した術だ。
簡単にすると私がいる国で言う犬神のようなもの。
余り気持ちがいい術から生まれた妖怪ではなく、もともとの気性もあり私の警戒度は急上昇した。
夜祈さんが動くたびに涼やかになるネックレス状の鈴が控えめに鳴り響く。
彼は不気味な笑顔で私に近づいてきていた。
「へー。この子があの巫女の子孫である瀬川柊、ネェ……? 何でそんな遠くにいるの柊」
「ちょっと、前例があるので」
ニタニタとした笑みを浮かべて私に近づこうとする夜祈さんからジリジリと後退する。
前(天さん)と同じ展開になってたまるか。
夜祈さんの値踏みする猫のような金色の目が少し怖くて目を逸らしかけたが、
『絶対よ。絶ぇ対、戦う時は相手から目を逸らさないこと。じゃないと、負けるわよ柊』
「……っ」
「……ふーん? ニャハハッ。俺が思っていたニンゲンとはちょっと違うみたいだ」
寸前で母の言葉を思い出した。
人みたいに見えても、彼は妖怪。
隙を見せれば、殺されるかもしれない。
冷たい汗が顎を伝う。
「夜祈! アナタは一体何しに来たのですかっ。いっつもフラフラして……天下の隠密部隊として恥ずかしくないのですか!」
「情報部隊って言ってくれないかニャ。一応、俺が隠密部隊ってことは組織の秘密っていうか、隠密部隊があるって事自体が秘密の筈なんだケド」
「あわわわ、そうでした……はっ! 話を逸らそうたってそうはいきませんよ。さあ、ここに来てしかも術を掛けた理由を言って下さい」
「うるさいワンちゃんだなぁ、ホント」
「誰がワンちゃんですかっ。自分は狼です狼!」
二人のやり取りを見て、一気に気が抜けた。
二人の話をよく聞いてみれば夜祈さんは彼等が所属している組織の方みたいだし、そこまで警戒する必要はなかったんじゃないか?
キャンキャン叫ぶ恢君とうっとおしそうに自分の藍色の癖毛をかき混ぜる夜祈さん。
二人のやり取りは段々と恢君の方がヒートアップしてしまい、恢君は牙をむき出しにして警戒していた。
「別に悪気はなかったんだよ? ただ、那音が連れてきた巫女はどんなのかなーって。そしたら丁度いい感じに一人になってくれて。あ、今しかないってサ」
「だからって普通術掛けます!? もし自分がいなかったらアナタはどうするつもりだったんですか。それにアナタのことだから悪気がないっていうのも嘘でしょう!?」
「ハイハイ、そんときはそんとき。違うやり方で接触するよ……それに失礼だね。俺は嘘をつく相手くらい選ぶ」
「またそんな適当なことを言ってっ。いい加減にしないとアリスさんに言いつけますよ」
「大丈夫大丈夫。アリスは俺に甘いからネ」
……中々、終わらない。
最初の無駄に歩いた廊下の所為で、既に一時間ほど経過してしまっている。
もう香美さん辺りが探しに来ていそうだ。
牙を剝き出しにして唸っている恢君の裾を控えめに引いた。
「どうかされましたか? 巫女さま」
「お話の所、申し訳ないんですがそろそろ戻らないと。きっと紅さんも心配されていると思いますよ」
「紅さまが!? は、早く行かないと」
「えー、もう行くの?」
「お前も行くんだよ、馬鹿猫」
「ニ゛ッ!?」
「あ、智也さん」
部屋へ戻ろうとする私達をつまらなそうに口を尖らせていた夜祈さんだったが、背後から急に現れた手に頭を鷲掴されて潰れた様な声を上げる。
見上げると、超絶不機嫌そうな表情をした智也さんがいた。
「あ、智也さん。じゃ、ねーだろ馬鹿。何でお前はそうふらふらしてめんどくせえことになってんだ」
「そういうのを引き寄せちゃう体質なんですかねー悲しいことに」
「他人事か! まあいい。恢もいるみてえだし、さっさと戻るぞ。勿論夜祈もな」
そのまま夜祈さんの頭を掴んだまま引きずる様にしてずんずん先へ進んでいく智也さんに私と恢君は互いの顔を見合わした後、
「何してんだ、早くしろ」
「はい」
「今行きます!」
苛立った智也さんに急かされて私達は急いで智也さんを追いかけた。