誓い
6/8 矛盾が生じていたので修正&文を少し増やしました。
仁はね、元々は仙じゃなかったことはあなた達も知ってるわよね?
……ちょっと、なにポカ―ンとしてるのよ薊。
最初に派遣されるって聞いたとき仁の資料貰ったでしょ、ちゃんと読んでないの?
……はぁ。
話が進まないから、とりあえずこのままいくけど。
仁は元々下であった神社の狛犬の一匹なの。
片割れと静かにその地域を守っていたんだけど……今から百年くらい前だったかしら?
ニンゲンの子供達が悪戯心かどうかは知らないけど、仁が宿っているほうの石像を砕いたの。
まあ、仁は今まで守ってきたものに裏切られちゃったってことね。
片割れの方もそのせいでちょっと破損しちゃって、それを見た仁が怒って石像から飛び出して行っちゃった訳。
それからはもう悪霊化しかけて我を忘れて大暴れで……
見かねた天帝が仁を保護して悪霊化が収まるまで下には返さんって、仁に無理やり仙の力を与えて天界に縛り付けたの。
仙の力は悪霊を抑える効果があるからね。
それで、天帝に命じられたわたしが監視役兼教育係として一緒にいたってこと。
初耳でしょ?
結構調べるの苦労したのよこれ。
どうやって調べたかっていうと――え、話を進めろですって?
これからがいいところなのに……仕方ないわね。
天界に仁が住んで九十年くらいの時間が経った時、やっと天帝が仁に下に降りてもいいって許可を出したの。
すぐに仁は狛犬の時の獣系の姿に戻って下に降りた後、自分がいた社に向かったんだけどそこには復元された自分の像と元気そうな片割れの姿。
そして、幼かった柊ちゃんがいたの。
「瀬川? なんでそこに瀬川が出てくるんだ」
「ってか、オレにとっては初耳なことが多すぎて全然話についていけないんだけど」
「幼かった柊さんかぁ。今と同じで口が達者だったんだろうね」
いいから黙って聞いてよ三人共。
知りたいんじゃなかったの?
――よし、静かになったところで続き話すけど。
柊ちゃんはよく弟君と遊んではお母さんに怒られてたみたい。
遊んでいる内容が内容だから仕方ないけどね。
内容?
内容は……聞かないほうがいいわ。
わたしもあんまり言いたくないから。
そのおしおきで彼女のお母さんの知り合いのニンゲンの神社の掃除をしに行っていたんだけどね、彼女。
ほら、彼女力が強いから。
その歳から色々見えていたらしくて……久しぶりのニンゲンでハイテンションだった片割れ君と目が合っちゃって。
久しぶりのニンゲンな上に自分を認識してくれる童に会えたからもう片割れ君――義君って名前なんだけど、まあ大喜びで話かけたのね。
柊ちゃんに。
存在は見えていても、妖怪に話しかけられるなんてまずなかっただろうから柊ちゃんも驚いて
「あいつが驚く? 死ぬ間際に本や雑誌気にするような奴だぞ」
「しかも雑魚とはいえ、鬼相手に戦おうとしちゃうような無謀で馬鹿な子だし」
「そうそう。しかも那音にまで喧嘩売っちゃうような子だしねー、怖いもの知らずっていうかなんていうか」
「――薊?」
「何でもありませんっ」
いや、確かにそうだけど昔は歳相応な子だったのよ。
多分。
「多分かよ」
う、仕方ないでしょう!?
ニンゲンの情報調べるの大変なのよっ――ゴホン。
で、驚いた柊ちゃんは思わず社を掃除するために持ってきていた雑巾を義君に向かって投げちゃったの。
義君もびっくりしちゃって反応が出来ずにそのまま顔面に雑巾が命中。
それからは怒涛の展開でまさか狛犬の自分がニンゲンの童に雑巾投げつけられて、しかもそれがあたるなんて思ってなかったからもう大笑い。
離れてみ見ていた仁は訳が分からなくて呆然。
「うわー、何か目に浮かぶわそれ。無表情でわたわたしてる柊ちゃんと、正反対の顔してる狛犬二匹が」
わたしも聞いた時、真っ先に目に浮かんだわよその光景。
……ここからはかいつまんで話すわよ、長いから。
やっと落ち着いた柊ちゃんは掃除を終わらせた後、構え構えうるさい義君の相手をしてあげてて義君の明日も来てくれって約束にも律儀に守った。
まあ、柊ちゃんも嬉しかったのかもしれないわね。
妖怪や霊が見えていたなんて他のニンゲンの童が何て言われるか分からないから、常に警戒しなくちゃいけないもの。
楽しそうに喋る柊ちゃん達にうっかり仁の警戒心も解けちゃって、草陰から出ちゃってまた大騒ぎ。
久しぶりの片割れの登場にキャンキャン吼える義君に、突然現れた赤い犬に驚く柊ちゃん。
「シュールだな、おい」
よね。
でもまあ、仁は普通の犬として接してたから柊ちゃんもすぐ慣れたんだけど。
「とりあえず、柊ちゃんは覚えてなくても仁には覚えていて二人は面識があったってこと」
「……それで話終わりなの? 随分と中途半端な情報だね、君らしくもない」
「余り情報がなくて。ここまで調べれたのすら奇跡に近いのよ」
「関係性は分かったんだからもうそれでいいだろ。それなら仕方ねえからあいつが起きるまで放っておくか」
それだけだと色々辻褄があわないような気がするから、多分瀬川と仁の間で他にも何かあったんだろう。
詳しくは個人的なことだから、詮索はしないが。
さて、目が覚めたあいつの嫌味にはなんて答えるか考えておかねえとな。
目が、覚めた。
やけに現実的な夢を見ていた気がするが、ところどころ霞がかかったように曖昧で全部思い出せない。
何度か瞬きを繰り返していると、目にかかった前髪を誰かがサラリと流してくれた。
そのまま、柔らかい布で額の汗を拭ってくれる手が心地よくてもう一度目を閉じる。
「柊、柊」
どこか聞いたことのある心地よい低い声が耳に入り、またそれが私を眠りに誘った。
「また、眠るのか」
そうですよ、寝ますよ私は。
尚も肩を軽く揺さ振り続ける誰かに、仕方なく私は目を開けた……はい。
覚醒しました。
「じ、仁さん。おはよう、ございます?」
「……おはよ、柊」
目を開けた私の視界一杯に広がった赤髪の褐色青年、仁さんが顔を覗き込んでいた。
ということは、今までの声や手は仁さんだったということか。
何を呑気に二度寝しようとしたんだ私は。
慌てて起き上がろうとしても遮るように手で押し戻されて、私はまた身体を布団に沈めることになった。
「えーっと、私が気絶しちゃってからどのくらいの時間になりました? ――二時間、ですか」
仁さんが立てた指の数で時間を知ると、溜めていた息をゆっくり吐き出す。
思っていたよりも時間が経っていなくてよかった。
「仁さん」
視線を私に向けさせてから答えにくいであろう問いを分かってて私は紡いだ。
「封印の件なんですが……あの話を私が断れば、その役目が周ってくるのは私の弟――榊ですよね」
思っていた通り、仁さんからの返事はない。
だが、いつもの無表情を崩して息を呑んだ一挙一動がそれを肯定であると語っていた。
「そう、ですか」
自分の命を取るのか、それとも弟に全てを押し付けてしまうのか――夢で出会ったあの巫女のように。
まあ、そんなの考えるまでもないが。
「皆さん、下にいるんですよね。なら、いきましょうか」
今度は起き上がろうとしても止めはせず、ゆっくり下へ向かう私の少し後ろで付いてきた仁さんに声もなく笑って階段を降りていった。
「お、柊ちゃん目が覚めたんだー。よかったよかった」
「お騒がせして申し訳ないです」
「いいのよ、こっちが悪いんだし」
降りた途端に掛けられた言葉に頭を下げてから腹黒リーダー、もとい那音さんに向き直った。
「柊さん、身体はもういいの?」
「え、どうしたんですか那音さん。いつもの蔑んだような笑みはどこにいったんですか。らしくない言葉まで使って」
「……心配した僕が馬鹿だったよ」
「失礼ですね。心配するくらいの良心は残して置いて下さい、それ以上腹黒くなったら取り返しが付かないことになっちゃいますよ」
「どういう意味かなそれ」
珍しく神妙な顔をする那音さんに両腕が泡立ったのを感じて茶化すと、すぐ元の顔に戻った。
那音さんの後ろで呆れた顔をする智也さんには気付かない振りをして、私は本題を切り出す。
「話は変わりますが、封印の件なんですけど」
「……何? 死にたくないからやっぱり止めときますってオチ? 別に僕達はそれでもいいけど」
「違いますよ」
歪められた口と同じく歪んだ言葉に思わず喧嘩腰に返してしまった。
おかしいな。
私は一応いい感じのお育ちの筈なのに。
「どうせ誰かがやらないといけないんでしょう? 引き受けますよ封印の件」
驚いたように翡翠の目を見開く那音さんに、勝負をしているわけでもないのに何故か勝った気になれた。
ざまあみ……てください。
お育ちがいいと、逆に普通の人が言っている様な暴言も吐けないから結構不便だな。
「へえ、驚いた。自分が死ぬかもしれないっていうのに引き受けるなんて、ニンゲンにしては珍しいね」
「一言余計ですよ。私が断って役目が弟に周るのも嫌だし」
「まあ、君が断ったら第二候補の榊君にいこうとは思ってたけど……よく気付いたね」
「そりゃあ、まあ。逆に、私よりもセンスがある弟の方が何故選ばれなかったのかが不思議なくらいですよ」
寺小屋の幼児生までは私の方が力が強くて、物心ついたときには既に霊や一般人には力が弱すぎて見えない低級妖怪が見えていたのだ。
だが、ある日を境に霊は見えなくなり弟が力に目覚めてからは親戚連中は私に見向きもしなくなった。
母や父だけは何も変わらず今までと同じように私をしごき続けたが。
そのある日には、母の話によれば私の可愛い子供の遊びに大人気なく怒った母が命じたとある神社の掃除と言う罰が終わる最終日に事件は起こったらしい。
中々帰ってこない私を心配した父が神社へ迎えに行くと、そこには血溜まりの中で返り血のようなものを浴びた私がいたという。
誰が見ても何かがあったに違いないのだが、肝心の私は何も覚えおらずそのまま真相はお蔵入り。
霊が見えなくなってから私は霊はいないものだったと思い込むようにしていた。
結局、消えた力は私が十五の誕生日の時に突然その力は戻ってきて、久しぶりの霊がいる世界に放り込まれた私はしばらくギャップになれるまで苦しむことになったのだが。
それから時折見えた霊や……今考えるとあれは妖怪だったんだろう。
それを見る度に目の錯覚、気のせいだと思い続けた。
その後行われた訓練はやはり十年の空白は大きく、圧倒的に術を使う技術は弟のほうが上手かった。
気持ちの問題もあるかもしれない。
幼い時とは違って、霊を信じていなかったから家業の全てが無駄で馬鹿らしいといつも考えながら訓練をしていたから。
まあ、あいつは降霊術専門だからまた違った話になるけど。
それに、
「私、悪運だけは強いんで死にはしないと思いますよ。だから問題ないです」
「うっわー、言い切ったな。お前」
「いいの? 柊ちゃん、今ならまだ引き返せるわ」
「そうだぜー? 天帝のご指名とはいえ、別に断ってもなんもねえし」
心配をしてくれるのは嬉しい、が。
もう決めたことなのだ。
私は最後まで
「今のうのうと帰ったら、それこそ母に殴り殺されますよ絶対。何が来たとしても封印以外は死なないようにしてくれるんでしょう? 那音さん」
那音さんと戦い続けてやりますよ。
そして勝ってやる。
打ち合わせしたように同時に上がったお互いの口角を見て、私達はまた笑った。
「え、なにこれ。どういう展開? すっげえ怖いんだけど」
「瀬川も吹っ切れやがったか。めんどくせえことになってきた」
背後の会話?
勿論無視ですよそんなもの。
「いいよ。僕等が封印の時まで命がけで守ってあげる。君は今まで会ったニンゲンの中でも面白いし、失うのはつまんないからね」
「私は暇つぶしの道具じゃないんですけどねぇ……まあ、その時までよろしくお願いします」
差し出された手を正直に握ると、そのまま長い足を折り跪いた那音さんは握った手を自らの額に押し当てた。
「我――那音が率いる天界が特攻部隊の我等が命を懸けて貴殿をお守り致すことを誓いましょう。どうか、我等にそのお命を預け下さいませ」
「……承知致しました。我が命はあなた方に託します」
握られた手に自分の手を重ねて。
私は今日、天界にて大妖怪率いる組織との契約を結んだ。
さあ、来る日に笑うことが出来るのは毘沙門天様?
それとも……
次話からは、おためしで予約投稿にして定期的な更新にしてみます。
やっと序章が終わったぁ・・・